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第9話 仕方ないじゃない、と彼女は乾いた口調で言った。
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起きてちょうだいよ、と女の声で目を覚ました。ねおんかと思って、ついその手を引っ張ったら、思い切りはたかれた。
「あ…… ごめん、ミル」
「何寝ぼけてんの、おにーさん!」
いーっ、と彼女は歯をむき出しにして怒った顔を見せる。まるで別人だ、と私は思う。月の光の下で、私に笑いかけた、あの顔とは。
同じように、ちゃんと唇は赤いというのに。
「今日中には、東府に着くんじゃないかな」
彼らの取ってきたパンとソーセージ、それに林檎を口にしながら、私は告げた。
「今日? じゃあまだ大丈夫なんだな?」
「ああ。ちゃんと期限には間に合う。その様に私も動いていたんだから」
「よかった。よかったよな」
「うん。よかったよね」
二人は顔を見合わせて笑った。どこをどう見ても、昨夜のあの雰囲気は見あたらない。当人達がそもそも言った様に、恋人という空気はそこには無かった。
だがあれは目の錯覚ではない。
ない…… と思う。
しかし食事の時にする話題ではないと思ったので、私はそこでは切り出さなかった。
二人はこの日も食欲は旺盛だった。
手に入れた食物を、次々に開けていく。
ドリンクを飲み干し、パンを口にし、ソーセージにかぶりつき、林檎をかじる。その食べっぷりがあまりにも豪快なので、私は何となく目が離せなくなってしまった。
「何見てんだよ」
案の定、ナガサキはやや不機嫌そうな顔になる。
「いや、元気だなあ、と思って」
「元気だよ、オレ達は」
しゃり、と林檎をかみ砕く音がする。残りを口にどんどん詰め込み、頬を膨らませて何度もあごを上下させる。どうやらそれで彼らの食事は終わりのようだ。
ようやく飲み込むと、ナガサキはミルに向かって言った。
「元気でなくちゃならないもんな」
「そうよね」
ミルもまた、そうつぶやく。
「でも君ら、東府で受け入れてくれる受精卵は一組一つだけど…… それでも、やっぱりその、あんへるとカモンのものを届けたいのかい?」
今更のように、私は訊ねる。ミルは首をかたむけ、何を判らないことを、というように私を見た。
「だからおにーさん、前から言ってるでしょ? あたし等のは、ついでなんだってば」
「じゃどうして、その友達の方を何とかしたいんだ?」
「だって」
「ねえ」
二人は顔を見合わせ、うなづく。
「好きだったんだもの」
「そうだよな」
「好きって」
「だから、好きは好き」
彼女はきっぱりと言う。
「あたしが男だったら、彼女を誰にも渡さなかったわ。誰からも守って、うんそうよね、彼女連れて、何とかして、この星の外へ出てやったわ」
「オレだって、奴好みのイイ女だったなら、誰が何と言おうと、絶対に、モノにして、こっち向かせて、べたべたにくっついててやったよ」
ねえ、と再び二人はうなづきあう。ちょっと待て、と私は手を挙げた。
「そういう意味で、好きだったのか?」
うん、と二人はあどけない調子でうなづいた。
いや無論、そういうことが私の回りに全くない訳ではなかった。
だがそれは、こんなにあっけらかんと当然の様に告げられることではなかったから。
「でも君ら、昨夜……」
思わず、私はそう切り出してしまっていた。
「やーっぱり、見てたんだ」
くっくっ、とミルは人差し指を曲げて唇につける。その笑いは、確かに昨夜見たものとよく似ていた。指の白さが、唇の赤を引き立てる。
「出刃亀だね、おにーさん」
「私は」
あんなところで、そんなことをしているなんて、思いもしなかった。だがそう言ったところで弁解に過ぎないだろう。
「いいよ別に。すぐにあん時おにーさん、あそこからどっか行っちゃったじゃない」
それはそうだ。あれは見るものじゃない。
「君らは、恋人同士じゃない、って言ったけど」
「違うよ」
ナガサキは首を横に振る。
「そんなんじゃない」
「じゃあ何で、……してたんだ?」
「やりたかったから」
あっさりと、ナガサキは言った。そして親指を立ててミルに向け、こいつも同じ、と付け足した。
「昔っからそうだよ。そーだったよね」
「ああ。俺達六人のうち、あの二人はカップルだったけど、あとは誰もそうじゃなくて。だけどそーすると、奴ら、どーしてもいつも、二人きりになろうなろうとするじゃん」
それはそうだろう。
「それはそれでいーんだよ。奴ら、それでシアワセだったんだから。オレもそれは良かったけど…… オレも、見ちゃったんだよ、おにーさん、あんたのように」
「私のように?」
「カモンがあんへるを抱いてるトコ。やっぱりさ、海じゃなかったけど、あーんな、コンクリの橋げたのトコで。月がキレイな夜でさ」
ナガサキはうつむいた。
「彼女が、あんへるが、長い巻き毛をだらんと降ろして、首をかくんと後ろに倒して、すげえキレイな顔で、あえいでる顔が、残ってさ。ホント、すげえキレイだったの。髪なんか、月の光に透けてさ」
「それで、……ミルと?」
「や、それでソコでおっ立っちまったのはホント。だけどおにーさん、あんた、何か違ったコト考えてるかもしれないから、言っとくよ。オレは、そん時の、あんへるにそーなったんじゃないって」
「そん時、ちょうどあたしは、ぼんやりと突っ立ってたこいつを見つけたのよ。馬鹿みたいにぼけーっとしてるから、何かしらと思ったら、あたしはあたしで、息が止まりそうになった」
ミルは目を伏せた。
「あたしだって、判ってるわよ。判ってたわ。だけど、判ってることと、目の前でそれが繰り広げられるのって違うじゃない。信じたくなかったんだね、やっぱり。で、何か足がすくんでしまってた時に、急にこいつが抱きついてきて」
「止めなかったの?」
「しょーがないじゃない。あたしも何か、そーいうものがあったんだから」
「そういうもの?」
「オレさぁ、あんへるのその顔見た時に、自分の中で、すげーむかついたの。そん時。だってさ、彼女がすげえイイ顔してる時、その正面で、カモンも、何かすごい顔してるんだよ? オレなんか見たこともない、イイ顔。胸がどきどきした。なのに何でこの女は、そんな顔を見ることもなく、自分のキモチよさに浸ってんだよこの馬鹿とか思ってさ… そしたら何か、いつの間にかこいつが近くにいて、何か、急に、したくなって」
「それで…… 良かったの?」
「いい訳ないでしょおにーさん。それじゃーゴーカンよゴーカン。普通ならね。でもあたしもその時普通じゃなかったから」
仕方ないわね、と言うように彼女は肩をすくめた。
「この馬鹿は何も大して知らないから、もう滅茶苦茶。だけど、さ」
彼女は言葉を切った。
「向こう側を見てんのよ。あたしと同じように。それがあんへるを見てたんなら、今頃こいつ、死んでるわよ。でも、こいつが、あたしをべたべた触りながら、それでも見てたのは、カモンだったから」
仕方ないじゃない、と彼女は乾いた口調で言った。
「あたし等は、同じなんだ、ってわかっちゃったから」
「別にあの二人に話した訳じゃないのに、それから、何かあいつ等、オレ等をカップルみたいな目で見てさぁ。オレ達が見たように、あいつ等もオレ等が何してんのか、気付いたのかもしれない。そしたら、こんなことも言うんだぜ? ほら部屋取ったからさ、こっちでお前らやれよ、こっちでオレ達やるからさ、って、一つの部屋の中でだよ? オレ等、何か訳判らないままに、いつも連中を見ながらやってた」
「残酷って言えば残酷よね」
「気付かなかったの? あんへるとカモンは」
「ぜーんぜん」
ミルは呆れたように両手を開いた。
「そんなこと、考えもしなかったみたい。だってそうよね。いつも二人で、前だけ見てさ、それ以外のことなんて、何も見えてないの。最初っからそう。あんへるがカモンのこと、口に出し始めた時から、ずっとそう。あたしはずっと、それを良かったわねとか聞いてるのよ。だってそう。言わないうちは、あたし、彼女の一番の友達じゃない」
「言ってしまったら、終わるって、オレも思ってた。何をどうしても、奴にとって、オレはそんな目で見られるもんじゃなくてさ。って言うか、男とレンアイだなんて、考える奴じゃなかったんだよ」
それはそうだろう、と私は思う。
確かにそういう趣味を持つ人々は居るだろう、という認識はあっても、自分がいざそんな思いを寄せられていたとした場合、―――私だったら、訳が分からなくなる。
そして一番の友人を自負していたとしたなら、相手がそんなことを受け入れられるタイプかどうかは、確かに判るのだろう。判ってしまうから、それ以上、どうしようもない。手詰まりだ。
「だけどさ、誤解しないでよ?」
ミルは上目づかいで私を見据えた。
「だからって、あたし等がかわいそうだった、なんて考えないでよ? あたし等は、それでも、あの二人に出会えて、しあわせだったんだから」
「幸せだった?」
何だろう。何となく、引っかかるものがあった。
「そう、しあわせだったわよ。だって、何はともあれ、あんなに大好きになれたひとが、居たってことだけでも、あたしはしあわせだったと思うわよ」
「それに、奴がいなかったら、オレはこんな風に、外に出るなんて、考えなかったし」
「そうなのか?」
ナガサキはうなづく。だがその姿からはやっぱり考えにくい。
「オレは二番都市で、泣かされてた方のガキだったのよ? 奴が来るまでは。奴がいたから、オレは泣かされないようになろうって思えた。少しでも、強くなって、奴に置いていかれないようにしたかった。そりゃ今でも、血ぃ見るのはキライだけどさ、それでも、今だったら、泣かされる前に、泣かしてやる」
その割には私の前ではよく泣いた様な気がするが。
「だからさ、おにーさん、あたし等のことは、心配しないでいいよ」
「心配なんか」
顔をしかめて見せると、ミルは苦笑した。
「あ…… ごめん、ミル」
「何寝ぼけてんの、おにーさん!」
いーっ、と彼女は歯をむき出しにして怒った顔を見せる。まるで別人だ、と私は思う。月の光の下で、私に笑いかけた、あの顔とは。
同じように、ちゃんと唇は赤いというのに。
「今日中には、東府に着くんじゃないかな」
彼らの取ってきたパンとソーセージ、それに林檎を口にしながら、私は告げた。
「今日? じゃあまだ大丈夫なんだな?」
「ああ。ちゃんと期限には間に合う。その様に私も動いていたんだから」
「よかった。よかったよな」
「うん。よかったよね」
二人は顔を見合わせて笑った。どこをどう見ても、昨夜のあの雰囲気は見あたらない。当人達がそもそも言った様に、恋人という空気はそこには無かった。
だがあれは目の錯覚ではない。
ない…… と思う。
しかし食事の時にする話題ではないと思ったので、私はそこでは切り出さなかった。
二人はこの日も食欲は旺盛だった。
手に入れた食物を、次々に開けていく。
ドリンクを飲み干し、パンを口にし、ソーセージにかぶりつき、林檎をかじる。その食べっぷりがあまりにも豪快なので、私は何となく目が離せなくなってしまった。
「何見てんだよ」
案の定、ナガサキはやや不機嫌そうな顔になる。
「いや、元気だなあ、と思って」
「元気だよ、オレ達は」
しゃり、と林檎をかみ砕く音がする。残りを口にどんどん詰め込み、頬を膨らませて何度もあごを上下させる。どうやらそれで彼らの食事は終わりのようだ。
ようやく飲み込むと、ナガサキはミルに向かって言った。
「元気でなくちゃならないもんな」
「そうよね」
ミルもまた、そうつぶやく。
「でも君ら、東府で受け入れてくれる受精卵は一組一つだけど…… それでも、やっぱりその、あんへるとカモンのものを届けたいのかい?」
今更のように、私は訊ねる。ミルは首をかたむけ、何を判らないことを、というように私を見た。
「だからおにーさん、前から言ってるでしょ? あたし等のは、ついでなんだってば」
「じゃどうして、その友達の方を何とかしたいんだ?」
「だって」
「ねえ」
二人は顔を見合わせ、うなづく。
「好きだったんだもの」
「そうだよな」
「好きって」
「だから、好きは好き」
彼女はきっぱりと言う。
「あたしが男だったら、彼女を誰にも渡さなかったわ。誰からも守って、うんそうよね、彼女連れて、何とかして、この星の外へ出てやったわ」
「オレだって、奴好みのイイ女だったなら、誰が何と言おうと、絶対に、モノにして、こっち向かせて、べたべたにくっついててやったよ」
ねえ、と再び二人はうなづきあう。ちょっと待て、と私は手を挙げた。
「そういう意味で、好きだったのか?」
うん、と二人はあどけない調子でうなづいた。
いや無論、そういうことが私の回りに全くない訳ではなかった。
だがそれは、こんなにあっけらかんと当然の様に告げられることではなかったから。
「でも君ら、昨夜……」
思わず、私はそう切り出してしまっていた。
「やーっぱり、見てたんだ」
くっくっ、とミルは人差し指を曲げて唇につける。その笑いは、確かに昨夜見たものとよく似ていた。指の白さが、唇の赤を引き立てる。
「出刃亀だね、おにーさん」
「私は」
あんなところで、そんなことをしているなんて、思いもしなかった。だがそう言ったところで弁解に過ぎないだろう。
「いいよ別に。すぐにあん時おにーさん、あそこからどっか行っちゃったじゃない」
それはそうだ。あれは見るものじゃない。
「君らは、恋人同士じゃない、って言ったけど」
「違うよ」
ナガサキは首を横に振る。
「そんなんじゃない」
「じゃあ何で、……してたんだ?」
「やりたかったから」
あっさりと、ナガサキは言った。そして親指を立ててミルに向け、こいつも同じ、と付け足した。
「昔っからそうだよ。そーだったよね」
「ああ。俺達六人のうち、あの二人はカップルだったけど、あとは誰もそうじゃなくて。だけどそーすると、奴ら、どーしてもいつも、二人きりになろうなろうとするじゃん」
それはそうだろう。
「それはそれでいーんだよ。奴ら、それでシアワセだったんだから。オレもそれは良かったけど…… オレも、見ちゃったんだよ、おにーさん、あんたのように」
「私のように?」
「カモンがあんへるを抱いてるトコ。やっぱりさ、海じゃなかったけど、あーんな、コンクリの橋げたのトコで。月がキレイな夜でさ」
ナガサキはうつむいた。
「彼女が、あんへるが、長い巻き毛をだらんと降ろして、首をかくんと後ろに倒して、すげえキレイな顔で、あえいでる顔が、残ってさ。ホント、すげえキレイだったの。髪なんか、月の光に透けてさ」
「それで、……ミルと?」
「や、それでソコでおっ立っちまったのはホント。だけどおにーさん、あんた、何か違ったコト考えてるかもしれないから、言っとくよ。オレは、そん時の、あんへるにそーなったんじゃないって」
「そん時、ちょうどあたしは、ぼんやりと突っ立ってたこいつを見つけたのよ。馬鹿みたいにぼけーっとしてるから、何かしらと思ったら、あたしはあたしで、息が止まりそうになった」
ミルは目を伏せた。
「あたしだって、判ってるわよ。判ってたわ。だけど、判ってることと、目の前でそれが繰り広げられるのって違うじゃない。信じたくなかったんだね、やっぱり。で、何か足がすくんでしまってた時に、急にこいつが抱きついてきて」
「止めなかったの?」
「しょーがないじゃない。あたしも何か、そーいうものがあったんだから」
「そういうもの?」
「オレさぁ、あんへるのその顔見た時に、自分の中で、すげーむかついたの。そん時。だってさ、彼女がすげえイイ顔してる時、その正面で、カモンも、何かすごい顔してるんだよ? オレなんか見たこともない、イイ顔。胸がどきどきした。なのに何でこの女は、そんな顔を見ることもなく、自分のキモチよさに浸ってんだよこの馬鹿とか思ってさ… そしたら何か、いつの間にかこいつが近くにいて、何か、急に、したくなって」
「それで…… 良かったの?」
「いい訳ないでしょおにーさん。それじゃーゴーカンよゴーカン。普通ならね。でもあたしもその時普通じゃなかったから」
仕方ないわね、と言うように彼女は肩をすくめた。
「この馬鹿は何も大して知らないから、もう滅茶苦茶。だけど、さ」
彼女は言葉を切った。
「向こう側を見てんのよ。あたしと同じように。それがあんへるを見てたんなら、今頃こいつ、死んでるわよ。でも、こいつが、あたしをべたべた触りながら、それでも見てたのは、カモンだったから」
仕方ないじゃない、と彼女は乾いた口調で言った。
「あたし等は、同じなんだ、ってわかっちゃったから」
「別にあの二人に話した訳じゃないのに、それから、何かあいつ等、オレ等をカップルみたいな目で見てさぁ。オレ達が見たように、あいつ等もオレ等が何してんのか、気付いたのかもしれない。そしたら、こんなことも言うんだぜ? ほら部屋取ったからさ、こっちでお前らやれよ、こっちでオレ達やるからさ、って、一つの部屋の中でだよ? オレ等、何か訳判らないままに、いつも連中を見ながらやってた」
「残酷って言えば残酷よね」
「気付かなかったの? あんへるとカモンは」
「ぜーんぜん」
ミルは呆れたように両手を開いた。
「そんなこと、考えもしなかったみたい。だってそうよね。いつも二人で、前だけ見てさ、それ以外のことなんて、何も見えてないの。最初っからそう。あんへるがカモンのこと、口に出し始めた時から、ずっとそう。あたしはずっと、それを良かったわねとか聞いてるのよ。だってそう。言わないうちは、あたし、彼女の一番の友達じゃない」
「言ってしまったら、終わるって、オレも思ってた。何をどうしても、奴にとって、オレはそんな目で見られるもんじゃなくてさ。って言うか、男とレンアイだなんて、考える奴じゃなかったんだよ」
それはそうだろう、と私は思う。
確かにそういう趣味を持つ人々は居るだろう、という認識はあっても、自分がいざそんな思いを寄せられていたとした場合、―――私だったら、訳が分からなくなる。
そして一番の友人を自負していたとしたなら、相手がそんなことを受け入れられるタイプかどうかは、確かに判るのだろう。判ってしまうから、それ以上、どうしようもない。手詰まりだ。
「だけどさ、誤解しないでよ?」
ミルは上目づかいで私を見据えた。
「だからって、あたし等がかわいそうだった、なんて考えないでよ? あたし等は、それでも、あの二人に出会えて、しあわせだったんだから」
「幸せだった?」
何だろう。何となく、引っかかるものがあった。
「そう、しあわせだったわよ。だって、何はともあれ、あんなに大好きになれたひとが、居たってことだけでも、あたしはしあわせだったと思うわよ」
「それに、奴がいなかったら、オレはこんな風に、外に出るなんて、考えなかったし」
「そうなのか?」
ナガサキはうなづく。だがその姿からはやっぱり考えにくい。
「オレは二番都市で、泣かされてた方のガキだったのよ? 奴が来るまでは。奴がいたから、オレは泣かされないようになろうって思えた。少しでも、強くなって、奴に置いていかれないようにしたかった。そりゃ今でも、血ぃ見るのはキライだけどさ、それでも、今だったら、泣かされる前に、泣かしてやる」
その割には私の前ではよく泣いた様な気がするが。
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「心配なんか」
顔をしかめて見せると、ミルは苦笑した。
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