〈とりあえずまた〆〉婚約破棄? ちょうどいいですわ、断罪の場には。

江戸川ばた散歩

文字の大きさ
58 / 168
六角盤将棋ミツバチ杯の顛末(セルーメとデタームとセレジュ)

20 セレジュからの手紙

しおりを挟む
 俺が王女の教師?
 さすがにその提案はどうか、と思った。
 誰かに教えるなぞ、向いていない。
 ともかくもう一つの手紙を開けてみた。

「お久しぶり。すごく久しぶりだわ。
 腹が立つ程、久しぶりね!
 私は何とか生きているわ。
 何とか息を吹き返したってところね!
 今はあんた、辺境伯のところに居ると聞いたわ。
 凄いところらしいわね。
 羨ましい! 
 何ですって、そちらの令嬢は、平気で馬にも乗ってるんですって!?
 でも確か、辺境伯令嬢というのは、ある種のお勤めもあるからこそ、自衛もできる様に訓練していると聞いたわ。
 その辺り、今一つ情報が入って来ないから何だけど。
 ところでこの手紙を受け取る頃にはバーデンから聞いていると思うけど。
 あんた私の娘の教師をなさい!
 何とか正妃様に条件をつけて、バーデンかあんたを呼び寄せる様にしたの。
 あんたが先に来ていたら、バーデンを娘につけたと思うわ。
 でもね、実際のところクイデにはあんたの方がいいと思うわ。
 だってあの子、本当に私の地そっくりだもの。
 地味な外見をわざわざ更に地味にしようとしているところとか、周囲の人々の動きを見ているところとか。
 私は家では姫君だったから、好き勝手いていたけど、クイデはそうじゃない。
 今となっては、後ろ盾が殆ど無い第三王女よ。
 だから広い広い世界を見せてやりたい。
 でもね、誤解しないで。
 私はあの子達に対して、愛情が持てないの。
 産んだからと言って、絶対持てるなんて思わないで。
 だって、私の子だけど、同時に陛下の子供なのだもの。
 陛下は夏離宮のことをもの凄く綺麗な思い出にしているのよ。
 私が盛大に猫かぶっていただけなのに。
 かぶった猫が大きすぎて窒息しそうになっていたこの頃、ようやく息ができる様になったって感じね。
 一応ね、あんた達が私を置いて留学する前に言ってた、家の中を盤に置き換えて、というのは今でも気晴らしで進行中。
 バーデンには言ってないわ。
 彼は王とは違うけど、私に対してどこかちょっと夢見てる。
 でもカイシャル、あんたは違う。
 あんたは私がどれだけ残酷なことができるか知ってるでしょ。
 お母様を死に追いやったのは私よ。
 私達、チェスの相手として、庭師とも結構気さくにやってたでしょ。
 彼から毒のある植物や石とかのことを聞いていたのよ。
 それを嫁ぐ前にお母様の酒蔵の樽に仕込んでおいたのよ。
 お母様はお父様より酒豪でね。
 自分用の酒蔵を小さいながら持っていたの。
 誰一人触らせなかったのよ。
 私、昔そっと入って触ったら、頬っぺたを何度もはたかれたわ。
 それほどお母様には貴重だったのね。
 その中に、時間が経つごとに溶け出す毒を仕込んでおいたの。
 お父様がそれに気付いたかどうかは判らないけどね。
 私、お父様のことは好きだったわ。
 でもお母様を止めてもくれなかった。
 私の性格を知っていても、側妃となることに関しては、本当に止めなかった。
 それどころか喜んでいた。
 でもね、もしお父様が同じ様な原因で亡くなったとしたなら、私のしたことに気付いたのだと思うわ。
 実家のお母様の酒蔵がどうなったか調べさせたら、お父様が取り壊したって言うし。
 そして私気付いてしまったのよ。
 本当に、場所を盤に、人を駒にして動かせるんだって。
 ねえカイシャル。
 時間をかけた私のたった一つの願いに手を貸してちょうだい」
しおりを挟む
感想 47

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

【完結】追放された子爵令嬢は実力で這い上がる〜家に帰ってこい?いえ、そんなのお断りです〜

Nekoyama
ファンタジー
魔法が優れた強い者が家督を継ぐ。そんな実力主義の子爵家の養女に入って4年、マリーナは魔法もマナーも勉学も頑張り、貴族令嬢にふさわしい教養を身に付けた。来年に魔法学園への入学をひかえ、期待に胸を膨らませていた矢先、家を追放されてしまう。放り出されたマリーナは怒りを胸に立ち上がり、幸せを掴んでいく。

【完結】悪役令嬢ですが、元官僚スキルで断罪も陰謀も処理します。

かおり
ファンタジー
異世界で悪役令嬢に転生した元官僚。婚約破棄? 断罪? 全部ルールと書類で処理します。 謝罪してないのに謝ったことになる“限定謝罪”で、婚約者も貴族も黙らせる――バリキャリ令嬢の逆転劇! ※読んでいただき、ありがとうございます。ささやかな物語ですが、どこか少しでも楽しんでいただけたら幸いです。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

処理中です...