運命を殺したい僕、運命を幸せにしたい俺

かりん

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3 なぜ人は苦しむのか。知ってしまったからだ。

果実

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(side夏向)
「ひっ」
「やあ」

僕の肩を掴んだのは、先程まで話題にしていた生徒会長だった。

「……生徒会長、なんで」
「見知った人が見えたから、声をかけてみた。前に座ってもいい?」

よくよく見れば生徒会長は僕と同じハンバーグのトレイを持っていて、今から食べようとしているのが分かった。

「他に席無いの?」
「夏向と一緒に食べたい」

そう言って僕の前に座る生徒会長に、僕は文句を言う。

「ちょっとまだ許可出てないんだけど!?」
「まあまあ暫く会えなかったんだから許してよ。ちょっと忙しくてね……ひとりにさせてしまった。寂しかった?」
「寂しくない。あんたの中で僕はどうなってんだ」
「俺は寂しかった」

にこりと笑う生徒会長に、ああだから調子が狂う……なんて思いながら僕はハンバーグを口に含む。そうだ、早く食べてしまおう。

「ねぇ夏向。なんで彼と一緒にいたの?」

彼?と首を捻ったけど、先程まで一緒にいたのはナギだ。だからナギのことを言っているのだろう。

「何でってクラスメイトだから。……それより、あんたがここに来ると、みんなこっちを見るんだけど!」

良くも悪くも目立つ人は本当に目立つ。昼休みも終わりが近くて人が少ないとはいえ、誰もいない訳では無いんだから。今までひっそりと隠れながら生きてきた僕にとって、沢山の視線……というのは本当に辛い。『目立つ』ということは、それだけ印象に残りやすい。見つかるリスクが高いのだ。

「俺は夏向のこと、自慢してまわりたいからな、どうしようか?」
「いや、自慢しなくていい。流石にみんな生徒会長のこと憐れむよ」
「なんで君は自己評価が低いのかな?まあ、夏向が嫌なら今はしないけど。でも夏向の心を手に入れた時は……いつか」

そして、久しぶりのあの黒い目が僕を見る。甘い、生徒会長のフェロモンを感じて身体が微かに熱を帯びる。
顔が赤くなる。……なんだこれ。変な気分だ。
生徒会長のフェロモンに反応して無意識に僕もフェロモンを出していたことに、漸く気づいた。

「そう言えば、夏向のフェロモンの匂いだけど、無花果いちじくかな?ずっと何の果物なんだろうと考えていたんだけど」
「でも、無花果以外にも混ざっているような。……林檎りんご?」
「それだ。無花果と林檎が混ざった香り」

匂いの正体に気づいて、僕は一層顔を真っ赤にさせた。よくよく見れば生徒会長も顔が赤い。鼓動が一定のリズムで伝えてくる音楽に、僕は名前を付けてたまるかと反抗した。

「やっぱり、運命の相手はそれぞれ同じ匂いを感じるんだな」
「いや……だって、どうだろう。自分の匂いは感じようが無いし、それぞれ相手の匂いしか知らないじゃん?……違うかもしれない」
「まあそうだね、お互い自分の匂いは感じないのだから……言葉で共通認識するしか無い。『運命』以外に感じる匂いは違うから余計に」

ハンバーグを頬張りながら、ごくんと水を飲む。やっぱり生徒会長と会話するのは心臓に悪いな。どうしようか。

「それにしても。無花果と林檎か……偶然かな?」

無花果と林檎?偶然?
生徒会長が何か思い当たることがあるようだけど、僕はさっぱり分からない。なんだろうと考えながら無言で食べていたら、生徒会長にくすりと笑われた。

「君は美味しそうに食べるよな……可愛い」
「可愛くないし……僕は男だ」

食べ方なら、生徒会長の方が綺麗だと思う。無駄が無く、洗礼された動作。ハンバーグを食べているだけなのに、つい無意識に目で追いたくなる。

「でも、口が小さいから、ひとくちにあんまり入っていないところとか……。ほら、ソースがついてる」

僕の口の端に、伸びてきた手にぎょっとした。
僕の口からソースを掬い、生徒会長はそれをぺろりと舐める。

「何するんだよ。びっくりしたんだけど?」
「だって、思わず舐めてみたくなって。美味しかったよ。夏向」
「あーーハイハイ。イケメンは何しても様になるよな~」

誤魔化すように、茶化すように言う。そろそろ僕も食べ終わる。それまで我慢だ。
そう思って最後のご飯をがっついた。

「ご馳走様」

立ち上がり、トレイを持って返却口に持っていく。
ふと振り返ったら、やっぱり生徒会長は僕を見つめて、幸せそうに笑っていた。

そんな生徒会長をいいな、って思った。
幸せとは何だろう。かつて知っているはずのそれを、僕は忘れてしまった。
忘れたままでもいいと思っていたのに……。
本当にあの、落ちてしまった日から調子が狂う。
やはり僕は、生徒会長を早く殺すしか無いのだろう。
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