うつほ物語③~藤原仲忠くんの結婚・新婚ものがたり

江戸川ばた散歩

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第21話 仲忠、帰宅前に異母妹の梨壺へと寄っていく

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 帝は続ける。

「そなたも三日間も昼夜通して講師を勤めたから疲れたであろう。……ところで東宮よ」
「何でしょう」

 突然矛先が自分に向けられた東宮は身構える。

「何かしらの機会が無いと、そなたに会うことも今は難しくなった。いい機会だから、少しそなたに話したいことがある」
「……それでは私は」

 話題の内容を察した仲忠は、さすがに席を外そうとする。

「仲忠はいい。聞いていなさい」

 すかさず帝は引き留めた。

「仲忠、そなたは将来東宮の後見をするはずの者である。是非聞いていて欲しいのだ。―――して東宮よ、そなたは近頃、殿上にも出てこないとの専らの噂だが」
「……それは」
「きちんと殿上にお出なさい。そして常に作法に合わせて政事をさせなさい」
「……はい」
「それに、特に気に召した妃があるというならば、ちゃんと夜に殿上に召して、昼は上局に置くようにすれば良い。……そなたは何かと慣例と違うことをするという評判なので、わしは心配しているのだよ。その中でも弟の五の宮がたいそう嘆き悲しんでいるということだ。なのにどうしてそうもわしを悲しくさせる様なことをするのだ?」
「……」
「いつかは嵯峨院のお耳にも入ることでもある」
「それは、女四宮のことでしょうか」
「さてそれは自分で考えるが良い。ともかく院も今ではご高齢になり、あまり心配などお掛けしたくはないのだ。多少そのあたりをそなたは気に留めた方が良いのではないか?」
「それはもう、仰せの通りに考えております」

 東宮はしっかりとした声で返す。その辺りは彼もまた言いたいことがある様だった。

「先日も、宮の元へ渡りました。ところがあの方はここの所どういう具合なのか、私が何を言っても聞く耳を持たず、大層荒々しい様子で私にぶつかって来るので、下手に彼女を刺激しても、と思い、私は少々遠慮していたのです」
「だが、その様に宮が振る舞うというのにも、そなたに何かしらの理由があるのではないか?」
「まあ確かに。私が親しくしている藤壺を、宮は先頃より快からず思っております。当初は親しくしておりましたものを……」

 そう言って東宮は言葉を濁す。

「ですが宮の方にもやや問題はあるのです。私が『今日はいらっしゃい』と伝えても、何も返してこず、行き来がいつの間にか絶えてしまったのです。……藤壺が私の所に居ると言って機嫌が悪く、それこそどうしたのかと思うのは私の方です。ですので彼女の怒りが解けるまでは、と色々遠慮していたのですが…… 何も女四宮への私の気持ち自体は変わるものではないのですから、何かの機会にはきっと自然に判ってもらえるものと思っております」
「それはそうかもしれんが」

 帝はうなる。判っていない、判っていないぞ、と内心苦々しく思う。

「確かに、いつかは心も離れ、お払い者にしてしまうこともあるかもしれない。多数の妃を持つのだから仕方がなかろう。しかしせめて、院の御在世中にその様なことをお耳にお入れしてしまうのは、非常にお辛いことだとは思わぬか? 或いはそういうことをお聞きになったのだろうか、院の上も宮も出家なさろうとしている。そなたの即位もそう遠くない。できるだけ人から謗りを受けない様になさい」
「それは重々」
「外つ国でも、誰よりも飛び抜けて一人の女を愛した皇帝は、世の非難を受けたものだよ。そなたもそう言われそうな程の妃を持っている訳だから、あえてわしも忠告するのだ。……その妃だけでなくとも、とりわけそなたの所には、美しい女達が集まっているというのに、これじゃあ無闇に誉めることもできない」
「父上、そういうことを露骨に口にしたのは嵯峨院の宮ですね。言葉も慎まずに言い騒ぐのは彼女しかいませんよ」
「これ」
「まあ何とかしましょう」

 そう東宮は吐き捨てる様に言う。
 心配そうにその姿を眺める仲忠に、帝は少々待つ様に、と指示した。

「そなたに相応しいと思われるものがあるのでな。いつか誰かに、と思っていたものだ」

 やがて、石帯が多数運び込まれてきた。昔どれもから伝わる立派なものである。
 帝はこれでもないあれでもない、と仲忠と見比べた上で、とある一本を取り出した。

「おお、これがいい。そなたはこの帯を、朝拝などの際に付けなさい」

 は、と仲忠は舞踏し、丁重に受け取った。

「そうそう仲忠よ」

 帝は退出しようとする仲忠に向かって言う。

「はい」
「仏名が済んだら、年内にもう一度来て集を読んではくれまいか。素晴らしいものではあるが、めでたい年の初めに読む様なものでも無いから」
「承知致しました」
「……それにしても、仁寿殿は年内には参内するつもりは無いのだろうか」
「……え…… はぁ……」

 突然変わった話題に、仲忠はふと首を傾げる。

「自分のお産の時よりも長く里に滞在するのは、やはり女一宮が母に乳母の代わりをさせているのかな?」

 そう言うと帝は口の端を軽く上げる。

「あ、その…… そんなことは……」
「……というのは冗談だが」

 判っていても仲忠の心臓は高鳴りする。

「そなたからも早く参内する様に言ってはもらえぬかな。以前はこの様なことは無かったのだが…… 末法の世になると、女に軽んじられる様なこともあるのだろうか」

 仲忠はその言い方に失礼だとは思いつつも、くす、と笑い、帰ることとする。
 彼が持ち込んだ文は、皆封をされて、清涼殿の厨子に納められた。
 やがて東宮も退出することとなり、仲忠は殿上人や学士と共に、藤壺まで東宮を見送った。戻るが早いが、東宮は寝所に入ってしまったということである。
 そのついでに、と仲忠は梨壺へと足を向けた。異母妹の所である。



「まあお兄様」

 仲忠が来ると知るや、梨壺の君は席を設けさせ、早く早くと女房達を軽く促した。
 女房達もこの「異母兄君」を嬉しく誇らしく思っていたので、いそいそと準備をする。
 梨壺の君は心底嬉しそうに微笑んだ。素直な彼女は、評判の良いこの兄のことを本当に慕っている。

「ここのところ、帝の仰せで毎日参殿はしていたのだけど、なかなか抜け出せなくて。顔一つ出せなくてごめんね」
「そんな。帝の御前ですもの。仕方ありませんわ。ですからこちらからも消息は控えておりましたの。ところでお兄様、最近はお体は如何ですの?」
「ありがとう、大丈夫。ところで、身体と言えば、あなたこそ」
「私ですか?」

 彼女は首を傾げる。

「水くさいな。こういうことは真っ先に言ってくれても良かったのに」
「……あら、どういうことでしょう」
「僕や父上にはすぐにでも伝えてくれていいことがあったでしょ」
「あ……」

 居合わせた者皆が顔を見合わせる。梨壺の君も兄の話を察すると、ほんのりと頬を赤らめた。

「おめでたいことだよ。もう藤壺の御方ばかりで、妃は誰も要らないんじゃないか、と口さの無い連中が噂していた中だもの。あなたがやはり東宮さまからそうやってご寵愛を受けていたことはやっぱり嬉しいし、何より僕等にとっても名誉なことだもの」
「お兄様、確かにおめでたいことではありますが、この私の身にもなって下さいな。胸はむかつく身体は怠い、私からすれば何もおめでたいことは無いですわ」

 仲忠はごめんごめん、と笑った。女一宮も懐妊中は気分が良くなかったことを思い出したのだろう。もっとも梨壺の君の言葉に悪意は無い。戯れ言の範囲に留まる。 

「それで、いつ頃からですか? その」
「相撲の節会の頃からちょっと暑気あたりかな、と思う様な気分だったので、その頃じゃないかと……」
「七月から……」

 仲忠は指折り数える。

「もう師走じゃないの。ずいぶんと隠しおおせたものだね。父上は知っているの?」
「あら、あの父上が私にいちいち会いにいらっしゃると思いますの? お兄様」
「あー……」

 仲忠はぴしゃ、と額を叩く。あの父は。

「でもお兄様、どうしてお知りになったのですか?」

 不思議そうに彼女は問いかける。

「実は五宮が」
「あの方ですか」

 梨壺の君は眉をひそめる。

「あの方は前々から私に言い寄っているのです。私に東宮さまの訪れが無いから、と。自分だけは私のことを大事に思う、などと甘い言葉をつらつらと並べたのにまあ。嫌な方!」
「何か言われたのですか?」
「普段『私だけはあなたのことを大事に思っています』とかおっしゃってました。けどさすがに最近は音沙汰が無くて気楽になったと思っていたものです」
「それはまたどうして」
「私が身籠もったということで、どうでもよくなったのでしょう」

 あはは、と仲忠は笑う。そして妹の素直なだけでない聡明さにも舌を巻く。

「五宮はあの東宮の弟君だと言うのに、どうも落ち着かないひとだな。あのひとは世間から色好みだ色好みだと騒がれて、自分勝手に振る舞い、帝に対しても控えめにすること無く、何でもかんでも皆奏上してしまう方だ。あなたも気を付けて」
「はい」

 梨壺はうなづく。仲忠はやや不快そうな表情になる。

「宮中は皆良くない心持ちの者ばかりだ。特に多くの妃やその周囲の女房といった者達の心無い噂などは右から左へと受け流してしまえばいい」
「皆悪い方という訳では無いのですよ、お兄様。何と言うか…… その…… 太政大臣の方のなさることが、何かと他の皆さまの評判まで落としてしまうのです」
「……そう言えば、嵯峨院まの女四宮の所へは最近東宮さまもお通いにならないということだけど」
「……あの…… 何と言うか」

 梨壺はやや言いにくそうに。

「ちょっとこの春、あの方のところで少々いざござがありまして。……東宮さまの御衣が破られてしまって……」
「……女四宮がですか?」

 仲忠は思わず目をむく。破るとは尋常ではない。

「ええ…… 私もあくまで伝え聞いているばかりですが。それに、あちこち東宮さまの御体を引っかいたり傷を作ったりなさったということで……」
「それは…… ちょっと……」

 同じ男として状況を想像してみたらしい。仲忠の表情も微妙なものになる。

「でも、だからと言っていつまでもこのままになさったりは…… 前はあの方が一番ご寵愛されていましたし。東宮さまは私を御召しになった時にでも、『女四宮を可哀想だとは思うのだが、さすがに今は……』とこぼされることもありますし」
「……うーん…… そんなにしてまで行きたくないのだったら…… もしかして、男として大切な所を傷つけられたのかな。そうだったら大変大変」
「まあ! お兄様!」

 さすがにそれには梨壺も素早く反応した。さすがに彼女も東宮の妻の一人であるが故、意味はすぐに理解できたのだろう。

「そんなことがあっちゃ、男としては確かにお嫌いになってしまうかもね」
「嫌なかた!」

 ふん、と梨壺の君はそっぽを向く。

「それでは僕はそろそろ」
「もうお帰りですの?」
「うん。さすがにね。二、三日後にまた来るね」
「お待ちしてますわ、お兄様」

 そう言って仲忠は宮中を退出した。



 三条殿に戻ると仲忠は直ぐに女一宮の居る筈の所へ向かった。会いたくて会いたくて仕方が無かったのだ。
 だが妻は、昼間の御座所にも寝所の中に見当たらなかった。不思議なことだ、と彼は女房の中務の君に問いかけた。

「宮はどうしたの? 何処かに行ったの?」
「ああ大将さま。ほほほ、今日はお髪を洗う日ですので、西の対に」

 髪洗い、と聞いて仲忠の表情が重くなる。

「僕が帰ってくるって判っているのに何で今日髪洗いなんだよ。もう」

 時間がかかるのだ。一日がかりのものと言ってもいい。

「そこはまあ、綺麗な姿でお目にかかりたいという女心でしょう」
「僕はただもう宮に会いたいだけだって言うのに。ところで子犬ちゃんは何処?」
「犬宮さまも向こうに」

 ああもう、とやや苛立たしげに仲忠は腕を組むと女房の大輔の君に犬宮を連れてくる様にと呼んだ。
 大輔の君は慌てて犬宮を連れてくる。

「ただいま~ お父様だよ」

 仲忠は犬宮を抱き取ると、じっと我が子を見つめる。
 粉で作った団子の様に白くまるまると肥えて、まるで何か知っているかの様に自分に話しかけようとしてくる。
 無論本当に話ができる訳ではないが、その様子が仲忠の表情をだらしない程にとろけさせる。

「ああもう何って可愛いんだろう」

 そう言って懐に我が子を抱きながら、仲忠はもう一方の愛しい相手に文を書く。

「四日間も宮中に閉じこめられてようやく帰ってきたというのに、何でこっちに居ないの? ひどいな。よりによって今日髪洗いなんて。
 ―――久しぶりに折角会うという大事な今日に髪を洗うとはどういうこと?―――
 そっちへ僕から行こうか?」

 だが特に返事も来ない。さすがにそれには仲忠も閉口した。
 仕方ないとばかりに犬宮を抱いたまま昼間の御座にごろんと横になり、しばらく我が子の様子にただただ夢中になっていた。
 だがその時がゆるりと過ぎ去ると、一つ思いつくことがあった。

「ねえ大輔の君」

 未だ控えている彼女に問う。

「何でしょう」
「僕の居ない間、この子を誰かに見せたりした?」
「いいえ何方にも。殿のお留守の間、皆様がたが西の御方へおいでになって『見せて欲しい』とおっしゃったのですが、女御さまがやっぱり今のあなた様の様にお抱きになって、寝所の中にばかり」
「そう、それは良かった」

 仲忠はほっとする。

「ただ……」

 大輔の君の声が低くなる。

「ただ?」
「東宮の若宮達が大殿さまに抱かれていらっしゃいまして」
「若宮達が」
「ええ…… それで私どもも、犬宮さまをお隠し致しましたのですが、若宮さま達ときたら、女御さまや女一宮さまにまで『宮の赤ちゃんを見せてよ、見せてよ』と我が儘をおっしゃって、お二人をぶったり引っ張ったり乱暴なさるので、さすがに宮も……」

 黙って仲忠は眉を寄せる。

「まあ若宮さま達は、犬宮さまをたいそう大事にお抱きになっておりましたが……」

 主人の機嫌が明らかに悪くなって行くことに大輔の君はやや怖れを抱く。

「……そういうことじゃないんだよ。大輔の君。小さな頃の出来事って言うのは、大人になっても結構覚えているものなんだ。だから若宮達がたとえほんの子供であったとしても、女の犬宮を抱っこさせるなんて、以ての外のことなんだよ。大輔の君、これからは若宮にも若君にも、ともかく皆から犬宮を隠してくれ」
「はい、判りました。ただ、今度のことは、若宮達が、女御さまや女一宮さまの御髪を引っ張って泣いてお騒ぎになったので、お二方にもどうにもならなかったので……」
「ああもう」

 仲忠は頭を抱えた。
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