〈完結〉暇を持て余す19世紀英国のご婦人方が夫の留守に集まったけどとうとう話題も尽きたので「怖い話」をそれぞれ持ち寄って語り出した結果。

江戸川ばた散歩

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26 幕間④

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「きゃーーーっ!」

 ローズマリーが不意に声を上げた。
 そしてがたがたぶるぶると震え始める。

「や、止めてよそんな…… 血なまぐさい話……」
「おや、ローズマリー様、貴女そんなに血にお弱い方だとは思いませんでしたが?」
「何を言いたいのかしら?」

 心なしか、ローズマリーの顔色が悪い。
 本気で頬から血の気が引いている様だった。

「別に。貴女のことですから、ずいぶんな血の色は見てきていると思いますが?」

 そう言ったのは誰だろう。

「ええそうですわ。私はしぱらく夫についてフランスに渡っておりましたから。ちょうど非常にがたついている時代でしたもの。私どもは我が国の旗の下それなりに守られていました。けど一歩外に出れば、野蛮なあの者達がどんどん味方の中でも分裂分裂。一番の指導者だと言われた者すら、敵を作ったあげく、とうとう自分の血を大衆に見せつける羽目になるところまで、仕方なく見てきましたわ」

 ふう、とローズマリーはため息をついた。

「とは言えど、我が国にしても、更に百年二百年遡れば、あそこまででないにしろ、野蛮な時代があった訳ですもの。ああもう、あの頃を思い出すだけで、人間の本質は野蛮なんだ、という夫の口癖を思い出しますわ」
「しかし不思議なものですわね、あの国も」

 大きな枠を抱え込んだスカートを広げたドロシアは、ローズマリーに向かってつぶやく。

「そもそも貴女が今まとっていらっしゃる様なドレスは、確かに革命の中で発展して、あちこちの国で流行りましたけど、そもそもはかの王妃が田舎暮らしごっこをする中で、考え出したものではなくって?」
「そういう話もございますね。あの王妃に関しては私もその目で見たことは無いのですが、何かと印刷物が回っていたことですの。虚々実々。様々なものの中で、珍しく好意的なものもありましてね。そう、あれは、最後にお世話をした女、あれは実にあの王妃に対して好意的だったそうですわね。個々人としては、きっと一緒に居て楽しい、そして子供に優しい母であったのでしょうよ。残念ながら、彼女が生まれた時代と場所と身分が間違っただけで」
「どうでしょうね、ローズマリー様、貴女は私どもと同じ時に生きたいと思いますか?」
「冗談でしょう!」

 ほほほ、とローズマリーは笑った。

「反動なのでしょうかね。それとも風邪を引くひとが増えたからかしら。十年かそこらでいきなり襟は詰まり、スカートは硬い鯨の骨や金属の型にはめられる様になって。かと思えば、今度はお尻だけ突き出す様な形! ……きっと、とても古すぎて新しすぎたんですわ。そう考えると、あの王妃の考え方というのは、とても古くて新しかったのかも……」
「そうねえ。色んな見方があるものよ。例えばあの今となっては悪名高い機械も、そもそもは人道的な見地から取り入れられたってことよ」

 シャーロットはそう切り出した。
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