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第22話 皇帝のマドリョンカ評
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「でもそれはもう父さんはどうでもいいんだ。産んだひとはそれはそれで生命をくれたし、カイばあちゃんは本当に大切な、俺にとっては本当の母さんだ」
「じゃあ僕もエガナと一緒に暮らしているのが楽しいのは、別におかしいことじゃないんだね!」
「楽しいか楽しくないかは、お前の感じることだ。誰かがおかしいとか決めることじゃない。誰かに言われたのか?」
「ううん、学問所でも親戚に引き取られた子とか居るから」
そうか、と皇帝カヤはまたくしゃくしゃと息子の頭をかき回した。
「亡くなったお前の母上の姉さんって人は、そうだな、確かに綺麗な人だったな。だけどまあ俺の趣味じゃない」
「カヤさんたら」
太公主は呆れた様に言葉を流した。
「マドリョンカ―――マドリョレシナさんは、ともかく努力の塊の様に見えましたね。負けず嫌い。さっきこの飾りのことを私言いましたでしょ?」
「はい」
「彼女それをルーシュの茶会で見るが早いが、自分の夫君の商会を通してとりどりの色の流れる様な鮮やかな飾りを作って、それを披露したのよね」
「それはどのくらい間が開いてたんです?」
皇帝は太公主に訊ねる。
「私もそうそう呼ばれて行くという訳ではないから、代わりに行かせた女官から聞いた話よ」
「聞きたいです」
ラテは父の腕からすりぬけると、太公主の方にしっかり身体を向けた。
「結構大きいし、編み目が細かいでしょう? これ」
「はい」
「三日でこのくらいのものを作ってみせたわ」
「あー、ルーシュは毎日でも茶会をしたがる奴だったからなあ」
「その方は僕にとっては」
「姉さんだよ。お前には沢山の姉さんが居て、あちこちの家に嫁いでる。赤ん坊の頃には結構皆見に来たものだがなあ。まあお前が帝都で正式にお披露目される時には皆来るから、ちゃんとその時には顔と名を一致させるんだぞ。女はその辺り怖いぞ」
「カヤさん」
くす、と太公主は笑う。
「確かに女性は時々怖いわね。マドリョンカさんは、まずそこでその最初に作ったひとより自分のセンスの方がいい! っていうのを見せつけたの」
「そうなのか?」
「まあ、私にそれをしてくるひとは誰も居ないのがありがたいのだけど。ルーシュにもするひとは居なかったけど、そこにやってくる令嬢や夫人の中ではなかなか凄いものがあったみたいね」
「おおこわ」
ぶる、とカヤは震えた。
「貴方の娘が愛される性格だったというのは大きいわね。実際、何だかんだ言って求婚してくる殿方も多かったし」
「求婚?」
「結婚したい、って言ってくることさ」
「好きなひとに?」
「それはどうかな」
「カヤさん……」
太公主はやや心配そうな声で呼びかける。
「まあでも、何だかんだ言ってシーリャはそういう申し込みが来ないままに亡くなった。リャイは北の藩候のところに嫁いでなかなか楽しく暮らしているくらいだからいいんじゃないかな」
「鳥の公主」イースリャイは元々野歩きや狩りが好きな男勝りだった。そこを滅多に領地から出てこない北の藩候が逞しい、と皇帝に頼みこんだのだった。
「しばらく付き合ってみて、あいつがいいというならいい」
と非常に適当なことを言っていたことを太公主は覚えている。
だが実際、母親の出が辺境に近く、公主の中でも野性味溢れる彼女は、多少年齢が上だろうが、外見が熊だろうが、下手に帝都付近で面倒があったりするよりはその方がいい、とばかりにさっさと嫁いでいった。それ以来楽しそうな手紙だけで里帰りする気配が無いということは、住み心地が良いということだろう、と皇帝は思うことにしていた。
一方緑の公主は。
「そうそう。シーリャ様がお亡くなりになった時はちょうどあの方の妹君も似た様な流行病に耐えられなくて亡くなったんでしたわ」
緑の公主は自分の不調を上手く周囲に伝えることが難しかった。それだけに病が身体をむしばんでいたことを周囲が知った時にはもう手遅れだったのだ。
「その上、遠征で兄君も亡くされて。サヘ家はとうとうマドリョンカさんの姉君のシャンポニェさんが婿をもらって継ぐことになりましたものね」
「あの子達、たくさん親戚のひとが死んでしまったんだ……」
ラテは三兄弟が一緒に行動しているのを思い出していた。特に一番上の兄は、そんな身内の死をよく耳に目にしてきたことだろう。その上。
「まあお前はその点、母上は絶対に亡くなることはないから安心というか」
「カヤさん……」
太公主は苦笑する。だがそう言っている彼は、妻にした女達、かなりの人数を死なせてしまっているのだ。そしてそれはこの息子にも降りかかる運命なのだと―――
いつかは教えるのだろうか、と彼女は思う。
「いいお母様だったのかなあ、マドリョンカさんってひとは」
「そうだな…… どんな風に、その三人はお母さんのお産だ、って飛んで帰ったんだ?」
「うーん、何か、楽しみって感じで」
「だったらい母上だったんだと思うよ、俺は」
「そうなの?」
「ああ」
マドリョンカが女の子をひたすら欲しがっていたのは事実だった。それは皇后から聞いていた。
だがそれだからと言って他の子にかまけなかったという訳ではないだろう、とカヤは想像していた。もし女の子だけが欲しかったならば、息子達に常々「何故女の子じゃなかったんだ」とか恨み言を言っていてもおかしくはない。
だが楽しそうに少年達は慌てていた言うならば。
「ちゃんと人の心を持ってたひとだと思うさ」
「じゃあ僕もエガナと一緒に暮らしているのが楽しいのは、別におかしいことじゃないんだね!」
「楽しいか楽しくないかは、お前の感じることだ。誰かがおかしいとか決めることじゃない。誰かに言われたのか?」
「ううん、学問所でも親戚に引き取られた子とか居るから」
そうか、と皇帝カヤはまたくしゃくしゃと息子の頭をかき回した。
「亡くなったお前の母上の姉さんって人は、そうだな、確かに綺麗な人だったな。だけどまあ俺の趣味じゃない」
「カヤさんたら」
太公主は呆れた様に言葉を流した。
「マドリョンカ―――マドリョレシナさんは、ともかく努力の塊の様に見えましたね。負けず嫌い。さっきこの飾りのことを私言いましたでしょ?」
「はい」
「彼女それをルーシュの茶会で見るが早いが、自分の夫君の商会を通してとりどりの色の流れる様な鮮やかな飾りを作って、それを披露したのよね」
「それはどのくらい間が開いてたんです?」
皇帝は太公主に訊ねる。
「私もそうそう呼ばれて行くという訳ではないから、代わりに行かせた女官から聞いた話よ」
「聞きたいです」
ラテは父の腕からすりぬけると、太公主の方にしっかり身体を向けた。
「結構大きいし、編み目が細かいでしょう? これ」
「はい」
「三日でこのくらいのものを作ってみせたわ」
「あー、ルーシュは毎日でも茶会をしたがる奴だったからなあ」
「その方は僕にとっては」
「姉さんだよ。お前には沢山の姉さんが居て、あちこちの家に嫁いでる。赤ん坊の頃には結構皆見に来たものだがなあ。まあお前が帝都で正式にお披露目される時には皆来るから、ちゃんとその時には顔と名を一致させるんだぞ。女はその辺り怖いぞ」
「カヤさん」
くす、と太公主は笑う。
「確かに女性は時々怖いわね。マドリョンカさんは、まずそこでその最初に作ったひとより自分のセンスの方がいい! っていうのを見せつけたの」
「そうなのか?」
「まあ、私にそれをしてくるひとは誰も居ないのがありがたいのだけど。ルーシュにもするひとは居なかったけど、そこにやってくる令嬢や夫人の中ではなかなか凄いものがあったみたいね」
「おおこわ」
ぶる、とカヤは震えた。
「貴方の娘が愛される性格だったというのは大きいわね。実際、何だかんだ言って求婚してくる殿方も多かったし」
「求婚?」
「結婚したい、って言ってくることさ」
「好きなひとに?」
「それはどうかな」
「カヤさん……」
太公主はやや心配そうな声で呼びかける。
「まあでも、何だかんだ言ってシーリャはそういう申し込みが来ないままに亡くなった。リャイは北の藩候のところに嫁いでなかなか楽しく暮らしているくらいだからいいんじゃないかな」
「鳥の公主」イースリャイは元々野歩きや狩りが好きな男勝りだった。そこを滅多に領地から出てこない北の藩候が逞しい、と皇帝に頼みこんだのだった。
「しばらく付き合ってみて、あいつがいいというならいい」
と非常に適当なことを言っていたことを太公主は覚えている。
だが実際、母親の出が辺境に近く、公主の中でも野性味溢れる彼女は、多少年齢が上だろうが、外見が熊だろうが、下手に帝都付近で面倒があったりするよりはその方がいい、とばかりにさっさと嫁いでいった。それ以来楽しそうな手紙だけで里帰りする気配が無いということは、住み心地が良いということだろう、と皇帝は思うことにしていた。
一方緑の公主は。
「そうそう。シーリャ様がお亡くなりになった時はちょうどあの方の妹君も似た様な流行病に耐えられなくて亡くなったんでしたわ」
緑の公主は自分の不調を上手く周囲に伝えることが難しかった。それだけに病が身体をむしばんでいたことを周囲が知った時にはもう手遅れだったのだ。
「その上、遠征で兄君も亡くされて。サヘ家はとうとうマドリョンカさんの姉君のシャンポニェさんが婿をもらって継ぐことになりましたものね」
「あの子達、たくさん親戚のひとが死んでしまったんだ……」
ラテは三兄弟が一緒に行動しているのを思い出していた。特に一番上の兄は、そんな身内の死をよく耳に目にしてきたことだろう。その上。
「まあお前はその点、母上は絶対に亡くなることはないから安心というか」
「カヤさん……」
太公主は苦笑する。だがそう言っている彼は、妻にした女達、かなりの人数を死なせてしまっているのだ。そしてそれはこの息子にも降りかかる運命なのだと―――
いつかは教えるのだろうか、と彼女は思う。
「いいお母様だったのかなあ、マドリョンカさんってひとは」
「そうだな…… どんな風に、その三人はお母さんのお産だ、って飛んで帰ったんだ?」
「うーん、何か、楽しみって感じで」
「だったらい母上だったんだと思うよ、俺は」
「そうなの?」
「ああ」
マドリョンカが女の子をひたすら欲しがっていたのは事実だった。それは皇后から聞いていた。
だがそれだからと言って他の子にかまけなかったという訳ではないだろう、とカヤは想像していた。もし女の子だけが欲しかったならば、息子達に常々「何故女の子じゃなかったんだ」とか恨み言を言っていてもおかしくはない。
だが楽しそうに少年達は慌てていた言うならば。
「ちゃんと人の心を持ってたひとだと思うさ」
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