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19.屋根裏の二処女①あらすじ・その1
これはもう何度も何度も繰り返しブログだの何だのに使ってます。
ともかくこのあらすじまとめること自体が…… 引用文章自体が長いし……
小分けにしますー。
***
「第一篇」
滝本章子はそれまで住んでいたキリスト教系の寮を出ることにした。彼女は故郷からミッションの補助を受けて上京し、勉強しなくてはならない身である。
寮母のミス・Lは驚き悲しむ。何故と問われても、章子は言うことはできない。寮母の望むように、その性格を改善することができなかっただけである。
彼女は保証人の畑中先生の所へ挨拶に行く。そしてそこでも「敗残者」である自分に掛ける思いやりなどない、と感じる。
彼女は故郷の知り合いであり、同期に東京に出てきた志摩さんを頼った。夏の休みの後、志摩さんの住むYWAの寄宿舎に空き部屋があるということで住むことにした。
四階の屋根裏部屋が彼女の一人の部屋となった。広さは四畳半くらいで、三角形の部屋だった。彼女はようやく手に入れた自分だけの部屋に幸福を感じる。その部屋の夕暮れの情景に感動する。
*
>(屋根裏)
この一つの語彙のうちに、章子は溢れるやうな豊富な、新鮮な、そして朦朧とした幽暗と、そして(未知)に彩られた奇怪と驚異と、幼稚な臆病な好奇心と――の張り切れるほどいつぱいに盛り上げられて充満してゐるのをその一刹那から感じた。
その観念の前に(屋根裏)の語音は、非常に魅力ある巧な美しい響を伝へるものとなつた、そして美と憧憬とを含んで包む象徴的の韻を踏ませてゆくものとなつた。
譬えば、(薔薇の花)――(珊瑚樹)――(初恋)――(……)……
あゝ、若者達の多くの幻想を寄せるに、ふさはしいこのあまたの抒情詩集の中から引き抜かれた言句にも立ち勝つて更に深くつよく若い心を掻き乱す如き心憎くも幽遠な響と感じを発するものと――章子にはなつたので。
*
食事の支度ができたとの舎監の声に、それまで夢見ていたような彼女は幻滅する。
食事どき、彼女は新入りということで紹介されるが、その時、「腹立たしいくらいまでの狼狽と羞恥」が彼女を襲う。
そしてそこで、舎監に、同じ四階の隣の部屋に住むという「秋津さん」を紹介される。「秋津さん」はもの静かで澄んだ美しさを持つ人である。
その夜、まだ電球が入っていないということで、提灯を舎監から借りるが、その明かりにぼんやりとしているうちに、提灯がどういう訳だか、燃え出した。消えずにどうしていいか判らない彼女のもとに、「秋津さん」は現れて、花模様の友禅の掻巻で消し止める。
**
「第二篇」
翌朝、どちらも使いものにならなくなった提灯と掻巻を見て章子は涙する。どうしたらいいか判らない。と、秋津さんはそのどちらもいただく、と言って受け取る。
とりあえず家具を買いに行く。机と椅子を買う。そしてその机でノートを整えているときに雀を見つける。米をあげようとして十銭で買って戻ってみると、既に雀はいない。
YWAの建物の中にはピアノがあった。彼女は不器用だったが、好きなものに対する根気はあったので、かつて教則本を一通り教わった時、「ベートーヴェンの ソナタの十五番」を与えられていた。もちろん簡単な曲ではあったが、彼女にとっては世界唯一の名曲であった。
*
>章子がベートーヴェンを聞いたとき、彼女の心臓は破裂しそうであつた。
おゝ、ベートーヴェンを私が弾く!
そんなことがあつていゝはずだらうか。
音楽の教師をしながに、楽壇にはなんの野心もなかつた、平凡な婦人たりし亡き母ですら、なほ、その偉大さを語つた、あの超人間的な驚きベき顔の持ち主のベートーヴェン――あゝ、そして今自分がその作品の一つを奏する者であると思つただけで章子は顫へた。
おそらく章子のそれまでの生涯中にあつて何が一番大きな出来事であつただらうか、それは彼女がベートーヴェンのソナタを弾奏することになつた非である、父の死よりも! 母の逝去よりも! 更に大きい驚くべき人間のレコードの印でなければならないと、彼女自身思つてゐる。
*
彼女は夢想に酔いながら夜、広間で一人、ピア ノを弾く。だが、弾き終わり、廊下に立ったとき、夢想は醒める。現実の冷たさと「暗黒の絶望」に彼女は泣き崩れる。
*
>壇上に立ってこの光景を見やつた演奏者の章子の熱した瞳に熱い涙が湧き上がつた……彼女は徴集の面前に涙を以て鄭重なる答礼をした(章子は暗の広間の中で確に鄭重な礼をした)……そして名高い貴族の夫人達が美しき花束を持つてこの楽壇の若き明星を我が館の客間に正体すべく申し出でたのを皆涙と共に辞退して章子は胸も破るゝばかりの強く深い感激に身を快くゆだねて……独り楽堂を出でた……(章子は広間の扉を開けて廊下に立つた)……
廊下の電灯の光は、あらゆる複雑せる幻像も蜃気楼も一瞬に吹き落として、そこには唯みすぼらしい娘が一人、古びた譜本を脇に抱へて、しよんぼりと寒げに立つてゐる姿を露骨に映し出した……彼女の痩せた姿を……少女期の肋膜炎の病痕を永久に記念する彼女の双肩の不均衡な反り方を皮肉な影法師にしてまで示した……
*
つづくっ。
ともかくこのあらすじまとめること自体が…… 引用文章自体が長いし……
小分けにしますー。
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「第一篇」
滝本章子はそれまで住んでいたキリスト教系の寮を出ることにした。彼女は故郷からミッションの補助を受けて上京し、勉強しなくてはならない身である。
寮母のミス・Lは驚き悲しむ。何故と問われても、章子は言うことはできない。寮母の望むように、その性格を改善することができなかっただけである。
彼女は保証人の畑中先生の所へ挨拶に行く。そしてそこでも「敗残者」である自分に掛ける思いやりなどない、と感じる。
彼女は故郷の知り合いであり、同期に東京に出てきた志摩さんを頼った。夏の休みの後、志摩さんの住むYWAの寄宿舎に空き部屋があるということで住むことにした。
四階の屋根裏部屋が彼女の一人の部屋となった。広さは四畳半くらいで、三角形の部屋だった。彼女はようやく手に入れた自分だけの部屋に幸福を感じる。その部屋の夕暮れの情景に感動する。
*
>(屋根裏)
この一つの語彙のうちに、章子は溢れるやうな豊富な、新鮮な、そして朦朧とした幽暗と、そして(未知)に彩られた奇怪と驚異と、幼稚な臆病な好奇心と――の張り切れるほどいつぱいに盛り上げられて充満してゐるのをその一刹那から感じた。
その観念の前に(屋根裏)の語音は、非常に魅力ある巧な美しい響を伝へるものとなつた、そして美と憧憬とを含んで包む象徴的の韻を踏ませてゆくものとなつた。
譬えば、(薔薇の花)――(珊瑚樹)――(初恋)――(……)……
あゝ、若者達の多くの幻想を寄せるに、ふさはしいこのあまたの抒情詩集の中から引き抜かれた言句にも立ち勝つて更に深くつよく若い心を掻き乱す如き心憎くも幽遠な響と感じを発するものと――章子にはなつたので。
*
食事の支度ができたとの舎監の声に、それまで夢見ていたような彼女は幻滅する。
食事どき、彼女は新入りということで紹介されるが、その時、「腹立たしいくらいまでの狼狽と羞恥」が彼女を襲う。
そしてそこで、舎監に、同じ四階の隣の部屋に住むという「秋津さん」を紹介される。「秋津さん」はもの静かで澄んだ美しさを持つ人である。
その夜、まだ電球が入っていないということで、提灯を舎監から借りるが、その明かりにぼんやりとしているうちに、提灯がどういう訳だか、燃え出した。消えずにどうしていいか判らない彼女のもとに、「秋津さん」は現れて、花模様の友禅の掻巻で消し止める。
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「第二篇」
翌朝、どちらも使いものにならなくなった提灯と掻巻を見て章子は涙する。どうしたらいいか判らない。と、秋津さんはそのどちらもいただく、と言って受け取る。
とりあえず家具を買いに行く。机と椅子を買う。そしてその机でノートを整えているときに雀を見つける。米をあげようとして十銭で買って戻ってみると、既に雀はいない。
YWAの建物の中にはピアノがあった。彼女は不器用だったが、好きなものに対する根気はあったので、かつて教則本を一通り教わった時、「ベートーヴェンの ソナタの十五番」を与えられていた。もちろん簡単な曲ではあったが、彼女にとっては世界唯一の名曲であった。
*
>章子がベートーヴェンを聞いたとき、彼女の心臓は破裂しそうであつた。
おゝ、ベートーヴェンを私が弾く!
そんなことがあつていゝはずだらうか。
音楽の教師をしながに、楽壇にはなんの野心もなかつた、平凡な婦人たりし亡き母ですら、なほ、その偉大さを語つた、あの超人間的な驚きベき顔の持ち主のベートーヴェン――あゝ、そして今自分がその作品の一つを奏する者であると思つただけで章子は顫へた。
おそらく章子のそれまでの生涯中にあつて何が一番大きな出来事であつただらうか、それは彼女がベートーヴェンのソナタを弾奏することになつた非である、父の死よりも! 母の逝去よりも! 更に大きい驚くべき人間のレコードの印でなければならないと、彼女自身思つてゐる。
*
彼女は夢想に酔いながら夜、広間で一人、ピア ノを弾く。だが、弾き終わり、廊下に立ったとき、夢想は醒める。現実の冷たさと「暗黒の絶望」に彼女は泣き崩れる。
*
>壇上に立ってこの光景を見やつた演奏者の章子の熱した瞳に熱い涙が湧き上がつた……彼女は徴集の面前に涙を以て鄭重なる答礼をした(章子は暗の広間の中で確に鄭重な礼をした)……そして名高い貴族の夫人達が美しき花束を持つてこの楽壇の若き明星を我が館の客間に正体すべく申し出でたのを皆涙と共に辞退して章子は胸も破るゝばかりの強く深い感激に身を快くゆだねて……独り楽堂を出でた……(章子は広間の扉を開けて廊下に立つた)……
廊下の電灯の光は、あらゆる複雑せる幻像も蜃気楼も一瞬に吹き落として、そこには唯みすぼらしい娘が一人、古びた譜本を脇に抱へて、しよんぼりと寒げに立つてゐる姿を露骨に映し出した……彼女の痩せた姿を……少女期の肋膜炎の病痕を永久に記念する彼女の双肩の不均衡な反り方を皮肉な影法師にしてまで示した……
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つづくっ。
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