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本とかの感想
よしなが大奥と吉屋信子の「徳川の夫人たち」の違い/前提
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よしなが大奥のまず前提。
赤面疱瘡と男女比の極端化。
この時点で面白いことに、吉屋信子がおそらくは夢見ていたのではないかという「男がいなくて女がきりもりする世界」を赤面疱瘡という要因一つで作ってしまった。
この「夢見ていたかも」というのは、竹田志保氏の「吉屋信子研究」の「女の教室」で出てくるんだな。「(戦えるような)男達が戦争に出ていった後女達が国を回していく」社会を望んでいたのではないか、という推測。
https://glim-re.repo.nii.ac.jp/?action=repository_uri&item_id=3387&file_id=22&file_no=1
おおもとの論文はこっちでも読めるざんす。
これはもの凄く共感した。ついでに言うなら本名のワタシも参考文献の一つにされてありがとうありがとうなんだが(笑)。
この論文の中の(7)がつまりはよしなが大奥の舞台につながるんだよな。男が種馬以外の役割を持たなくなる社会。大事にされるけどそれ以上ではないという。
そんで面白いことに、その前提のために、三代将軍の話と並行して農村の話も出てくるんだよな。農家の姉と弟と妹だけど、姉は髪を下ろしたまま。
髪を下ろした姉が好きな男との子供も作らずただひたすら生きるために今まで男のしてきたことを考えついたり口にしたり行動してきたけど、長い髪を下ろしたまま早死に。一方で髪を結い上げた妹は子供を沢山作って生き続ける、と遺骸に向かって言うんだよな。これが世代差。
そんでよしながふみはここで「全てのことを女がするようになった」一方で「逆に女の負担が重くなった」ことを示しているんだよな。ここが面白い。
吉屋信子は女が社会を回せば~と夢見ていたかもしれないが、現実にそうなったら、負担も全てのしかかってくるということが頭にない。
ついでに言うと、都合の良い男は残しておくのが吉屋信子の銃後の世界なんだよな。女の味方だったり身体や精神が弱かったり。
よしながふみはそこんとこは容赦無い。男は種馬として大事にされて何もしなくていい存在にされていくんだよな。これは善し悪し。それで不幸になる男も居れば、楽だった、思う男もいると。
それが男だけでなく女の悲劇にもつながっていくんだけど。
という前提なんだけど。
そこで三代。
家光とお万の方、という組み合わせは吉屋信子の踏襲。
ちなみに吉屋信子が彼女をヒロインにした理由としては「尼君出身の清純なひと」「結局子供ができない」というのもあったと思う。
「徳川」の中では、彼女は最終的にはおしとね滑りを口実に、セックスから逃げるんだよな。自分の子飼いを出しても。
そこんとこに矛盾がねえか? なんだが、吉屋信子の中では確実に「上等」「下等」の女という区別があったと思われるし、初期も初期では処女童貞礼賛主義精神主義万歳だったことを考えれば、後の桂昌院とかは彼女の中では後者だったんだと思うざんすよ。
んで、吉屋信子は当初全部の将軍ので書こうと思ったけど、お万の方に惚れ込みすぎて彼女の話だけで正編、残りで続編にしてしまったくらいで。
実際彼女の大好きなヒロイン性質そのもんなんだよな。美しく賢く性的には潔癖の度合いが強いという。
ただ珍しく彼女つきの藤尾(考えてみれは夏目漱石に嫌われまくった「虞美人草」のヒロインの名でもあるよな)さんから「完璧過ぎて寂しかった」と言われる。んで言われてはっとするという。藤尾さんは「明日からはそなたに気を許すから……」とお万の方に思われた(言われてない)翌日に亡くなってしまうんだよな。脳卒中でとーとつに。
んで、主従関係について吉屋信子が細かく書いたのはこの話と、史実的に主従がクローズアップされている6~7代の月光院と江島くらいなんだよな。
藤尾さんはお万の方に仕えてきた彼女は自分の給金を回しても美しく装わせたりしてるくらいの心酔具合。彼女としては将軍の側室になることでこれだけ苦しむお万の方のことは理解できない普通のひと、という役割。
お万の方からすれば自分の悩みは「そなたに言ったところで」と信頼はしているけど無意識に見下している相手なんだよな。だからなのか、どうにもこの自分の直接の従者の気持ちのことを考えたことが無いらしいんだな。心を開いてくれなくて寂しかったと最後の方で言われてがん! とくるという。
吉屋信子のヒロインとしては珍しく「反省する」んだけど、ぎりぎりのラインだな。
そもそももう作者自体晩年で、このタイプのキャラは次の「女人平家」の二番目のヒロイン佑子なんだけど、彼女は結婚させられて後はヒロインの座を妹に渡してしまっているし。反省もへったくれもない。
一方でよしなが大奥は将軍とその相手のことと並行して主従関係もメインに入ってる。
まあこれはよしながふみの昔っからのシュミではあるんだろうけど。ほらフランス貴族ものとかベルばらとか銀英伝とか! オスカルとアンドレとか、ヤンさんとシェーンコップとか、ラインハルトとキルヒアイスとか大好きな方だから!
まあでもシンプルな比較としては吉屋信子には「殆ど無い」が、よしながふみは「大好き」ということで。
赤面疱瘡と男女比の極端化。
この時点で面白いことに、吉屋信子がおそらくは夢見ていたのではないかという「男がいなくて女がきりもりする世界」を赤面疱瘡という要因一つで作ってしまった。
この「夢見ていたかも」というのは、竹田志保氏の「吉屋信子研究」の「女の教室」で出てくるんだな。「(戦えるような)男達が戦争に出ていった後女達が国を回していく」社会を望んでいたのではないか、という推測。
https://glim-re.repo.nii.ac.jp/?action=repository_uri&item_id=3387&file_id=22&file_no=1
おおもとの論文はこっちでも読めるざんす。
これはもの凄く共感した。ついでに言うなら本名のワタシも参考文献の一つにされてありがとうありがとうなんだが(笑)。
この論文の中の(7)がつまりはよしなが大奥の舞台につながるんだよな。男が種馬以外の役割を持たなくなる社会。大事にされるけどそれ以上ではないという。
そんで面白いことに、その前提のために、三代将軍の話と並行して農村の話も出てくるんだよな。農家の姉と弟と妹だけど、姉は髪を下ろしたまま。
髪を下ろした姉が好きな男との子供も作らずただひたすら生きるために今まで男のしてきたことを考えついたり口にしたり行動してきたけど、長い髪を下ろしたまま早死に。一方で髪を結い上げた妹は子供を沢山作って生き続ける、と遺骸に向かって言うんだよな。これが世代差。
そんでよしながふみはここで「全てのことを女がするようになった」一方で「逆に女の負担が重くなった」ことを示しているんだよな。ここが面白い。
吉屋信子は女が社会を回せば~と夢見ていたかもしれないが、現実にそうなったら、負担も全てのしかかってくるということが頭にない。
ついでに言うと、都合の良い男は残しておくのが吉屋信子の銃後の世界なんだよな。女の味方だったり身体や精神が弱かったり。
よしながふみはそこんとこは容赦無い。男は種馬として大事にされて何もしなくていい存在にされていくんだよな。これは善し悪し。それで不幸になる男も居れば、楽だった、思う男もいると。
それが男だけでなく女の悲劇にもつながっていくんだけど。
という前提なんだけど。
そこで三代。
家光とお万の方、という組み合わせは吉屋信子の踏襲。
ちなみに吉屋信子が彼女をヒロインにした理由としては「尼君出身の清純なひと」「結局子供ができない」というのもあったと思う。
「徳川」の中では、彼女は最終的にはおしとね滑りを口実に、セックスから逃げるんだよな。自分の子飼いを出しても。
そこんとこに矛盾がねえか? なんだが、吉屋信子の中では確実に「上等」「下等」の女という区別があったと思われるし、初期も初期では処女童貞礼賛主義精神主義万歳だったことを考えれば、後の桂昌院とかは彼女の中では後者だったんだと思うざんすよ。
んで、吉屋信子は当初全部の将軍ので書こうと思ったけど、お万の方に惚れ込みすぎて彼女の話だけで正編、残りで続編にしてしまったくらいで。
実際彼女の大好きなヒロイン性質そのもんなんだよな。美しく賢く性的には潔癖の度合いが強いという。
ただ珍しく彼女つきの藤尾(考えてみれは夏目漱石に嫌われまくった「虞美人草」のヒロインの名でもあるよな)さんから「完璧過ぎて寂しかった」と言われる。んで言われてはっとするという。藤尾さんは「明日からはそなたに気を許すから……」とお万の方に思われた(言われてない)翌日に亡くなってしまうんだよな。脳卒中でとーとつに。
んで、主従関係について吉屋信子が細かく書いたのはこの話と、史実的に主従がクローズアップされている6~7代の月光院と江島くらいなんだよな。
藤尾さんはお万の方に仕えてきた彼女は自分の給金を回しても美しく装わせたりしてるくらいの心酔具合。彼女としては将軍の側室になることでこれだけ苦しむお万の方のことは理解できない普通のひと、という役割。
お万の方からすれば自分の悩みは「そなたに言ったところで」と信頼はしているけど無意識に見下している相手なんだよな。だからなのか、どうにもこの自分の直接の従者の気持ちのことを考えたことが無いらしいんだな。心を開いてくれなくて寂しかったと最後の方で言われてがん! とくるという。
吉屋信子のヒロインとしては珍しく「反省する」んだけど、ぎりぎりのラインだな。
そもそももう作者自体晩年で、このタイプのキャラは次の「女人平家」の二番目のヒロイン佑子なんだけど、彼女は結婚させられて後はヒロインの座を妹に渡してしまっているし。反省もへったくれもない。
一方でよしなが大奥は将軍とその相手のことと並行して主従関係もメインに入ってる。
まあこれはよしながふみの昔っからのシュミではあるんだろうけど。ほらフランス貴族ものとかベルばらとか銀英伝とか! オスカルとアンドレとか、ヤンさんとシェーンコップとか、ラインハルトとキルヒアイスとか大好きな方だから!
まあでもシンプルな比較としては吉屋信子には「殆ど無い」が、よしながふみは「大好き」ということで。
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