未来史シリーズ③銀の歌姫~忘れられた惑星に落ちた二人

江戸川ばた散歩

文字の大きさ
3 / 31

第3話 一体この細腕が、どうやって俺を殺すというのだ?

しおりを挟む
「べぇつに、珍しいんなら珍しいって言えばいいじゃない。黙ってられるほうが気色悪い」

 俺はふと眉をひそめた。綺麗な外見の割に、口が悪い。

「で? また俺をどっかにこのまま連れてくつもりかよ?」
「連れてく?」

 ああ、と奴はその俺の答えを聞いて、気付いたように何度かうなづいた。

「お前も、護送されたんだ」
「そうだが」
「へえ。じゃ俺と同じじゃん。何やったんだよ? 無差別殺戮《ジェノサイド》? それともスペースジャック? それとも」

 形の良い、髪と同じ色の眉をぴん、と上げ、奴はいきなり俺にぽんぽんと問いかけた。
 俺はその答えを遮るように、口を挟んだ。

「単に、敵さんに捕まっただけだ」
「敵さん、ね。ああお前、アルビシン同盟の奴なんだ」
「ああ」

 今度は逆に、俺の方が答えるのが億劫になってしまう。

「じゃお前、こないだのコウトルシュ星域の都市ゲリラに加わった奴の一人なんだ。何だとろいの。捕まったのかよ」
「悪かったな」

 俺はやや大人げないと思いつつ、言い返す。
 歌姫は真っ赤な耐寒服のポケットに手を突っ込みながら、初めてにっ、と笑った。

「もしもお前が、コウトルシュはコウトルシュでも、オゲハーンの軍の奴だったら、殺してやろうと思ってた」

 オゲハーン。それは俺の住んでいた星域の正規軍であり…… 敵方の軍の総司令官の名だった。俺はその名のついた軍と、丁々発止の戦争をこれまでやっていたのだ。そして一応俺達の軍勢は、オゲハーンの正規軍に対し、アルビシン同盟という名がついている。
 敵軍からは「敵」ではなく「テロリスト」呼ばわりしている。まあそんなものかな、と俺は考えている。どう大義を振りかざしたところで、破壊行為だ。
 だったらいっそのこと、レジスタンスとか同盟軍とかという自己正当化するような名よりは、そう呼ばれたほうが気楽というものだ。その腕が下手に良ければ良い程。
 で、あいにく、俺はその腕は良かったのだ。その瞬間まで。

 ただこいつの言う通り、どうもその時、俺は「とろかった」らしい。
 捕まった時、俺は対戦しているコウトルシュ星域の、ある都市に戦闘機で攻撃をしかけていた。
 普段なら、あっさりと爆撃目標に上手く攻撃をし、さっさと引き上げてきていたはずだ。とりあえず俺は、本意不本意はともかくとして、空戦隊の撃墜王の名はそれなりに背負っていた。そして彼女もそれを嬉しがったものだ。

 ところがその時は違った。

 いつもの目標のような、人が居ない、軍関係の無機物の建物ではなく、一般市民の住む都市だったのだ。判っているつもりだった。なのに俺はそれを見た瞬間、自分の中の何かが萎えてしまったのだ。
 無論、死にたくはないから、その萎えた気持ちでも、とにかく目の前に飛んでいる敵、真横を通り過ぎる銃弾、そういったものに対しては、容赦なく攻撃を加えた。
 だが、気持ちの下降線は、明らかに俺の判断能力や、一瞬の勘すら狂わせたらしい。
 俺は落とされ、そのまま敵軍の捕虜になった。

 まあさすがに「撃墜王」はなかなかそのままその場で殺すのは惜しいと思ったのだろう。とりあえずは本星へと護送されることになっていた。
 そのまま洗脳され、戻され、使われるという可能性を俺は考えていた。そのくらいのことは敵軍はするのだ。無論俺達もやっていた。
 ありふれたことだ。
 それでも、この「銀の歌姫」からその類の言葉があっさりと流れると、動揺する自分が居たらしい。

「物騒だな」
「当然だろ。やっと自由になったと思ったのにいきなり何だと思った」

 肩をすくめ、不遜な笑い。俺は苦笑する。
 一体この細腕が、どうやって俺を殺すというのだ?
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

航空自衛隊奮闘記

北条戦壱
SF
百年後の世界でロシアや中国が自衛隊に対して戦争を挑み,,, 第三次世界大戦勃発100年後の世界はどうなっているのだろうか ※本小説は仮想の話となっています

妻に不倫され間男にクビ宣告された俺、宝くじ10億円当たって防音タワマンでバ美肉VTuberデビューしたら人生爆逆転

小林一咲
ライト文芸
不倫妻に捨てられ、会社もクビ。 人生の底に落ちたアラフォー社畜・恩塚聖士は、偶然買った宝くじで“非課税10億円”を当ててしまう。 防音タワマン、最強機材、そしてバ美肉VTuber「姫宮みこと」として新たな人生が始まる。 どん底からの逆転劇は、やがて裏切った者たちの運命も巻き込んでいく――。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

リボーン&リライフ

廣瀬純七
SF
性別を変えて過去に戻って人生をやり直す男の話

処理中です...