〈とりあえずまた〆〉婚約破棄? ちょうどいいですわ、断罪の場には。

江戸川ばた散歩

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六角盤将棋ミツバチ杯の顛末(セルーメとデタームとセレジュ)

38 国境近い宿場町の夜

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 ――今までのことを思い返していたら、少し眠ってしまっていたらしい。
 俺の目を覚まさせたのは、枝を一定の間隔で打つ音だった。
 慌てて窓を開けて外に身体を乗り出す。
 ランタンを掲げたバーデンの姿がそこにはあった。
 間に合ったんだな、と俺は安堵した。

 食事を摂るために広間に向かうと、彼等の姿があった。
 服も庶民の商人のものに替え、遅くて申し訳ない、と言いながら夫婦ということで偽名を使って部屋を取った様だ。

「食事は皆ここで摂ってもらいますよ」

 だったら今、とばかりに二人は空いていたテーブルに座った。
 時間的にはやや混み出した頃だったので、俺は相席いいですか、と白々しくも言って近くに座った。
 彼等はそれまでの道のりの厄介さを「商人ふう」に言い換え、俺はそんな二人の話を黙って聞いていることにした。
 後は周囲の話にも耳を傾ける。
 やはり王子のやらかしたことは大きい、この先チェリはどうなるんだ、麻薬がどうとか発表されたって、そんなもの流通してたんかよ、とか話す旅人達。
 ともかく俺はひたすら黙って話を聞く。
 何でも「第三側妃」は王子をひっぱたいた後に毒をあおって死んだらしい。
 見事な親だな、と彼等は噂をする。
 俺はファルカに対し、スープをすすりながら心中冥福を祈る。
 ここまで生きてくれて本当にありがとう、と。

 翌日、時間をずらして俺達は出立した。
 行き先は無論帝都だ。
 そしてそれはできるだけ急がなくてはならない。
 一日でできるだけ遠くまで走る。
 長旅に慣れていないセレジュにはきついだろうが、そこは少々我慢してもらわなくてはならない。
 何せ俺とバーデンは指名手配が回っている。
 噂話の中でもその名は口にされた。
 セレジュはファルカの名でこの先の道中は通して行くし、ファルカが俺達の協力者であることはそうそう知られては居ない。。
 そして一日走り続け、次の次の町から合流した。
 馬車の二人は夫婦設定、俺はその友人ということにした。
 夫婦ともう一つの部屋を取ることにして、早々に食事にしたが、そこで宿の主人に俺は訊ねた。

「帝都の将棋の大会ってさ、何が一番近いの?」

 何と言っても目的はそれなのだ。帝都で行われる大会。
 参加登録し、出場している間は正体がばれたとしても捕らわれることはない。

「今一番近いのかい」

 宿の主人は、料理や酒を出すカウンターに、何やら脇から帳面を持ち出しばらばらと開く。

「えーっと、今やってるのが四角盤十六マス古都路杯かな。今募集中なのが、六角盤ミツバチ杯」

 セレジュの顔がぱっと上がった。

「今なら間に合うのかしら」
「奥さん将棋好きなのかい? いや、出たいのかい?」
「ええそうよ、まずい?」
「まずかないよ。帝都の将棋大会は誰だって参加者を待ってる。……ってまあ俺も将棋は好きだし、このへんじゃ、ちょっと鳴らしたもんだがな。奥さん一局どうだい?」

 セレジュは俺達と顔を見合わせた。
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