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3年後、アルク再び(俯瞰視点三人称)
92 『偉大なる総統閣下、敬愛なる宣伝相閣下のご冥福を祈ります』
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「お?」
と、首府のある一角で、TVを睨む様にして見ていた男達が声を立てた。
あれは対戦車砲じゃないか、と「赤」の若い一人はつぶやいた。
確かにそうだ、と「緑」の一人もつぶやいた。
官邸に出かけた五人の安否も判らないまま、そのまま首都に留まった、この反政府組織のメンバー達は中央放送局の番組に見入っていた。
出来上がったばかりのスタジアム。
自分達の殺そうとした、総統閣下ヘラのために作られた。
だが彼らには、それ以上の手出しはできなかった。
「赤」の代表ウトホフトからの指示も無かったし、それにあの日出向いた、BPを含めた五人は、この首府に留まるメンバーの中でも、手練れのはすだったのである。
そんな五人を欠いたまま、下手に動く訳にはいかなかった。
なのに。
「何で、あんなことが起こるんだ?」
それは突然消えた放送と同時に起きた、メンバーの共通した疑問だった。
「俺達じゃないぞ?」
「当たり前じゃないか!」
真っ先に疑われるのは、反政府集団だ――
彼らも容易に予想できるところだった。
しかし、自分達ではない。自分達ではないのだ。
「一体誰が……」
腰を浮かして、今にもその真相を掴みにスタジアムへ走りたいところだった。
しかし。
その時、いきなりTVのスピーカーから、ノイズが走った。
『親愛なる首府民の皆様新年おめでとう! ……そして総統閣下と宣伝相閣下のご冥福を祈りますことよ』
あ、と構成員達は、口々に声を上げた。
「海賊電波だ」
*
「海賊電波だわ!」
ゾフィーは思わずコンソールに両手を叩きつけていた。
「……これじゃ……」
彼女は唇を噛む。
この海賊電波は、他の電波を全て駆逐する勢いで、その場に放送を流すのだ。
「や、でも、音声だけだったじゃないすか、今まで……」
戻ってきたリルが、そうなだめる様に彼女に話しかける。
「リル君! ……どうだったの?」
ゾフィーは弾かれた様にリルの方に顔を上げた。
しかし、相手は黙って首を横に振った。
ゾフィーは口に手を当てる。
「今さっき、廊下を担架が二つ、運ばれていくのを見ました。だけどその様子は、一刻を争うけが人の輸送、という感じではなかったんす」
「ってぇことは?」
他のスタッフまでもが、声を上げる。
「……おそらく、もう……」
リルは再び首を横に振った。
ああああああああ! と、ゾフィーはその場にしゃがみこんだ。
『偉大なる総統閣下、敬愛なる宣伝相閣下のご冥福を祈ります』
海賊放送の声が、彼女の耳にも入る。それは決していつもの嘲笑する声とは違う。
ゾフィーは立ち上がると、コンソールにつけられたスピーカーに思い切り両手を振り上げた。
「黙んなさい!」
そして何度も、何度も、彼女はその行為を繰り返した。
彼女がテルミンと友達であることを、その場の皆が知っていた。
恋人ではないか、と疑っている者も居た。
区別はどうでもいい、とリルも思った。
「この電波は一体何処から出てるの!」
一陣の嵐が治まった後、ゾフィーはうめく様な声でそう周囲のスタッフに訊ねた。
「たどることはできないの!?」
「レベカさん」
おずおずと、スタッフの一人が、彼女の剣幕に押されながらも、手を上げた。言って、と彼女は命ずる。
「その海賊放送の発信者が、もし放送用端末、携帯型のそれを使っているなら、方法は無くはないです」
「あるの?」
「はい。ですが、そんなことは……」
口に出した割には、自分の言ったことを否定する様な勢いだった。
ゾフィーは低い声でつぶやく。
「後で教えてちょうだい。役に立たなくてもいいわ」
はい、とスタッフは、そう答えるしかなかった。
と、首府のある一角で、TVを睨む様にして見ていた男達が声を立てた。
あれは対戦車砲じゃないか、と「赤」の若い一人はつぶやいた。
確かにそうだ、と「緑」の一人もつぶやいた。
官邸に出かけた五人の安否も判らないまま、そのまま首都に留まった、この反政府組織のメンバー達は中央放送局の番組に見入っていた。
出来上がったばかりのスタジアム。
自分達の殺そうとした、総統閣下ヘラのために作られた。
だが彼らには、それ以上の手出しはできなかった。
「赤」の代表ウトホフトからの指示も無かったし、それにあの日出向いた、BPを含めた五人は、この首府に留まるメンバーの中でも、手練れのはすだったのである。
そんな五人を欠いたまま、下手に動く訳にはいかなかった。
なのに。
「何で、あんなことが起こるんだ?」
それは突然消えた放送と同時に起きた、メンバーの共通した疑問だった。
「俺達じゃないぞ?」
「当たり前じゃないか!」
真っ先に疑われるのは、反政府集団だ――
彼らも容易に予想できるところだった。
しかし、自分達ではない。自分達ではないのだ。
「一体誰が……」
腰を浮かして、今にもその真相を掴みにスタジアムへ走りたいところだった。
しかし。
その時、いきなりTVのスピーカーから、ノイズが走った。
『親愛なる首府民の皆様新年おめでとう! ……そして総統閣下と宣伝相閣下のご冥福を祈りますことよ』
あ、と構成員達は、口々に声を上げた。
「海賊電波だ」
*
「海賊電波だわ!」
ゾフィーは思わずコンソールに両手を叩きつけていた。
「……これじゃ……」
彼女は唇を噛む。
この海賊電波は、他の電波を全て駆逐する勢いで、その場に放送を流すのだ。
「や、でも、音声だけだったじゃないすか、今まで……」
戻ってきたリルが、そうなだめる様に彼女に話しかける。
「リル君! ……どうだったの?」
ゾフィーは弾かれた様にリルの方に顔を上げた。
しかし、相手は黙って首を横に振った。
ゾフィーは口に手を当てる。
「今さっき、廊下を担架が二つ、運ばれていくのを見ました。だけどその様子は、一刻を争うけが人の輸送、という感じではなかったんす」
「ってぇことは?」
他のスタッフまでもが、声を上げる。
「……おそらく、もう……」
リルは再び首を横に振った。
ああああああああ! と、ゾフィーはその場にしゃがみこんだ。
『偉大なる総統閣下、敬愛なる宣伝相閣下のご冥福を祈ります』
海賊放送の声が、彼女の耳にも入る。それは決していつもの嘲笑する声とは違う。
ゾフィーは立ち上がると、コンソールにつけられたスピーカーに思い切り両手を振り上げた。
「黙んなさい!」
そして何度も、何度も、彼女はその行為を繰り返した。
彼女がテルミンと友達であることを、その場の皆が知っていた。
恋人ではないか、と疑っている者も居た。
区別はどうでもいい、とリルも思った。
「この電波は一体何処から出てるの!」
一陣の嵐が治まった後、ゾフィーはうめく様な声でそう周囲のスタッフに訊ねた。
「たどることはできないの!?」
「レベカさん」
おずおずと、スタッフの一人が、彼女の剣幕に押されながらも、手を上げた。言って、と彼女は命ずる。
「その海賊放送の発信者が、もし放送用端末、携帯型のそれを使っているなら、方法は無くはないです」
「あるの?」
「はい。ですが、そんなことは……」
口に出した割には、自分の言ったことを否定する様な勢いだった。
ゾフィーは低い声でつぶやく。
「後で教えてちょうだい。役に立たなくてもいいわ」
はい、とスタッフは、そう答えるしかなかった。
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