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流刑惑星ライでの日々(BP視点)

24 待ち船来たり

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 平穏な日々は半年ばかり続いた。
 やってくる食料の輸送船には、「いつもの様に」調理人達が対応するだけであったので、その時だけやり過ごせば、俺達が既に自由の身であるとは気付かれることはなかった。
 船自体、二ヶ月に一度、という割合だったので、全部で3回、ごまかせば良かった。
 注意したのは、使われていなかった三つ目の棟に拘禁している兵士達だった。
 その時は俺達の中でも屈強の者が扉をガードしたので、事なきを得た。
 そしてある日、俺達はとうとう空に大きな船の姿を見た。
 この時ばかりは、兵士数名を通信室に連れてきて交信させるしかない。
 向こう側との認証に関するもの必要だった。
 無論そこで、兵士達が暗号で救助を求める可能性もあった。
 しかしそれ以外に方法が無かった、というのも事実だったのだ。

「さて、どうするか。一応兵士は用意したが、交信させるか」

 ヘッドはずらり並んだ頭脳派達に問いかけた。
 しかし俺達は、案外その時に答えを出すことはできなかった。
 そうこうしているうちに、後ろの方で小さくなっていた、仔猫ちゃんキディと呼ばれている、ひどく華奢な少年が、手を上げた。

「言ってみろ」
「いっそ救助信号を出させたらどうかな」
「と言うと?」
「そうなるんじゃないかって怖がるよりは、それを考えて動いた方が楽じゃないかなって」

 何偉そうな、と周囲にキディはこづかれそうになる。
 だがヘッドはうーん、とあごに手をやった。

「どうした? ヘッド」
「いや、考える余地はあるな、と。あのな、実は最近首都の様子が変なんだ」

 ヘッドは通信傍受を最近担当している者に話を振った。
 実際立ち上がったその担当の男は、通信機材や放送機材に対するカンが良かったので、最近は「監督ディレクター」とも呼ばれているらしい。

「まず、ニュースの様子がおかしいんだ」

 ニュース? と思い思いの格好で聞く俺達は顔を見合わせる。

「俺の知識では、首府で中波を流している局は五つあった。TVは基本的に衛星だから、それこそ全土に何十とあるが、大手は三つだ。中央放送局、東方電波、チャンネル29。で、このライから傍受できるのは、その中の、中央放送局と、チャンネル29。一つだったら、まあ内容が偏っている、と考えることもできるだろうが……」
「同じだったんだ?」
「傾向として。最近、ニュースが奇妙に、大統領の動向をクローズアップしている」
「例えば」

 プロフェッサーは興味深げに訊ねる。

「大統領が現在、レーゲンボーゲンにおける最高指導者であることには間違いないから、行動がクローズアップされるのは、そうおかしいことはではないじゃないか?」

 するとディレクターは指を一本立てて振った。

「確かにそれはそうだ。だが、逐一となると別だろう? それまでは、行事の方が優先された報道のされ方だった。ところが今度は、奴が中心になっている。確かに大統領はこの星系の対外的な最高指導者ではあるが、内部的にはそこまで露骨じゃなかっただろう?」

 そう言ってディレクターはプロフェッサーに今度は話を振る。

「つまり、君が言うのは、何やら政治形態自体が不穏な動きを見せている、ということかい?」
「ご名答」

 ぱちぱちぱち、とディレクターは手を叩いた。
 ヘッドはそこまで聞くと、二人からひとまず発言を引き取った。

「単純に、何やら、今までとは違うきな臭い雰囲気が首府に起きているんじゃないか、と思う」

 そうだな、と皆はうなづきあう。

「それに乗じるのは悪くないと思う。少なくとも、向こうに気を取られている分だけ、こちらへの監視の目は緩くなる。……ああ、無論こちらは、万全の体勢を取りたいもんだがね」

 そしてにやり、とヘッドは笑った。

「で、それじゃあヘッド、オレ達は、堂々と『すぺーすじゃっく』をすればいいのかな?」

 リタリットはひどく古典的な言い回しで訊ねた。
 苦笑しながらそうだな、とヘッドは答える。

「とりあえず来た船を、こちらから迎え取ってやろうじゃないか」
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