未来史シリーズ-①希望のカケラ~終末の世界でギャングに襲われたら

江戸川ばた散歩

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第12話 「これからどうするつもりなの?」

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 そしてその制服の主が、今、私服で目の前に居た。
 当初、錯乱していた私は東府の病院へと運ばれる予定だったが、当局の意図していた以上に、「凶悪な二人組の被害者」であり、「当局への協力者」である私に対し、関係報道機関がうるさいので、病院側も辟易して当局のどこかへ移すことを希望したらしい。
 私の錯乱も一時的なものらしいという診断がついた。つかされたのかもしれないが。
 それならいっそ、と最初に私を助けた局員が名乗りを上げたらしい。局の方も、やっかいなことは少しでも少ない方がいいというのか、その局員の申し出をあっさりと認めた。
 そして私は現在、トオエという名の局員の部屋に居た。

「それで、君はこれからどうするつもりなの?」
「どうするって」

 言っても。

「帰るしか、ないですね。東府に来た理由は…… 果たしたいのですが」
「ここに来た、ということは、受精卵を託しに来たんだね?」

 私はうなづく。

「止したほうがいいかも、しれないよ」
「え?」
「せっかく、あんな思いまでして、届けに来た君に、こんなことを言うのは…… 夢を壊す様で悪いかもしれないけど……」

 思わず眉を寄せる。何をこのひとは言おうとしているのだ。

「言いかけたことなら、言ってくれませんか? そこで放って置かれるのは、逆に何か」
「ああ」

 そうだな、とトオエはうなづいた。

「俺も、当初は君の様に、妻との遺伝子を残そうと思ったんだ。だが、さすがに局の人間という奴をやっていると、聞きたくもない情報まで、耳に飛び込んでくる。君は、今回の船が、そんな受精卵だけを運ぶなんて、考えてはいないだろう?」

 ええ、と私は答えた。それ以上の説明は要らなかった。誰もが知っていて、それでいて口に出さない共通認識。行ける奴なんて、最初から決まってるんだ、というあきらめまじりのつぶやきと共にそれは口の中で噛み潰される。

「予定地は、明かされていない。下手すると、決まっていないのかもしれない。それでも、この地球上に残って、花に殺されるよりはましと考えるのか……」

 そこまで言って、彼は一口コーヒーをすすった。

「まあそれでも、全くの目標がゼロという訳ではないだろうね。遠い未来であろうが、いつかは、新しい大地に立とうという気なんだろう。だが、そこで、だ」

 とん、と彼はカップを置く。

「その新しい場で、彼等と彼等の子孫は、果たして、汗水流して働きたいだろうか」
「……え?」
「特権階級にずっと居た奴らが、新天地の何も無いところで、苦労して切り開いて行こうと思うだろうか? いや、それ以前からもだ。長い長い航海になったとして、やがて自分達も増えるだろう。その中で、自分の世話を自分でやろうと考えるんだろうか。そもそも乗り込む時点で、そんなこと、頭に無い連中のほうが多いと思わないか?」
「どういう、意味ですか?」
「こういう、噂が立ってるんだ」

 ちょっと待ってくれ、と私は彼を手で制した。飲みかけのコーヒーを慌てて飲み干す。
 いいかい? と彼は問いかける。私はうなづいた。口に入るものがまずくなる話のような気がしたのだ。

「奴らは、自分達に仕える者を連れて行こうとしているんだ」 

 私は顔をしかめる。すぐには意味が取れなかった。だが、その言葉の意味していることが理解できた瞬間、私の中で、ひどく熱い塊が、大きく膨らんだような気がした。

「……それって……」
「船の中には、人工子宮もあってね。最初から、奴らに仕えることを教育された人間を生み出そうって魂胆らしい」
「そんな」

 私は思わず口を押さえた。

「奴らなら、考えそうなことだ」

 吐き捨てるように、トオエは言った。

「同じ数の人間を連れてくより、ずっと効率的。効率的だよと! 噂だけどな」

 噂では、無いだろう。私は奇妙に確信していた。そのくらい、やりかねないだろう、と。

「噂だよ? あくまで噂」
「でもわざわざ、今の私に言ってくれるとということは…… それが、信憑性の高い噂ってことでしょう?」

 私は彼に問いかけた。彼は少し困ったような顔をした。

「そうだな。だから、局員で、そんな恩恵にあずかれなかった連中は、絶対に、自分の血のつながる子孫をそんな場所にやりたがらない。全国の都市から、何も知らずに、報道機関が流す情報を鵜呑みにする、けなげな連中の持ってくるものをより分けて行くだけさ」

 そうですか、と私は言いながら、視線を落とした。結局、どこへ行ったところで、希望なんか無かったというのか。何だか、おかしくなってくる。笑いたくなってきそうだ。
 と、ふと落とした視線の先に、私は彼の荷物を認めた。そういえば。

「奥さんは、どうしたんですか?」
「え?」
「奥さんがいる、って今さっきあなたは言われたけど」
「ああ」

 視線の先に気付いて、彼は少しだけ笑った。

「彼女は、引っ越し先に、片づけに行ってるんだ。せめて人間の住める場所にしようって」
「引っ越し?」
「もうじき、管理局も辞めるんだ。36番都市の近くの島に引っ越そうと思って」
「島」

 海の風景が、私の脳裏を横切った。

「妻の父方の先祖の土地らしいんだけど、温暖で、かなり昔に捨てられた所だから、機械がほとんど入っていないというんだ。そこへ行って、そんな生活をしてみようか、と」

 へえ、と私は声を上げる。

「奥さんと、二人で?」
「いや、子供が三人いるから。妻と先に行っている。それと、局で家族ぐるみの付き合いをしている友人夫婦と」
「楽しそう、ですね」
「いや、そんなことないよ。大変だよ。俺も妻も、畑仕事も魚取りも何もしたことないからな。下手すると、飢え死にするかもな」

 そしてははは、と彼は笑う。違うんだ。そういうこの人の表情が、ひどく楽しそうなんだ。
 だってそうだろう、と私は思う。都市に居たところで、このままでざいあが、都市に入らないでいるという保証はない。
 いや必ずその時は来るのだ。悲観している訳じゃない。どこから入ってきたのかすら判らないあの生物は、この先もどこから入ってくるかなど、判らないのだ。

「そうだ、君もどうだい?」

 え、と私は顔を上げた。

「島はいくら島だとは言っても、決して箱庭じゃないから、人手はあったほうがいいんだ。無論、それなりに苦労はあるだろうけど」

 彼はにっこりと笑う。

「だけど、黙って殺されるよりは、ましだろう?」
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