反帝国組織MM⑨ジュ・トゥ・ヴ~本当に彼を求めているのは誰なのか何なのか

江戸川ばた散歩

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30.「君が、本物のエビータなんだな」

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「やっぱりあなたが居た」

と彼は右斜め前に立つ女性に向かって言った。ペリドットの瞳が、楽しそうな輝きを帯びる。

「気付いていたのか? サンド君。いや、MMのG君と呼ぼうか?」

 先刻の白い服をつけたまま、ストロベリィブロンドが、彼の方を向く拍子に微かに揺れる。身体の線などまるでその服の上からでは判らないのに、そらした胸は、奇妙にその中の肉体を強調した。
 ライトの当たらないその部屋は、どちらかというと薄暗かった。ライトの当たっている場所を際だたせよう、という狙いだろうか。だとしたらかなり悪趣味だ、とGは思う。

「最初から判っていましたか? キャサリン」
「そうではない。君があの方の目に止まったから、調べさせた。私はその意志に従っているだけだ」

 そしてキャサリンはくっ、と顎を上げる。

「あなたの会いたがっていた方が、ここに居るのよ」

 そして左斜め前から、少女の声がした。見なくても彼には判った。エルディだった。そして正面には。

「それにしても」

 アメジストの瞳が、彼を真っ直ぐ見つめる。

「ここまで来れたのはあなたが初めてよね」

 正面には、クローバアが椅子に座り、腕と脚を組んでいた。

「だけどあなたを呼んだ覚えはないけれど? 内調局員オリイ君?」
「呼ばれはしませんが俺は用がありました」

 ふふ、とオリイの端的な返答にクローバアは口元を緩める。

「どんな用?」
「本物の、エビータの正体を。ひた隠しにしているから」
「なるほど、内調はそういう所に興味を持つのか」

 くっ、とキャサリンは笑いながら肩をすくめる。

「我々の任務は正確な情報とその管理」
「確かにな」
「で、君は何なの? G君。あなたの望みは何?」
「……」

 Gは黙り込む。何かが彼の中で、引っかかっていた。だがそれが何なのか、どうも彼自身、具体的な答えが出ない。そしてそれが出ない限り、この本物のエビータである筈の彼女には何も言えないような気がする。

 ……何だったろう……

 彼は記憶をひっくり返す。この三人に会って以来の記憶を、急速なスピードで、再生し始めた。
 はっ、とその時、オリイがびく、と肩を震わせた。横目にそれに気付いた彼は、気配を尖らせる。何かが居る。
 そして次の瞬間、かすみ草が、飛び散った。ぱん、と音を立てて、壁一面に張り巡らせてある花瓶の一つが、粉々に砕けたのだ。白い壁紙に染みが広がった。

「何ごと!」

 そう叫んだのは、クローバアだった。すっくとその場に立ち、歌姫の、よく通る声で叫んだ。オリイはその髪の一部を重力に逆らわせていた。何かが、近くに居る。銃を手にした者が。
 だが彼の視線は、そこには無かった。そして。

「なるほど」

と彼はつぶやいた。
 彼の目前では、キャサリンの白い服が一杯に広がって、エルディを腕の中に抱き込んでいた。……椅子から立ち上がるクローバアには見向きもせずに!

「君が、本物のエビータなんだな、エルディ」

 オリイの髪がゆっくりと降りて行く。そこには危険は無い、と察知したかのように。そしてクローバアは、しまった、という表情でGの方を向いた。

「……かまをかけたわね、G君」
「いや、俺は何もしていない。今のが何なのか、俺は知らない。だけど、これで判った。本当のエビータには、まだ後宮は必要なかったんだな」

 Gは視線を落とす。ゆっくりと、エルディは……本物の「エビータ」は、彼女の「姉」のキャサリンの腕をするりとぬける。
 実際、彼は今の銃声には、心当たりが無かった。タイミングが良すぎるとは思ったが、オリイの警戒の仕方から言って、内調の誰かでもありえないだろう。
 では誰が。

「そうよ」

 抜けだしたエルディは、すっと彼の前に立ち、その顔を見上げる。そういえば、と彼は思う。この少女を真っ向から見たことはなかったのだ。

「薬を、使っていなかったのも、そのせいだね」
「使われてたまるか」

 キャサリンはぱん、と服についたほこりを払いながら吐き出す様に言う。そんな「姉」に向かってクローバアは肩に手をかける。

「その時おかしい、とあなたは思っていた? あんな状態なら、はじめから薬を使っていれば、普通の少女ならそうしただろうけど」
「あれは、僕を舞台に引っ張り上げるための算段でしたか?」
「本当に、舞台に上がってくれるとまでは思わなかったわ」

 少女は、頬を赤く染めた。その時の様子を思い出しているのだろうか。

「大抵は、そこまでせずとも金でかたをつける、とかもう少し器用な方法を用いるもんだ。君くらいなもんだ。わざわざ舞台に昇るなぞ。だがデモンストレーションとしては、確かに効果があったな」
「放っておいてくれ」

 彼は吐き出す様に言う。多少以上の自己嫌悪と、それを楽しむ自分が両方その場に居たのだ。そしてそんな自分に関しては、やっぱり好きではないのだ。
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