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第15話 「まあブーイングったって、爆弾投げてくる訳でもないし」
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二人は三日間フリーパスを手に外へ出た。裏口、という奴がある筈なのだ。どこかに。時間がない。とにかく「裏」へ回ってみる。
「何処にも入り口なんてないじゃないーっ」
「地下だもんなーっ」
と、すると、一階の店舗の中にあるのか? 二人は一階から二階へ続く階段の方へ回った。防火扉があった。
「あやしい」
ナホコの言葉におお、と気合いの入った声をアナミも立てる。
「押してみるか」
「押してだめなら引いてみな、と……」
お、と二人の口から声がもれる。別の通路があった。そこから灯が少し見える。
「こっちじゃねぇ?」
二人は防火扉の向こうにあった階段を降り始める。半分くらい来たときだった。
「ちょっと待って下さい、取ってくるわ」
「暗いから気をつけてっマリコさん」
落ち着いた女性と、その後にアルトの声がして、暗い階段を上ってくる気配があった。
え!
そしてその女性の勢いは意外に激しかった。
「あ」
「あーっ!」
バランスを崩してマリコさんは前のめりに、二人はお尻からひっくり返ってしまう。
「どーしたのっ!」
聞き覚えのある青年の声がする。彼は手に大きめの懐中電灯を持ってきた。
「タイセイ君」
「あれ君達!」
「大丈夫ですか!」
一度にそれだけのコトバがフルヴォリュームで狭い階段室に響く。
「私は大丈夫よ…… 行ってくるわ」
「ごめんなさい!」
「いいから、何か」
用なの? とマリコさんに問われる前にナホコは慌てて下へ飛び降りた。
あと五段くらい階段はあったので、着地した瞬間、足がじーんとした。
「あれ、あんた」
顔を出したTEARが目を丸くする。
「TEARさん! 連鎖反応のファンが何か企んでるんです!」
「ほー…… 何を」
TEARは片眉を上げた。
「わかんないけれど、さっきトイレで円陣組んでて」
「噂が聞こえてきた?」
高くもなく低くもないハスキィヴォイスが耳に届く。あ、腰が抜ける。HISAKAの声だった。
「わざわざこの時間にやってくるなんて律儀なこと」
にこやかに涼しい顔をして、HISAKAは笑っている。
「あ、大丈夫?」
緊張が緩んで腰が抜けかかっていたナホコの腕をTEARは掴む。
「とにかくちょっとこっちおいで」
と空いている方の手でアナミをも手招きする。
*
「ブーイングねえ」
「でもそれだけじゃないと思いますっ」
第三部開演五分前。セッティングの最終チェックのために、いったん幕の降りたステージに出たHISAKAが戻ってくる。
ナホコもアナミも、初めて入るこの関係者用の部屋にくらくらしていた。まさかここまで引きずり込んでくれるとは思わなかった。
「とにかくありがとう。そういうことあると思ったけれど、これで確信が持てた」
にっこりとHISAKAはナホコに笑いかける。
フルメイクしたMAVOが彼女の後ろにいる。
立てまくりの髪に、アイラインと、顔立ちを強調したメイク。
ノースリーヴの黒い上着に、手首には黒い革のリストバンド。とがってはいないが鋲付きである。
それにやはり黒の革の指無し手袋。黒の短パンに黒のニーハイ、それに黒の短いブーツ。一歩間違ったら陳腐。
だがMAVOにはそれがよく似合っていた。そして正直言ってナホコは怖かった。
そのMAVOが言う。
「まあブーイングったって、爆弾投げてくる訳でもないし」
「おやめよMAVOちゃん、またそんなこと言うからこの子恐がってるぜっ」
そういってナホコの肩をぽんぽんと叩いてやるTEARも、前のバンドの時より更に派手になっていた。
野郎の中でプレイしていた時にはほとんどノーメイクだったが、実に濃いものになっていた。そしてもともと彫りが深くて印象的な大きな目がさらに強調されている。唇も赤く厚く。それなのに絶対に「色気」があるようには見えない。
「まあそれはそれでよし、と」
「どうするあなた達? 客席に戻る? もう始めるけど」
HISAKAが訊ねる。
「え」
「別にこっちで見ていてもいいわよ」
どうしようか、とナホコは一瞬ためらう。
「あたしは行きますんで。こっちから出てもいいですか?」
とアナミはドアを指す。そうだね、とタイセイがうなづく。
「ナホコどーするよ」
「え…… と」
「ふむ」
HISAKAはこの自分達のファンでもある子が離れ難くなっているのはすぐに判った。
「ナホコちゃん、だったよね」
「あ、はい!」
「じゃこれ終わったら、打ち上げに行くから」
HISAKAは近くにあったバックステージ・パスを一枚ナホコに放った。
「それ見せてHISAKAに呼ばれたって言えばいいわ。あたし達のステージを客席で見てちょうだい」
「……え」
「返事は!」
「はい!」
思わず直立不動の姿勢を取ってしまうナホコだった。
*
「気まぐれだねえ」
客電が消えた時、TEARはつぶやいた。
「そう?」
「いーけどさ」
「行くよ」
薄暗いステージに向かう。
「何処にも入り口なんてないじゃないーっ」
「地下だもんなーっ」
と、すると、一階の店舗の中にあるのか? 二人は一階から二階へ続く階段の方へ回った。防火扉があった。
「あやしい」
ナホコの言葉におお、と気合いの入った声をアナミも立てる。
「押してみるか」
「押してだめなら引いてみな、と……」
お、と二人の口から声がもれる。別の通路があった。そこから灯が少し見える。
「こっちじゃねぇ?」
二人は防火扉の向こうにあった階段を降り始める。半分くらい来たときだった。
「ちょっと待って下さい、取ってくるわ」
「暗いから気をつけてっマリコさん」
落ち着いた女性と、その後にアルトの声がして、暗い階段を上ってくる気配があった。
え!
そしてその女性の勢いは意外に激しかった。
「あ」
「あーっ!」
バランスを崩してマリコさんは前のめりに、二人はお尻からひっくり返ってしまう。
「どーしたのっ!」
聞き覚えのある青年の声がする。彼は手に大きめの懐中電灯を持ってきた。
「タイセイ君」
「あれ君達!」
「大丈夫ですか!」
一度にそれだけのコトバがフルヴォリュームで狭い階段室に響く。
「私は大丈夫よ…… 行ってくるわ」
「ごめんなさい!」
「いいから、何か」
用なの? とマリコさんに問われる前にナホコは慌てて下へ飛び降りた。
あと五段くらい階段はあったので、着地した瞬間、足がじーんとした。
「あれ、あんた」
顔を出したTEARが目を丸くする。
「TEARさん! 連鎖反応のファンが何か企んでるんです!」
「ほー…… 何を」
TEARは片眉を上げた。
「わかんないけれど、さっきトイレで円陣組んでて」
「噂が聞こえてきた?」
高くもなく低くもないハスキィヴォイスが耳に届く。あ、腰が抜ける。HISAKAの声だった。
「わざわざこの時間にやってくるなんて律儀なこと」
にこやかに涼しい顔をして、HISAKAは笑っている。
「あ、大丈夫?」
緊張が緩んで腰が抜けかかっていたナホコの腕をTEARは掴む。
「とにかくちょっとこっちおいで」
と空いている方の手でアナミをも手招きする。
*
「ブーイングねえ」
「でもそれだけじゃないと思いますっ」
第三部開演五分前。セッティングの最終チェックのために、いったん幕の降りたステージに出たHISAKAが戻ってくる。
ナホコもアナミも、初めて入るこの関係者用の部屋にくらくらしていた。まさかここまで引きずり込んでくれるとは思わなかった。
「とにかくありがとう。そういうことあると思ったけれど、これで確信が持てた」
にっこりとHISAKAはナホコに笑いかける。
フルメイクしたMAVOが彼女の後ろにいる。
立てまくりの髪に、アイラインと、顔立ちを強調したメイク。
ノースリーヴの黒い上着に、手首には黒い革のリストバンド。とがってはいないが鋲付きである。
それにやはり黒の革の指無し手袋。黒の短パンに黒のニーハイ、それに黒の短いブーツ。一歩間違ったら陳腐。
だがMAVOにはそれがよく似合っていた。そして正直言ってナホコは怖かった。
そのMAVOが言う。
「まあブーイングったって、爆弾投げてくる訳でもないし」
「おやめよMAVOちゃん、またそんなこと言うからこの子恐がってるぜっ」
そういってナホコの肩をぽんぽんと叩いてやるTEARも、前のバンドの時より更に派手になっていた。
野郎の中でプレイしていた時にはほとんどノーメイクだったが、実に濃いものになっていた。そしてもともと彫りが深くて印象的な大きな目がさらに強調されている。唇も赤く厚く。それなのに絶対に「色気」があるようには見えない。
「まあそれはそれでよし、と」
「どうするあなた達? 客席に戻る? もう始めるけど」
HISAKAが訊ねる。
「え」
「別にこっちで見ていてもいいわよ」
どうしようか、とナホコは一瞬ためらう。
「あたしは行きますんで。こっちから出てもいいですか?」
とアナミはドアを指す。そうだね、とタイセイがうなづく。
「ナホコどーするよ」
「え…… と」
「ふむ」
HISAKAはこの自分達のファンでもある子が離れ難くなっているのはすぐに判った。
「ナホコちゃん、だったよね」
「あ、はい!」
「じゃこれ終わったら、打ち上げに行くから」
HISAKAは近くにあったバックステージ・パスを一枚ナホコに放った。
「それ見せてHISAKAに呼ばれたって言えばいいわ。あたし達のステージを客席で見てちょうだい」
「……え」
「返事は!」
「はい!」
思わず直立不動の姿勢を取ってしまうナホコだった。
*
「気まぐれだねえ」
客電が消えた時、TEARはつぶやいた。
「そう?」
「いーけどさ」
「行くよ」
薄暗いステージに向かう。
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