46 / 50
45 13人目の「私」が語る⑦
しおりを挟む
「ええそう。私はあんなことを言っていて、どうにもならないプライドが頭の中でわめきちらして。私は愛人達を憎んだ。夫はともかく低い身分の女達に笑顔を向けた。相手も返していた。何で自分は返せないのだろう、と思っても、自分の中の何かが、ぎゅうっと私を押しとどめるんです。駄目、駄目、駄目ぇぇぇぇぇ! と! それに逆らうことはできなかった。そして子供達。彼等は皆仲が良かった。そうなる様に夫は彼等を扱った。愛人達とも仲が良かった。私に対してはただ丁重に挨拶するくらいで。そして何より、私が最後に壊れたのは、息子が。私が兄との間に作った息子が、手をつけたメイドと結婚する、なんてことを言い出した時だったわ。因果応報、私や兄の血が、この子に出たんだ、と。私はあの子とメイドを殺そうとして……」
ぶるぶる、とマデリーンは震えた。
「息子さんから振り払われた時に、酷く頭をぶつけて死んだんですね」
「よりによってあの息子が! 結局私の血は碌なものではなかった!」
「違いますよ」
シャーロットは言う。
「血じゃあありません。それでも貴女に対して、報告と、祝福を求めていたならば、独立する息子さんはメイドの方と、新たな暮らしを始めようとしていた訳で。つまりは健やかに育っていたということじゃないですか」
「ええ。この件は貴女の自殺として片付けられましたが、貴女の息子は常にこの件を苦しみ続けましたよ。まともな神経を持っていましたから。それは、貴女がどうしても受け止めることができなかった貴女の夫の作った貴女以外の場所で、愛情をたっぷり受けたからです。……無論実の母から愛されなかった、という点はどうしようも無かったのですが」
「それでもメイドなぞ選ぶなんて……」
「彼は庶民になる予定でした。だったら問題は何処にもなかった。学業を修め独立した資格も持ち、街に小さな一軒家で暮らしていきました。小さくとも愛のある家庭を。貴女が苦しんだプライドを、持たずに済んだんですよ。喜ばしいことではないですか」
「……もう嫌」
マーゴットはつぶやいた。
「そう。私はもう全て忘れて消えます。私は間違ってるんだと思う。だけど、私の中でどうにもならないものがあるの」
「貴女があの時代に生まれたことが残念だわ。貴女の様なひとが、とっても楽になる療法がそれなりに今はあるし、今後も出てくるでしょうし」
「……何ですって」
「貴女は病気だった。それだけのことよ。そのどうしようもない部分というのは、病気がそうさせていたの。貴女はそれに気付けなかったことが一番不幸だったのよ」
「私のあれが…… 病気。ただそれだけの……」
「そう。それだけ。だけど貴女の生きてきた時代では判らなかった。周囲もどうにもできなかった。とても運が悪かった」
「運が」
一番それがマーゴットには効いたのかもしれない。
彼女はその言葉をもう一度繰り返して、闇の中へと消えた。
ぶるぶる、とマデリーンは震えた。
「息子さんから振り払われた時に、酷く頭をぶつけて死んだんですね」
「よりによってあの息子が! 結局私の血は碌なものではなかった!」
「違いますよ」
シャーロットは言う。
「血じゃあありません。それでも貴女に対して、報告と、祝福を求めていたならば、独立する息子さんはメイドの方と、新たな暮らしを始めようとしていた訳で。つまりは健やかに育っていたということじゃないですか」
「ええ。この件は貴女の自殺として片付けられましたが、貴女の息子は常にこの件を苦しみ続けましたよ。まともな神経を持っていましたから。それは、貴女がどうしても受け止めることができなかった貴女の夫の作った貴女以外の場所で、愛情をたっぷり受けたからです。……無論実の母から愛されなかった、という点はどうしようも無かったのですが」
「それでもメイドなぞ選ぶなんて……」
「彼は庶民になる予定でした。だったら問題は何処にもなかった。学業を修め独立した資格も持ち、街に小さな一軒家で暮らしていきました。小さくとも愛のある家庭を。貴女が苦しんだプライドを、持たずに済んだんですよ。喜ばしいことではないですか」
「……もう嫌」
マーゴットはつぶやいた。
「そう。私はもう全て忘れて消えます。私は間違ってるんだと思う。だけど、私の中でどうにもならないものがあるの」
「貴女があの時代に生まれたことが残念だわ。貴女の様なひとが、とっても楽になる療法がそれなりに今はあるし、今後も出てくるでしょうし」
「……何ですって」
「貴女は病気だった。それだけのことよ。そのどうしようもない部分というのは、病気がそうさせていたの。貴女はそれに気付けなかったことが一番不幸だったのよ」
「私のあれが…… 病気。ただそれだけの……」
「そう。それだけ。だけど貴女の生きてきた時代では判らなかった。周囲もどうにもできなかった。とても運が悪かった」
「運が」
一番それがマーゴットには効いたのかもしれない。
彼女はその言葉をもう一度繰り返して、闇の中へと消えた。
0
あなたにおすすめの小説
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
それなりに怖い話。
只野誠
ホラー
これは創作です。
実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。
本当に、実際に起きた話ではございません。
なので、安心して読むことができます。
オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。
不定期に章を追加していきます。
2025/12/30:『ねんがじょう』の章を追加。2026/1/6の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/29:『ふるいゆうじん』の章を追加。2026/1/5の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/28:『ふゆやすみ』の章を追加。2026/1/4の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/27:『ことしのえと』の章を追加。2026/1/3の朝8時頃より公開開始予定。
2025/12/26:『はつゆめ』の章を追加。2026/1/2の朝8時頃より公開開始予定。
2025/12/25:『がんじつのおおあめ』の章を追加。2026/1/1の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/24:『おおみそか』の章を追加。2025/12/31の朝4時頃より公開開始予定。
※こちらの作品は、小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで同時に掲載しています。
『大人の恋の歩き方』
設楽理沙
現代文学
初回連載2018年3月1日~2018年6月29日
―――――――
予定外に家に帰ると同棲している相手が見知らぬ女性(おんな)と
合体しているところを見てしまい~の、web上で"Help Meィィ~"と
号泣する主人公。そんな彼女を混乱の中から助け出してくれたのは
☆---誰ぁれ?----★ そして 主人公を翻弄したCoolな同棲相手の
予想外に波乱万丈なその後は? *☆*――*☆*――*☆*――*☆*
☆.。.:*Have Fun!.。.:*☆
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる