9 / 33
8 一日目④ きょうだいは草原を走り、夫婦は周囲を散歩する
しおりを挟む
さてそんな風に使用人達が色々と用意している間の主人達だが。
「うわぁ、広い庭ぁ」
「あの柵の向こうも草原なのよね」
石造りの柵で囲われている前庭の芝生はふさふさと、豊かな緑をそよ風に揺らす。
「ちょっと柵の辺りまで行ってみるー!」
マリアは走り出した。
「お嬢様! 帽子を!」
途中で飛ばした帽子をイーデンが持ってくる。
ありがと、と言ってマリアは両手で押さえて走り出す。
待てよ、とそれを兄が追いかける。
「ぼくも行くー」
目を覚ましたルイスも走りだそうとするが、突然の階段、今居る車回しが案外高い場所にあることに気付くと、足がすくんだ様だ。
「まあ、応接にとりあえず寄せると言っておいたから、そこの準備ができるまで待つとするか」
「そうですわねむ貴方。それにしても本当にずいぶん向こうまではるばる見えること」
「うん、でも…… なあ」
エイブラハムはやや首を傾げる。
「どうしましたの?」
「いや、僕の記憶では、確かあの辺りに林があった気がするんだが」
「でもそれ、もう結構昔のことでしょう? 記憶違いでなくって?」
「そうかなあ、そうかもなあ」
とは言え、エイブラハムにとっては懐かしい青春の一頁の舞台である。
美化しているのだろうか、とも思わなくもないが。
「ちょっと館の周りを回ってみましょうよ」
ルイスを頼むわね、とチェリアに言うと、サリーは夫の腕を取った。
むっとするルイスにチェリアはかがんで目線を合わせる。
「少しの間ですよ坊ちゃま。そうしたらお茶の支度ができていて、坊ちゃまのお好きなスコーンに甘い甘いジャムをつけて差し上げますから」
「本当!?」
「ええ」
半分ははったりだが。
それでもチェリアは、ガードルードが何をまず当座の食料として携えてきたか知っていたし、到着した時の手順も皆で押さえていた。
この館の間取りもおおよそは頭に入れてある。
まず台所、そして主人が落ちつく部屋、その後にお茶の用意、自分達は寝室の用意、キッチンでは夕食の用意。
倉庫の確認もまだしていない状況では、夕食の素材までは用意してある。自分達も加えて。
昼は軽く皆サンドイッチだったので、夜には肉が必要なんだろうな、とルイスの相手をしながらチェリアは思う。
「それにしても本当に広いですね坊ちゃま、ほら、お兄様達がもうあんな小さく」
柵の辺りまで走っていった二人の姿がずいぶん小さく見える。
だがどうもルイスの視線はそこにはない。
「どうしました?」
「チェリア、あそこ」
小さな指は、きょうだい達の居るのとは別方向の草原を指していた。
「うわぁ、広い庭ぁ」
「あの柵の向こうも草原なのよね」
石造りの柵で囲われている前庭の芝生はふさふさと、豊かな緑をそよ風に揺らす。
「ちょっと柵の辺りまで行ってみるー!」
マリアは走り出した。
「お嬢様! 帽子を!」
途中で飛ばした帽子をイーデンが持ってくる。
ありがと、と言ってマリアは両手で押さえて走り出す。
待てよ、とそれを兄が追いかける。
「ぼくも行くー」
目を覚ましたルイスも走りだそうとするが、突然の階段、今居る車回しが案外高い場所にあることに気付くと、足がすくんだ様だ。
「まあ、応接にとりあえず寄せると言っておいたから、そこの準備ができるまで待つとするか」
「そうですわねむ貴方。それにしても本当にずいぶん向こうまではるばる見えること」
「うん、でも…… なあ」
エイブラハムはやや首を傾げる。
「どうしましたの?」
「いや、僕の記憶では、確かあの辺りに林があった気がするんだが」
「でもそれ、もう結構昔のことでしょう? 記憶違いでなくって?」
「そうかなあ、そうかもなあ」
とは言え、エイブラハムにとっては懐かしい青春の一頁の舞台である。
美化しているのだろうか、とも思わなくもないが。
「ちょっと館の周りを回ってみましょうよ」
ルイスを頼むわね、とチェリアに言うと、サリーは夫の腕を取った。
むっとするルイスにチェリアはかがんで目線を合わせる。
「少しの間ですよ坊ちゃま。そうしたらお茶の支度ができていて、坊ちゃまのお好きなスコーンに甘い甘いジャムをつけて差し上げますから」
「本当!?」
「ええ」
半分ははったりだが。
それでもチェリアは、ガードルードが何をまず当座の食料として携えてきたか知っていたし、到着した時の手順も皆で押さえていた。
この館の間取りもおおよそは頭に入れてある。
まず台所、そして主人が落ちつく部屋、その後にお茶の用意、自分達は寝室の用意、キッチンでは夕食の用意。
倉庫の確認もまだしていない状況では、夕食の素材までは用意してある。自分達も加えて。
昼は軽く皆サンドイッチだったので、夜には肉が必要なんだろうな、とルイスの相手をしながらチェリアは思う。
「それにしても本当に広いですね坊ちゃま、ほら、お兄様達がもうあんな小さく」
柵の辺りまで走っていった二人の姿がずいぶん小さく見える。
だがどうもルイスの視線はそこにはない。
「どうしました?」
「チェリア、あそこ」
小さな指は、きょうだい達の居るのとは別方向の草原を指していた。
0
あなたにおすすめの小説
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】
絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。
下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。
※全話オリジナル作品です。
壊れていく音を聞きながら
夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。
妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪
何気ない日常のひと幕が、
思いもよらない“ひび”を生んでいく。
母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。
誰も気づきがないまま、
家族のかたちが静かに崩れていく――。
壊れていく音を聞きながら、
それでも誰かを思うことはできるのか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる