未来史シリーズ-③flower~閉ざされた都市で、人形は扉を開ける鍵を探す

江戸川ばた散歩

文字の大きさ
102 / 113

100.「お前は自分に対して勝手じゃないかって言ってるんだ!」

しおりを挟む
「安岐は大丈夫。生きてるよ。本当。ただ今回の…… ライヴ、成功すればいいね」
「文脈がつながっていないぞ」

 朱夏は口をはさむ。

「あのさ朱夏、君チューニング変えてから、口が悪いと思っていたけど、連中の所行ってから、余計に悪くなったんじゃない?」

 放っとけ、と朱夏は吐き捨てるように言う。

「これは学習効果だ。それにそもそもお前が基本なんだから仕方ない! はぐらかすな。お前言ってることがひどく変だ。あいまいだ。一体私に何を話したい?あいにく私は人間じゃないから、お前のあいまいな言葉の裏を知ろうなんてことできないぞ」

 朱夏はぐっと彼に近付く。そして自分の原型の瞳を凝視する。

「何が? ねえ朱夏は俺の何が気に入らないの?」
「何じゃない。あいにく私は感情は少ないが、演算能力はあるんだ。布由に聞いた話を総合したら、出る結論は一つしかないじゃないか!」
「どんな結論?」
「お前は自分で勝手に無くなろうとしている。本当に勝手だ」
「勝手かな」
「勝手だ。そもそも最初も勝手だが、終わりまで勝手に終わろうというのが気にくわない」
「好みも明確になったんだね朱夏。それは良かった良かった」
「良くないっ!」

 メゾソプラノの声が、廊下中に響いた。

「だけど君だって勝手じゃない」
「私の言ってるのはそういうことじゃないっ! お前は自分に対して勝手じゃないかって言ってるんだ!」
「自分に対して?」
「お前が誰かのためにそうしようとしている、と布由は言った。別に誰とは言わなかったし、別に私もそんなこと興味はない。だが、そんなにしてまで大事なものを置いて、どうして消えようなんて思えるんだ?」
「それしか方法が無いからね」

 淡々と彼は答える。 

「無いからね、なんてあっさり言う奴は私は嫌いだ」
「朱夏」

 HALは目を丸くする。

「そういうあきらめが何になるんだ? あきらめなかったら、0.00001%でも望みはあるが、あきらめてしまったら、それ以外の方法は絶対見つからないんだぞ!」
「……」
「どうなんだHAL!」
「でもね朱夏、俺と布由が必要なのは事実なんだよ? それに関しては、どうにもならない」
「私が言っているのはそういうことじゃない」
「じゃあどういうことなの?」

 さすがにHALもむきになる。

「確かに必要かもしれないさ。お前と布由が必要かもしれないさ。だけど何かの拍子で、お前はそこから戻ってくることができるかもしれないじゃないか!」
「どうやって!」
「知るか! そんなこと!」
「だったらそんな無責任なこと言うんじゃないよ!」
「違う! それは私には判らない。当然だ。私にそのデータは無い。そこを知っているのはお前だけだろうが? だがそこで帰ってくる方法を探せないのか、と言っているんだ!」
「……」
「空間を切って、布由の声を広げて、空間を元に戻して…… お前と布由が、閉じこめられた後のことを、私は言っているんだぞ……」
「朱夏」
「私は『外』で安岐がいなくて寂しかった。お前にとって布由は違う。そう布由も土岐も言ってた」
「……ああ、気付いていたんだね」
「布由はいい。彼は私に言った。自分は自分の一番会いたい者に会いに行くんだからって。だから布由はいい。だがHALは、一番会いたい奴を外に出すためにそうしている。それじゃHALが悲しいじゃないか」
「布由はそう言った?」
「言った。その一番会いたいのはHALなのか、と訊ねたら、それは違うと言った。それは正しいのだろう?」

 ああ、とHALはうなづいた。

「そうだよ。布由は、何処の誰よりも一番布由のことを好きで求めている誰かさんに会いたいんだ」
「だけど、HALはHALのそういう奴を勝手に置いていこうとしてる。それはそいつにとっても、そいつを好きなHAL、お前自身に対しても勝手じゃないか!」

 朱夏はばん、と彼の座っている前に手を打ちつける。

「じゃ俺はどうすればいいって言うの? 朱夏は」
「私はとにかくやってきたぞ。何故かギターまで弾いてしまったぞ。全く本意ではないんだが」
「弾けるようになってて良かったね」
「そういうことじゃない!」

 朱夏は叫んだ。

「私はやれたぞ?! とにかくできることをした! できるかできないかじゃなくて、やったんだぞ! なのに何で原型のお前が、全部あきらめてしまうんだ!」
「……ちょ、ちょっと朱夏……」

 いつの間にか、朱夏はHALの襟首をゆさゆさと掴んで揺さぶっていた。彼の声ではっと気がついて朱夏は手を離す。ふう、と息をつきながらHALは肩を落とす。

「ごめん」
「いいよ。朱夏の言うことは本当だ。安岐にも言われた。俺はあきらめが良すぎる」
「HAL」
「何か判らないけれど、俺はずっと…… この都市に来るずっと前から、そうしてきたから。それが俺の習性だったから。理由はいろいろ考えられるよ。でも、それは所詮、俺の言い訳に過ぎないよね」
「……悪い、私は言い過ぎた」
「そんなことないよ。誰もが俺には言わなかっただけのこと。でも、そうだね」

 HALは腕を前に伸ばす。そして彼はぎゅっと朱夏を抱きしめた。
 何をする、と朱夏は一瞬じたばたする。だがそれにも構わずに彼は自分と殆ど変わらない身体を抱きしめた。

「……何をしてるんだ?」
「変だよね。君は俺のレプリカだったはずなのに、俺の方が説教されてるなんてさ」
「別に説教してる気はないぞ。お前がとことん勝手だから」
「そうだよ。俺は勝手。……勝手ついでに、願えば良かったんだな」
「過去形で言うな」

 朱夏はぽんぽん、とHALの背中を叩く。それは安岐が彼女によくやった仕草に似ていた。

「全部が過去になるにはまだ早すぎるぞ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

薬師だからってポイ捨てされました~異世界の薬師なめんなよ。神様の弟子は無双する~

黄色いひよこ
ファンタジー
薬師のロベルト・シルベスタは偉大な師匠(神様)の教えを終えて自領に戻ろうとした所、異世界勇者召喚に巻き込まれて、周りにいた数人の男女と共に、何処とも知れない世界に落とされた。  ─── からの~数年後 ──── 俺が此処に来て幾日が過ぎただろう。  ここは俺が生まれ育った場所とは全く違う、環境が全然違った世界だった。 「ロブ、申し訳無いがお前、明日から来なくていいから。急な事で済まねえが、俺もちっせえパーティーの長だ。より良きパーティーの運営の為、泣く泣くお前を切らなきゃならなくなった。ただ、俺も薄情な奴じゃねぇつもりだ。今日までの給料に、迷惑料としてちと上乗せして払っておくから、穏便に頼む。断れば上乗せは無しでクビにする」  そう言われて俺に何が言えよう、これで何回目か? まぁ、薬師の扱いなどこんなものかもな。  この世界の薬師は、ただポーションを造るだけの職業。  多岐に亘った薬を作るが、僧侶とは違い瞬時に体を癒す事は出来ない。  普通は……。 異世界勇者巻き込まれ召喚から数年、ロベルトはこの異世界で逞しく生きていた。 勇者?そんな物ロベルトには関係無い。 魔王が居ようが居まいが、世界は変わらず巡っている。 とんでもなく普通じゃないお師匠様に薬師の業を仕込まれた弟子ロベルトの、危難、災難、巻き込まれ痛快世直し異世界道中。 はてさて一体どうなるの? と、言う話。ここに開幕! ● ロベルトの独り言の多い作品です。ご了承お願いします。 ● 世界観はひよこの想像力全開の世界です。

最弱スキルも9999個集まれば最強だよね(完結)

排他的経済水域
ファンタジー
12歳の誕生日 冒険者になる事が憧れのケインは、教会にて スキル適性値とオリジナルスキルが告げられる 強いスキルを望むケインであったが、 スキル適性値はG オリジナルスキルも『スキル重複』というよくわからない物 友人からも家族からも馬鹿にされ、 尚最強の冒険者になる事をあきらめないケイン そんなある日、 『スキル重複』の本来の効果を知る事となる。 その効果とは、 同じスキルを2つ以上持つ事ができ、 同系統の効果のスキルは効果が重複するという 恐ろしい物であった。 このスキルをもって、ケインの下剋上は今始まる。      HOTランキング 1位!(2023年2月21日) ファンタジー24hポイントランキング 3位!(2023年2月21日)

娘を返せ〜誘拐された娘を取り返すため、父は異世界に渡る

ほりとくち
ファンタジー
突然現れた魔法陣が、あの日娘を連れ去った。 異世界に誘拐されてしまったらしい娘を取り戻すため、父は自ら異世界へ渡ることを決意する。 一体誰が、何の目的で娘を連れ去ったのか。 娘とともに再び日本へ戻ることはできるのか。 そもそも父は、異世界へ足を運ぶことができるのか。 異世界召喚の秘密を知る謎多き少年。 娘を失ったショックで、精神が幼児化してしまった妻。 そして父にまったく懐かず、娘と母にだけ甘えるペットの黒猫。 3人と1匹の冒険が、今始まる。 ※小説家になろうでも投稿しています ※フォロー・感想・いいね等頂けると歓喜します!  よろしくお願いします!

ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜

KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞 ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。 諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。 そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。 捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。 腕には、守るべきメイドの少女。 眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。 ―――それは、ただの不運な落下のはずだった。 崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。 その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。 死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。 だが、その力の代償は、あまりにも大きい。 彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”―― つまり平和で自堕落な生活そのものだった。 これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、 守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、 いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。 ―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。

最弱無双は【スキルを創るスキル】だった⁈~レベルを犠牲に【スキルクリエイター】起動!!レベルが低くて使えないってどういうこと⁈~

華音 楓
ファンタジー
『ハロ~~~~~~~~!!地球の諸君!!僕は~~~~~~~~~~!!神…………デス!!』 たったこの一言から、すべてが始まった。 ある日突然、自称神の手によって世界に配られたスキルという名の才能。 そして自称神は、さらにダンジョンという名の迷宮を世界各地に出現させた。 それを期に、世界各国で作物は不作が発生し、地下資源などが枯渇。 ついにはダンジョンから齎される資源に依存せざるを得ない状況となってしまったのだった。 スキルとは祝福か、呪いか…… ダンジョン探索に命を懸ける人々の物語が今始まる!! 主人公【中村 剣斗】はそんな大災害に巻き込まれた一人であった。 ダンジョンはケントが勤めていた会社を飲み込み、その日のうちに無職となってしまう。 ケントは就職を諦め、【探索者】と呼ばれるダンジョンの資源回収を生業とする職業に就くことを決心する。 しかしケントに授けられたスキルは、【スキルクリエイター】という謎のスキル。 一応戦えはするものの、戦闘では役に立たづ、ついには訓練の際に組んだパーティーからも追い出されてしまう。 途方に暮れるケントは一人でも【探索者】としてやっていくことにした。 その後明かされる【スキルクリエイター】の秘密。 そして、世界存亡の危機。 全てがケントへと帰結するとき、物語が動き出した…… ※登場する人物・団体・名称はすべて現実世界とは全く関係がありません。この物語はフィクションでありファンタジーです。

処理中です...