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13 『みつき』は美月とも書ける。

改革

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(side夏向)
蓮叶は無意識だろう、項に手を伸ばして噛み跡をゆっくり撫でていた。

「そんな時に、あいつが来たんだ。『大丈夫?』って切羽詰まった様子で。藍は俺を見て、俺よりも悲しそうな顔をした」
「悲しそう?」
「そう。訳わかんねぇだろ。俺も分かんなくてさ。『なんでそんな顔してんだよ』って呟いた。そうしたら『うるさい黙って』なんて言われて、姫抱きされた。俺は大人しく学園まで運ばれた」

着いたのは、生徒会室だった。
豪華な部屋の中に通されて、手当をされた。

「その時、初めて俺は生徒会長に会った。対面にソファに座って……んで、襲われて財布を盗まれたことを生徒会長に説明した。怖いぐらい睨まれて、俺はおどおどと萎縮してしまった。そんな時だよ。藍が気の抜けた顔でクッキーを差し出してくれたんだ」
「ああ、それは……藍先輩らしい」
「『みっくん、リラ~クスね。君も……僕たちがついてるから安心して』って。そこで空気が、俺の人生が変わった。呑気な顔して笑うから、俺も笑っちゃったんだ。心から」

言葉まで覚えているのは、それだけ大事な記憶なんだろう。心底蓮叶は幸せそうだった。
藍先輩の声真似の出来については、まあ。声質は似ていないけれど……特徴は良く捉えられていて、わかりやすい。
宝物を扱うみたいに、その思い出を言葉にして僕に届ける。
ひとつひとつがキラキラと輝いて、僕にこの思い出を共有してくれるのが嬉しかった。

……あれ?そう言えばなんで光希は蓮叶を睨んだんだろう。いつも僕には優しい顔をしているのに。被害者である蓮叶に対して怒る理由が分からない。
僕は考え込む。そして分かった。
ああ、確かに難しい顔をしている時の光希は怖い。
光希、責任感が強いから難しいことを考え込んで、背負い込むから多分それだ。すっごい眉間に皺がよるんだよな、光希は。

「もしかして、光希って蓮叶を睨んでたんじゃなくて」
「ああ、うん。そう。『生徒会長として不甲斐ない』って俺に頭を下げて謝ってきた。拳を握って『すまない』と、何度も。今でもちょっと対面すると怖ぇけど……立派なリーダーだと思う。俺の事件が発覚して直ぐに食堂が出来たからな」
「そっか。光希ってかっこいい」
「生徒会長は、かっけぇよ。あんなに優秀なαだから自分に溺れても全然良いはずなのに……責任感で生きている。平等で、公平な学園に少しずつ変えてくれる」

もちろん、校舎に食堂を作ったくらいで虐めが無くならないのは知っているけれど。他にも色々な改革をしたのだろう。
少なくとも蓮叶は食堂が出来たことによって、校外まで他人の昼食を買いに行かなくても良くなった。多分そんな感じで、救われた生徒は他にもいるだろう。
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