〈とりあえずまた〆〉婚約破棄? ちょうどいいですわ、断罪の場には。

江戸川ばた散歩

文字の大きさ
84 / 168
マリウラさんのお悩み相談室

3 見捨てられた王子と②

しおりを挟む
 彼に誤った知識を植え付けたデターム氏はその後、国外に逃亡したと聞いた。
 帝都で将棋大会に出てその場で仲間だったセルーメ氏と、あともう一人、第三側妃の侍女だった女と共に自害した、と。
 ちなみにこれは救貧院へ毎度毎度寄付をしにやってくる貴族が教えてくれた。帝都の、その時期の新聞をどさっと置いていってくれたのだ。
 その貴族は、宮中で見たことがある様な無い様な。
 ともかく皆そのひとが置いていった帝都の新聞の挿絵に夢中になっていた。
 皆が皆、文字が読める訳ではない。
 特にこの救貧院で働く人々は、満足な教育など大半受けていない。
 ここは働く意欲はある、だけど身体が多少弱い、とか格別な腕が無い、身体を売るのすらもうできない、とか通常の社会でなかなか食べていくのが難しい人々に、ちょっとした仕事と寝るところと食事を与える場所なのだ。
 私の様な犯罪者や、犯罪の被害者を受け容れても居ることに関しては、果たしててこれでいいのか? とも思うけど。
 そう、健康で若い私に対しては「こんなところに…… 何やったんだい?」という目は充分あった。
 ここに来る若い娘なんていうのは、犯罪者か犯罪被害者が大半なのだ。
 そして「犯罪者」の方は大概ここの規則とかに耐えられず逃げ出す。
 まあ追われることはない。
 彼女達の身分を保証するものもないからだ。
 もう次に行く道は見えている。
 「被害者」の方は、ここで手に職を覚えて自立して出ていくこともある。
 たまに寄付にやってきた金持ちに見初められて引き取られて行くこともある。
 無論その場合、正式な妻ではなく愛人だろうが、その辺りは誰も気にしない。
 私は基本的には「美人局の片棒をかついだ女」というイメージで見られている。
 間違いではない。相手が相手だっただけで。
 だから最初の数日はひそひそと何かと噂された。
 だが私が「何をすればいいですか!」とばかりに勢いよく仕事をもらって、意欲を見せたこと。字が読めるから、ということですらすらと新聞を読んだことをきっかけに、とりあえずの場は掴んだ。
 何せ新聞を「すらすら」読める者は滅多に居ないのだ。
 ちなみにこの手の場の掴みように関しては、養父となっていた本名ラルカ・デブン氏のおかげだ。
 彼は彼で、かつて流刑地で自分の立ち位置を確保するのに大変だったらしい。
 元々は学生だったし、しかも思想関係だったことから、流刑地では当初苦労したらしい。
 そしてその経験から、新たな場に行く時にはどうすれば良いのか伝授してくれた。
 今はまた本名に戻り、流刑地に戻されているらしい。
 彼自身は名乗っていた元々のランサム侯爵を殺した訳でもない。
 だから罪とされたのは、流刑地の脱走と身分詐称の二つなのだ。
 流刑地の脱走は基本的には重い罪らしいのだが、養父は向こうで鉱物資源の開発に関してずいぶんと携わっていたらしい。
 だったら殺すよりは厳しい地で使い潰すのが一番だろう、というのが帝国のやり方ということだ。
 もう一生出ることはないだろう、と別れる前に、養父は言っていた。
 だから私は彼に対してこう言ってある。

「私が面会に行くまでは生きていてください」
しおりを挟む
感想 47

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

【完結】追放された子爵令嬢は実力で這い上がる〜家に帰ってこい?いえ、そんなのお断りです〜

Nekoyama
ファンタジー
魔法が優れた強い者が家督を継ぐ。そんな実力主義の子爵家の養女に入って4年、マリーナは魔法もマナーも勉学も頑張り、貴族令嬢にふさわしい教養を身に付けた。来年に魔法学園への入学をひかえ、期待に胸を膨らませていた矢先、家を追放されてしまう。放り出されたマリーナは怒りを胸に立ち上がり、幸せを掴んでいく。

【完結】悪役令嬢ですが、元官僚スキルで断罪も陰謀も処理します。

かおり
ファンタジー
異世界で悪役令嬢に転生した元官僚。婚約破棄? 断罪? 全部ルールと書類で処理します。 謝罪してないのに謝ったことになる“限定謝罪”で、婚約者も貴族も黙らせる――バリキャリ令嬢の逆転劇! ※読んでいただき、ありがとうございます。ささやかな物語ですが、どこか少しでも楽しんでいただけたら幸いです。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

処理中です...