〈完結〉暇を持て余す19世紀英国のご婦人方が夫の留守に集まったけどとうとう話題も尽きたので「怖い話」をそれぞれ持ち寄って語り出した結果。

江戸川ばた散歩

文字の大きさ
5 / 50

4 考古学系歴史学専攻大学教授夫人エレノアが語る④

しおりを挟む
 ……正直、エジプトだけだったらまだ良かったわ。その辺りに支社を作ったんだ、って。
 だけどその後、どんどんトルコやインド方面へ進んで行くのに、その都度先回りして彼等、居るのよ。
 イスタンブール、アンカラ、テヘラン……
 そして必ずひょいっと現れて言うの。

「あら、奇遇ね」

 って。
 で、彼の格好を見た義弟は「あ、ボタンが取れてますよ」とか「帽子がほつれてますよ」とか言って、その場でポケットから小さな裁縫キットを取り出して付け直したり。
 妹は妹で私に対して「ずいぶん埃まみれになって日焼けもして!」って、自分は現地で買った布を常に巻いているから大丈夫とか何とか言って、綺麗な肌を自慢したり。
 でも…… 奇遇な訳ないでしょ…… 
 いくら何でも、そんな風に支社を作るとか転勤とかって、そもそも軍の命令で向かった場所に居るってどうなの、って……
 だってそもそも私達が進んだ経路って当時かなり危険だったのよ。
 時期が時期だったし。
 そもそも途中から「奥さんは先に船で本国に帰した方が」って何度も言われたのよ。
 でもまあ何というか、ともかく意地というか。
 でもさすがに、「この河を渡るには少し時間がかかるな」とか、「天気が悪いから少し待とう」って場所でも現れるって。
 だんだん私も夫も――
 あのね、私の夫はね、私よりずっと穏やかで物事を気にしないひとよ。
 ただあのひとは、現地の怖さをそれなりに知っているから、その都度居る彼等っていうのが、信じられないって感じだったわ。

「絶対もう誰か俺達が何処に行くのか漏らしてる!」

って、震えていた程だもの。

「でも、どうして?」
「判らない」

 そこで私達、やっぱり軍を通して、できるだけ早く義弟の実家の方に連絡つけたの。
 そうしたら、向こうが驚いたのよ。

「行方不明になっていたんですがそっちに居るんですか!」

って。
 慌ててこっちへ来る、っていう話がまとまった訳。
 支社を作る辞令はエジプトにしか出していない、そこから二人ともいきなり居なくなった。
 皆さらわれたのか、襲撃されたのか、とか心配していたんだ、って。
 ――っていう話がまとまった時に、急にまたこの二人が現れたのよ。
 その、通信ができる施設のすぐ外に。

「何でここが判ったの?!」

 だって私達が連絡を付けた場所は、インドに駐留している軍の施設よ!
 そもそもそんなところに一般人が入っていいと思う?
 さすがに私、その時は悲鳴を上げたわ。
 ひどく熱い日差しの中、もうこれは幻覚かって。
 そうしたら、すっ……、と二人とも消えたの。
 ……そう、その時居た二人は、幻覚だったのよ。
 私も夫も、二人して幻覚見てたのよ。
 だってその後また連絡が来たのよ。
 私が叫んだ直後くらいに折り返しで、「遺体が出た」って。
 エジプトとイスタンブールまでは本当に居たのよ。
 だけどそこで拐かしにあって身ぐるみ剥がされて殺されたんですって。
 ……だから、その後に私達が見たのは……
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

それなりに怖い話。

只野誠
ホラー
これは創作です。 実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。 本当に、実際に起きた話ではございません。 なので、安心して読むことができます。 オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。 不定期に章を追加していきます。 2025/12/30:『ねんがじょう』の章を追加。2026/1/6の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/29:『ふるいゆうじん』の章を追加。2026/1/5の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/28:『ふゆやすみ』の章を追加。2026/1/4の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/27:『ことしのえと』の章を追加。2026/1/3の朝8時頃より公開開始予定。 2025/12/26:『はつゆめ』の章を追加。2026/1/2の朝8時頃より公開開始予定。 2025/12/25:『がんじつのおおあめ』の章を追加。2026/1/1の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/24:『おおみそか』の章を追加。2025/12/31の朝4時頃より公開開始予定。 ※こちらの作品は、小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで同時に掲載しています。

『大人の恋の歩き方』

設楽理沙
現代文学
初回連載2018年3月1日~2018年6月29日 ――――――― 予定外に家に帰ると同棲している相手が見知らぬ女性(おんな)と 合体しているところを見てしまい~の、web上で"Help Meィィ~"と 号泣する主人公。そんな彼女を混乱の中から助け出してくれたのは ☆---誰ぁれ?----★ そして 主人公を翻弄したCoolな同棲相手の 予想外に波乱万丈なその後は? *☆*――*☆*――*☆*――*☆*    ☆.。.:*Have Fun!.。.:*☆

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

処理中です...