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遭遇
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午前三時-
眩いネオンがまだ煌びやかに輝く都会から、おおよそ小一時間ほどの山道を登り詰めると、その廃墟が見えてくる。
身の丈を軽く超えるほどもある草木に覆われたその建物は、かつてフレンチレストランを併設した高級ホテルの面影など微塵もなく、ただひっそりと漆黒の闇の中に佇んでいる。
そのエントランスと思しき広場に連なる車一台分ほどの一本道を、1人の男が今にも倒れそうなほどの前屈姿勢で登ってくる。
「…なんで…ハァ、ハァ…なんで俺が…」
肩で大きく息を切らし、膝に両手をつきながら、この真夜中の闇の中を歩いてくるのは、山本虎徹という名の男である。
プロレス好きの父親が往年のレスラーにちなんで名付けたものだが、名前に違わず大柄な暴れ者に成長してしまい、いわゆる反社に所属するヤクザ者である。
「ハァ…ハァ…こんな夜中に、山登りなんてせにぁならんの」
あたりを照らすのはそこいらで適当に手に入れた安物の懐中電灯だけなので、余計に足元が覚束無い。
「ええい、クソ!ホンマにこの道でおうとるんかいのう…」
と、虎徹のズボンから携帯のけたたましいベルが鳴り響く。
「ハイ、虎徹です」
「オウ、コテツか!わりゃあ今どこにおるんじゃ」
電話の主は虎徹の兄貴分で、若頭の中川からであった。
「アニキ…ドコちゅうて…言われとる廃墟を探しよるトコですけど」
「何ィ!まだ着いとらんのか!お前、今何時や思とるんじゃボケェ!夜が明けてまうぞ」
虎徹は舌打ちして、やにわに声も大きくなる。
「く、草がボーボーで真っ暗闇で、オマケにこんな手書きの地図なんかもあてになりゃせんのですよ!」
「ナビを使わんかいや、ナビを!」
「ワシのはガラケーですけぇ、そがな洒落たモンはついとりゃせんのですわ!」
一瞬の間が開き、中川の声のトーンが変わる。
「…おい、虎徹よ。おどれこの仕事、もしヘタ打ったらどうなるか分かっとるのォ」
「ど、どうなる言うて…」
「金は先払いしとるんや。手ぶらで帰ってくるような事があってみい。さすがに今度ばかりはタダじゃおかんぞ」
「…わ、分かっとりますよ。そんなモン」
「ほんだらサッサと廃墟行って、停めてある車ん中の武器見つけて持ってこんかいや!ガキでも出来るつかいやろが!」
「わ、分かりましたけえ!ぎゃーぎゃー言わんと待っとってつかぁさいや!」
虎徹はまだ何かまくし立てる中川を無視して、携帯の切りボタンを力一杯押し込んだ。
「何も知らんと…おどれが行けや…」
ブツクサ言いながら、携帯をポケットにねじ込むと懐中電灯を照らしながら山道を登って行った。
――――――――――――――――――――
「あっ!あのガキ切りくさった!」
大阪南部にある郷膳組の組事務所では応接セットにふんぞり返った中川が一方的に切られたスマホの画面を睨みつけている。
「もうじき戦争が始まるちゅーのに!ホンマあの糞ガキが」
中川は側にいる若い組員を「おい!」と呼びつける。
「ノミとハンマーの用意しとけや」
「えっ…ノ、ノミですか…それは…」
「ええから持ってこいや!」
「は…ハイっ!」
「マナ板も忘れんな!」
組員は戸惑いつつも事務所の奥へと小走りに向かう。
「おい、風呂、沸いとんのか」
「へぇ、用意しとります!」
組員が向こうから返事するのを聞き、立ち上がると
「…あのガキ、ヘタうちやがってみい、しっかりケジメ付けさしたるからな」
ネクタイを緩めながら部屋を出ていった。
――――――――――
静まり返った闇夜の山道に、虎徹の「ハァハァ」という荒い息吹と草木を分ける音だけが鳴り響いている。
「…ったく、どこにあるんじゃ~廃墟ォ~」
さらに山道を分け行っていくと「ん?」と何かに気付く虎徹。
暗闇の向こうに目を逸らすと、ぼんやりと巨大な黒い影が見えてくる。
「…あれかいや」
無数のツタが絡み合って佇むその建物は、切れかかる雲の合間から時折顔を出す月の明かりに照らされて、いっそう不気味な雰囲気を醸している。
「オバケでも出そうじゃのう…」
エントランスの中ほどまで入り込んできた虎徹は、自分の発した言葉に怖くなり、もう一度
「オバケ!?」
と呟くと、辺りをキョロキョロと見回しながら足早に奥へと進んで行った。
「アァ~嫌じゃ嫌じゃ…コワイコワイ…クルマクルマ…黒のクラウン…と」
かつての駐車場であったような所を恐る恐る進んで行くと、奥まったところにぽつんと1台だけ黒い車が停まっている。
廃墟に置かれている割には、最近停められたような佇まいを感じさせ、そのギャップがまた異様さを漂わせている。
「アレ…か?」
虎徹は黒い車を見つけると、傍に行き地図の裏面に書かれた文字を懐中電灯で照らす。
「ええと…世田谷310の…」
メモと車のリアナンバーを交互に照らし、突合する。
「…13と…おぉ、おうとるおうとる」
虎徹はスラックスのポケットをまさぐり、車のキーを取り出すと、運転席の鍵穴に差し込みまるで試乗車に乗るようにそうっとドアを開け乗り込んだ。
車内は整然と片付けられており、運転席、助手席、後部座席の下を覗き込んでみても紙屑ひとつ落ちていない。
虎徹は、空のダッシュボードを閉めながらふと閃いたように
「トランク…だわな。そりゃ」
と呟くと、トランクのレバーを引く。
武器の売買でシノギを拡げ、一本独鈷でそれなりの勢力を固めてきた郷膳組にあって、元々自衛隊崩れの虎徹にとっては、まさに願ってもない職場だった。
子供の頃から空気銃やエアライフルなどを万引きするなどして自宅の裏に隠し集めて、家族が寝静まったあとに布団から抜け出して、並べて悦に入る程の武器マニアだったので尚更である。
なので山登りのおつかいには辟易するものの、いざ様々な武器を拝めるとなると、途端に心が踊るのだ。
「どれ、どんな武器が入っとるんかのう」
先程まで悪態をついていた男とは思えないほど、子供のような満面の笑顔でワクワクを抑えようともせず両手を擦り合わせながら車体の後ろへ回り込む。
虎徹は僅かに開いたトランクに手をかけて、勢いよく持ち上げる。
中にはいかにも大事な積荷を隠すように、何か大きな物が分厚い毛布にくるまれている。
「おぉ、あったあった。さぁて…」
虎徹は、力任せに毛布の端を掴みひっぺり返す。
瞬間、その目に飛び込んできたのは、横たわった人間の姿だった。
「ウワァァァ!!」
虎徹はあまりの衝撃に、弾き飛ばされるように後ろに仰け反ると、そのままの勢いでその場に尻もちをついた。
「し、死体!?」
腰を抜かしたまま固まった両膝を、何とか折り畳んで起き上がると、恐る恐るトランクの中をもう一度覗き込む。
「…お、女…か?」
その人物の一糸まとわぬその身体は、トランクの狭さも相まって、くの字に横たわっている。
しかしながら、ダラリとした腕に隠されているものの、乳房から臀部にかけて丸みを帯びた体のラインと、何よりも金色の長い髪が女性であることを表している。
「な、なんで…こんなとこに、女の死体が…武器、武器は…」
トランクの中を見回すが、女と分厚い毛布以外に見当たりそうなものは無い。
「こ、この死体の奥に…あるんじゃろうか…」
虎徹は、生唾をごくりと飲み込むと、ブルブルと震える手を女の身体に伸ばした。
と、その指先が女の裸体に触れる寸前、死体と思っていた女の顔がゆっくりと振り返り、そして瞼が薄く開いた。
「えっ!」
虎徹の両目はこれ以上ないほど見開かれ、硬直した眼球は女の眼差しに吸い寄せられる。
と、同時に虎徹に気付いた女の瞳とくちびるも上下に大きく開き、言葉にならない悲鳴が届くと同時に、虎徹の両手がトランクの扉をバタンと閉めた。
「な…なんじゃー!なんじゃー!」
トランクの中からは内側から激しく扉を叩く音が女の怒号とともに広い駐車場に響き渡る。
「い、生きとる!この女、生きとる!」
虎徹はトランクを押さえつけながら、オロオロと辺りを見回す。
すると、エントランスの片隅から、サングラスに黒ずくめの男達が二、三人小走りでやって来る。
男達は虎徹の姿に気づき、何やら聞き取れない言葉を発すると、胸元から拳銃を取り出し、虎徹に向けていきなり発砲した。
乾いた発砲音が数発と、車のボディをかすめる金属音が鳴り響く。
「オォッッ!」
虎徹は咄嗟に身をかがめ、もんどり打って運転席に回り込む。
「マジかッ!マジかッ!」
車のサイドミラーには、男達が三人並んで隊列を組むように近づいて来る。
「な、なんじゃい、アイツら」
虎徹は上着の胸ポケットを探り、愛用のリボルバーを取り出すと、サイドミラーに映る男達の姿を確認する。
男達は口々に何かを叫びながら銃を構える。
瞬間、運転席の後部座席のドアが勢いよく開かれた。
男達は反射的にドアに向かって一斉に発砲する。
ドアにめり込む弾丸と粉々に弾ける窓ガラス。
と、その開かれたドアの下の隙間から、地面に伏して構えた虎徹のリボルバーが轟音とともに炸裂した。
三人の男達は、ほぼ同時に弾き飛ばされるように倒れ込むと、両手で足首や太ももを押さえてうずくまる。
手応えを感じた虎徹は、車の影から姿を現わすと、大きく息を吐いて男たちににじり寄る。
「な、舐めんなよ、コッチはもと自衛官じゃ」
うめき声を上げながら、怯えて見上げる男たちに銃を向けて狙いを定める。
「オゥ、おどれらぁ!どこのモンじゃ、オォ?」
顔を見合せて青ざめる男達。
「武器は!武器はどこないッ!オォッ!」
アドレナリンがドバドバ駆け巡る虎徹は、真ん中の男の胸ぐらを掴んで、銃口を額に押し当てる。
男はブルブルと震えながら、口を開くと
「…$$#¥-+$#"\☆ゝ灬⊂ゝ灬☆…」
と、理解不能な言葉を発した。
「あぁ!ロシアかッ!おどれ、ロシア人か!日本語で話さんかいっ!」
虎徹は怒号を浴びせながらその男の胸ぐらユサユサと振り回す。
と、奥の方から同じような風貌の男達が五人、十人と現れ駆け寄ってくる。
「こ、こらぁアカン!」
虎徹は、胸ぐらを掴んだ男を力づくで引きずりながら、
「乗れ!乗らんかい!」
と、後部座席に押し込もうとする。
男は必死に拒み逃れようとするが、こめかみに押し付けられた銃口に怯え、撃たれた足を抱えながら乗り込んだ。
新たに現れた男達は、手に手に自動小銃やマシンガンなどを携えて走りよってくる。
虎徹は運転席に飛び込むと、ポケットから取り出したキーを差し込み、エンジンをかけた。
車は激しくタイヤを軋ませ、右へ左へ大きく車体を揺らしながら急発進すると、駐車場の脇道からエントランスへ滑り出して行った。
後方からは自動小銃から放たれた無数の弾丸が車体をかすめる。そのうちの一発がリアウインドウに命中し粉々にくだけ散る。
後部座席の男はたまらず頭を抱え身をかがめる。
男達の一人がほかの者に何やら指示をすると、車が次々と飛び出していく。
虎徹の運転するクラウンは、真っ直ぐな山道をヘッドライトだけを頼りに疾走する。
「ど、どないなっとるんじゃー!」
後方から、ハイビームにした車が二台三台と追ってくる。
―――――――――――――――――――
組事務所では、風呂に入った中川の様子を伺うように、物陰からこっそり携帯を操作する男がいる。
虎徹の舎弟、昇である。
呼び出し音がなるばかりで、一向に繋がらないのをイライラしながら辺りを見回している。
「兄貴ィ…早う、早う出てくれや…」
と、雑音とともに虎徹の声が響く。
「ノボル!なんじゃい、こんな時に!」
「あ、アニキ!今どこよ!」
「追われとるんじゃ!ロシア人に、追われとるんじゃ!」
「ロ、ロシア!?ど、どういう事よ!」
「知るか!武器は無いし、女はおるし!どうなっとんじゃ!」
「女ァ!?女って何よ!ぶ、武器が無いて、そらマズイでアニキ!」
「何が!」
「カシラ、兄貴にケジメつけさす言うてる!指詰さす気ィやで!」
「ゆ、指ィ!?なんでじゃ!」
「と、とにかく兄貴、事務所には戻らん方がええ」
「アホゥ!コッチは指どころか、生きるか死ぬかじゃ!」
後方から猛スピードで追って来る車が、狭い一本道を強引に横に並び、幅寄せしてくる。
「オゥッ!」
激しく車体がぶつかり合い、火花が飛び散る。
さらに相手の車から銃弾が飛び交い、思わず身をかがめる虎徹。
「こんクソ共がァ…」
手に持った携帯を助手席に放り投げると、目いっぱいの力でブレーキペダルを踏み込んだ。
急激にに減速するクラウン、後部座席の男は前方に弾き飛ばされ、トランクの中の女は分厚い毛布にくるまって悲鳴をあげる。
虎徹は、前方に位置どった相手の車の給油口に狙いを定めて冷静にリボルバーの引き金を引いた。
弾は給油タンクに二発三発と命中し、轟音とともに発火すると、炎に包まれた車体は後続の車を巻き添えにして爆発した。
「へっ!ざまぁ見晒せ!」
虎徹はバックミラーで炎上する車を確認すると吐き捨てるように叫んだ。
「アニキ、アニキィ!大丈夫か!」
助手席の携帯から昇の声が響く。
虎徹は携帯を拾い上げ、
「ノボル!いつもの河川敷で合流じゃ!誰にも気付かれんな!」
「わかった!アニキ、気ぃつけて!」
「あー、あと、包帯と赤チンやら用意しとけや!ケガ人がおるからのう」
「りょ、了解!」
虎徹は携帯を上着にしまい込むと、チラリとバックミラーに目をやる。
「どえらい事になったぞ、こらぁ」
後方に猛もうと煙をあげる光景を後にして、虎徹のクラウンは闇夜に消えていく山道を疾走して下っていくのだった。
―――――――――――――――――――
廃墟のエントランスには、虎徹に撃たれた男ふたりが傷口を押さえてうずくまっている。
太ももを押さえていた男の方が、何とか立ち上がろうと壁に手をかけようとした時、目の前に立ちはだかるエナメルの革靴に気がついた。
見上げると、黒いロングコートに身を包んだ男たちが並んで見下ろしている。
「…$$#¥-+$#"\☆ゝ灬⊂ゝ灬☆…」
右側に立つ黒縁メガネの男が、片側の長髪の男の方へ何言か説明をしている。
長髪の男が痛々しくうずくまる2人を一瞥して、「…$#¥-…」と短く言葉を言い放つと、男たちはハッと息を飲んですがるように起き上がろうとする。
しかし懇願する暇もなく、黒縁メガネの男は胸元から引き出したサイレンサー付きの銃で男たちの脳天をぶち抜いた。
長髪の男は崩れ落ちた二人の最期を見届けると、表情を変えること無く踵を返し革靴の音を響かせながら去っていく。
黒縁メガネの男は右手に持った銃を目の前に掲げ、その威力と性能の良さを惚れ惚れする様に見上げたあと、ふと、地面に落ちている紙切れに気が付き、腰をかがめて拾い上げる。
なんだ?というふうに長髪の男が声をかけると、紙切れを渡した黒縁メガネの男が何事か説明する。
紙切れは、虎徹が持っていた組事務所から廃墟までの道のりを示した地図だった。
「…\☆ゝ灬⊂ゝ灬☆…」
長髪の男は紙切れを返しながら短く言葉をかけると、黒縁メガネの男は一礼して胸元にしまった。
――――――――――――――――――――――
すっかり月も沈んでしまった未明、立ち並ぶ工場の間を縫うように流れる川を跨ぐ国道の橋のたもとに黒い車が二台停まっている。
片方の車はリアガラスが砕けて無くなり、あらゆるドアに銃弾を浴びた虎徹が運転してきたクラウン。
そしてもう一台はよく手入れの行き届いたアルファードである。
舎弟の昇は、クラウンの悲壮な姿を見るなり呆気に取られている。
「はー。しかしアニキ、ようこんな車であの山道運転して来たな」
「オゥ、コッチも必死じゃけぇの」
虎徹は腕におった傷口に、昇が持ってきた赤チンをぶちまけている。
「さすが元自衛隊レンジャーやな」
「オゥ、昔とったアサツキっちゅーヤツよ」
「…キネヅカやろ」
虎徹は赤チンをポイッと昇に放る。
「オゥ、後ろのヤツ手当したれ」
昇は赤チンを受け取ると、後部座席のドアを開ける。
「コイツが謎のロシア組織か…いかにもやなぁ」
黒スーツの男は、座席の隅にうずくまりながら鋭い視線を昇に向けている。
昇はチラリと虎徹をみて「で、アニキ、さっき言うてた女ちゅーのは」
虎徹は昇に貰った缶コーヒーをゴクゴクと飲みながら「そん中じゃ」とアゴでトランクを指す。
「この中に…女…」
昇はトランクに耳を当て、恐る恐るコンコンとノックしてみる。
間髪入れず、トランクの中側から昇の鼓膜を破らんばかりの勢いで一発
「ドンッ!」
と叩き返して来た。思わず仰け反る昇。
「こわっ!おぉ怖!アニキ、こいつホンマに女なんか?」
「金髪に裸やからのぉ」
「はだかっ!?ア、アニキ、まさか…」
思わずコーヒーを吹き出す虎徹。
「アホゥ!も、毛布を剥がしたらちらっと見えたんじゃ!」
「…ちらっと?」
「オ、オゥ…ちらっとじゃ」
「まーそれはええとして、アニキ、どうするんや、コイツら」
「さてよ、どうしたもんかのぅ…」
「とにかく、武器のありかを聞き出さんことには」
「おぉ、そうじゃ、武器じゃ武器。コロッと忘れとったわい」
「ロシアの男は俺トコのガレージでガラ押さえとくとして、女の方は…裸のままって訳にいかんやろ。どっかで着るもん調達せんと」
「昇、オマエの女に借りてくれや」
「朱美か?あかんあかん。アイツは組と繋がってるから。もう既に連絡いってるやろ」
「オマエの行きつけのスナックの女とかおらんか」
「いやぁどいつも口が軽そうやもんなァ。アニキこそ誰かアテないんかいな」
「アテのぉ…こんな時間では…」
虎徹は腕組みして夜空を見上げ考え込むのだった。
――――――――――――――――――――――
道頓堀川にネオンが反射して、人影もまばらになった深夜の大阪ミナミの街並み。
川沿いに埋もれたように立ち並ぶ雑居ビルの一室だけ明かりが灯っている。
古めかしい摺りガラスには「オーサカアニメスタジオ」とロゴが付けられている。
アフロヘアーにカラフルなフーディを着た小太りのサンペーは、狭苦しいオフィスに雑然と並んだデスクに突っ伏して、グーグーとイビキをかいている。
奥の窓際のデスクには、ノーネクタイのワイシャツにベストを合わせた白髪混じりの一見ダンディ風な男が、アニメのセル画を両手に掲げ交互に見比べたりしながら口を開く。
「ねぇ、チェリーちゃん、このキャラの髪の色指定ってさぁ?もうちょい栗色じゃなかったァ?」
編集長の梅田がおネエ口調の声を掛けるが、長い髪を後ろに束ねたメガネ姿のチェリーと呼ばれた女性は、無言のまま一心不乱にパソコンの画面を見ながらキーボードを叩いている。
「ねぇ、チェリーちゃんってば」
チェリーは短く「チッ」と舌打ちして
「あってますよォ、それで」
と、梅田の方を見ることもせず、面倒臭そうに答える。
「ホントぉ?なーんか違うような気がするんだけどォ。アタシの目が疲れてんのかしら」
目をゴシゴシ擦る梅田に向かって
「編集長、寝た方がいいですよォ、もう年なんだから」
と、視線も送らず言い放つチェリー。
「何よォ!人をババアみたいに言って!」
憤慨する梅田に、チェリーは小声で「ジジィだろ」と呟く。
「でもなーんか違うような気がするのよねぇ」
「締切いつだと思ってるんですか。今からそんなの直してたら間に合いませんよ」
と、隣のデスクの電話がけたたましく鳴り響く。
サンペーは一瞬寝返りを打つが、向きを変えてお構い無しに眠り続ける。
すると、「チッ」と舌打ちがしたと同時に、サンペーのイスに「ドンッ」と隣の席から足が飛ぶ。
「ちょっとォ!サンペー!電話よっ!」
ヨダレを垂らしながら、慌てて起き上がるサンペーは席を跨いで受話器をとる。
「…は、ハイ、モシモシ…オーサカアニメ…」
チェリーは寝起きでヨタ付くサンペーの身体を「チッ」と舌打ちしながら邪魔そうに押し退ける。
「…ハァ、ハイ?…えーと、どちら様ですか?ええ?サクラコォ?」
咄嗟に、サンペーの方をキッと見るチェリー。
「…ハァ、ちょっとお待ちください…」
サンペーは受話器の口を押さえて戸惑っている。
「あのォ…チェリーさん。…なんかァ、やたら太い声の人がウチのサクラコおりますかァ、なんて言ってるんですけど…間違い電話ッスかね」
チェリーは部屋の奥に座る梅田の方へ視線を向ける。
梅田は眉間に皺を寄せ、困惑したような表情を浮かべてチェリーを見つめている。
チェリーはサンペーから無言で受話器を受け取ると「もしもし…」と応答する。
サンペーは電話で話すチェリーと、心配そうに見る梅田を交互に見ながら、キョトンとした表情を浮かべている。
――――――――――――――――――――――
東の空はすっかり白んできて、繁華街の路上に積み上げられた昨夜の喧騒の名残であるゴミ袋に無数のカラスの群れが群がっている。食いぶちに溢れた力の無いカラス達は恨めしそうな鳴き声をあげながら大阪ミナミの上空を彷徨っている。
オーサカアニメが入居する雑居ビルには、地下に駐車場が備えてある。薄暗いあかりのついた駐車場の奥に、ボロボロのクラウンと昇のアルファードが並んでいる。
クラウンのボンネットに腰掛けた虎徹は、口に咥えたマルボロを肺いっぱいに吸い込むと、低い天井に向かって煙を吐き出している。
舎弟の昇は上階から続く階段からチェリー達が降りてくる姿を確認すると、虎徹の肩をトントンと叩く。
虎徹はおもむろに振り返ると、満面の笑みを浮かべながら「ヨォっ!」と手を挙げる。
「いやいや、こんな時間に、スマンのぉサクラコ」
チェリーは答えることもなく険しい表情を浮かべて虎徹を見ている。
そのうしろから、梅田がイソイソとあらわれる。
「まァまァ、お久しぶりィ」
虎徹は梅田に気づくと、深々と頭を下げる。
「おぉ、オカマの社長さん!いつもウチのサクラコがお世話になっちょります」
「もう、オカマは余計なのよっ!」
梅田の肩をトントン叩くサンペー。
「編集長、編集長、この人とチェリーさん、どういう関係?」
「この人は虎徹さんっていって、チェリーちゃんのお兄さんよ」
「えぇっ!チェリーさんのお兄さん!?全然似てない」
「オゥ、まァ兄妹言うても一応腹違いならぬ種違いじゃからの」
「いやーね、そういうのは隠しとくのよ。にしてもどうなさったの?こんな時間に」
「えろうすんません、いや、のっぴきならん事情ができましてのぅ。堪えてつかぁさいや」
チェリーは虎徹が喋る度に眉間に皺を寄せて、訝しげに睨みつけている。
「サクラコ、ほいで、持ってきてくれたかのう、電話で話したモンは」
「…ジャージしかないわよ。下着はコンビニで買ってきたけど」
「充分!充分じゃ。手間かけたのう、仕事中じゃいうのに」
「……」
「じゃけんどお前、こがな朝方まで仕事しちょるんか」
「…ていうかさあ。何なのさっきから」
「うん?」
「つかあさいとか、じゃけんとか。超気持ち悪いんだけど」
虎徹はキョトンとして「何がじゃ?」と答える。
「アンタ関東出身じゃない。ここは大阪だから関西弁ならまだ分かるけど、全然違うよね?」
隣で聞いていた昇が慌てて割って入る。
「アァ…妹さん、チェリーさん。アニキ、昔のヤクザ映画に今ハマってまして…それで広島弁がすっかり身についてしもて」
「あらヤダ、そういえば何か言葉がおかしいと思ってたのよ」
「ばっかじゃ無いの。映画に影響されて方言うつるだなんて。子供じゃあるまいし」
「何がじゃ!ヤクザがヤクザ映画見て何が悪いんなら!」
「だからそれが気持ち悪いのよ!」
「オマエ!たった一人の兄ちゃんに向かって!」
「まあまあまあ、アニキもチェリーさんも…」
「黙っとけ!なんじゃお前は!気安くチェリーさんとか!オレの妹やぞ!そんでチェリーってなんじゃい」
「そこォ?」
後ろでやり取りを聞いていたサンペーが挙手して見を乗り出す。
「ハイハイハイ!それ僕がつけたんです。サクラコさんだからチェリーさん」
「…サクラコじゃからチェリー…どういう事じゃい」
虎徹は訝しげにサンペーを睨むと、後ろに控える昇に問いただす。
「…いや、だから桜っちゅーのは」
昇が説明するのをニコニコ笑顔で遮るサンペー。
「チェリーは日本語でさくらんぼでしょ?サクラの子、さくらんぼ、チェリーさん」
「…サクラの子が、さくらんぼ…?」
未だピンと来ない虎徹に困惑する昇。
「な、なんで…」
「説明しても分かんないわよ。どうせ学がないんだから」
ほくそ笑んで言い放つチェリーに憤慨する虎徹。
「誰がじゃ!誰が学がないんじゃい!」
「で、あと編集長は梅田だからプラムちゃん」
「ヤダァ、かわいいッ!」
楽しげにやり取りする梅田とサンペー。
「黙っとけ!梅干しみたいな顔しやがって」
「誰が梅干しの顔よっ!」
賑やかな喧騒を破るように、クラウンのトランクから
「ドンッ!」
と、打ち鳴らす音が響く。一同一瞬で静まりかえる。
「そうじゃ、金髪女のことすっかり忘れとったわい」
トランクの中からはけたたましい金切り声が響いている。
「うわー、騒いどる騒いどる」
「なんて言ってんのかしらね。日本語じゃないものね」
と、耳を澄ます梅田。
「ロシア語じゃ。誰かロシア語分かるやつおらんのかい」
「居るわけ無いじゃないの、ロシア語なんて」
サンペーはジーパンのポケットからスマホを取り出す。
「これ使ったらどうですか?翻訳アプリ」
「アラほんと、いいんじゃない?」
「なんじゃい、それは」
虎徹、サンペーのスマホを覗き込む。
「これをこうやって立ち上げて…ロシア語と…」
サンペーは手馴れた手つきでアプリを操作する。
「はい。なんか喋ってみてください」
「わ、わしがァ!?」
顔の前に突き出されて身構える虎徹。
「なんでもいいですよ。聞きたいこととか」
「オ、オゥ…」
虎徹は「ゴホンゴホン」と喉の調子を整える。
「あー、…その中の姉ちゃんよ、アンタがどこのどいつか、そんなモンはどうでもええんじゃがの、アンタが乗っとる車に武器があったはずじゃが、アレが見つからんとワシが困るんじゃ。ワシは若頭のアニキに言われて…あ、ワシの名前は山本虎徹言うんじゃがの、何で虎徹っちゅー名前になったかと言うと…」
「長い長い!もっと簡潔に!」
「ど、どう言えばええんじゃ!」
虎徹とサンペーのやり取りを見ながら呆れたようなため息をつくチェリー。
「そんな気持ち悪いエセ広島弁がちゃんと翻訳される訳ないじゃない」
「う、うるさいわい!オゥ昇、オマエやれ!」
「お、俺ェ?」
渋々スマホを受け取る昇に、何故か「頑張って!」と声援を送る梅田。苦笑いで答える昇。
「…こんにちわ」
昇がおずおずと話すと、スマホがワンテンポ遅れて「スパシーバ」と答える。
昇は咄嗟にクラウンのトランクにスマホを向けるが、トランクからの反応はない。
「こんにちわ、こんにちは」
「スパシーバ、スパシーバ」
「こんにちわこんにちわって、万博か、お前は」
「シッ!黙って!」
イタズラっぽく笑う虎徹をたしなめる梅田。昇が続けて言う。
「ぶ、武器は何処だ」
「Где оружие?」
スマホからの問いかけに、なんの反応もなくシーンと静まり返る駐車場。
途端に自信が無くなる昇。
「聞こえてんねやろか、アニキィ」
「ど、どうじゃろうの…」
「通じてるのかしら、ロシア語」
「あの…ていうか、ホントにロシア人なんですか?中の人」
サンペーの素朴な問いかけに、皆がハッとする。
「そ、そうや、アニキそもそも何でロシア人なんや?」
「え?…そりゃオマエ、武器の取引って言ったらロシア人に決まってるじゃろ」
「エェ⁉︎そんな理由なのォ?」
「おいおいおい、アニキまじかいな」
「金髪じゃし、そんな風に見えたんじゃ!もうええわい!か、貸せっ!」
虎徹、たまらず昇からスマホをひったくる。
「おいっ!アンタはどこの人だ!何語で喋ったらいいんだ!」
「Эй! Откуда ты? На каком языке мне говорить?」
スマホから虎徹の言葉を翻訳したロシア語が虚しく響く。
「だからロシア人じゃなかったら意味ないから」
呆れたように梅田が言うと
「オマケに広島弁じゃ無くなってるし」
と、あわせてチェリーが引き継ぐ。
「アニキ、と、とりあえず服渡してやったら。トランク開けて」
「オ、オゥ、そうじゃの。おい、サクラコええか」
「アタシィ!?アタシが渡すの!?」
「お前しか女がおらんじゃない。ワシら全員男じゃけえ」
「怖いから嫌よォ!梅さんやってよ!」
「アタシだって怖いわよォ!それに男だし!」
「オカマじゃない!女みたいなもんでしょ!」
「なによ!さっきはジジィって言ってたじゃないの!」
「渡すだけ。パッと開けて渡すだけじゃ。ワシも昇もついとるけぇ。オゥ、昇」
昇、やにわに腰から拳銃を取りだし身構える。
ギョッとするチェリーたち。
「ちょっとォ!そんなの出さないでよ!一般人の前で!」
思わず声を荒らげる梅田。
「あーもう、わかったわよ」
服の入ったユニクロの紙袋を手に取るチェリー。
ソロリソロリと車のトランクに近づく。
「ゆっくり、ゆっくりな。開けるぞ…」
虎徹がトランクのレバーを引くと、ボンと軽やかな音と共に扉が僅かに開く。
一瞬の間ののち、突然トランクのドアが内側から弾かれるように勢いよく開いた。
すぐ側まで近づいていたチェリーは、思わず硬直する。
すぐさま、銃口をトランクに向ける昇。
すると、トランクの中から分厚い毛布を身にまとった女性がゆっくりと顔を覗かせた。
やや面長でシャープな鼻筋と切長の瞳が印象的だが、何よりも美しいロングの金髪が女神のようなオーラを纏っている。
虎徹は運転席のドア越しに生唾を飲み込みながら見守っている。
女性は辺りを二度三度見回すと、目の前で直立するチェリーをじっと見つめる。
「…あ、あの、これ…着るものです…良かったら」
恐る恐る、ユニクロの紙袋を差し出すチェリー。
サンペーは梅田の後ろに隠れて「この服を着てください」と、小声でスマホに話す。
「Пожалуйста, наденьте этот наряд.」
スマホから翻訳されたロシア語が流れると、それを女性に向けている。
女性は毛布から手を伸ばし、チェリーの手からそっと紙袋を受け取る。
梅田は「アラ、通じたのかしら」とキョトンとする。
虎徹は「ほれみろ、やっぱロシア人じゃ」と鼻を鳴らしている。
視線を落とし、袋の中を覗き込む女性。
「+$#"\☆ゝ灬⊂?」
私に?と言うような言葉をチェリーにかける。
チェリーは、思わずウンウンと頷いて服を着るようなジェスチャーを見せる。
女性は理解したのか、トランクの中でゆっくりと立ち上がった。
そのスラリとした長身が目の前に立ちはだかると、トランクの高さも相まって、チェリーはまるでローブを纏った自由の女神像を見上げているような錯覚を感じていた。
昇も同様に女性の神々しい姿に魅了されて、自然と銃を持つ手もだらりと下ろされている。
「アラァ…なんて綺麗な人」
梅田の呟く声に、ハッと我に返るチェリー。
「ちょ、ちょっと、みんな後ろ向いて後ろ!ほら、アンタも!」
ドアにもたれてボーッとしていた虎徹も「あ…ス、スマン」と慌てて後ろを向く。
女性は身にまとっていた毛布をストンと落とし、紙袋から取りだした服を身につけている。
チェリーは辺りを監視するかのようにキョロキョロと見回しながら、頃合いを見て女性の方を振り返る。
「あ……」
着替え終わった女性を見て、思わず絶句するチェリー。
その上下ピンクのジャージは、小柄なチェリーと比べて明らかにサイズがあっておらず、袖も裾も七分丈どころか五分丈のように短く、オマケに胸の全面に有名なネコ型ロボットが大きくプリントされている。
「終わった?目開けるわよ?」
痺れを切らした梅田が振り返り、息を飲む。
「…アラまァ、サイズが…」
サンペーが「サイズ…というか…」と呟くと隣の昇が「ドラえもん…て」と引き継ぐ。
虎徹も前に回って来て困惑の表情を浮かべる。
「サクラコよ…お前どんなセンスしとるんじゃ」
「そっ、それしか会社に置いてなかったのよ!寝巻き用よ寝巻き!ユニクロのワゴンセールで買ったの!新品なのよ!」
「あのオカマが給料ケチりよるんじゃろう。あんちゃんがもっとエエの買うたるわい」
「い、いいわよ…別に」
金髪女性は両手を広げて自分の姿をまじまじと見る。
「+$#"\☆ゝ灬⊂?」
何やらチェリーに向かって問いかけている。
「え…なに、分かんない」
「ありがとうって、お礼言ってるのよ。きっと」
梅田がチェリーの肩を抱いて、ニッコリ微笑む。
「そんな…いいのよ」
チェリーも照れくさそうに笑顔を浮かべる。
女性は涼しい顔のまま虎徹の方を向くと、こちらに呼び寄せるように虎徹に手招きをする。
「へ?ワシか?」
戸惑う虎徹に、早く来いというふうに大きく手招きをする。
「な、何の用かいの」
虎徹が女性の前まで近づくと、女性は俯いて自分の耳の後ろを人差し指で抑え始めた。
次の瞬間、女性の耳の中からほのかなオレンジ色の光が溢れ出した。
「わ、何なに?何か光ってない?」
「光ってます!耳の中が光ってます!」
初めて目にする光景に興奮する梅田とサンペー。
チェリーも目を丸くして両手で口を抑えている。
「なんじゃ…どないなっとるんじゃ」
「+$#"\☆ゝ灬⊂?」
女性は、虎徹に向かって口を大きく開け、何か喋れというようなジェスチャーをしている。
「どうすれば…ええんかいの」
「喋るのよ!その人に何か喋って!」
梅田が虎徹に声をかける。
「喋る言うても…何を…」
「自己紹介でも何でもいいから!」
女性のジェスチャーもじれったそうに大きくなる。
「さっきの続きじゃが…ワシの名前は山本虎徹言うて、何で虎徹かと言うとプロレス好きのオヤジがレスラーから取ってつけたんじゃが…」
ちらっと梅田の方を見る虎徹。
梅田は「続けて、続けて」と促す。
「まァワシのことはどうでもええんじゃが、とにかくアンタの乗っとった車に武器があったはずなんじゃ。それを持ち帰らんと、わしゃ兄貴にケジメ取らされて、指詰めらなあかんのじゃ」
「ヤダ!怖い」
「うえ~痛そう…」
恐れおののく梅田とサンペー。
「さっきアンタに服を渡した女はワシの妹でサクラコ言うて、まぁ、ここではチェリーと呼ばれとるそうじゃが、ワシが痛い思いするとアイツも辛いじゃろう。種違いとはいえ、たった一人の妹を悲しませたくないんじゃ」
梅田は虎徹の話にうんうんと頷いて、微かに涙ぐんでいる。
「えらいわ、虎徹っちゃん…ねぇ」
「…そ、そうすか?」
「何とか、武器のありかを教えてくれんかのう」
と、金髪女性の耳の中から放たれたオレンジ色の光が淡いグリーンに変わった。
「あら!色が変わったわ。補聴器か何かかしら」
「聞き取れたんすかね?」
女性は固唾を飲んで見守る虎徹たちをゆっくりと見回すと、目を閉じて大きく深呼吸する。
そして、喉に手を当てて二度三度小さな咳をする。
「ウンッウンッ。アーアーアー」
女性は柔和な表情を浮かべて虎徹を見つめる。
「…コテツ、といったか」
突然日本語を発した女性に一同驚愕する。
「しゃ、喋った!」
「え!何でなんで?」
「ホラァ、やっぱりあの補聴器よ!」
虎徹は思わずゴクリと生唾を飲み込んだ。
「オゥ、そうじゃ。ワシの名前は虎徹じゃ」
ようやく言葉が通じて虎徹の顔に笑みが浮かぶ。
女性は穏やかな表情のまま、言葉を続ける。
「一番声の大きい、お前の声をサンプリングさせてもろうた」
「…えっ、サンプリング…」
「イントネーションが…」
「も、もろうた?」
皆、女性の発声に口々に違和感を感じている。
「これでおどれらの言語も理解できるし、話すことも出来る。ほいじゃけ…」
「…ほいじゃけ」
穏やかだった女性の表情が一瞬で一変し、顔を虎徹の方へ向けて、まるで夜叉の如く睨みつける。
「二度とその汚ったない顔をワシのそばに近づけんな!」
笑顔を浮かべていた虎徹の表情が凍りつく。
梅田は女性のあまりの豹変ぶりに思わずよろけてサンペーの腕にしがみつく。
「な、なんちゅう…口を聞くんじゃ。アンタが喋れ言いよるから…」
「それとお前!」
女性はくるりと向き直り、昇を睨みつける。
「は、ハイッ…!」
あまりの勢いに思わず直立する昇。
「さっきワシに銃を向けたじゃろ…」
「あ、いやアレは…」
「ええか、今度やったらぶち殺しちゃるけえのお!」
「えぇ…ぶ、ぶち殺す…」
返す言葉もなく、うなだれる昇。
「サンプリングって、方言まで移っちゃうんですかね…」
「よりによって虎徹ちゃんのエセ広島弁だなんて…」
ヒソヒソと耳打ちし合う梅田とサンペー。
チェリーは、女性に気付かれないように背を向けてソロリソロリと離れようとする。
「オイ、女」
しかし呼び止められ「ハ、ハイッ!」と背筋を伸ばす。
「チェリーかサクラコか、どっちで呼べばええんじゃ」
「…あ、あのォ…じゃ、チェリーで…」
「この服はなんなら。子供用か、それともこんなぁのサイズか」
「…やっぱし…アノ、ワタシ用です、一応…」
「この柄はなんじゃい。タヌキかい」
「いや、あのォ…」
梅田とサンペーは目を丸くする。
「え、ドラえもんを知らないの!?今どきロシア人でも知ってるわよね」
「いや、知っててタヌキって言ってるのかも。ドラえもんのテッパンネタじゃないすか」
「初めて見る動物じゃ。コレ、もろうてええんかいのォ」
「動物って!やっぱ知らないッ!」
「しかも気に入ってる!」
チェリーは恐縮してぎこちなく笑う。
「ど、どうぞどうぞ…そんなで良ければ…」
虎徹は、苦々しい表情を見せながら女性を睨み付けている。
「オイ、女ァ!さっきから黙って聞いとったら調子に乗りよって」
鼻息荒く激怒する虎徹を涼しい顔で見据える女性。
「何を偉そうに言いよるんなら!はよう武器のありかを言わんかいや!オゥッ!」
顔面を間近に近づけて恫喝する虎徹。
「…言ったじゃろ。二度とその汚い顔を…」
女性はユラリと右手を胸元まで掲げ、手のひらを虎徹の方へ向ける。
「ワシに向けるなとッ!」
叫ぶと同時に、掌から強烈な衝撃波が発せられた。
虎徹の身体は天井まで弾かれ、その勢いのまま呆然と突っ立った昇もろとも駐車場の端まで吹き飛ばされた。
唖然とするチェリーと梅田、サンペー。
「ええかァ!おどれらァ!よう聞けェ!」
女性はクラウンのトランクの中でスックと立ちはだかり、まるで独裁者のように振る舞う。
背中には非常口の赤いライトが反射して照らされて全身がユラユラと立ち上って見える。
「ワシの名前はリーリウム!おどれらとは違う世界の国の女王じゃ!」
「リ、リーリウム…!?」
「違う…世界の女王…!?」
チェリーは何か、自分の知らない未知の存在を感じている。
「どういう事ォ!?」
「あれですか、異世界って事ですかね」
「異世界って!?ちょっとォ、マンガやアニメじゃ無いんだからァ」
「ワシはある目的を果たすために、この世界にやって来た!大人しく服従すればおどれらに危害を加えるつもりは無いから安心せい!」
身体を寄せ合う梅田とサンペー。
「それと虎徹!」
虎徹は奥の方で腰に手を当てながら何とか立ち上がろうとしている。
「…な、なんじゃい」
「おどれの探しよる武器は、全部ワシが預かっとる」
「なんじゃとォ!?」
「一応言うとったるが、ワシの身に何かあったら武器の場所はわからんままじゃけの。ヘタなことはせん事じゃ。そこの舎弟にもよう言うてきかせとけや」
「武器を…武器を隠してどうするつもりじゃ」
「フン。安心せい。すべき事がすんだら返しちゃるわい」
「すべきことって…どういう事じゃ」
チェリーは女王の姿を見あげながら、自分の理解が追い付いて行かないものの、その圧倒的な存在感に胸の奥が高鳴っているのを感じていた。
「ねぇねぇ、チェリーちゃん」
気づくと、チェリーのすぐ側に梅田とサンペーが立っている。
「アンタこの前、企画書出して来たでしょ?アレどうしたの?」
「えぇ…?何ですか、こんな時に」
「アレですよ、異世界とタイムスリップと余命モノをドッキングさせたヤツ」
「あぁ…。でもアレ編集長、プロットもろくに読まずに却下したじゃないですか」
「あんまり現実離れしてたからよ。それよりサ、彼女、どう思う?」
「え?どうって……」
梅田は顎で女王を指し示す。
「面白いと思わない?異世界の女王さまなんて。嘘かホントかわかんないけど、アンタも何か思うところがあるんじゃない?」
「異世界の…女王」
女王の姿を見つめるチェリーの眼差しは、当初の恐れから猛烈な好奇心へと変わっていた。
梅田は「ハイハイハイッ!」と手を叩きながら虎徹と女王の間に割って入る。
「物騒な話はそれぐらいにして、あがってお茶でもしましょ。人に見られたらお互いマズイでしょ」
トランクの中に立つ女王は、天井に届くほど大きく伸びをして左右に二度三度首を鳴らす。
「オイ、オカマ。腹が減ったんじゃが、何か食う物はあるかいのう」
「ちょっと嫌ァねぇ。オカマはやめてくださる?せめて梅さんとかプラムちゃんって呼んでちょうだい」
「そうなんか?虎徹の語録にはお前はオカマだけしか無いようじゃがの」
「あの人はそういう失礼なヤツなの。あらヤダ、女王さま、裸足じゃない」
梅田はくるりと振り返り「ちょっと、サンペーちゃん!アンタの靴貸してさしあげて!」
「えぇッ!ぼ、僕の靴ですか」
「女王さまが裸足って訳にいかないでしょ!早く早く!」
女王もイタズラっぽく笑いながら「ホレ、サンペー、はようはよう」と急かしている。
「え~何で…」
しぶしぶと靴を脱ぎ、小走りで女王のもとへ届けるサンペー。
「水虫とか持っとらんじゃろうの」
女王はまるで召使いのような仕草で差し出した梅田の手を取り、トランクの中から降り立った。
「ウーバーイーツでも頼みましょうか。ねっ」
「なんじゃあそれは。食いもんか?」
「あーそれじゃ人数多いし、ガストのパーティプレートにしましょうよォ」
「アンタはいつも食べ過ぎなのよっ!」
梅田は楽しげに女王と腕を組み、三人並んで駐車場を出ていった。
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駐車場の奥では、依然として気を失い横たわったままの昇の頬を虎徹が引っぱたいている。
「オゥ、昇、起きんかい。しっかりせえや、ホレ」
虎徹にゆさゆさと揺さぶられ、ようやく気が付く昇。
「ウゥーン…アニキ、俺どうなったんや?」
「あの女の仕業じゃ」
「一体なんなんや、あの女」
「さぁな、じゃが只モンでないことは確かじゃ」
と、傍らに立つチェリーに気がつく。
「…大丈夫?」
「サクラコ…スマンのォ、えらい面倒に巻き込んでしもうて」
「ホント…マジで大迷惑なんだけど」
「申し訳ない…」
「…スンマセン」
うなだれる二人を呆れたように見るチェリー。
「腕、血が出てるじゃない」
「うん?こんなモン、ちょっとかすっただけじゃ」
「…手当するから、事務所あがって」
チェリーはそう言い残すとスタスタ足早に去って行く。
虎徹と昇は支え合いながらヨロヨロと立ち上がり、重い足取りでチェリーのあとをついて行くのだった。
眩いネオンがまだ煌びやかに輝く都会から、おおよそ小一時間ほどの山道を登り詰めると、その廃墟が見えてくる。
身の丈を軽く超えるほどもある草木に覆われたその建物は、かつてフレンチレストランを併設した高級ホテルの面影など微塵もなく、ただひっそりと漆黒の闇の中に佇んでいる。
そのエントランスと思しき広場に連なる車一台分ほどの一本道を、1人の男が今にも倒れそうなほどの前屈姿勢で登ってくる。
「…なんで…ハァ、ハァ…なんで俺が…」
肩で大きく息を切らし、膝に両手をつきながら、この真夜中の闇の中を歩いてくるのは、山本虎徹という名の男である。
プロレス好きの父親が往年のレスラーにちなんで名付けたものだが、名前に違わず大柄な暴れ者に成長してしまい、いわゆる反社に所属するヤクザ者である。
「ハァ…ハァ…こんな夜中に、山登りなんてせにぁならんの」
あたりを照らすのはそこいらで適当に手に入れた安物の懐中電灯だけなので、余計に足元が覚束無い。
「ええい、クソ!ホンマにこの道でおうとるんかいのう…」
と、虎徹のズボンから携帯のけたたましいベルが鳴り響く。
「ハイ、虎徹です」
「オウ、コテツか!わりゃあ今どこにおるんじゃ」
電話の主は虎徹の兄貴分で、若頭の中川からであった。
「アニキ…ドコちゅうて…言われとる廃墟を探しよるトコですけど」
「何ィ!まだ着いとらんのか!お前、今何時や思とるんじゃボケェ!夜が明けてまうぞ」
虎徹は舌打ちして、やにわに声も大きくなる。
「く、草がボーボーで真っ暗闇で、オマケにこんな手書きの地図なんかもあてになりゃせんのですよ!」
「ナビを使わんかいや、ナビを!」
「ワシのはガラケーですけぇ、そがな洒落たモンはついとりゃせんのですわ!」
一瞬の間が開き、中川の声のトーンが変わる。
「…おい、虎徹よ。おどれこの仕事、もしヘタ打ったらどうなるか分かっとるのォ」
「ど、どうなる言うて…」
「金は先払いしとるんや。手ぶらで帰ってくるような事があってみい。さすがに今度ばかりはタダじゃおかんぞ」
「…わ、分かっとりますよ。そんなモン」
「ほんだらサッサと廃墟行って、停めてある車ん中の武器見つけて持ってこんかいや!ガキでも出来るつかいやろが!」
「わ、分かりましたけえ!ぎゃーぎゃー言わんと待っとってつかぁさいや!」
虎徹はまだ何かまくし立てる中川を無視して、携帯の切りボタンを力一杯押し込んだ。
「何も知らんと…おどれが行けや…」
ブツクサ言いながら、携帯をポケットにねじ込むと懐中電灯を照らしながら山道を登って行った。
――――――――――――――――――――
「あっ!あのガキ切りくさった!」
大阪南部にある郷膳組の組事務所では応接セットにふんぞり返った中川が一方的に切られたスマホの画面を睨みつけている。
「もうじき戦争が始まるちゅーのに!ホンマあの糞ガキが」
中川は側にいる若い組員を「おい!」と呼びつける。
「ノミとハンマーの用意しとけや」
「えっ…ノ、ノミですか…それは…」
「ええから持ってこいや!」
「は…ハイっ!」
「マナ板も忘れんな!」
組員は戸惑いつつも事務所の奥へと小走りに向かう。
「おい、風呂、沸いとんのか」
「へぇ、用意しとります!」
組員が向こうから返事するのを聞き、立ち上がると
「…あのガキ、ヘタうちやがってみい、しっかりケジメ付けさしたるからな」
ネクタイを緩めながら部屋を出ていった。
――――――――――
静まり返った闇夜の山道に、虎徹の「ハァハァ」という荒い息吹と草木を分ける音だけが鳴り響いている。
「…ったく、どこにあるんじゃ~廃墟ォ~」
さらに山道を分け行っていくと「ん?」と何かに気付く虎徹。
暗闇の向こうに目を逸らすと、ぼんやりと巨大な黒い影が見えてくる。
「…あれかいや」
無数のツタが絡み合って佇むその建物は、切れかかる雲の合間から時折顔を出す月の明かりに照らされて、いっそう不気味な雰囲気を醸している。
「オバケでも出そうじゃのう…」
エントランスの中ほどまで入り込んできた虎徹は、自分の発した言葉に怖くなり、もう一度
「オバケ!?」
と呟くと、辺りをキョロキョロと見回しながら足早に奥へと進んで行った。
「アァ~嫌じゃ嫌じゃ…コワイコワイ…クルマクルマ…黒のクラウン…と」
かつての駐車場であったような所を恐る恐る進んで行くと、奥まったところにぽつんと1台だけ黒い車が停まっている。
廃墟に置かれている割には、最近停められたような佇まいを感じさせ、そのギャップがまた異様さを漂わせている。
「アレ…か?」
虎徹は黒い車を見つけると、傍に行き地図の裏面に書かれた文字を懐中電灯で照らす。
「ええと…世田谷310の…」
メモと車のリアナンバーを交互に照らし、突合する。
「…13と…おぉ、おうとるおうとる」
虎徹はスラックスのポケットをまさぐり、車のキーを取り出すと、運転席の鍵穴に差し込みまるで試乗車に乗るようにそうっとドアを開け乗り込んだ。
車内は整然と片付けられており、運転席、助手席、後部座席の下を覗き込んでみても紙屑ひとつ落ちていない。
虎徹は、空のダッシュボードを閉めながらふと閃いたように
「トランク…だわな。そりゃ」
と呟くと、トランクのレバーを引く。
武器の売買でシノギを拡げ、一本独鈷でそれなりの勢力を固めてきた郷膳組にあって、元々自衛隊崩れの虎徹にとっては、まさに願ってもない職場だった。
子供の頃から空気銃やエアライフルなどを万引きするなどして自宅の裏に隠し集めて、家族が寝静まったあとに布団から抜け出して、並べて悦に入る程の武器マニアだったので尚更である。
なので山登りのおつかいには辟易するものの、いざ様々な武器を拝めるとなると、途端に心が踊るのだ。
「どれ、どんな武器が入っとるんかのう」
先程まで悪態をついていた男とは思えないほど、子供のような満面の笑顔でワクワクを抑えようともせず両手を擦り合わせながら車体の後ろへ回り込む。
虎徹は僅かに開いたトランクに手をかけて、勢いよく持ち上げる。
中にはいかにも大事な積荷を隠すように、何か大きな物が分厚い毛布にくるまれている。
「おぉ、あったあった。さぁて…」
虎徹は、力任せに毛布の端を掴みひっぺり返す。
瞬間、その目に飛び込んできたのは、横たわった人間の姿だった。
「ウワァァァ!!」
虎徹はあまりの衝撃に、弾き飛ばされるように後ろに仰け反ると、そのままの勢いでその場に尻もちをついた。
「し、死体!?」
腰を抜かしたまま固まった両膝を、何とか折り畳んで起き上がると、恐る恐るトランクの中をもう一度覗き込む。
「…お、女…か?」
その人物の一糸まとわぬその身体は、トランクの狭さも相まって、くの字に横たわっている。
しかしながら、ダラリとした腕に隠されているものの、乳房から臀部にかけて丸みを帯びた体のラインと、何よりも金色の長い髪が女性であることを表している。
「な、なんで…こんなとこに、女の死体が…武器、武器は…」
トランクの中を見回すが、女と分厚い毛布以外に見当たりそうなものは無い。
「こ、この死体の奥に…あるんじゃろうか…」
虎徹は、生唾をごくりと飲み込むと、ブルブルと震える手を女の身体に伸ばした。
と、その指先が女の裸体に触れる寸前、死体と思っていた女の顔がゆっくりと振り返り、そして瞼が薄く開いた。
「えっ!」
虎徹の両目はこれ以上ないほど見開かれ、硬直した眼球は女の眼差しに吸い寄せられる。
と、同時に虎徹に気付いた女の瞳とくちびるも上下に大きく開き、言葉にならない悲鳴が届くと同時に、虎徹の両手がトランクの扉をバタンと閉めた。
「な…なんじゃー!なんじゃー!」
トランクの中からは内側から激しく扉を叩く音が女の怒号とともに広い駐車場に響き渡る。
「い、生きとる!この女、生きとる!」
虎徹はトランクを押さえつけながら、オロオロと辺りを見回す。
すると、エントランスの片隅から、サングラスに黒ずくめの男達が二、三人小走りでやって来る。
男達は虎徹の姿に気づき、何やら聞き取れない言葉を発すると、胸元から拳銃を取り出し、虎徹に向けていきなり発砲した。
乾いた発砲音が数発と、車のボディをかすめる金属音が鳴り響く。
「オォッッ!」
虎徹は咄嗟に身をかがめ、もんどり打って運転席に回り込む。
「マジかッ!マジかッ!」
車のサイドミラーには、男達が三人並んで隊列を組むように近づいて来る。
「な、なんじゃい、アイツら」
虎徹は上着の胸ポケットを探り、愛用のリボルバーを取り出すと、サイドミラーに映る男達の姿を確認する。
男達は口々に何かを叫びながら銃を構える。
瞬間、運転席の後部座席のドアが勢いよく開かれた。
男達は反射的にドアに向かって一斉に発砲する。
ドアにめり込む弾丸と粉々に弾ける窓ガラス。
と、その開かれたドアの下の隙間から、地面に伏して構えた虎徹のリボルバーが轟音とともに炸裂した。
三人の男達は、ほぼ同時に弾き飛ばされるように倒れ込むと、両手で足首や太ももを押さえてうずくまる。
手応えを感じた虎徹は、車の影から姿を現わすと、大きく息を吐いて男たちににじり寄る。
「な、舐めんなよ、コッチはもと自衛官じゃ」
うめき声を上げながら、怯えて見上げる男たちに銃を向けて狙いを定める。
「オゥ、おどれらぁ!どこのモンじゃ、オォ?」
顔を見合せて青ざめる男達。
「武器は!武器はどこないッ!オォッ!」
アドレナリンがドバドバ駆け巡る虎徹は、真ん中の男の胸ぐらを掴んで、銃口を額に押し当てる。
男はブルブルと震えながら、口を開くと
「…$$#¥-+$#"\☆ゝ灬⊂ゝ灬☆…」
と、理解不能な言葉を発した。
「あぁ!ロシアかッ!おどれ、ロシア人か!日本語で話さんかいっ!」
虎徹は怒号を浴びせながらその男の胸ぐらユサユサと振り回す。
と、奥の方から同じような風貌の男達が五人、十人と現れ駆け寄ってくる。
「こ、こらぁアカン!」
虎徹は、胸ぐらを掴んだ男を力づくで引きずりながら、
「乗れ!乗らんかい!」
と、後部座席に押し込もうとする。
男は必死に拒み逃れようとするが、こめかみに押し付けられた銃口に怯え、撃たれた足を抱えながら乗り込んだ。
新たに現れた男達は、手に手に自動小銃やマシンガンなどを携えて走りよってくる。
虎徹は運転席に飛び込むと、ポケットから取り出したキーを差し込み、エンジンをかけた。
車は激しくタイヤを軋ませ、右へ左へ大きく車体を揺らしながら急発進すると、駐車場の脇道からエントランスへ滑り出して行った。
後方からは自動小銃から放たれた無数の弾丸が車体をかすめる。そのうちの一発がリアウインドウに命中し粉々にくだけ散る。
後部座席の男はたまらず頭を抱え身をかがめる。
男達の一人がほかの者に何やら指示をすると、車が次々と飛び出していく。
虎徹の運転するクラウンは、真っ直ぐな山道をヘッドライトだけを頼りに疾走する。
「ど、どないなっとるんじゃー!」
後方から、ハイビームにした車が二台三台と追ってくる。
―――――――――――――――――――
組事務所では、風呂に入った中川の様子を伺うように、物陰からこっそり携帯を操作する男がいる。
虎徹の舎弟、昇である。
呼び出し音がなるばかりで、一向に繋がらないのをイライラしながら辺りを見回している。
「兄貴ィ…早う、早う出てくれや…」
と、雑音とともに虎徹の声が響く。
「ノボル!なんじゃい、こんな時に!」
「あ、アニキ!今どこよ!」
「追われとるんじゃ!ロシア人に、追われとるんじゃ!」
「ロ、ロシア!?ど、どういう事よ!」
「知るか!武器は無いし、女はおるし!どうなっとんじゃ!」
「女ァ!?女って何よ!ぶ、武器が無いて、そらマズイでアニキ!」
「何が!」
「カシラ、兄貴にケジメつけさす言うてる!指詰さす気ィやで!」
「ゆ、指ィ!?なんでじゃ!」
「と、とにかく兄貴、事務所には戻らん方がええ」
「アホゥ!コッチは指どころか、生きるか死ぬかじゃ!」
後方から猛スピードで追って来る車が、狭い一本道を強引に横に並び、幅寄せしてくる。
「オゥッ!」
激しく車体がぶつかり合い、火花が飛び散る。
さらに相手の車から銃弾が飛び交い、思わず身をかがめる虎徹。
「こんクソ共がァ…」
手に持った携帯を助手席に放り投げると、目いっぱいの力でブレーキペダルを踏み込んだ。
急激にに減速するクラウン、後部座席の男は前方に弾き飛ばされ、トランクの中の女は分厚い毛布にくるまって悲鳴をあげる。
虎徹は、前方に位置どった相手の車の給油口に狙いを定めて冷静にリボルバーの引き金を引いた。
弾は給油タンクに二発三発と命中し、轟音とともに発火すると、炎に包まれた車体は後続の車を巻き添えにして爆発した。
「へっ!ざまぁ見晒せ!」
虎徹はバックミラーで炎上する車を確認すると吐き捨てるように叫んだ。
「アニキ、アニキィ!大丈夫か!」
助手席の携帯から昇の声が響く。
虎徹は携帯を拾い上げ、
「ノボル!いつもの河川敷で合流じゃ!誰にも気付かれんな!」
「わかった!アニキ、気ぃつけて!」
「あー、あと、包帯と赤チンやら用意しとけや!ケガ人がおるからのう」
「りょ、了解!」
虎徹は携帯を上着にしまい込むと、チラリとバックミラーに目をやる。
「どえらい事になったぞ、こらぁ」
後方に猛もうと煙をあげる光景を後にして、虎徹のクラウンは闇夜に消えていく山道を疾走して下っていくのだった。
―――――――――――――――――――
廃墟のエントランスには、虎徹に撃たれた男ふたりが傷口を押さえてうずくまっている。
太ももを押さえていた男の方が、何とか立ち上がろうと壁に手をかけようとした時、目の前に立ちはだかるエナメルの革靴に気がついた。
見上げると、黒いロングコートに身を包んだ男たちが並んで見下ろしている。
「…$$#¥-+$#"\☆ゝ灬⊂ゝ灬☆…」
右側に立つ黒縁メガネの男が、片側の長髪の男の方へ何言か説明をしている。
長髪の男が痛々しくうずくまる2人を一瞥して、「…$#¥-…」と短く言葉を言い放つと、男たちはハッと息を飲んですがるように起き上がろうとする。
しかし懇願する暇もなく、黒縁メガネの男は胸元から引き出したサイレンサー付きの銃で男たちの脳天をぶち抜いた。
長髪の男は崩れ落ちた二人の最期を見届けると、表情を変えること無く踵を返し革靴の音を響かせながら去っていく。
黒縁メガネの男は右手に持った銃を目の前に掲げ、その威力と性能の良さを惚れ惚れする様に見上げたあと、ふと、地面に落ちている紙切れに気が付き、腰をかがめて拾い上げる。
なんだ?というふうに長髪の男が声をかけると、紙切れを渡した黒縁メガネの男が何事か説明する。
紙切れは、虎徹が持っていた組事務所から廃墟までの道のりを示した地図だった。
「…\☆ゝ灬⊂ゝ灬☆…」
長髪の男は紙切れを返しながら短く言葉をかけると、黒縁メガネの男は一礼して胸元にしまった。
――――――――――――――――――――――
すっかり月も沈んでしまった未明、立ち並ぶ工場の間を縫うように流れる川を跨ぐ国道の橋のたもとに黒い車が二台停まっている。
片方の車はリアガラスが砕けて無くなり、あらゆるドアに銃弾を浴びた虎徹が運転してきたクラウン。
そしてもう一台はよく手入れの行き届いたアルファードである。
舎弟の昇は、クラウンの悲壮な姿を見るなり呆気に取られている。
「はー。しかしアニキ、ようこんな車であの山道運転して来たな」
「オゥ、コッチも必死じゃけぇの」
虎徹は腕におった傷口に、昇が持ってきた赤チンをぶちまけている。
「さすが元自衛隊レンジャーやな」
「オゥ、昔とったアサツキっちゅーヤツよ」
「…キネヅカやろ」
虎徹は赤チンをポイッと昇に放る。
「オゥ、後ろのヤツ手当したれ」
昇は赤チンを受け取ると、後部座席のドアを開ける。
「コイツが謎のロシア組織か…いかにもやなぁ」
黒スーツの男は、座席の隅にうずくまりながら鋭い視線を昇に向けている。
昇はチラリと虎徹をみて「で、アニキ、さっき言うてた女ちゅーのは」
虎徹は昇に貰った缶コーヒーをゴクゴクと飲みながら「そん中じゃ」とアゴでトランクを指す。
「この中に…女…」
昇はトランクに耳を当て、恐る恐るコンコンとノックしてみる。
間髪入れず、トランクの中側から昇の鼓膜を破らんばかりの勢いで一発
「ドンッ!」
と叩き返して来た。思わず仰け反る昇。
「こわっ!おぉ怖!アニキ、こいつホンマに女なんか?」
「金髪に裸やからのぉ」
「はだかっ!?ア、アニキ、まさか…」
思わずコーヒーを吹き出す虎徹。
「アホゥ!も、毛布を剥がしたらちらっと見えたんじゃ!」
「…ちらっと?」
「オ、オゥ…ちらっとじゃ」
「まーそれはええとして、アニキ、どうするんや、コイツら」
「さてよ、どうしたもんかのぅ…」
「とにかく、武器のありかを聞き出さんことには」
「おぉ、そうじゃ、武器じゃ武器。コロッと忘れとったわい」
「ロシアの男は俺トコのガレージでガラ押さえとくとして、女の方は…裸のままって訳にいかんやろ。どっかで着るもん調達せんと」
「昇、オマエの女に借りてくれや」
「朱美か?あかんあかん。アイツは組と繋がってるから。もう既に連絡いってるやろ」
「オマエの行きつけのスナックの女とかおらんか」
「いやぁどいつも口が軽そうやもんなァ。アニキこそ誰かアテないんかいな」
「アテのぉ…こんな時間では…」
虎徹は腕組みして夜空を見上げ考え込むのだった。
――――――――――――――――――――――
道頓堀川にネオンが反射して、人影もまばらになった深夜の大阪ミナミの街並み。
川沿いに埋もれたように立ち並ぶ雑居ビルの一室だけ明かりが灯っている。
古めかしい摺りガラスには「オーサカアニメスタジオ」とロゴが付けられている。
アフロヘアーにカラフルなフーディを着た小太りのサンペーは、狭苦しいオフィスに雑然と並んだデスクに突っ伏して、グーグーとイビキをかいている。
奥の窓際のデスクには、ノーネクタイのワイシャツにベストを合わせた白髪混じりの一見ダンディ風な男が、アニメのセル画を両手に掲げ交互に見比べたりしながら口を開く。
「ねぇ、チェリーちゃん、このキャラの髪の色指定ってさぁ?もうちょい栗色じゃなかったァ?」
編集長の梅田がおネエ口調の声を掛けるが、長い髪を後ろに束ねたメガネ姿のチェリーと呼ばれた女性は、無言のまま一心不乱にパソコンの画面を見ながらキーボードを叩いている。
「ねぇ、チェリーちゃんってば」
チェリーは短く「チッ」と舌打ちして
「あってますよォ、それで」
と、梅田の方を見ることもせず、面倒臭そうに答える。
「ホントぉ?なーんか違うような気がするんだけどォ。アタシの目が疲れてんのかしら」
目をゴシゴシ擦る梅田に向かって
「編集長、寝た方がいいですよォ、もう年なんだから」
と、視線も送らず言い放つチェリー。
「何よォ!人をババアみたいに言って!」
憤慨する梅田に、チェリーは小声で「ジジィだろ」と呟く。
「でもなーんか違うような気がするのよねぇ」
「締切いつだと思ってるんですか。今からそんなの直してたら間に合いませんよ」
と、隣のデスクの電話がけたたましく鳴り響く。
サンペーは一瞬寝返りを打つが、向きを変えてお構い無しに眠り続ける。
すると、「チッ」と舌打ちがしたと同時に、サンペーのイスに「ドンッ」と隣の席から足が飛ぶ。
「ちょっとォ!サンペー!電話よっ!」
ヨダレを垂らしながら、慌てて起き上がるサンペーは席を跨いで受話器をとる。
「…は、ハイ、モシモシ…オーサカアニメ…」
チェリーは寝起きでヨタ付くサンペーの身体を「チッ」と舌打ちしながら邪魔そうに押し退ける。
「…ハァ、ハイ?…えーと、どちら様ですか?ええ?サクラコォ?」
咄嗟に、サンペーの方をキッと見るチェリー。
「…ハァ、ちょっとお待ちください…」
サンペーは受話器の口を押さえて戸惑っている。
「あのォ…チェリーさん。…なんかァ、やたら太い声の人がウチのサクラコおりますかァ、なんて言ってるんですけど…間違い電話ッスかね」
チェリーは部屋の奥に座る梅田の方へ視線を向ける。
梅田は眉間に皺を寄せ、困惑したような表情を浮かべてチェリーを見つめている。
チェリーはサンペーから無言で受話器を受け取ると「もしもし…」と応答する。
サンペーは電話で話すチェリーと、心配そうに見る梅田を交互に見ながら、キョトンとした表情を浮かべている。
――――――――――――――――――――――
東の空はすっかり白んできて、繁華街の路上に積み上げられた昨夜の喧騒の名残であるゴミ袋に無数のカラスの群れが群がっている。食いぶちに溢れた力の無いカラス達は恨めしそうな鳴き声をあげながら大阪ミナミの上空を彷徨っている。
オーサカアニメが入居する雑居ビルには、地下に駐車場が備えてある。薄暗いあかりのついた駐車場の奥に、ボロボロのクラウンと昇のアルファードが並んでいる。
クラウンのボンネットに腰掛けた虎徹は、口に咥えたマルボロを肺いっぱいに吸い込むと、低い天井に向かって煙を吐き出している。
舎弟の昇は上階から続く階段からチェリー達が降りてくる姿を確認すると、虎徹の肩をトントンと叩く。
虎徹はおもむろに振り返ると、満面の笑みを浮かべながら「ヨォっ!」と手を挙げる。
「いやいや、こんな時間に、スマンのぉサクラコ」
チェリーは答えることもなく険しい表情を浮かべて虎徹を見ている。
そのうしろから、梅田がイソイソとあらわれる。
「まァまァ、お久しぶりィ」
虎徹は梅田に気づくと、深々と頭を下げる。
「おぉ、オカマの社長さん!いつもウチのサクラコがお世話になっちょります」
「もう、オカマは余計なのよっ!」
梅田の肩をトントン叩くサンペー。
「編集長、編集長、この人とチェリーさん、どういう関係?」
「この人は虎徹さんっていって、チェリーちゃんのお兄さんよ」
「えぇっ!チェリーさんのお兄さん!?全然似てない」
「オゥ、まァ兄妹言うても一応腹違いならぬ種違いじゃからの」
「いやーね、そういうのは隠しとくのよ。にしてもどうなさったの?こんな時間に」
「えろうすんません、いや、のっぴきならん事情ができましてのぅ。堪えてつかぁさいや」
チェリーは虎徹が喋る度に眉間に皺を寄せて、訝しげに睨みつけている。
「サクラコ、ほいで、持ってきてくれたかのう、電話で話したモンは」
「…ジャージしかないわよ。下着はコンビニで買ってきたけど」
「充分!充分じゃ。手間かけたのう、仕事中じゃいうのに」
「……」
「じゃけんどお前、こがな朝方まで仕事しちょるんか」
「…ていうかさあ。何なのさっきから」
「うん?」
「つかあさいとか、じゃけんとか。超気持ち悪いんだけど」
虎徹はキョトンとして「何がじゃ?」と答える。
「アンタ関東出身じゃない。ここは大阪だから関西弁ならまだ分かるけど、全然違うよね?」
隣で聞いていた昇が慌てて割って入る。
「アァ…妹さん、チェリーさん。アニキ、昔のヤクザ映画に今ハマってまして…それで広島弁がすっかり身についてしもて」
「あらヤダ、そういえば何か言葉がおかしいと思ってたのよ」
「ばっかじゃ無いの。映画に影響されて方言うつるだなんて。子供じゃあるまいし」
「何がじゃ!ヤクザがヤクザ映画見て何が悪いんなら!」
「だからそれが気持ち悪いのよ!」
「オマエ!たった一人の兄ちゃんに向かって!」
「まあまあまあ、アニキもチェリーさんも…」
「黙っとけ!なんじゃお前は!気安くチェリーさんとか!オレの妹やぞ!そんでチェリーってなんじゃい」
「そこォ?」
後ろでやり取りを聞いていたサンペーが挙手して見を乗り出す。
「ハイハイハイ!それ僕がつけたんです。サクラコさんだからチェリーさん」
「…サクラコじゃからチェリー…どういう事じゃい」
虎徹は訝しげにサンペーを睨むと、後ろに控える昇に問いただす。
「…いや、だから桜っちゅーのは」
昇が説明するのをニコニコ笑顔で遮るサンペー。
「チェリーは日本語でさくらんぼでしょ?サクラの子、さくらんぼ、チェリーさん」
「…サクラの子が、さくらんぼ…?」
未だピンと来ない虎徹に困惑する昇。
「な、なんで…」
「説明しても分かんないわよ。どうせ学がないんだから」
ほくそ笑んで言い放つチェリーに憤慨する虎徹。
「誰がじゃ!誰が学がないんじゃい!」
「で、あと編集長は梅田だからプラムちゃん」
「ヤダァ、かわいいッ!」
楽しげにやり取りする梅田とサンペー。
「黙っとけ!梅干しみたいな顔しやがって」
「誰が梅干しの顔よっ!」
賑やかな喧騒を破るように、クラウンのトランクから
「ドンッ!」
と、打ち鳴らす音が響く。一同一瞬で静まりかえる。
「そうじゃ、金髪女のことすっかり忘れとったわい」
トランクの中からはけたたましい金切り声が響いている。
「うわー、騒いどる騒いどる」
「なんて言ってんのかしらね。日本語じゃないものね」
と、耳を澄ます梅田。
「ロシア語じゃ。誰かロシア語分かるやつおらんのかい」
「居るわけ無いじゃないの、ロシア語なんて」
サンペーはジーパンのポケットからスマホを取り出す。
「これ使ったらどうですか?翻訳アプリ」
「アラほんと、いいんじゃない?」
「なんじゃい、それは」
虎徹、サンペーのスマホを覗き込む。
「これをこうやって立ち上げて…ロシア語と…」
サンペーは手馴れた手つきでアプリを操作する。
「はい。なんか喋ってみてください」
「わ、わしがァ!?」
顔の前に突き出されて身構える虎徹。
「なんでもいいですよ。聞きたいこととか」
「オ、オゥ…」
虎徹は「ゴホンゴホン」と喉の調子を整える。
「あー、…その中の姉ちゃんよ、アンタがどこのどいつか、そんなモンはどうでもええんじゃがの、アンタが乗っとる車に武器があったはずじゃが、アレが見つからんとワシが困るんじゃ。ワシは若頭のアニキに言われて…あ、ワシの名前は山本虎徹言うんじゃがの、何で虎徹っちゅー名前になったかと言うと…」
「長い長い!もっと簡潔に!」
「ど、どう言えばええんじゃ!」
虎徹とサンペーのやり取りを見ながら呆れたようなため息をつくチェリー。
「そんな気持ち悪いエセ広島弁がちゃんと翻訳される訳ないじゃない」
「う、うるさいわい!オゥ昇、オマエやれ!」
「お、俺ェ?」
渋々スマホを受け取る昇に、何故か「頑張って!」と声援を送る梅田。苦笑いで答える昇。
「…こんにちわ」
昇がおずおずと話すと、スマホがワンテンポ遅れて「スパシーバ」と答える。
昇は咄嗟にクラウンのトランクにスマホを向けるが、トランクからの反応はない。
「こんにちわ、こんにちは」
「スパシーバ、スパシーバ」
「こんにちわこんにちわって、万博か、お前は」
「シッ!黙って!」
イタズラっぽく笑う虎徹をたしなめる梅田。昇が続けて言う。
「ぶ、武器は何処だ」
「Где оружие?」
スマホからの問いかけに、なんの反応もなくシーンと静まり返る駐車場。
途端に自信が無くなる昇。
「聞こえてんねやろか、アニキィ」
「ど、どうじゃろうの…」
「通じてるのかしら、ロシア語」
「あの…ていうか、ホントにロシア人なんですか?中の人」
サンペーの素朴な問いかけに、皆がハッとする。
「そ、そうや、アニキそもそも何でロシア人なんや?」
「え?…そりゃオマエ、武器の取引って言ったらロシア人に決まってるじゃろ」
「エェ⁉︎そんな理由なのォ?」
「おいおいおい、アニキまじかいな」
「金髪じゃし、そんな風に見えたんじゃ!もうええわい!か、貸せっ!」
虎徹、たまらず昇からスマホをひったくる。
「おいっ!アンタはどこの人だ!何語で喋ったらいいんだ!」
「Эй! Откуда ты? На каком языке мне говорить?」
スマホから虎徹の言葉を翻訳したロシア語が虚しく響く。
「だからロシア人じゃなかったら意味ないから」
呆れたように梅田が言うと
「オマケに広島弁じゃ無くなってるし」
と、あわせてチェリーが引き継ぐ。
「アニキ、と、とりあえず服渡してやったら。トランク開けて」
「オ、オゥ、そうじゃの。おい、サクラコええか」
「アタシィ!?アタシが渡すの!?」
「お前しか女がおらんじゃない。ワシら全員男じゃけえ」
「怖いから嫌よォ!梅さんやってよ!」
「アタシだって怖いわよォ!それに男だし!」
「オカマじゃない!女みたいなもんでしょ!」
「なによ!さっきはジジィって言ってたじゃないの!」
「渡すだけ。パッと開けて渡すだけじゃ。ワシも昇もついとるけぇ。オゥ、昇」
昇、やにわに腰から拳銃を取りだし身構える。
ギョッとするチェリーたち。
「ちょっとォ!そんなの出さないでよ!一般人の前で!」
思わず声を荒らげる梅田。
「あーもう、わかったわよ」
服の入ったユニクロの紙袋を手に取るチェリー。
ソロリソロリと車のトランクに近づく。
「ゆっくり、ゆっくりな。開けるぞ…」
虎徹がトランクのレバーを引くと、ボンと軽やかな音と共に扉が僅かに開く。
一瞬の間ののち、突然トランクのドアが内側から弾かれるように勢いよく開いた。
すぐ側まで近づいていたチェリーは、思わず硬直する。
すぐさま、銃口をトランクに向ける昇。
すると、トランクの中から分厚い毛布を身にまとった女性がゆっくりと顔を覗かせた。
やや面長でシャープな鼻筋と切長の瞳が印象的だが、何よりも美しいロングの金髪が女神のようなオーラを纏っている。
虎徹は運転席のドア越しに生唾を飲み込みながら見守っている。
女性は辺りを二度三度見回すと、目の前で直立するチェリーをじっと見つめる。
「…あ、あの、これ…着るものです…良かったら」
恐る恐る、ユニクロの紙袋を差し出すチェリー。
サンペーは梅田の後ろに隠れて「この服を着てください」と、小声でスマホに話す。
「Пожалуйста, наденьте этот наряд.」
スマホから翻訳されたロシア語が流れると、それを女性に向けている。
女性は毛布から手を伸ばし、チェリーの手からそっと紙袋を受け取る。
梅田は「アラ、通じたのかしら」とキョトンとする。
虎徹は「ほれみろ、やっぱロシア人じゃ」と鼻を鳴らしている。
視線を落とし、袋の中を覗き込む女性。
「+$#"\☆ゝ灬⊂?」
私に?と言うような言葉をチェリーにかける。
チェリーは、思わずウンウンと頷いて服を着るようなジェスチャーを見せる。
女性は理解したのか、トランクの中でゆっくりと立ち上がった。
そのスラリとした長身が目の前に立ちはだかると、トランクの高さも相まって、チェリーはまるでローブを纏った自由の女神像を見上げているような錯覚を感じていた。
昇も同様に女性の神々しい姿に魅了されて、自然と銃を持つ手もだらりと下ろされている。
「アラァ…なんて綺麗な人」
梅田の呟く声に、ハッと我に返るチェリー。
「ちょ、ちょっと、みんな後ろ向いて後ろ!ほら、アンタも!」
ドアにもたれてボーッとしていた虎徹も「あ…ス、スマン」と慌てて後ろを向く。
女性は身にまとっていた毛布をストンと落とし、紙袋から取りだした服を身につけている。
チェリーは辺りを監視するかのようにキョロキョロと見回しながら、頃合いを見て女性の方を振り返る。
「あ……」
着替え終わった女性を見て、思わず絶句するチェリー。
その上下ピンクのジャージは、小柄なチェリーと比べて明らかにサイズがあっておらず、袖も裾も七分丈どころか五分丈のように短く、オマケに胸の全面に有名なネコ型ロボットが大きくプリントされている。
「終わった?目開けるわよ?」
痺れを切らした梅田が振り返り、息を飲む。
「…アラまァ、サイズが…」
サンペーが「サイズ…というか…」と呟くと隣の昇が「ドラえもん…て」と引き継ぐ。
虎徹も前に回って来て困惑の表情を浮かべる。
「サクラコよ…お前どんなセンスしとるんじゃ」
「そっ、それしか会社に置いてなかったのよ!寝巻き用よ寝巻き!ユニクロのワゴンセールで買ったの!新品なのよ!」
「あのオカマが給料ケチりよるんじゃろう。あんちゃんがもっとエエの買うたるわい」
「い、いいわよ…別に」
金髪女性は両手を広げて自分の姿をまじまじと見る。
「+$#"\☆ゝ灬⊂?」
何やらチェリーに向かって問いかけている。
「え…なに、分かんない」
「ありがとうって、お礼言ってるのよ。きっと」
梅田がチェリーの肩を抱いて、ニッコリ微笑む。
「そんな…いいのよ」
チェリーも照れくさそうに笑顔を浮かべる。
女性は涼しい顔のまま虎徹の方を向くと、こちらに呼び寄せるように虎徹に手招きをする。
「へ?ワシか?」
戸惑う虎徹に、早く来いというふうに大きく手招きをする。
「な、何の用かいの」
虎徹が女性の前まで近づくと、女性は俯いて自分の耳の後ろを人差し指で抑え始めた。
次の瞬間、女性の耳の中からほのかなオレンジ色の光が溢れ出した。
「わ、何なに?何か光ってない?」
「光ってます!耳の中が光ってます!」
初めて目にする光景に興奮する梅田とサンペー。
チェリーも目を丸くして両手で口を抑えている。
「なんじゃ…どないなっとるんじゃ」
「+$#"\☆ゝ灬⊂?」
女性は、虎徹に向かって口を大きく開け、何か喋れというようなジェスチャーをしている。
「どうすれば…ええんかいの」
「喋るのよ!その人に何か喋って!」
梅田が虎徹に声をかける。
「喋る言うても…何を…」
「自己紹介でも何でもいいから!」
女性のジェスチャーもじれったそうに大きくなる。
「さっきの続きじゃが…ワシの名前は山本虎徹言うて、何で虎徹かと言うとプロレス好きのオヤジがレスラーから取ってつけたんじゃが…」
ちらっと梅田の方を見る虎徹。
梅田は「続けて、続けて」と促す。
「まァワシのことはどうでもええんじゃが、とにかくアンタの乗っとった車に武器があったはずなんじゃ。それを持ち帰らんと、わしゃ兄貴にケジメ取らされて、指詰めらなあかんのじゃ」
「ヤダ!怖い」
「うえ~痛そう…」
恐れおののく梅田とサンペー。
「さっきアンタに服を渡した女はワシの妹でサクラコ言うて、まぁ、ここではチェリーと呼ばれとるそうじゃが、ワシが痛い思いするとアイツも辛いじゃろう。種違いとはいえ、たった一人の妹を悲しませたくないんじゃ」
梅田は虎徹の話にうんうんと頷いて、微かに涙ぐんでいる。
「えらいわ、虎徹っちゃん…ねぇ」
「…そ、そうすか?」
「何とか、武器のありかを教えてくれんかのう」
と、金髪女性の耳の中から放たれたオレンジ色の光が淡いグリーンに変わった。
「あら!色が変わったわ。補聴器か何かかしら」
「聞き取れたんすかね?」
女性は固唾を飲んで見守る虎徹たちをゆっくりと見回すと、目を閉じて大きく深呼吸する。
そして、喉に手を当てて二度三度小さな咳をする。
「ウンッウンッ。アーアーアー」
女性は柔和な表情を浮かべて虎徹を見つめる。
「…コテツ、といったか」
突然日本語を発した女性に一同驚愕する。
「しゃ、喋った!」
「え!何でなんで?」
「ホラァ、やっぱりあの補聴器よ!」
虎徹は思わずゴクリと生唾を飲み込んだ。
「オゥ、そうじゃ。ワシの名前は虎徹じゃ」
ようやく言葉が通じて虎徹の顔に笑みが浮かぶ。
女性は穏やかな表情のまま、言葉を続ける。
「一番声の大きい、お前の声をサンプリングさせてもろうた」
「…えっ、サンプリング…」
「イントネーションが…」
「も、もろうた?」
皆、女性の発声に口々に違和感を感じている。
「これでおどれらの言語も理解できるし、話すことも出来る。ほいじゃけ…」
「…ほいじゃけ」
穏やかだった女性の表情が一瞬で一変し、顔を虎徹の方へ向けて、まるで夜叉の如く睨みつける。
「二度とその汚ったない顔をワシのそばに近づけんな!」
笑顔を浮かべていた虎徹の表情が凍りつく。
梅田は女性のあまりの豹変ぶりに思わずよろけてサンペーの腕にしがみつく。
「な、なんちゅう…口を聞くんじゃ。アンタが喋れ言いよるから…」
「それとお前!」
女性はくるりと向き直り、昇を睨みつける。
「は、ハイッ…!」
あまりの勢いに思わず直立する昇。
「さっきワシに銃を向けたじゃろ…」
「あ、いやアレは…」
「ええか、今度やったらぶち殺しちゃるけえのお!」
「えぇ…ぶ、ぶち殺す…」
返す言葉もなく、うなだれる昇。
「サンプリングって、方言まで移っちゃうんですかね…」
「よりによって虎徹ちゃんのエセ広島弁だなんて…」
ヒソヒソと耳打ちし合う梅田とサンペー。
チェリーは、女性に気付かれないように背を向けてソロリソロリと離れようとする。
「オイ、女」
しかし呼び止められ「ハ、ハイッ!」と背筋を伸ばす。
「チェリーかサクラコか、どっちで呼べばええんじゃ」
「…あ、あのォ…じゃ、チェリーで…」
「この服はなんなら。子供用か、それともこんなぁのサイズか」
「…やっぱし…アノ、ワタシ用です、一応…」
「この柄はなんじゃい。タヌキかい」
「いや、あのォ…」
梅田とサンペーは目を丸くする。
「え、ドラえもんを知らないの!?今どきロシア人でも知ってるわよね」
「いや、知っててタヌキって言ってるのかも。ドラえもんのテッパンネタじゃないすか」
「初めて見る動物じゃ。コレ、もろうてええんかいのォ」
「動物って!やっぱ知らないッ!」
「しかも気に入ってる!」
チェリーは恐縮してぎこちなく笑う。
「ど、どうぞどうぞ…そんなで良ければ…」
虎徹は、苦々しい表情を見せながら女性を睨み付けている。
「オイ、女ァ!さっきから黙って聞いとったら調子に乗りよって」
鼻息荒く激怒する虎徹を涼しい顔で見据える女性。
「何を偉そうに言いよるんなら!はよう武器のありかを言わんかいや!オゥッ!」
顔面を間近に近づけて恫喝する虎徹。
「…言ったじゃろ。二度とその汚い顔を…」
女性はユラリと右手を胸元まで掲げ、手のひらを虎徹の方へ向ける。
「ワシに向けるなとッ!」
叫ぶと同時に、掌から強烈な衝撃波が発せられた。
虎徹の身体は天井まで弾かれ、その勢いのまま呆然と突っ立った昇もろとも駐車場の端まで吹き飛ばされた。
唖然とするチェリーと梅田、サンペー。
「ええかァ!おどれらァ!よう聞けェ!」
女性はクラウンのトランクの中でスックと立ちはだかり、まるで独裁者のように振る舞う。
背中には非常口の赤いライトが反射して照らされて全身がユラユラと立ち上って見える。
「ワシの名前はリーリウム!おどれらとは違う世界の国の女王じゃ!」
「リ、リーリウム…!?」
「違う…世界の女王…!?」
チェリーは何か、自分の知らない未知の存在を感じている。
「どういう事ォ!?」
「あれですか、異世界って事ですかね」
「異世界って!?ちょっとォ、マンガやアニメじゃ無いんだからァ」
「ワシはある目的を果たすために、この世界にやって来た!大人しく服従すればおどれらに危害を加えるつもりは無いから安心せい!」
身体を寄せ合う梅田とサンペー。
「それと虎徹!」
虎徹は奥の方で腰に手を当てながら何とか立ち上がろうとしている。
「…な、なんじゃい」
「おどれの探しよる武器は、全部ワシが預かっとる」
「なんじゃとォ!?」
「一応言うとったるが、ワシの身に何かあったら武器の場所はわからんままじゃけの。ヘタなことはせん事じゃ。そこの舎弟にもよう言うてきかせとけや」
「武器を…武器を隠してどうするつもりじゃ」
「フン。安心せい。すべき事がすんだら返しちゃるわい」
「すべきことって…どういう事じゃ」
チェリーは女王の姿を見あげながら、自分の理解が追い付いて行かないものの、その圧倒的な存在感に胸の奥が高鳴っているのを感じていた。
「ねぇねぇ、チェリーちゃん」
気づくと、チェリーのすぐ側に梅田とサンペーが立っている。
「アンタこの前、企画書出して来たでしょ?アレどうしたの?」
「えぇ…?何ですか、こんな時に」
「アレですよ、異世界とタイムスリップと余命モノをドッキングさせたヤツ」
「あぁ…。でもアレ編集長、プロットもろくに読まずに却下したじゃないですか」
「あんまり現実離れしてたからよ。それよりサ、彼女、どう思う?」
「え?どうって……」
梅田は顎で女王を指し示す。
「面白いと思わない?異世界の女王さまなんて。嘘かホントかわかんないけど、アンタも何か思うところがあるんじゃない?」
「異世界の…女王」
女王の姿を見つめるチェリーの眼差しは、当初の恐れから猛烈な好奇心へと変わっていた。
梅田は「ハイハイハイッ!」と手を叩きながら虎徹と女王の間に割って入る。
「物騒な話はそれぐらいにして、あがってお茶でもしましょ。人に見られたらお互いマズイでしょ」
トランクの中に立つ女王は、天井に届くほど大きく伸びをして左右に二度三度首を鳴らす。
「オイ、オカマ。腹が減ったんじゃが、何か食う物はあるかいのう」
「ちょっと嫌ァねぇ。オカマはやめてくださる?せめて梅さんとかプラムちゃんって呼んでちょうだい」
「そうなんか?虎徹の語録にはお前はオカマだけしか無いようじゃがの」
「あの人はそういう失礼なヤツなの。あらヤダ、女王さま、裸足じゃない」
梅田はくるりと振り返り「ちょっと、サンペーちゃん!アンタの靴貸してさしあげて!」
「えぇッ!ぼ、僕の靴ですか」
「女王さまが裸足って訳にいかないでしょ!早く早く!」
女王もイタズラっぽく笑いながら「ホレ、サンペー、はようはよう」と急かしている。
「え~何で…」
しぶしぶと靴を脱ぎ、小走りで女王のもとへ届けるサンペー。
「水虫とか持っとらんじゃろうの」
女王はまるで召使いのような仕草で差し出した梅田の手を取り、トランクの中から降り立った。
「ウーバーイーツでも頼みましょうか。ねっ」
「なんじゃあそれは。食いもんか?」
「あーそれじゃ人数多いし、ガストのパーティプレートにしましょうよォ」
「アンタはいつも食べ過ぎなのよっ!」
梅田は楽しげに女王と腕を組み、三人並んで駐車場を出ていった。
------------
駐車場の奥では、依然として気を失い横たわったままの昇の頬を虎徹が引っぱたいている。
「オゥ、昇、起きんかい。しっかりせえや、ホレ」
虎徹にゆさゆさと揺さぶられ、ようやく気が付く昇。
「ウゥーン…アニキ、俺どうなったんや?」
「あの女の仕業じゃ」
「一体なんなんや、あの女」
「さぁな、じゃが只モンでないことは確かじゃ」
と、傍らに立つチェリーに気がつく。
「…大丈夫?」
「サクラコ…スマンのォ、えらい面倒に巻き込んでしもうて」
「ホント…マジで大迷惑なんだけど」
「申し訳ない…」
「…スンマセン」
うなだれる二人を呆れたように見るチェリー。
「腕、血が出てるじゃない」
「うん?こんなモン、ちょっとかすっただけじゃ」
「…手当するから、事務所あがって」
チェリーはそう言い残すとスタスタ足早に去って行く。
虎徹と昇は支え合いながらヨロヨロと立ち上がり、重い足取りでチェリーのあとをついて行くのだった。
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