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流刑惑星ライでの日々(BP視点)

11 ひどく鮮明な夢

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 実際、そうだろうな、と言われてみて俺も思わない訳にはいかない。
 そうでなくて、この状況下で平気でいられるだろうか、と。

「……んでもさあ」

 ぼそぼそ、と真夜中、至近距離に居る男はつぶやく。

「オマエ元々、結構平気なヤツだったんじゃない?」
「何が?」
「女でなくても平気、な類じゃないの?」

 言われてみたら。
 だがその想像は途中でどうしても暗雲がかかる。

「判らん」
「けどオマエ、オレがこーんなことしても」

 首に手を回す感触。

「はたまたこーんなことしても」

 更には軽く口にキスまでされる。

「何か平然としちゃってさ。その気全く最初から無い奴だったら、んなことされりゃ、馬鹿ヤロと叩き出すぜ? オマエ腕は強いんだからさ」
「そうかな」
「そぉだよ」
「お前こそ、そうだったんじゃないのか?」
「オレ?」

 何を聞くんだ、という調子で相手は問い返した。

「どぉだろ。オレ別に女は好きよ。抱きしめてやらかくて、そういうのはいいよね。キモチよく中に入れてもらってとろとろしたいって感じ」
「んじゃ野郎は?」

 だいたい何でこうもくっつくのだろう。

「さーあ。オマエの前に誰か居たワケじゃないからさあ」
「そうなのか?」
「そぉなの。女はさ。別に知識の方であるのに、あっちはいまいちぼんやりしてるし。でもオマエのカラダは結構オレ好きよ?」
「何で」
「何でだろ」

 リタリットは首をひねる。
 そして改めて思い当たった、というように、指をくわえ、すぐ上の天板に視線を移す。

「ヤッてみりゃ判るのかなあ?」
「って何を」
「ってナニを」
「寒くて勃たないんじゃないかよ?」
「だから暖かくなったらさ」

 ってことは今って訳じゃないんだな、と俺は何となくほっとする。
 別にこのべたべたくっついてる男が嫌いではない。
 抱きしめられようがキスされようが、別にそれは大したことではない。
 だがそれ以上、そこまでしてもいいか?
 そこから疑問が起こる。
 おそらくこの場合、奴が俺にしたいのは、「そういうこと」だろう。
 ではその場合自分がやすやすとそのまま流されてしまうのだろうか、と想像すると、それもまた暗雲が思考の上に流れていく。
 何か違うような、気がする。

「ま、いーさ。そん時まではおあずけ。寝よ寝よ」
「おあずけって」

 きゅ、と手に力が込もる気配がする。
 数秒後には、相手は既に眠りの中に居た。
 だけど。
 俺はその眠る気配を感じながら思う。
 そんな時が来るとこいつは思ってるんだろうか。
 暖かくなったら。
 この地でそれは無理な話だ。
 だとしたら。



 ふと俺は、そこが夢の中であることに気付いた。
 ああまたあの夢だ。
 ひどく風景が鮮明だった。
 石造りの建物の内部、ということがすぐに判る。
 見覚えがあるもの、という気はする。
 だが何処であるのかはさっぱり判らない。
 下手すると、それが建物であるということすら、自分の感覚からはするりと抜けだしそうになる。
 俺はその建物の、暗い部屋に居る。
 だが自分の姿は見えない。
 未だに俺は自分の顔が判らない。
 房の皆が、自分の姿を言葉では説明してくれる。
 重そうな黒い髪、黒い大きな目、やっぱり黒い太い眉、少しとがり気味の顎、そして最近は雪焼けして多少色はついたが、元々は白いだろう肌…… 
 言われてはいるが、実感は無い。
 触れてみる感触から、輪郭の予想はつくが、それを具体的に考えることができない。
 それと似た感覚で、ふと立ち上がる夢の中での自分の足取りは奇妙だった。
 ふわふわとして、雲の上を歩くように、実感が無い。
 そしてその暗い部屋の一部分に急に光が差し込む。
 誰かが入ってくる。
 逆光で、シルエットしか俺の方からは見えない。だけどそのシルエットは、ひどく小柄に見える。
 長い髪をゆらゆらと揺らせ、自分に近づいてくる。
 そして自分に向かって、泣きながら、何か言うのだ。
 何か言いながら、その腕は、自分を抱きしめようとする。
 だがそこでいつもその夢の光景は終わる。
 その相手が、何を言ったのか、どうしようとしていたのか、俺には判らない。
 そしてその夢を見た次の朝は、ひどく自分の額が濡れていることに、俺は気付くのだ。
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