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14 食事の問題から来る男爵への疑問

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 そんなことを考えつつ報告した手紙をアリサに送ったら、アリサはアリサで、男爵がドロイデを雇ったのはドイツ系の料理ができるから、ということを書いてきた。

「そんなに違います?」

 私は弁護士の二人に聞いてみた。

「うん、違うねえ」
「何というか、向こうの料理の方が濃いというか」
「マルティーヌが作るフランス風の料理とも」
「と言うよりミュゼットさん、君あまり我が国の料理って知らないんじゃないか? 妙な話だけど」
「うーん」

 男爵家に引き取られるまでは普通にこの国の料理を食べていたと思うけど。

「美味しいものの方に、頭って塗り替えられてしまうのかしら」
「それはある」

 キャビンさんはぴっ、と指を立てた。

「これな、他の国にあちこち行く学校時代の友達が皆言うんだよ。腹に貯めるものを食うには食い慣れたものがいいけど、美味しいものを食べたい! と思った時には、他国の料理の方がいいって」
「ああ、それは私の友達も言っていたねえ」

 オラルフさんも言う。

「特に地中海周りとかでしばらく仕事してきた連中とか、向こうの濃い味が癖になると言っていたな。同じ様な料理が食いたいけど、残念ながら材料や香辛料が無いとか」
「インドに行ってた奴もそうだったよな。向こうではもの凄く複雑な味の、スパイスを調合したスープがあるんだけど、こっちに帰ると何というか、味気ないと」
「あ、そう言えばスコーンの話の時に思いました。ドロイデはスコーンの様な味の無いものを作るのはあまり好きじゃない、やっぱり砂糖やチョコレートや洋酒をたっぷり使ったケーキが作りたいし、ここだとそれができる、って」
「ドイツというか、ややオーストリア的だな。紅茶よりコーヒーの似合いそうなお茶の時間だね」
「私もそのケーキを小さな頃は出してもらって、もの凄い甘みにびっくりしました。でもそれってあの男爵家くらいだったんですね」
「そうだね。男爵家というか、ドイツから移住してきた新興実業家とかだったらそういう料理でないと耐えられないだろうな」
「と言うか、大概の外国人はそうだろうな」

 ははははは、と彼等は笑った。
 耐えられない、か。

「じゃあ何で、男爵家ではそういうコックをわざわざ募集したんでしょう。ドロイデは自分はそもそもは貴族の家でコックができる様な立場じゃない、たまたま料理はできるから応募したらお眼鏡に叶った、らしいんですよ」
「そうだね、二つ考えられる」
「二つ」
「ハイロール男爵はインドとかジャヴァとかそっちで結構な時間を育った訳だが、そこではドイツ系の食事をよく出してもらった」
「……ちょっとそれは苦しいですね」
「だとしたら、そもそも出身がドイツ系か、だな」
「え、それって」
「うん。今のハイロール男爵自体がドイツ系の出身だと」
「いやそれは無いでしょう」
「何で? だって、彼の素性はルルカ男爵夫人もがんばって調べたけど判らなかったと言ったんだろう? だとしたら、怪しい部分はある」
「いや、でもそれはちょっと突拍子もない」
「うん。だからあくまで可能性」

 そうやってキャビンさんににっこりと笑られると、こちらも対応に困るというものだ。
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