5 / 12
004
夜が深まり、家の外の虫の声さえ遠のいた頃。
寝室の小さなランプは、橙色の灯りを弱く投げかけている。
木の床の軋む音が、静寂の中でやけに大きく響いた。
イルはベッドの端に腰掛け、いつもの穏やかな笑みを浮かべたまま、リゼリアの背中を見つめていた。
彼女は窓際に立ち、長い黒髪をほどいたばかりだった。
薄手の寝間着が肩から滑り落ちそうになり、鎖骨のラインが淡く浮かんでいる。
「リゼリア」
名前を呼ばれて、彼女の肩が小さく跳ねた。
「……何よ」
声は低く、いつもよりわずかに掠れている。
イルはゆっくり立ち上がり、彼女の背後に近づいた。
触れず、ただ息がかかる距離で止まる。
「今日、君が俺の名前を呼んだときの顔……ずっと頭から離れない」
リゼリアの背筋がピンと張った。
「そんなこと……覚えてない」
「嘘」
イルの指先が、彼女の髪をそっと掬い上げる。
耳の後ろに隠れていた熱を、指の腹でなぞるように。
「……っ」
小さな息が漏れた。
イルはそれ以上言葉を重ねず、ゆっくりと彼女の肩に手を置いた。
布越しに伝わる体温は、驚くほど熱い。
リゼリアは振り向こうとしたが、イルの手が優しく、しかし確実に肩を押さえつける。
「逃げないで」
「……逃げてない」
「じゃあ、こっち向いて」
沈黙……
それから、ゆっくりと彼女は振り返った。
瞳はいつもより潤んでいて、睫毛が小さく震えている。
頬は熱を帯び、唇はわずかに開いたままだった。
イルは息を呑んだ。
「……綺麗だ」
その一言で、リゼリアの目がわずかに揺れた。
「バカ」
呟きながらも、彼女の手はイルの胸に触れていた。布を掴む指先に力がこもる。
イルは彼女の腰を引き寄せ、額を合わせた。
「好きだよ」
「……うるさい」
「毎日言うって約束した」
「……知ってる」
言葉とは裏腹に、リゼリアの指はイルの首筋に這い、ゆっくりと髪を掻き上げる。
その仕草は、まるで彼の輪郭を確かめるように丁寧だった。
イルの唇が、彼女の額に触れる。
次に瞼……鼻先……そして、ようやく唇に重なった。最初は触れるだけの、柔らかなキス。
だがリゼリアが小さく息を吐いた瞬間、イルの舌がそっと割り入り、彼女の舌を絡め取った。
「……んっ」
喉の奥から甘い音が漏れる。
イルの手は彼女の背中を滑り、腰を強く抱き寄せた。二人の体が密着し、布越しに互いの熱が混じり合う。
リゼリアの指がイルの背中に爪を立てた。
痛みすら甘く感じるほど、彼女の体は熱を帯びていた。
イルは唇を離し、彼女の耳元に囁く。
「触っていい?」
リゼリアの耳が真っ赤になる。
「……勝手にして」
その言葉を合図に、イルの手が寝間着の裾をゆっくりとたくし上げた。
白い太腿が露わになり、ランプの灯りに照らされて艶めく。
イルの指が内腿を這う。
ゆっくり。
焦らすように。
リゼリアの息が乱れ、膝が小さく震えた。
「……イル」
名前を呼ばれた瞬間、彼の指がもっと奥へ進む。湿った熱が指先に触れた。
リゼリアの体がびくりと跳ね、イルの肩に顔を埋めた。
「……いちいち聞かないで」
彼女の声は震えていた。
イルは優しく、けれど確実に指を動かし続ける。
「わかった、聞かないよ」
代わりに、彼は彼女の首筋に唇を這わせた。強く吸い上げ、赤い痕を残す。
リゼリアの喉から、抑えきれない甘い声がこぼれた。
「あ……っだめ───そこ……」
「だめじゃない」
イルは彼女を抱き上げ、そのままベッドに押し倒した。
黒髪がシーツに広がり、乱れた寝間着から胸の谷間が覗く。
イルは覆い被さり、彼女の胸に唇を寄せた。
布越しに尖った先端を舌で転がす。
リゼリアの背が弓なりに反り、シーツを強く握りしめた。
「んっ……イルっ待って……っ」
「待てない」
彼の手が彼女の脚を開き、熱く濡れた場所に自身をあてがう。
リゼリアの瞳が潤み、イルを見つめた。
「……優しく、しなさいっ」
その言葉に、イルの動きが一瞬止まる。
そして、ゆっくりと、彼女の中に入った。
熱く、狭く、柔らかい感触が彼を包む。
リゼリアの口から、切なげな吐息が漏れた。
「はぁ……っ」
イルは動かず、ただ彼女の額にキスを落とす。
「痛い?」
「……痛くないわ」
「ごめん」
「謝るならもうしない」
リゼリアの手がイルの背中に回り、強く抱きしめた。
「動いて……」
その言葉で、イルはゆっくりと腰を動かし始めた。最初は優しく、探るように。
だがリゼリアの吐息が甘く変わるたび、徐々に深く、強く。
二人の体がぶつかる音と、湿った音と、抑えきれない声が部屋に満ちていく。
リゼリアの爪がイルの背中に食い込み、赤い線を引く。
「イル……っ───もっと……」
名前を呼ばれ、イルの動きが激しさを増した。
彼女の奥を突くたび、リゼリアの体が跳ね、甘い悲鳴が上がる。
「……っイルっ───好き……」
言葉が途切れ途切れにこぼれる。
イルは彼女の唇を塞ぎ、深く舌を絡めながら、最後のリズムを刻んだ。
リゼリアの体が大きく震え、びくびくと達した。
その締め付けに耐えきれず、イルもまた彼女の中で果てた。
熱いものが溢れ、二人の体が重なり合う。
荒い息遣いだけが、しばらく部屋に響いていた。
イルはリゼリアの髪を優しく撫で、汗で濡れた額にキスをする。
「……大好きだよ」
リゼリアは目を閉じたまま、かすれた声で答えた。
「……私も」
その一言だけ……
でもイルには、それで十分だった。
あなたにおすすめの小説
片思いの貴方に何度も告白したけど断られ続けてきた
アリス
恋愛
幼馴染で学生の頃から、ずっと好きだった人。
高校生くらいから何十回も告白した。
全て「好きなの」
「ごめん、断る」
その繰り返しだった。
だけど彼は優しいから、時々、ご飯を食べに行ったり、デートはしてくれる。
紛らわしいと思う。
彼に好きな人がいるわけではない。
まだそれなら諦めがつく。
彼はカイル=クレシア23歳
イケメンでモテる。
私はアリア=ナターシャ20歳
普通で人には可愛い方だと言われた。
そんなある日
私が20歳になった時だった。
両親が見合い話を持ってきた。
最後の告白をしようと思った。
ダメなら見合いをすると言った。
その見合い相手に溺愛される。
大人になったオフェーリア。
ぽんぽこ狸
恋愛
婚約者のジラルドのそばには王女であるベアトリーチェがおり、彼女は慈愛に満ちた表情で下腹部を撫でている。
生まれてくる子供の為にも婚約解消をとオフェーリアは言われるが、納得がいかない。
けれどもそれどころではないだろう、こうなってしまった以上は、婚約解消はやむなしだ。
それ以上に重要なことは、ジラルドの実家であるレピード公爵家とオフェーリアの実家はたくさんの共同事業を行っていて、今それがおじゃんになれば、オフェーリアには補えないほどの損失を生むことになる。
その点についてすぐに確認すると、そういう所がジラルドに見離される原因になったのだとベアトリーチェは怒鳴りだしてオフェーリアに掴みかかってきた。
その尋常では無い様子に泣き寝入りすることになったオフェーリアだったが、父と母が設定したお見合いで彼女の騎士をしていたヴァレントと出会い、とある復讐の方法を思いついたのだった。
代理で子を産む彼女の願いごと
しゃーりん
恋愛
クロードの婚約者は公爵令嬢セラフィーネである。
この結婚は王命のようなものであったが、なかなかセラフィーネと会う機会がないまま結婚した。
初夜、彼女のことを知りたいと会話を試みるが欲望に負けてしまう。
翌朝知った事実は取り返しがつかず、クロードの頭を悩ませるがもう遅い。
クロードが抱いたのは妻のセラフィーネではなくフィリーナという女性だった。
フィリーナは自分の願いごとを叶えるために代理で子を産むことになったそうだ。
願いごとが叶う時期を待つフィリーナとその願いごとが知りたいクロードのお話です。
側妃としての役割
しゃーりん
恋愛
結婚を前に婚約者を亡くした侯爵令嬢フェリシア。
半年が過ぎる頃、舞い込んだ縁談は国王の側妃であった。
王妃は隣国の元王女。
まだ子供がいないため側妃が必要になったようだ。
フェリシアが心配した王妃との関係はどうなる?
国王に愛され、自分の役割を果たすお話です。
令嬢が眠る時
五蕾 明日花
恋愛
愛する婚約者と仲睦まじい元平民の男爵令嬢に嫉妬し、嫌がらせを続けた挙句に処刑された我儘で傲慢な公爵令嬢コーネリア。悪魔の力を借りて人生を繰り返していくうちに性格や言動を改め、〝完璧な令嬢〟と評されるようになっていく。しかしそうなっても婚約者は、男爵令嬢を選んでしまう運命は変えられない。濡れ衣を着せられ、結局はありもしない罪で処刑されてしまう。心が折れてしまいせめて処刑されてしまう運命だけでも変えたいコーネリアに、悪魔は〝仮死状態になり、死んだと誤解させた後でこっそり逃げ出してしまえばいい〟と提案する。
仮死状態(意識のみ有り)での性描写有り、嘔吐描写も一瞬
完結済。6話+エピローグ。♡マーク付きの話に性描写有り。
Nolaノベルにも同名義で投稿。
最強魔術師の歪んだ初恋
黒瀬るい
恋愛
伯爵家の養子であるアリスは親戚のおじさまが大好きだ。
けれどアリスに妹が産まれ、アリスは虐げれるようになる。そのまま成長したアリスは、男爵家のおじさんの元に嫁ぐことになるが、初夜で破瓜の血が流れず……?
唯一の味方だった婚約者に裏切られ失意の底で顔も知らぬ相手に身を任せた結果溺愛されました
ララ
恋愛
侯爵家の嫡女として生まれた私は恵まれていた。優しい両親や信頼できる使用人、領民たちに囲まれて。
けれどその幸せは唐突に終わる。
両親が死んでから何もかもが変わってしまった。
叔父を名乗る家族に騙され、奪われた。
今では使用人以下の生活を強いられている。そんな中で唯一の味方だった婚約者にまで裏切られる。
どうして?ーーどうしてこんなことに‥‥??
もう嫌ーー