運命を殺したい僕、運命を幸せにしたい俺

かりん

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13 『みつき』は美月とも書ける。

朔月

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(side夏向)
その夜。星が瞬き、世界を彩る。
雲ひとつ無いような星空だった。けれどもそこに月は無い。僕のための美しい月はどこかに隠れて姿を表さない。今日はそんな夜だ。
お星様は僕たちの未来を知っているのだろうか。それは分からないけれど。
僕は藍先輩の部屋で、蓮叶の話を聞いていた。
藍先輩との出会いから付き合うまで。それには生徒会長としての光希が深く関わっていた。
頷いて、黙って聞いている僕に少し恥ずかしそうだったけれど………それでも彼は幸せそうだった。

その話題のきっかけは何だっけな。夕飯とお風呂を済ませた後だったと思う。
藍先輩は別部屋で篭っていた。だから窓辺で星を見ながら何気無い会話をしていた気がするけれど……確かふいに、蓮叶が話を切り出したんだ。

「夏向って、例の窃盗事件のことは知ってるか?」
「例の?」

例のってなんだろう。学園では新参者だから、有名な話だって僕は知らないことがある。首を傾げていたら、蓮叶くんは言葉を追加する。

「食堂ができたきっかけの事件だ。知らないか?」
「ああ、そういえば概要だけ教えて貰った」

ちょっと前に聞いた気がする。光希が作った食堂の、きっかけの事件のことを。

「あれの被害者、俺なんだ。運良く藍が助けてくれてさ……それをきっかけに生徒会長の耳に入った」
「そうなんだ」

被害者……、蓮叶が?心の中でイメージが結びつかなくて首を捻る。狙われるくらいだから、もうちょっと弱々しい生徒をイメージしていた。蓮叶は見た目だけなら制服を着崩したり、目がつり気味だったり……不良みたいだ。
僕がそんなことを考えていたら、蓮叶は『は……』と声を出して笑った。

「俺、パシリやってたんだよ。当時は、……ってまあ、去年の冬なんだけど。寮にしか食堂が無かったからな。朝食と夕食は用意してくれるけど……昼休みは自由行動だ。みんな各自で昼食を取ってた」
「でもパシリって、それこそ不良みたいだ」
「ここは確かにエリート校で偏差値の高い学校だ。けど、不良は非日常じゃない。近くに不良の溜まり場みたいな学校があるせいで……校外に出ると意外と出くわすんだ。それに凪の前の副会長に憧れた生徒も多い。俺もそのひとりだよ。Ωだから昔から虐められてて……でも舐められたくなくて不良の格好をした」

凪の前……?僕は首を捻る。僕がよくわかっていなかったのを察して蓮叶は説明してくれた。

「古波鮫副会長。今はもういないけど。喧嘩で有名な不良だった」

『彼に憧れた』と蓮叶は言う。
当時……前年度の冬。古波鮫副会長は不良校の生徒相手に快進撃を続けていた頃だった。
蓮叶は少しでも強く見せたくて、たくさんの努力をした。
けれど現実は無情だった。急に格好を変えようとも、周りの態度は変わらなかった。

「何度も何度もバカにされる度に強がってさ。けれども、いつも通りだった。俺に、世界は変えられない。そこにあるのは暗闇みたいなΩの宿命じみた毎日だった」
「……」
「その頃の俺は、生徒会なんて信じられなかったよ。生徒会長なんて偽善者だ。何がαだ。底辺の苦しみを知らないαなんて、所詮貴族の坊ちゃんだ。俺はそう思ってた」
「その気持ちは分かるよ」

だって、僕もそうだったから。僕を好きだって救いたいっていう光希が、怖かった。偽善だって、期待するだけ無駄だって思わないと、僕は絶望に落とされてしまいそうだった。
泣きそうな顔の蓮叶の隣に駆け寄って、よしよしと頭を撫でる。
『やめろよ』ってその手を跳ね除けられるけど……手つきが優しい。

Ωの宿命をαは知らない。けれどもそれと同じように……αの重圧をΩは知らない。
暫く経ってから蓮叶は口を開いた。

「そう、思ってた。藍に出会うまでは」
「どんなふうに会ったの?」
「他校に不良に囲まれて……喧嘩になった。どうやら古波鮫に負けた腹いせに、同じ学園の俺に目をつけたんだろう。俺、低身長だし……。微かなフェロモンの香りでΩだってバレた。散々バカにされ、暴力を振るわれた。んで、気がついたら財布も盗まれた。……結局俺は、多数に為す術もなく負けて裏道に横たわっていた」

『自分はその日もひとりでパシリに買いに走っていた』
と、蓮叶は言う。
結局は内も外も同じで……自分に心地のいい居場所なんか無い。財布もないし……何も買えずに戻ってきたらまた自分をパシリにした奴らに殴られるだろう。
自分の血が流れる。色んなところが痛む。薄れゆく意識の中で。

「そう思ったら、どうでも良くなった」
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