20 / 125
第20話 異母きょうだいとの思い出
しおりを挟む
そういった性格は、そのまま得意分野の違いに現れた。
例えば同じ学ぶにしても、スティルは現代の経済学だったり政治学といった社会学系に興味を示し、シルベスタは歴史学や文化社会学といった人文学系のものが好きだった。
同じものが好きだったら、明らかに二人は競争者となったかもしれない。だがそうはならなかった。
したがって、高校のカリキュラムを選ぶ時点で、彼らの道は異なってしまった。
そんな進学が決まった休みのことである。どんどんと力いっぱい叩かれるドアの音でシルベスタは目を覚ました。
寝ぼけまなこでドアを開けるとスティルが居た。
「何だよ~こんな朝っぱらから……」
「何だよじゃねーよ。お前まだ寝てんのか?」
「いい気持ちだったのに……」
「いい天気だぜっ。こんないい日に目を覚まさん奴の気が知れん!」
そりゃそうだろう、とシルベスタは思った。
スティルは厳しいと有名な学校の花形スポーツであるフットボールのレギュラーでもあった。
無論そうなるための練習もかかさない。基本的に(好きなこと以外には)怠惰なシルベスタとは天と地程の差があった。
「へいへい…… で何の用……」
「いや、これなんだけどさ」
ん? と彼は目をむいた。
「俺の部屋にあったんだけど。何で俺の部屋にあったかわかんねーんだよなあ…… お前なら読むかなあと思って。俺の趣味じゃねえし」
スティルの手には十冊くらいの本があった。どれもずいぶんと重厚な装丁を施してある。
「へー、何の本? まあ入れや」
「おうっ」
彼らそれぞれの部屋は、普通の家族一つが楽々暮らせるくらいの広さがあった。シルベスタはその部屋の一つを自分の図書室にしている。
この家にも図書室はあるらしいが、まだその時点で彼は見つけてはいなかった。
「お前カシャルクス大へ行くんだって?」
「ああ。お前こそイグルセン入学許可出たってな、おめでとう」
カシャルクスは人文学系で伝統があるところであり、イグルセンはそこから政治家・会社経営者などを多く出しているところだった。
「よく親父さん許したよなあ」
スティルは短く刈った硬い黒い髪をぐしゃぐしゃとかき回す。
「そりゃな。ずっと前からこれだけはと頑固に言ってきたし」
「どうしてだろな」
「何が?」
「お前さ。そりゃ人それぞれとは言うけど――― 何でわざわざ人文? しかも歴史? 全然つぶしがきかねーじゃん」
「別につぶしがどうとか考えたことないからなあ。ただ好きだし。だいたい俺にはお前のや親父のように人当たりとか人渡りとか上手くねーし。俺にしてみりゃお前が歴史にロマンを感じない方が不思議」
「ロマン! そう言うか!」
スティルは聞くなり、げたげたげたと笑った。
「ロマンって言葉はなシルベスタ、お前には似合うけど俺には似合わねーよ」
「そおか?」
「そおだよ。俺は実に現実的な奴なんだ。判らないものは判らないなりに使うしかねえと思うし、そういうのが得意なんだ。どーにも訳判らんものってのは苛々してな」
「だろーな」
シルベスタはにっと笑った。
「ま、そういうのはお前に任せるさ。でもなシルベスタ、せっかくある特権なんだ。有効に使えよ」
「ああ。ま、でも俺基本的に貧乏性だし」
「ぬかせ!」
そしてそれから二人で部屋の中にあったものを要るもの要らないものと選び出し、交換しあった。
尤も「財団の御曹司」達という彼らの立場を考えてみれば、要らないものは捨てて、新しいものを揃えるくらい簡単にこの二人はできた筈である。
だがスティルもシルベスタもそういう人間ではなかった。
スティルは母親の慎ましい暮らしを見てきたし、シルベスタは自分の分以上のことをわざわざするのは面倒だ、と考える質だったのだ。
「で、その本? お前の部屋の何処にあったって?」
「あん? ああ。何か俺が来る前からあったみたいでな。前から戸が開かねえ開かねえって言ってた西側の奴」
「ああ、あれ」
「昨夜掃除してたら、いきなりぱこっと外れやがって。おかげでガラスが飛び散ってさあ大変」
「そりゃまあ」
自分の部屋は基本的に自分で掃除する「御曹司」達はうなづきあう。
「で、開いたらまあ。何やらひんやりした空気と一緒に本がどんと出てきた訳さ。ま、俺が興味がありそうな奴はとったけど」
「まあ確かにお前に興味のある部分じゃ、俺はどうだっていいしな」
「この家も結構古いしなあ。開かずの部屋の一つや二つあっても仕方ねえがな、開かずの本棚とはこれ如何に、だよな。お前んとこもそういうの、ない?」
「開かずの本棚ねえ………… 俺は本棚活用派だったから、開かずだったら絶対開けてたし。ああでも開かずのクローゼットはあったような気が」
「そりゃいい。もしかしたらとんでもねえ古着が出てくるかもしれねえぜ」
そして二人はシルベスタの部屋の「開かずのクローゼット」を開けにかかった。
興味がないから開けなかっただけなので、さびついた鍵を開け、多少どんどんと、長い年月の間に歪んだ扉を叩いたら、案外簡単に開いた。
「ありゃ」
それが開けた瞬間のシルベスタの一声だった。
「おいまた本かよ……」
確かにまた本があった。それも指の長さほどの厚みのある、大きな本が横積みになって十冊くらい入っていたのだ。
「だね。だけどずいぶん重そうな本だな」
「さっき俺が持ってきたのも重かったぜ? 作る奴も作る奴だよな」
スティルが自分の部屋に戻って行ってから、シルベスタは窓際に本を持っていき、ぱたぱたとほこりを払った。
確かに重かった。革作りで金線が入っている表紙は、ずいぶんと手間と金をかけたように思える。
ぱらぱらと繰って、スティルは自分の趣味じゃねえな、と感想を述べた。そしてシルベスタはこの本に見覚えがあった。
これは、あの時の本だ。
記憶の中で、テーブルに座った母親が、膝に乗せることもしなかった程重い本。陽だまりの中で、甘いコーヒー入りミルクを呑みながら、母親はその本を熱心に繰っていた。
帝国史の本だったのだ。それも、図書館ぐらいにしか行き渡らない類の。
全部のほこりをはらってから、シルベスタは小厨房へと邸内通信を入れた。そしてミルク入りコーヒーをポットに、と頼んだ。
さすがに小さい頃とは自分の見方が変わっていることに彼は気付いた。
例えば同じ学ぶにしても、スティルは現代の経済学だったり政治学といった社会学系に興味を示し、シルベスタは歴史学や文化社会学といった人文学系のものが好きだった。
同じものが好きだったら、明らかに二人は競争者となったかもしれない。だがそうはならなかった。
したがって、高校のカリキュラムを選ぶ時点で、彼らの道は異なってしまった。
そんな進学が決まった休みのことである。どんどんと力いっぱい叩かれるドアの音でシルベスタは目を覚ました。
寝ぼけまなこでドアを開けるとスティルが居た。
「何だよ~こんな朝っぱらから……」
「何だよじゃねーよ。お前まだ寝てんのか?」
「いい気持ちだったのに……」
「いい天気だぜっ。こんないい日に目を覚まさん奴の気が知れん!」
そりゃそうだろう、とシルベスタは思った。
スティルは厳しいと有名な学校の花形スポーツであるフットボールのレギュラーでもあった。
無論そうなるための練習もかかさない。基本的に(好きなこと以外には)怠惰なシルベスタとは天と地程の差があった。
「へいへい…… で何の用……」
「いや、これなんだけどさ」
ん? と彼は目をむいた。
「俺の部屋にあったんだけど。何で俺の部屋にあったかわかんねーんだよなあ…… お前なら読むかなあと思って。俺の趣味じゃねえし」
スティルの手には十冊くらいの本があった。どれもずいぶんと重厚な装丁を施してある。
「へー、何の本? まあ入れや」
「おうっ」
彼らそれぞれの部屋は、普通の家族一つが楽々暮らせるくらいの広さがあった。シルベスタはその部屋の一つを自分の図書室にしている。
この家にも図書室はあるらしいが、まだその時点で彼は見つけてはいなかった。
「お前カシャルクス大へ行くんだって?」
「ああ。お前こそイグルセン入学許可出たってな、おめでとう」
カシャルクスは人文学系で伝統があるところであり、イグルセンはそこから政治家・会社経営者などを多く出しているところだった。
「よく親父さん許したよなあ」
スティルは短く刈った硬い黒い髪をぐしゃぐしゃとかき回す。
「そりゃな。ずっと前からこれだけはと頑固に言ってきたし」
「どうしてだろな」
「何が?」
「お前さ。そりゃ人それぞれとは言うけど――― 何でわざわざ人文? しかも歴史? 全然つぶしがきかねーじゃん」
「別につぶしがどうとか考えたことないからなあ。ただ好きだし。だいたい俺にはお前のや親父のように人当たりとか人渡りとか上手くねーし。俺にしてみりゃお前が歴史にロマンを感じない方が不思議」
「ロマン! そう言うか!」
スティルは聞くなり、げたげたげたと笑った。
「ロマンって言葉はなシルベスタ、お前には似合うけど俺には似合わねーよ」
「そおか?」
「そおだよ。俺は実に現実的な奴なんだ。判らないものは判らないなりに使うしかねえと思うし、そういうのが得意なんだ。どーにも訳判らんものってのは苛々してな」
「だろーな」
シルベスタはにっと笑った。
「ま、そういうのはお前に任せるさ。でもなシルベスタ、せっかくある特権なんだ。有効に使えよ」
「ああ。ま、でも俺基本的に貧乏性だし」
「ぬかせ!」
そしてそれから二人で部屋の中にあったものを要るもの要らないものと選び出し、交換しあった。
尤も「財団の御曹司」達という彼らの立場を考えてみれば、要らないものは捨てて、新しいものを揃えるくらい簡単にこの二人はできた筈である。
だがスティルもシルベスタもそういう人間ではなかった。
スティルは母親の慎ましい暮らしを見てきたし、シルベスタは自分の分以上のことをわざわざするのは面倒だ、と考える質だったのだ。
「で、その本? お前の部屋の何処にあったって?」
「あん? ああ。何か俺が来る前からあったみたいでな。前から戸が開かねえ開かねえって言ってた西側の奴」
「ああ、あれ」
「昨夜掃除してたら、いきなりぱこっと外れやがって。おかげでガラスが飛び散ってさあ大変」
「そりゃまあ」
自分の部屋は基本的に自分で掃除する「御曹司」達はうなづきあう。
「で、開いたらまあ。何やらひんやりした空気と一緒に本がどんと出てきた訳さ。ま、俺が興味がありそうな奴はとったけど」
「まあ確かにお前に興味のある部分じゃ、俺はどうだっていいしな」
「この家も結構古いしなあ。開かずの部屋の一つや二つあっても仕方ねえがな、開かずの本棚とはこれ如何に、だよな。お前んとこもそういうの、ない?」
「開かずの本棚ねえ………… 俺は本棚活用派だったから、開かずだったら絶対開けてたし。ああでも開かずのクローゼットはあったような気が」
「そりゃいい。もしかしたらとんでもねえ古着が出てくるかもしれねえぜ」
そして二人はシルベスタの部屋の「開かずのクローゼット」を開けにかかった。
興味がないから開けなかっただけなので、さびついた鍵を開け、多少どんどんと、長い年月の間に歪んだ扉を叩いたら、案外簡単に開いた。
「ありゃ」
それが開けた瞬間のシルベスタの一声だった。
「おいまた本かよ……」
確かにまた本があった。それも指の長さほどの厚みのある、大きな本が横積みになって十冊くらい入っていたのだ。
「だね。だけどずいぶん重そうな本だな」
「さっき俺が持ってきたのも重かったぜ? 作る奴も作る奴だよな」
スティルが自分の部屋に戻って行ってから、シルベスタは窓際に本を持っていき、ぱたぱたとほこりを払った。
確かに重かった。革作りで金線が入っている表紙は、ずいぶんと手間と金をかけたように思える。
ぱらぱらと繰って、スティルは自分の趣味じゃねえな、と感想を述べた。そしてシルベスタはこの本に見覚えがあった。
これは、あの時の本だ。
記憶の中で、テーブルに座った母親が、膝に乗せることもしなかった程重い本。陽だまりの中で、甘いコーヒー入りミルクを呑みながら、母親はその本を熱心に繰っていた。
帝国史の本だったのだ。それも、図書館ぐらいにしか行き渡らない類の。
全部のほこりをはらってから、シルベスタは小厨房へと邸内通信を入れた。そしてミルク入りコーヒーをポットに、と頼んだ。
さすがに小さい頃とは自分の見方が変わっていることに彼は気付いた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
汚部屋女神に無茶振りされたアラサー清掃員、チートな浄化スキルで魔境ダンジョンを快適ソロライフ聖域に変えます!
虹湖🌈
ファンタジー
女神様、さては…汚部屋の住人ですね? もう足の踏み場がありませーん><
面倒な人間関係はゼロ! 掃除で稼いで推し活に生きる! そんな快適ソロライフを夢見るオタク清掃員が、ダメ女神に振り回されながらも、世界一汚いダンジョンを自分だけの楽園に作り変えていく、異世界お掃除ファンタジー。
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
春に狂(くる)う
転生新語
恋愛
先輩と後輩、というだけの関係。後輩の少女の体を、私はホテルで時間を掛けて味わう。
小説家になろう、カクヨムに投稿しています。
小説家になろう→https://ncode.syosetu.com/n5251id/
カクヨム→https://kakuyomu.jp/works/16817330654752443761
現代にダンジョンが現れたので、異世界人とパーティ組んでみた
立風館幻夢/夜野一海
ファンタジー
世界を研究する「普通」の女子大学院生、「猪飼瑠璃(いかいるり)」、彼女は異世界人と友達になることを夢見て、日々研究に勤しんでいた。
ある日、いつものように大学院に向かっている最中、大地震に巻き込まれる。
……揺れが収まり、辺りを見ると、得体のしれないモンスターと猫獣人が現れた!?
あたふたしているうちに、瑠璃はダンジョンの中へと迷い込んでしまう。
その中で、エルフの少女、吸血鬼の少女、サキュバスの女性、ドワーフの男性と出会い、彼らとパーティを組むことになり……。
※男性キャラも数人登場しますが、主人公及びヒロインに恋愛感情はありません。
※小説家になろう、カクヨムでも更新中
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる