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六角盤将棋ミツバチ杯の顛末(セルーメとデタームとセレジュ)
42 準決勝
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準決勝相手は――強かった。
片方はじりじりと、本当にじりじりと巣全体を移動させる様にして近づいてくる。
敵陣に入ると歩兵は動ける範囲が変わる。
まずそこに入るまでが一つの勝負だ。
そんな駒を増やしていくことで、次第に守りにも攻めにも強い陣形を作って行く。
だからこそ、俺はそこであえて王を最初からこれでもかとばかりに活用した。
無論取られる様なことはしない。
基本は攪乱だ。
ミツバチにとって、王は替えのきくオスだ。
このミツバチ縛りルールでは取られても構わない駒の一つに過ぎない。
敵陣に入ることができた歩兵と違うのは、ただ斜め後に下がることができるか否か、それだけのものだ。
ただ、普段通常のルールを大量にやってきた者は、そこをつい躊躇してしまう。
この連中にしてもそうだ。
俺はここに来てから半月、ひたすら「ミツバチ縛りのみ」強化させてきた。
王はただのオスだ。
大切なのは女王なのだ。
守らなくてはならないのは、自由に動かせてやるのは。
そのためなら、どの駒も同じだ。
それが王という名のつくものであっても。
ただ、それでも相手は強かった。
片方はアリジゴクの様な雰囲気の戦法で攻め込んできたが、こちらに集中しすぎて、もう一人につけ込まれた。
三つ巴の場合、何が怖いかというと、一人の相手のみに集中できない、ということだ。
敵の敵は味方。
そういう場面があった時には容赦無く利用させてもらう。
結果として、アリジゴクな無言の相手は敗退し、そこからは一対一となった。
そこからは読みと隙を見つけることと、力技と巻き返しとの繰り返しだ。
気付かず、じっとりと額に汗をかいている。
喉が渇く。
はあ、と傍らに置いた茶を口にした――その時。
一本の道が見えた。
俺はとん、と茶を置くと、そこに攻め入った。
隙だ。
女王を動かす。
「あ」
喉の奥からの声が聞こえた。
動かせる場所には、女王の道が待っている。
「負けました」
宣言。
俺は大きく息をついた。
そして勝利の印の手を挙げた。
すると視界に、笑顔で拍手をするバルバラ嬢の姿が入ってきた。
今の今まで彼女の存在を忘れていた。
バーデンも一気に疲れた、という様に椅子に背中を押しつけ、だらしなく顔を空に向け、かーっ! と叫びながら腕を上げていた。
――あとはセレジュのみ。
ふう、と立ち上がると、他の音一つ聞こえていない残り三人のところへと皆近づいていく。
相当接近しても、誰も気付かない。
視線はひたすら盤面にのみ向けられている。
セレジュでない方の女は相当強い。
しかも嫌な仕掛け方をしている。その上、時々相手に対して妙な表情を向けてくる。
だが表情とか仕草とか、挑発的な振る舞いというものなら、セレジュが負ける訳がない。
どれだけ宮中というとんでもない場所でそれを上手くかわしてきたと思う。
ただもう一人の方はそれに引っかかった様だ。
ペースを崩して脱落。
そして女の一騎打ちとなった。
さてここからそれまで表情等を隠していたセレジュは一気に巻き返した。
何せ表情と打つ手がまるで一致しないのだ。
読もうとすると確実に混乱するだろう。
最後にぴん、と女王を女王で跳ね飛ばした辺り、実に彼女らしい。
そしてすっ、と手を挙げた。
作り笑顔が、本当の笑顔になった。
片方はじりじりと、本当にじりじりと巣全体を移動させる様にして近づいてくる。
敵陣に入ると歩兵は動ける範囲が変わる。
まずそこに入るまでが一つの勝負だ。
そんな駒を増やしていくことで、次第に守りにも攻めにも強い陣形を作って行く。
だからこそ、俺はそこであえて王を最初からこれでもかとばかりに活用した。
無論取られる様なことはしない。
基本は攪乱だ。
ミツバチにとって、王は替えのきくオスだ。
このミツバチ縛りルールでは取られても構わない駒の一つに過ぎない。
敵陣に入ることができた歩兵と違うのは、ただ斜め後に下がることができるか否か、それだけのものだ。
ただ、普段通常のルールを大量にやってきた者は、そこをつい躊躇してしまう。
この連中にしてもそうだ。
俺はここに来てから半月、ひたすら「ミツバチ縛りのみ」強化させてきた。
王はただのオスだ。
大切なのは女王なのだ。
守らなくてはならないのは、自由に動かせてやるのは。
そのためなら、どの駒も同じだ。
それが王という名のつくものであっても。
ただ、それでも相手は強かった。
片方はアリジゴクの様な雰囲気の戦法で攻め込んできたが、こちらに集中しすぎて、もう一人につけ込まれた。
三つ巴の場合、何が怖いかというと、一人の相手のみに集中できない、ということだ。
敵の敵は味方。
そういう場面があった時には容赦無く利用させてもらう。
結果として、アリジゴクな無言の相手は敗退し、そこからは一対一となった。
そこからは読みと隙を見つけることと、力技と巻き返しとの繰り返しだ。
気付かず、じっとりと額に汗をかいている。
喉が渇く。
はあ、と傍らに置いた茶を口にした――その時。
一本の道が見えた。
俺はとん、と茶を置くと、そこに攻め入った。
隙だ。
女王を動かす。
「あ」
喉の奥からの声が聞こえた。
動かせる場所には、女王の道が待っている。
「負けました」
宣言。
俺は大きく息をついた。
そして勝利の印の手を挙げた。
すると視界に、笑顔で拍手をするバルバラ嬢の姿が入ってきた。
今の今まで彼女の存在を忘れていた。
バーデンも一気に疲れた、という様に椅子に背中を押しつけ、だらしなく顔を空に向け、かーっ! と叫びながら腕を上げていた。
――あとはセレジュのみ。
ふう、と立ち上がると、他の音一つ聞こえていない残り三人のところへと皆近づいていく。
相当接近しても、誰も気付かない。
視線はひたすら盤面にのみ向けられている。
セレジュでない方の女は相当強い。
しかも嫌な仕掛け方をしている。その上、時々相手に対して妙な表情を向けてくる。
だが表情とか仕草とか、挑発的な振る舞いというものなら、セレジュが負ける訳がない。
どれだけ宮中というとんでもない場所でそれを上手くかわしてきたと思う。
ただもう一人の方はそれに引っかかった様だ。
ペースを崩して脱落。
そして女の一騎打ちとなった。
さてここからそれまで表情等を隠していたセレジュは一気に巻き返した。
何せ表情と打つ手がまるで一致しないのだ。
読もうとすると確実に混乱するだろう。
最後にぴん、と女王を女王で跳ね飛ばした辺り、実に彼女らしい。
そしてすっ、と手を挙げた。
作り笑顔が、本当の笑顔になった。
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