未来史シリーズ-①希望のカケラ~終末の世界でギャングに襲われたら

江戸川ばた散歩

文字の大きさ
1 / 13

第1話 マシンガンと危険な二人組

しおりを挟む
「ドコ行くんだ?」

 マシンガンと声が、同時に窓から突っ込まれた。

「馬鹿かあんたは! いまの今どき、単独で東へ車動かそうってんなら、東府だろ!」

 その後に、女の高い声が飛んだ。
 窓ごしでは、その足しか見えない。都市の人間ではそう見られない程の、むき出しの太ももが、すらりと伸び。
 数分前、道端で一組の男女が手を振っていた。私は思わず車を止めた。急いではいたが、そのくらいの余裕はあった。
 だがそんなこと、するんじゃなかった。
 車を止めた瞬間、男は背中に隠していた銃を高々と揚げて、その口を半分だけ開いた窓ガラスの間にぐっと押し込む。
 さわやかとも言える位に顔中に笑みをたたえながら、こう言った。

「開けろよ」

 容赦ない口調。でかい声。
 がたがたがたと銃口を上下にふり、ガラスをそのまま叩き壊しかねない勢い。
 しぶしぶ、窓を開け、扉を開けた。
 困ったものだ。友人の忠告は素直に聞いておくべきだった。
 こんなとこで死にたくはない。それが近々誰にでも共通に来るものだとしても、まだやることがあるのに。

「素直だねえ? 出なよ」

 かかか、と男は笑った。
 少なくとも私よりは若い。
 脱色した髪、やせた身体、趣味の悪い柄と色のシャツと、黒い色あせたジーンズ。
 男はそのまま車内へとぐっと手を突っ込み、私を引きずりだした。細いのに、大きな手は、妙に力があった。
 胸にマシンガンの銃口を突きつけられたままなので、どうにも身動きがとれない。
 だらだらと脂汗がわきの下に染みを作っているのが判る。
 ほら、と男は私を女の方へと突き飛ばした。
 女の手にも同じマシンガンがあった。奇妙なもので、同じものなのに、何となく男のものより大きく見える。
 よろける私を、女は空いた方の手を伸ばして支えた。ぶどう色のTシャツから、すんなりとした白い腕が伸びていた。
 その白い肌に、引きつった様な跡がびっしりと広がっていた。私は思わず顔を上げた。
 だが次の瞬間。
 真っ赤な唇が、最初に視界に飛び込んだ。
 頭の横に、ひどい衝撃。今度は本格的に地面に転がった。
 砂ぼこりに思わずむせる。
 肩を女は強く蹴りつけてくる。痛みに私は思わず声を上げた。

「どぉ?」

 女はそう男に向かって訊ねた。ちっ、と男は舌打ちをする。大げさに手を広げて、呆れた様に声をひっくり返す。

「ダメだこりゃ」
「駄目だって何よそれ!」
「オレの知ってるタイプじゃねーよこれ。何だよこれ。ハンドルが丸いじゃねーか!! どこの都市だよ、こんな旧式のヤツ!」
「ぎゃーぎゃーうるさい、この無能!」

 腰に空いた手を当て、女は吐き捨てる。
 私を蹴りつけたその足で、今度は車のボディをがん、と蹴りつけた。ああ、と私は殴られた頭をさすりながら、ため息をつく。
 友人からの借り物だというのに。何って言い訳をすればいいんだろう。

「知るかよ! とにかくミル、オレぁこんなの、運転できねーからな?」
「んなこと言って、どーすんよ! 時間無いって言うのに」
「おいまだお前、殺しちゃいねーよな」

 立ち上がろうとしたところだった。
 ふと男の方を見ると、どうもこちらへと近づいて来ようとする。後ずさりする。だが行き場は無い。
 さっきから、道路の端で、アスファルトを突き破った大柄なクローバァが、風も無いのにうねうねと動いている。直接危害を加える訳ではなくても、近づきたくはない。花ではなく花もどき。「でざいあ」と呼ばれる集合生物。どんな姿にもなれるが、一番この地上で多いのは、花の姿だ。そして人の整備したアスファルトを、隙あらば割り崩そうと舌なめずりをしている。
 同じ様に舌なめずりをしながら、男は私に近づいてくると、にこやかに笑いかけた。

「なあおにーさん、あんた東府《とうふ》へ行くよな?」

 私は黙っていた。
 殴られた頭に手を当てる。こぶができているようだ。
 何となく、言いたくない様な気がしていた。

「これなーんだ?」

 あ、と私は声を上げた。男の手には、金属の小さなケースが握られていた。

「いやあ奇遇ね。オレ達も東府へゆくのよ」

 そう言いながら、男は四角いケースを時々上に放り投げる。だらだらと脂汗が、また流れだす。

「や…… やめてくれ!!」
「うん、そーだね。大事なもんだよねー。返してもイイけどさぁ、おにーさん、ちっとばかり、オレ達の頼みも聞いてくんない?」

 にこやかに。実ににこやかに、男はケースをぐっと握ると、私の前に突き出した。

「この車で、オレ達も乗せてってよ」
「下手なことしたら殺すよ」

 女は真っ赤な唇を開いて物騒な言葉を吐く。

「乗せてくよ。だから返してくれよ」
「そーだね」

 男はケースをジーンズのポケットに突っ込んだ。
 そんな場所に突っ込まれて、壊れたら。
 私は思わず手を伸ばした。今度は手首に強い衝撃が走った。女が銃身で殴りつけたのだ。青あざができたのは確実。だが。

「お願いだ、頼む。それはどうしても」

 痛む手を押さえながらも、私は言った。

「心配しなくても、こわさねーよ」

 ぽん、と男は言葉を投げる。

「ちゃんと東府までたどりついたら、返してやるさ」
「そーだよねえ」

 切れ長の、少しつり上がった目で、女は私を見据える。

「一組一つって決まってるんだからさ、このタマゴは。あたし等がもらってもねえ」

 その笑顔。
 思い出した。行く時の見た、共同掲示板の、新聞の写真。彼らは、指名手配中の連続強盗犯だった。名前は確か―――

「ちゃーんとあたし等のも、持ってるんだろーね? ナガサキ」

 思い出した。ナガサキとミル。
 この国で今一番危険な、二人組だ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【大賞・完結】地味スキル《お片付け》は最強です!社畜OL、異世界でうっかり国を改革しちゃったら、騎士団長と皇帝陛下に溺愛されてるんですが!?

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞で大賞をいただきました】→【規約変更で書籍化&コミカライズ「確約」は取り消しになりました。】 佐藤美佳子(サトウ・ミカコ)、享年28歳。死因は、過労。連日の徹夜と休日出勤の果てに、ブラック企業のオフィスで静かに息を引き取った彼女が次に目覚めたのは、剣と魔法のファンタジー世界だった。 新たな生を受けたのは、田舎のしがない貧乏貴族の娘、ミカ・アシュフィールド、16歳。神様がくれた転生特典は、なんと《完璧なる整理整頓》という、とんでもなく地味なスキルだった。 「せめて回復魔法とかが良かった……」 戦闘にも生産にも役立たないスキルに落胆し、今度こそは静かに、穏やかに生きたいと願うミカ。しかし、そんな彼女のささやかな望みは、王家からの突然の徴収命令によって打ち砕かれる。 「特殊技能持ちは、王宮へ出仕せよ」 家族を守るため、どうせ役立たずと追い返されるだろうと高をくくって王都へ向かったミカに与えられた任務は、あまりにも無謀なものだった。 「この『開かずの倉庫』を、整理せよ」 そこは、数百年分の備品や資材が山と積まれ、あまりの混沌ぶりに探検隊が遭難したとまで噂される、王家最大の禁足地。 絶望的な光景を前に、ミカが覚悟を決めてスキルを発動した瞬間――世界は、彼女の「お片付け」が持つ真の力に震撼することになる。 これは、地味スキルでうっかり国のすべてを最適化してしまった元社畜令嬢が、カタブツな騎士団長や有能すぎる皇帝陛下にその価値を見出され、なぜか過保護に甘やかされてしまう、お仕事改革ファンタジー。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

薬師だからってポイ捨てされました~異世界の薬師なめんなよ。神様の弟子は無双する~

黄色いひよこ
ファンタジー
薬師のロベルト・シルベスタは偉大な師匠(神様)の教えを終えて自領に戻ろうとした所、異世界勇者召喚に巻き込まれて、周りにいた数人の男女と共に、何処とも知れない世界に落とされた。  ─── からの~数年後 ──── 俺が此処に来て幾日が過ぎただろう。  ここは俺が生まれ育った場所とは全く違う、環境が全然違った世界だった。 「ロブ、申し訳無いがお前、明日から来なくていいから。急な事で済まねえが、俺もちっせえパーティーの長だ。より良きパーティーの運営の為、泣く泣くお前を切らなきゃならなくなった。ただ、俺も薄情な奴じゃねぇつもりだ。今日までの給料に、迷惑料としてちと上乗せして払っておくから、穏便に頼む。断れば上乗せは無しでクビにする」  そう言われて俺に何が言えよう、これで何回目か? まぁ、薬師の扱いなどこんなものかもな。  この世界の薬師は、ただポーションを造るだけの職業。  多岐に亘った薬を作るが、僧侶とは違い瞬時に体を癒す事は出来ない。  普通は……。 異世界勇者巻き込まれ召喚から数年、ロベルトはこの異世界で逞しく生きていた。 勇者?そんな物ロベルトには関係無い。 魔王が居ようが居まいが、世界は変わらず巡っている。 とんでもなく普通じゃないお師匠様に薬師の業を仕込まれた弟子ロベルトの、危難、災難、巻き込まれ痛快世直し異世界道中。 はてさて一体どうなるの? と、言う話。ここに開幕! ● ロベルトの独り言の多い作品です。ご了承お願いします。 ● 世界観はひよこの想像力全開の世界です。

処理中です...