反帝国組織MM⑨ジュ・トゥ・ヴ~本当に彼を求めているのは誰なのか何なのか

江戸川ばた散歩

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22.内調局員、自分達のリーダーの悪趣味にため息をつく

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「ごめんください」

と聞こえた。少なくとも、Gの耳には。
 門がどうも今度は自動には開かないので、どうしたものか、と彼が思案していたら、この長い髪の、無口な六弦弾きは、あちこち触れていたと思うと、植物を象った、曲線を描く金属の部分が取り付けられている石造りの柱へ近づき、突然ぼそっとそう言った。
 さすがに彼は気抜けした。そして更に気抜けすることには、その言葉に呼応したように、門は…… 開いたのだ。
 時々こういう気抜けを起こさせる人物というものは居るものである。例えばあの海賊放送のよく口の回るパーソナリティ。免疫はついてきていたはずだが、さすがに目の前でやられると、彼は思わず眉間にシワを寄せてしまう。

「開いたね」

 するとあっさりと当たり前のことのようにオリイは言う。

「……そうだね」

 そして彼はそう答えるしかなかった。
 開いた門の向こうには、「宮殿」とか「城」というにふさわしい、大きな館があった。
 決して小さくはない幾つかの棟が、渡り廊下をつけてつながれている。一つ一つの館は決して背は高くない。平屋建てと言って間違いない。ただ、一階建ての一階としては、ひどくその天井は高い。常識で言う二階分は充分ある。
 そして面積的にも、ひどく大きく、屋根の瓦も豪勢なものではあるし、あちこちに植えられている木々は手入れがされ、時には形をもきっちりと直されているようなものもある。
 渡り廊下に使われている木材も……そう、基本的にこの一つ一つの館の主素材はどう見ても、木材なのだ…… 遠目に見ても、磨き込まれたものである。
 ある意味、ひどく非合理的な建築にも見えなくはない。何せ、あちこちが開け放たれているような作りなのだ。窓と呼べるような窓がきちんとある訳でもない。
 だが、気温が調節させている所で、しかもたった一人の主人のために設計されたものなら、これはこれで合理的なのかもしれない。これだけあけすけならば、賊の存在もすぐに判るだろう。隠れ場所が見付けにくそうだった。
 ざく、と足を踏み出すと音がした。細かい玉砂利が、一面に敷き詰められ、足の動きをやや鈍くする。ざくざくと音をさせながら、二人はそのまま、館の本当の玄関らしい所まで歩みを進めて行った。
 そう言えば、とGは思う。隣を歩いている六弦弾きは、実に足取りは軽かった。戸惑う様子も無い。だがその目は、絶えずあちこちを見回していた。
 ふとその視線が一瞬自分の方に向く。その時彼は、何処かで感じたような感覚が背中に走るのを感じたが、それが何なのか、どうしても思い出せなかった。

「……サンドリヨン」

 不意にオリイが口を開いた。何、と彼は問い返したが、その聞き慣れない発音に、彼はそれを名付けた少女の口調を一瞬思い出した。

「この街で、誰かと寝た?」

 そして質問は唐突である。唐突すぎて、一瞬何を言われたのか、頭はなかなか判断しなかったので、同じ質問を彼はもう一度聞くはめになってしまった。

「……そりゃやっただろ…… ステージの上ってのもあったし……」
「それではなく、もっと別の」
「あるさ。あっちゃ悪いか?」
「別に悪いなんて、言ってない」
「じゃ、別にいいだろ」

 今は、その話題を口にして欲しくはなかったのだ。
 だがオリイはそんな彼の内心など全く気付かぬように、同じ口調で淡々と言葉を次いだ。

「ただ、俺には感じ取れなくなったから、何故かなあ、と」

 ?

「サンドリヨンの中に残る、彼の、を」

 誰の何だって?
 彼は思わず、目を丸くしていた。



「……俺な、ほんっとうに時々思うんだけど」

 小型の都市車の助手席に乗り込みながらシェ・スーは、運転席のジョーにため息混じりで言った。

「何」

 ジョーは同僚に向かって問い返す。既に前方には、内調の、彼等のチームのリーダーが、隣にニイ、そして後部座席の窓からは、長い栗色の髪が見えている。

「悪趣味だよなあ……」
「何、リーダーの悪趣味は始まったことじゃないでしょ」

 ジョーは車を発進させながら、当然のことのように答える。そして何を今更、と言いたげな調子でちら、と同僚の方を見た。
 するとシェ・スーは顔を露骨に歪めながら首を大きく振った。

「いんや、リーダーの悪趣味は俺もよぉく知ってる。俺が言ってるのは、オリイの方だ」
「んー? そうかなあ?」

 答えながらも、ジョーはなめらかな運転をしていく。カーブに差し掛かる時も、それは非常に穏やかだった。……そしてその一方、シェ・スーの視界に入る前方の車は、実に心臓に悪い運転をしていた。
 状況は判っている筈なのだから、そうそう焦ることもないだろうに、とシェ・スーは思う。何せリーダーの目は、さっきからずっと、平行して向こう側をも見ているのだから。

「リーダーはオリイとつながってるんだろ? 詳しいこた俺はどうだっていいけどよ」
「らしいね」
「だけどそれは、オリイがリーダーを選んだってことだろ?」
「そういうことになるけどさ」

 前方の車が、いきなり左に曲がる。おおっと、と声を立てつつ、目を開けつつも、ジョーは鮮やかにハンドルを操った。ととととと、とシェ・スーはバランスを崩したらしく、何やら腰砕けの体勢になっている。

「おいシェ・スー…… 大丈夫か?」
「……だ、大丈夫…… ったく奴らっ!!」
「俺が安全運転に勉めてもそういうのを全て破壊するからなあ…… あのひとは」
「だろ? 何を好きこのんでオリイは……」
「そりゃまあ、好きこのんでいるんでしょ」

 意外にもあっさりとジョーは言った。

「所詮俺達だって、あのリーダーの元で結構長く働いている訳だし」
「……よせよせよせよせ」

 シェ・スーは身震いする。

「そらなあ、リーダーは確かにうちの局員としちゃあ実に立派よ。内調は何ったって、この広い帝国内でさ、隠密裡に動く集団の中じゃ、一番節操無しって言われてるんだし、そういうとこは実にあの人は合ってるよ」
「類友だろ?」

 シェ・スーは憮然とする。まあ間違ってはいないのだ。

「そういうのは、今頃言うことじゃないだろ? シェ・スー、何か聞いたのかよ? リーダーとオリイのことでさ」

 うー、とシェ・スーはうめく。

「どーせお前、そこまで言いかけたんだから、言いなさいって。言いたいんでしょ? そこまで言うってことは」
「……へいへい」

 全くまあ、とシェ・スーはため息をつく。しばらくは直線の道だ。いきなり中断させられることもないだろう。

「……ほら今回の仕事は、リーダーが何かいきなりお出かけした後に来たろ?」
「あ? うん。そーいやそうだったね」
「お出かけ先を言わないのはいつものことだからいいけどさ……結構今度は曖昧だったじゃねえの。行き先が」
「……そーだったなあ」
「お前覚えてないの? で、オリイに行き場所決めさせたろ?」
「まあそーだったね。オリイはそういうの、感じ取る力はあるし。何だっけ、お前よく言うじゃん。種族的能力がどーとか」
「言ったよ」
「別に、何処に問題があるのさ。ターゲットをオリイがその能力で捕捉して、俺達はそれを追う。間違ってないじゃん。セオリイからは」
「……ジョーお前さあ、オリイが何に反応して、ターゲットを今回捕捉したか、知ってる?」

 いや、とジョーは首を横に振った。

「……すぺるまだよ」

 え、と一瞬ハンドルを持つジョーの手は凍りついた。
 だがさすがに内調局員をやっているだけある。ジョーはほんの数秒自失しただけで、すぐに視線を前にやり、現状を再認識し、安全を確認した。

「……ほらお前も凍った」
「……シェ・スー……」
「……さすがにそういうのを聞いてしまうような偶然に出くわすって、嫌だよなあ……それで居て俺、何っかそういうのに出くわす確率高い自分が時々いやになるよなあ」
「……全くだよなあ……」

 そしてしばらく、車内は実に気詰まりな空気が流れた。確かに、聞かなくてすむことなら聞かないほうが良かっただろうし…… 聞いてしまったら、言ってその憂鬱を人に半分渡してしまいたい、この同僚の気持ちはジョーにも非常に良く理解できた。

「……ガッコの時の生物学の時間に習ったろ? 一つの個体に他の奴のが入ってくると、すぺるまってのは、互いに殺し合う性質があるだろ。だからそういうのが起こる前に捕捉して、肉眼で捕らえられる範囲に接近しろ。それが今回の、リーダーがオリイに言った命令」

 はあ、とジョーはつぶれたため息を漏らした。

「……けどリーダーってオリイとそういう仲じゃなかったっけ?」
「……だから悪趣味だって言ってるじゃねーか」
「……全くだ」

 任務は任務だ。よぉく彼等も判っている。だが。
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