女性バンドPH7②マイペースな女性ギタリストが男の娘と暮らしていた件について。

江戸川ばた散歩

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第18話 居酒屋ではないけどインタビュー①

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「だいたいどーして皆ワタシのそんなことを気にするんでしょうねえ。アナタを含めて」

 運ばれてきたビールにP子さんは口をつける。
 そこは彼女達が良く行く「居酒屋」よりはやや静かな店だった。テーブルの上には、まずはビール、ととりあえずサラダ、が置かれている。そしてその脇に、小さなテレコ。まだ回ってはいない。

「そりゃあ皆興味があるからでしょうが」
「HISAKAならともかく、ワタシですよ?」
「まあそれは確かだけど」

 石川キョーコは苦笑する。
 この女は、PH7がインディーズで活動しだした頃から、彼女達に目をつけ、何かと行動を一緒にしていた。
 もっとも当時は、彼女自身が、音楽雑誌「M・M」の新入り記者に過ぎなかったので、本当にただ「くっついている」しかできなかったのだが。
 しかしそんなバンドがメジャーデビューしたり、ブレイクの兆しを見せてくれば。それまでは何を物好きに、と周囲に言われていたことがそのまま「お仕事」に変換できるのだ。そしてまた、見逃してた、とばかりに出遅れていた他社のライターより、一歩先んじることになる。
 だいたい、「はじめまして」から始めるインタビューで、一体どれだけのことを当人達から引き出せるだろう? 
 無論それで引き出せるのだったら、それはそれで非常に優秀なインタビュア、ということになるだろうが、いかんせん、皆が皆そういう者である訳ではない。
 石川キョーコなぞ、PH7と出会った頃は、OLからの転身組だったのだ。まだ頭の中に、ばりばりに一般企業の垢がこびりついて居た頃だ。
 だからこそ、彼女達に出会ったことで、それがすっきりしゃんと洗い落とされてしまった、とも言えるが。

「HISAKAはでも、何か逆に、『居てもおかしくない』よ」
「それじゃあ何ですか。ワタシは居ること自体、そんなおかしいですか?」
「……だから、単に意外。想像したこともなかった」

 ふーん、とP子さんは半眼開きで相手を見る。

「ああ怒らないでよ。っーか、あんた等の他のメンバーみたいに、女の子が横に居る、ってのも浮かばなかったんだってば」
「はあ」

 そういうものだろうか。P子さんは首を横にひねる。

「女相手は似合いませんかね?」
「そういうことじゃあなくてさ」

 頬をかりかりとひっかく。化粧気の無い顔じゃないとやってはいけないクセだろう、とP子さんは思う。化粧した顔でそんなことをすれば、爪の間にファウンデーションが入って、何やら汚らしいこととなる。

「あんたはさ、P子さん、何か一人で居る姿が似合うなあ、って思ってた訳よ」
「ふーん」
「怒る?」
「怒りませんよ。だいたい自分が一番驚いてるんですから」

 石川キョーコは露骨に顔を歪めた。

「じゃあよっぽど好みだったんだ」
「どうでしょうねえ」

 ジョッキを傾ける。そしてあっという間に空にしてしまう。すいません追加、とP子さんはさりげなく横を通った店員に告げた。

「好みも何も、ねえ」

 何と言ったらいいんでしょうね、とP子さんは苦笑した。

「だいたいアナタ、ワタシにばかり聞きますけれど、アナタにはそういう浮いた噂無いんですか? 石川さん」
「……残念ながら、全くない」
「残念ながら、ですかね」
「そりゃああたしだってね、一応幸せなカップル幻想ってのがある訳よ。ドロップアウトしてしまったけれど、ほら一応企業のOLしていた時代がある訳だし」
「ああいうとこの女の人ってのは、一体どういう話するんです? ワタシにはさっぱり予想ができませんがね」
「そりゃああんたには」

 P子さんはアルバイトは幾つかやってきたが、企業のOLとは無縁な世界に生きてきた。

「ウチは死んだ親父も現役ばりばりの母上も、教師って奴ですから、これはこれで普通の企業と違うでしょう? 妹のユウコは一応OLなんですがね、あのひとはワタシにはあまりそっちの世界の話はしてくれなくて」
「そりゃあまあ…… あんたにはまるで馴染みの無い世界だし…… これからも絶対馴染めないだろうと思うような…… とこだと思うよ」

 石川キョーコは肩をすくめる。

「あたしですら、居られなくなって転職したんだし。あんただったら半日でギブアップするんじゃないかなあ」
「そんなに仕事、厄介ですかね」
「仕事じゃなくて、雰囲気。……まあ、そりゃあ後で考えてみれば、もっともかなあ、と思うこともあるけれど、渦中で『何でこうなるんだ?』なんて考えたら、どんどん針のむしろになってくんだよね。たとえばP子さん、あんたメンバーと普段どんな話してる?」
「……まあそーですねえ…… 野球の話とか」
「おい」
「はいはい。そーじゃなかったら、まあ、好きな音楽の話とか、どっかでいいギター見つけたとか、……食い物の話はしますがね」
「食い物の話」
「MAVOちゃんがそういうあたり好きで」

 ああ~、と石川キョーコは頭を抱える。

「MAVOはそーだ。絶対あの子はそうだ」
「あ、でもあの子はOLできないと思いますよ。音に敏感すぎるし」
「ああそれは駄目だね。何つか、あんまり敏感な子はやってくのが厄介だと思うよ。何だっけ、以前の会社で、すごく後ろの気配に敏感な子が居てさ、何ヶ月もしないうちに、神経やられて辞めちゃったりしたしね」
「ああそれじゃあMAVOちゃんには絶対無理ですね。だいたいあの子男、基本的に嫌いですから、まず男が中心のそういうとこにはいられないし、それに加えて、きっとあの子は女の子の中でも浮きますよ」
「あんたも浮きそうだけどね」
「まあでもワタシはあの子程音にも男にも敏感ではないし」
「まあ一応あんたにも男ができた訳だしねえ」

 そうだよな、とP子さんはうなづく。
 一応あれでも性別は男だ。だがそれ以上のことは口にはしなかった。いくらそれなりに仲がいい存在だとはしても、石川キョーコはライターである。
 P子さんはメニューを見る。

「うーん、何かいまいちそそられないですねえ……」
「何あんた、前ここに来た時結構全部美味しそうにぱくぱく食ってたじゃない。だからわざわざここ予約したのにさ」
「すまんことですね。でも何か最近胃の調子が悪くて」
「あんたが!」

 石川キョーコは目をむいた。
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