反帝国組織MM⑧制御不可能~機械仕掛けの二人の最初の仕事は失敗が判っている革命。

江戸川ばた散歩

文字の大きさ
21 / 45

19.「問題は、知り合いであるということを隠している場合だ」

しおりを挟む
「君は別だ。君は男で、あいにくどうして私は君が好きなのか自分でも理解できん」

 そういうことを真顔で言うなよ、と編集長は言いたい気持ちはあったが、苦笑と共に押しとどめる。何せゾーヤはそう言う時にも、表情は殆ど変えないのだ。

「そもそも判らぬと言えば、君がどうして私を好きなのかにしても、君は私にまだ上手く説明してないぞ」
「そういうのは理屈ではないんじゃない?」
「言葉を扱う商売につきたい奴が、言う台詞じゃないな」

 いえいえ、と編集長は手を振る。

「そういう部分もある、と知ってこその、言葉の力なんだよ」
「それはカシーリン教授の引用だろう?」

 ちぇ、知ってるな、と彼は肩をすくめた。

「それに、説明と言えばイリヤ、わざわざ学内でなく私をここに連れ出したのは、それだけのことか?」
「いや」

 彼はあごをしゃくる。くわえ煙草のまま、ゾーヤは彼の視線をたどった。

「……『絢爛の壁』がどうした?」
「壁はどうでもいい。ゾーヤそこにもたれてる奴を見てみな」

 彼女は目を凝らす。そこには自分達と同じくらいの年頃の男が壁の外にまで身を乗り出す枝の下で、本を読んでいた。

「何だ? あれがどうした?」
「あれが、ラーベル君、なんだけどね」
「ラーベル。と言うと、先日君が、ヴェラに言っていた『幼なじみ』のことか?」

 ああ、と彼はうなづく。

「……理学群で見かけたんだけどね。学生証には、ラーベル・ソングスペイという名だった」
「妙な名だな。ここの者ではないような」
「だが一応ここの市民ということになっている。ただし、彼を知っている者が、俺の知っている関係にはいない」
「ということは?」

 ゾーヤは身を乗り出す。

「彼は、当局のスパイじゃないか、ということだ」
「……特高か?」
「かもしれないし、別口かもしれない。そもそも何を目的で入り込んでいるのかも、なかなか特定できない」
「ただ、『入り込んで』いる以上……」
「我々の敵である可能性は高い、ということだ」

 学内新聞編集長の言葉に、彼女はうなづいた。

「やはり、学祭に向けての計画は、漏れているということなんだろうか?」
「表向きは、だな。裏はどうだろうな」
「裏か。裏裏裏。我々の生活というのは一体全体どうしてこうなのだろうな?」

 ゾーヤは肩をすくめる。

「昔はそこまで徹底してはいなかった筈なんだ。何処からこの州はおかしくなったんだ? 私達が子供の頃はどうだ?テレビジョンはもっと楽しい番組をしていた筈だし、音楽も流れていたはずだ」

 ちら、と彼女は広場で声を張り上げる若者の姿に目を止める。

「それがどうだ。今ではこういう生の場でしか、見ることができない。できないからここへやってくる。たまる。それがある一定の分量になると当局に摘発される。繰り返しだ」
「ああ」

 編集長もまた、真顔になりうなづく。

「問題は、この現状が、慣れになってしまうことなんだ。そうだゾーヤ、確かに俺達がガキの頃、もっとこの州は自由があった筈なんだ。無論今でも不自由はしていない。実際他の惑星に比べ、ここは裕福だと聞く。餓えることはない。だけど、何かが、おかしいんだ」
「何が、だと君は思うんだ?編集長」
「どうして、この州だけが、帝国の命令をそのまま受け入れているのか。それとも帝国の命令は、そのまま届いているのかどうか。司政官が独裁したいがためだけに、帝国というバックを持ちたいだけなのか……帝国自体は、現在のこの状況よりマシな施政をする気があるのか」
「情報通ではなかったのか? 編集長」

 うるさいな、とイリヤは彼女の肩を引き寄せる。

「俺だって、無闇やたらに怒鳴っている訳じゃないんだよ」
「別にそんなことは言ってはいないが」

 彼女はそう言うと、バランスを崩してイリヤの胸に倒れ込んだ。その途端、吹き込む風に乗って、キンモクセイの花の香りがした。彼女の視線が、「絢爛の壁」に向く。

「あ」

 どうした? と彼は彼女に訊ねた。あれ、と彼女は指を立てる。

「見覚えのある人物が、いるぞ」

 どれ、と彼もまた彼女の指の先をたどる。……真っ赤な髪が、視界に入った。

「コルネル君か?」
「……だと、思う。あんな派手な髪、あんな悪趣味な配色を私は知らない」
「……何しに来たんだろう?……あれ?」

 彼らの共通の知り合いは、何げなく「絢爛の壁」にもたれかかる。ただし、その横には、ラーベル・ソングスペイが居た。

「……何か話しているようだけど」

 ソングスペイはそれまで読んでいた本を閉じていた。声が聞こえる訳ではないが、何かを話しているようなのは、見ていれば判る。

「知り合いなのだろうか? コルネル君は」
「だがこの間は、知らない様子だった。名を知らない知り合いという可能性もあるな」
「知り合いだったらどうだろう?」
「知り合いなのは、構わない。問題は、知り合いであるということを隠している場合だ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

処理中です...