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魔王と勇者 編【L.A 2034】
まずは、なまえから
しおりを挟む「それにしても魔王様……よくこの状態でそのように健康でいらっしゃる……」
「腐る以前に枯れてるのが理解できない……」
「…………」
この生活に慣れ過ぎていたけれど、忘れてはいけないことを忘れかけていたようだった。そう、生きていくには食糧が必要である。自分と違って、この子たちは食べなければならない。外を見て表情が消えたまま戻ってきた二人は、更地を見て語った。
「一日に一度トマトを一つか二つ食べれば満腹なので……」
「小動物じゃないんだから!!」
小動物でももう少し食べているかもしれない……。
他に、自分のように小食で済む種族はないのだろうかと少ししゅんとしてしまう。
「ふぁっ」
「お前寝てたな」
銀髪の子はさっきからコックリコックリ頭が大きく揺れていた。口からちょっと涎がはみ出ている。
出会った時から気になっていた、そして今も。自分にも、この子たちにも当てはまること。
「あのっ!その……魔王、さまって呼び方……」
自分がそう呼ばれるのは、正直、慣れないというより……受け入れ難かった。王さまだなんて、そんな大層な力もなければ人柄でもない。ただツノがあるだけで与えられた呼び名は好ましくはなかった。
「お気に召しませんか」
「まだ自分が……魔王、なんて信じられないんです。だって私はこんなに弱くて……魔術だって、さっきのが今使える精一杯の魔術なんです」
ふむ、と金髪の子が考え込むように黙り込んでしまった。それに、私だって。
「それじゃあ名前で呼ぼう。オレたちのことも名前で呼んでほしい」
私だって、この子たちの名を知らないのだ。
「いいじゃないか!俺はドレアスだ!」
ミルク色の髪の子はそう名乗った。別の子をバシバシ叩いている明るい雰囲気の子だ。
「……オレは、ジェイソン」
ふわりと朗らかに微笑む銀髪の子。表情だけでなくまとう空気もなんだかふわふわしている。
「私はトーマです。あなたのお名前を教えてくれますか?」
金髪の子は丁寧にそう名乗ってくれた。三人とも、褐色肌だし髪の色もどことなく……似ている?気もするから同郷なのかな、と思う。
「私……私、は……ベネットです」
「ベネット様……素敵な名前ですね」
「よろしく、ベネット」
「様を付けろ!!」
あぁやっぱり、様付けはするんだ……。呼び捨てでも構わないのに、と胸に小さなささくれが刺さったように痛む。ドレアスはどうしても手が一緒に出てしまうのかジェイソンを容赦なく叩いていた。
「い……ったい……鎖あたった」
「あん?大丈夫か、ハゲてないか?」
むぅ、と唇を尖らせている姿は年相応に見えた。私はこの子たち、と年下のように感じているけれどドレアスとトーマは態度が大人と大差ない。ジェイソンも最初は手負いの獣のような凄みがあったが、それも今はすっかり抜けているようだった。
「服とごはんとベッドも必要ですよね。でもその鎖を先になんとかしないと……」
「残念ですが奴隷用の枷はそう簡単に壊れません」
動くたびにジャリジャリと鳴る鎖は動きづらそうで、なにより痛ましい。嵌められている皮膚は赤く変色していた。そして、トーマははっきり答える。
「強力な魔術を扱えるエルフや魔族、屈強な獣人すら自力で壊すこともできない。そしてこれには魔術を封じる術式が組み込まれているのです」
つまり嵌められているヒトは魔術を使えない……?エルフや獣人でも壊せないなんて誰がそんなものを作ったのだろう、なんて心無い所業だ。
「でも、やってみなきゃ分からないです!そのままだなんて……」
「本当にお優しい……うっ……」
「トーマお前気持ち悪いな……ベネット様は何かこれを壊せるような魔術を知ってるのかい?それにさっき自分は素人みたいに言ってたじゃないか」
確かに鎖を外すような本は見ていない……というか、探しても記述なんてされていないと思う。でも、成長すれば枷はどんどん締め付けるのだ。ずっと付けていられるわけじゃない。
「でも……あの幻術、すごかった。実在じゃないものを、あんな精巧に作り出すのは……むずかしい」
「確かに……あと言っておきますが、移動魔術も幻術もかなり高位の魔術ですよ」
「……えっ!?」
だって、ただ模様をなぞっただけだから……初歩的なものだと思っていた。それに、彼も使って……そういえば彼は姿を消してしまったけどどうしたのだろう。
「……やってみよう」
ジェイソンは私の手を両手で包み込んで語り掛ける。体を洗って、髪を梳いて新しい服を着ればきっと、すごく綺麗な子なのだ。ずっとこの枷や鎖をつけたまま苦しめたくはないと唇を引き結ぶ。
「は、はいっ」
「でも怖いからはじっこだけ」
「はい……じゃあ、本を持ってきますね」
工具を使おうにも、まず見た感じ、無理そうだった。それに力ずくで外そうとすれば体を傷つけかねない。きっとなにか使える魔術があるはず、と書庫へ向かった。
「……本見ながら魔術使うとか大丈夫か?あれ」
「貴様ベネット様を愚弄するか」
彼らは声を抑えてベネットの出ていった扉を見つめて言った。青ざめた顔からどっと冷や汗を溢れさせて、声も震わせていた様子に偽りはなさそうだった。使用できる魔術がたとえ高位であってもあれだけしか使えないというのも本当だろう。……ころりと絆されたことを抜きにしての考えだ。
「俺はさっきからお前にドン引きだよ」
ドレアスはわざとらしく言葉を乗せて大きなため息をつく。侮蔑の眼差しを送りながら。ジェイソンはともかく疑り深いお前がなぁ、という言葉も添えて。
「それにしても……なんで俺たちだったんだ。前世でかつての仲間だった俺たちだけをあそこから救い出すなんて……」
ドレアスとてベネットを疑いたいわけではない、どちらかといえば信用している。けれど分からないのだ、偶然にしては出来すぎていないかと。
「……まぁ、僕の隣はジェイソンでしたから。それに魔王を目の前にして逃げ出さなかったのは僕たちだけですよ。拾い上げやすかったということもあるんじゃないですかね」
「……幻術以外の魔術も使ってた。オレ、座ってたのに、無理やり立ち上がらされたから」
眠っているかと思うほど静かだったジェイソンが言い放った言葉に二人は警戒の色を示す。
「他人の肉体を操れるとでも?」
「ちがう、風」
「……ベネット様を信じるなら、本当にあの時は幻術と移動魔術だけで精一杯だったんだろう。無意識に使ったのか……」
「魔術に無意識などありません、理解し形作る、それが魔術の大原則です」
ベネットを信じたい一方で不可解な謎は深まっていくばかりだった。何より今の自分たちは他人を信用できない。信じたから、油断したから、いま奴隷の立場に追いやられているのだ。
「……様子を見てみましょう。僕たちを奴隷たらしめた存在が……あの無垢で純粋なベネット様を利用しようと近づくなら……容赦はしません」
ベネットは信用にたる存在であることを再確認する。そう、今まで自分たちが出会ったヒトの中で、あまりに純粋、あまりに無垢、そして素直すぎるのだ。利用しやすいと思われるくらいには。
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