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十一章
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朝比奈は大神の運転する車で岐阜県の飛騨方面へと向かった。詳しい住所は大神のスマホに送られたデータを確認して、朝比奈がその位置情報により大神を誘導していた。国道41号を北上して行くのだが、昼間であればその山々の風景が素晴らしいのだろうが、日も沈んでしまった夜道はただ暗闇が続くだけで何か虚しさを感じた。目的の貸別荘は下呂市で高山本線の西側に有り、江戸時代から続く下呂温泉街の近くに位置していて交通の便は良かった。ただ、事件の起こった愛知県からそんなに離れていない貸別荘をどうして石田が選んだのか不思議ではあった。身を隠すのであれば、もっと遠方でも良かったのではないだろうか。それでも、夜の移動ではあったが、現場に到着するには2時間程掛かってしまい、殆んど初動捜査は済んでいて鑑識も引き上げていて、規制線の近くでは数人の警察官と朝比奈たちを待つ上杉刑事が待機していた。大神は残っているパトカーの横に車を付け、朝比奈と共に車を降りると貸別荘の入口へと向かった。一応、大神は朝比奈に予備の手袋を渡し、上杉刑事に近づいた。
「お世話になります。愛知県警の大神です」
背広姿で大柄の上杉刑事に声を掛けた。
「上杉です。わざわざ申し訳ありませんでした。身分紹介をしたところ、愛知県警の方で捜索をしている人物であった為に、夜遅くでしたが連絡させていただきました。既に遺体は解剖に廻し、殺害の最終的原因を確認してもらっていますが、一応頭部の打撲による脳挫傷との初見は出ています。現場を案内します」
上杉は規制線を手で押し上げて2人を貸別荘内へと連れて行った。
「先程の説明ですと、被害者は犯人に頭を何かで殴られたと考えられるのですね」
リビングの床には人型の白い線が描かれていた。
「はい、この場所にうつ伏せで倒れていました。凶器はこれ程の厚みのガラスの置物だと思われますが、今鑑識で指紋等により犯人の特定を行っています」
上杉は右指で厚みを表現してみせた。
「それで、犯行時刻は分かっているのでしょうか」
2人は現場であるリビングを見渡した。
「午後8時を少し過ぎた時だと思われます」
「えっ、そんなにはっきりと断定できるのですか。それに、他の別荘とは少し離れているようですし、発見が随分早かったのですね」
大神は現場を見渡してから尋ねた。
「あっ、いえ、この貸別荘以外は何処も借りられていませんでした。この現場を発見できたのは、駅前の派出所にこの貸別荘の近くを怪しい人物がウロウロしているとの通報がありまして、派出所の警察官が自転車で駆けつけた時には貸別荘の玄関は開いていて、何かガラスが割れる音がして慌てて貸別荘に入ったところ、リビングで被害者が倒れていたのを発見し、直ぐに署に連絡が入り駆け付けたと言う訳です」
一応手帳を取り出して大神の質問に答えた。
「その警察官が駆け付けたのが、午後8時過ぎだったということなんですね」
「はい、派出所に連絡があったのは午後7時45分頃で、自転車で15分程掛かりますから電話を切って直ぐに駆け付けたそうですので、到着したのは午後8時を少し過ぎた頃だということです」
「その時に争う声とか音を聞いたのですか」
「いえ、貸別荘に近づいた時には外からも聞こえる音量で、ジャズクラシックっていうのでしょうか、そんな音楽が掛かっていたそうなのですが、玄関に近づくと音楽が鳴り止み、凶器となったであろうガラス製の置物が割れる音がしたらしいです」
その言葉を聞いて朝比奈は近くにあった音響システムの確認を始めた。そして、暫くいじっていたかと思うと、スピーカーからものすごいボリュームのジャズミュージックが流れ始めて、その音量にその場にいた全員が耳を閉じることとなり、慌てて朝比奈は音響システムの電源を落とした。
「こんな大きな音が流れていたのですか」
大神も流石に驚き、音が消えてから尋ねた。
「あっ、いえ、私達が到着した時には電源が切れて無音でしたから、ただ報告として大きな音だとは聞いていただけで、まさかこんな音量だとは夢にも思っていませんでした。ちょっと悪趣味ですね。まさか、犯人がわざとボリュームを上げていったなんて事はないですよね」
余りにも酷い音量に驚いていた。
「どうして犯人が、わざわざ外にも聞こえるようなボリュームで音楽を掛けなければいけかったのでしょうね。でも、凶器のガラス製の置物が割れる音がしたということは、警察官が到着した時には音がしていなかった。玄関先に着いた時に音が止んだ。犯人が電源をわざわざ切っていったということなんでしょうか。それと、その凶器として使われた置物なのですが、この貸別荘に常設されていたものかどうか確認していただけませんか」
左の顳かみを叩きながら朝比奈が口を開いた。
「はい、それは構いませんが、それって何か意味があるのでしょうか」
当然だろうと上杉が尋ね返した。
「実際に見ていませんが、ガラスの置物が凶器となり得たのは2通り、1つは貸別荘に元々あった場合。そしてもう1つは、犯人が自分で持ち込んだ場合なんですが、その場合は犯人がどうしてガラスの置物を、わざわざ殺害の凶器として準備したのかということです。僕が犯人なら、鉄のパイプとか警察官が使用する警棒などを使いますけどね。それと、現物を見ていないから分かりませんが、本当に頭部を殴打した時に割れたのものなのでしょうか。その場合は相当現場に散らばっているはずですよね。現場の状況はどうだったのでしょうね」
実際に大神の頭部を殴る仕草をしてみせた。
「詳しくは分かっていませんが、殴打した時に破損したのではなく、床に落とした時に割れたのではないかとのことでした。ああ、それから、貸別荘の所有物かどうかは確認してみます」
上杉はスマホを取り出して手帳に記載された番号を打ち込み、この貸別荘を管理する会社に連絡を取ることにした。
(あの、すいません、警察ですが、この貸別荘にはガラス製の置物は常設されているのでしょうか・・・・・・・・ああっ、そうですか・・・・・・・わかりました)
答えを聴き終えて切ろうとする上杉のスマホを朝比奈が奪い取った。
(申し訳ありません。先程もお尋ねしたとは思いますが、もう一度確認させてください。この貸別荘を借りられた石田さんとはお会いになっているのでしょうか・・・・・・えっ、会ったことはないのですね。・・・・・・・・前金で口座に振り込むから・・・・・・・・別荘の鍵は玄関横にある鳥の巣箱に入れていて欲しい・・・・・・・・男性の声だったのですね・・・・・・・・ああっ、再度確認の連絡を入れたら本人に間違いなかったし、口座に入金があったので、その指示にしたかって鍵を置いたってことですね・・・・・・・・もう1つお聞きしたいのですが、貸別荘を借りるにあたって、何か条件はなかったでしょうか・・・・・・・・そうですか、相手からの指定があったのですね・・・・・・・それと、音楽が聞きたいので、できればスピーカーのしっかりした音響システムは付いているかどうかの確認ですね・・・・・・・・最新式の音響システムですね・・・・・・分かりました。ご協力ありがとうございました)
2人に聞こえるように話すと、朝比奈は通話を切って上杉に返した。
「えっ、ロストに螺旋階段、今の質問は事件に何か関係があるのですか」
唖然としながらスマホを手にしていた。
「さあ、どうでしょう。ところで、この貸し別荘前払いで料金が払われているそうですが、
今晩泊まることはできないですか」
真面目な顔して上杉に尋ねた。
「ちょっとそれは・・・・・・・今晩は、こちらに宿泊されるのですか。署の仮眠室なら空いていると思いますよ」
「仮眠室ですか・・・・・・」
朝比奈は大神の顔を見た。
「あっ、いえ、大丈夫です。私からもう1つ質問があるのですが、派出所に連絡があった不審者についてはどうだったのでしょう」
大神が改めて質問した。
「そうそう、話し忘れていましたが、警察官が貸別荘に行く途中に女性が運転する車とすれ違ったそうです。貸別荘で物音がする前でしたので、その女性が事件に関与している可能性は少ないとその時は判断したそうです」
「その女性の顔は覚えていましたか」
朝比奈が続けて尋ねた。
「暗闇でしたので、女性だったくらいしか分からなかったそうです」
「車のナンバーは覚えていないですよね」
「はい、そこまで注意していなかったみたいです」
「女性が運転する車ですか・・・・・・申し訳ありませんが、この貸別荘の外に防犯カメラが設置されていましたので、管理会社に話をして犯行時刻前後の映像を取り寄せてください。夜間ですのではっきりとは映っていないかもしれませんが、女性か男性かくらいは判断できるでしょう」
朝比奈が上杉に指示を出した。
「分かりました。早速連絡を取り、明日までに提出させ分析してもらいます」
しっかりと手帳に書き込み丸で囲った。
「それでは我々はこれで、駅前のビジネスホテルにも泊まりますので、何かありましたらこちらに連絡してください。明日には署の方へ伺わさせていただきますので、よろしくお願いします」
大神は名刺の裏に携帯の番号を記入して上杉に渡し、一応朝比奈の意見を尊重して名古屋に戻ることなくビジネスホテルを探すことにした。
「おいおい、ビジネスホテルかよ」
朝比奈は不満顔で大神を見た。
「当たり前だろ。もう遅いし、泊まれればどこでもいいだろ。嫌なら、車の中でもいいし、このまま帰って出直してもいいんだぜ」
朝比奈の言葉に言い返した。
「折角下呂温泉に来たんだぞ。下呂温泉といえば、草津・有馬と並ぶ日本三名泉の1つで、泉質の評価も高くて人気投票では3年連続で1位なんだ。リュウマチ・運動機能障害・神経症・神経麻痺・病後回復・疲労回復など美容や健康にも優れた効果があるんだ。ビジネスホテルでもいいから、温泉だけでも。ここまで来て温泉に浸からないで帰るなんて、人間じゃないマウンテンゴリラだ」
大神を指差して大きなリアクションを取った。
「何が、マウンテンゴリラだ。・・・・・・地獄谷野猿公苑の野生の猿じゃないんだから、温泉には浸かりません。まさか、温泉に浸かりたかったから付いてきたんじゃないよな」
深呼吸し怒りを収めて答えた。
「そんな訳ないだろう。どうしても知りたいことがあったからだよ。さっき話していた、現場に向かうまでに派出所の警察官が擦れ違った女性、防犯カメラなどの確認も必要だけど、俺が考えている女性に間違いないと思う」
「えっ、本当なのか」
流石に驚いていた。
「まぁ、ちょっと待ってくれ」
朝比奈はポケットからスマホを取り出した。
(あっ、すいません、朝比奈と申しますが、草壁編集長はいらっしゃいますでしょうか・・・・・・・・・お願いします・・・・・・・・あっ、先日はありがとうございました。申し訳ないのですが、田中絵梨さんの実家の住所が分かりましたら教えていただけないでしょうか・・・・・・・・はい、お待ちしています・・・・・・・・・はい、岐阜県下呂市熊野町12番地ですね。念の為に、お母さんが過ごされている施設の名前は分かるでしょうか・・・・・・・・すこやか荘ですね。夜分申し訳ありませんでした。失礼いたします)
朝比奈は納得顔でスマホを切った。
「おい、田中絵梨って突然出て来たんだけど、今回の事件と何の関係があるのか説明してくれないか」
隣で通話を聞いていた大神が尋ねた。
「まぁ、まあ、先ずは温泉に浸ってからゆっくりとお話しますよ」
大神は仕方なく朝比奈を車に乗せて、下呂温泉でも超有名な明水館へと向かい。入湯料を支払って温泉だけに浸かることにした。大神がフロントでその手続きをしている時に、館内のバーにでも向かうのであろう1組のカップルに目が止まった。
「何とか今からでも入湯出来るそうだ。えっ、何かあったのか」
朝比奈の真剣に見詰めるカップルの後ろ姿を見た。
「今夜は遅いから、明日の朝一番で川瀬さんに連絡して、内川先生の長男と長女の石田さんの殺害時刻のアリバイについて調べてもらってくれないか」
左の顳かみを叩いて言った。
「ああっ、勿論そのつもりでいたけど、次男のアリバイについてはいいのか」
疑問の目で朝比奈を見た。
「それは今から調べるんだよお前がな。さっき俺が見ていたカップルの男がその次男の光雄だったんだよ」
そう言うと朝比奈はさっさと浴場へと向かい、残された大神は慌ててフロントへ確認に走って戻った。
「さっきの男は確かに内川先生の次男の光雄だった。奧さんとその両親と一緒に宿泊しているそうだ」
大神が朝比奈の入っている露天風呂に身体を首まで浸からせて尋ねた。
「お前のことだから抜かりはないと思うけれど、誰が予約を取ったのか確認しているよな」
定番のように頭の上に手ぬぐいを載せて尋ねた。
「予約を入れて来たのは光雄本人で、2日前だったそうだ。アリバイについては、チェックインしたのは午後7時30分頃、光雄が先にホテルに到着して館内を見学してから、妻とその親子が電車で来られたようで駅からはタクシーで8時15分頃入館し、ロビーで揃ったところで宿泊の手続きを取っている」
朝比奈が次に聞いてくるであろうことを察して続けた。
「流石ですね。光雄さんがホテルにやってきたのが7時30分に到着して8時15分までホテルにいたとすると、ここから現場までは車で15分程掛かったから、ドラえもんのどこでもドアがあっても無理かもな。でも、現場の近くに居たということは偶然とは思えないけどな」
白く濁った湯を手ですくい顔を洗った。
「冗談を言っている場合じゃない。ただ、長男と長女のアリバイは分からないが、お前が言うように次男が現場近くに居るのは流石に気になるな。兄弟妹のアリバイは明日の朝には分かるけど、さっき電話で話していた田中絵梨という人物が、警察官と擦れ違ったその女性なのか」
3人の子供のことよりも犯人と思われる女性が気になった。
「その女性、田中絵梨さんは、元文芸社の社員で内川先生の担当者で、母親の介護を理由に実家に戻ったのだが、その母親を施設に入れることになり1度は復帰する予定になっていた。しかし、先生の死に因って白紙に戻ってしまったんだよ。なぜ、石田さんが下呂の貸別荘を借りたのか気になっていたんだけど、彼女の実家がこの下呂市ってことに何か意図を感じてね。ただ、連絡先も聞いてあったんだけど、何度連絡しても着信拒否されているようなんだ」
「もし、子供3人にアリバイがあれば、その田中という女性が最も怪しいことになるよな。
住所が分かっているのなら、上杉刑事に報告して今すぐ身柄を確保した方が良いんじゃないのか」
朝比奈にしては行動が遅いと感じていた。
「まぁ、そう慌てないでもいいと思うよ。明日、自宅を尋ねるつもりでいるのだけど、多分今晩のことがあったから、自宅には戻らず何処かホテルなどに身を隠しているだろう」
「そんな悠長なこと言っててもいいのか、逃げられたらどうするんだ」
ついに大神が怒り出した。
「彼女が犯人の可能性は0ではないけれど、彼女が石田さんを殺害する動機が全く見当たらない。例えば、石田さんが内川先生を殺害した犯人だとすれば、今まで可愛がってくれた先生の敵を打つってこともあるだろうけど、石田さんには先生を殺害する動機も機会も無かったはずだ。それにそんなことがあったとしても、彼女が警察に相談すればいい話だからな。それに今彼女が1番大切に思っている母親を残して遠くに逃げることはないよ。ただ、もし彼女が石田さんに会いに行ったとしたら、その理由がまだ分からないんだよな。それを確認する為にも、明日母親にあってみようと思う。よろしくな」
彼女を確保する必要性を否定し、大神に協力を求めた。
「母親を1人残して殺人を犯す訳はないか・・・・・・・・俺は会ったことはないが、お前の刑事の勘、あっ、いや、経験からくる勘を信じますか・・・・・・・おい、入湯料立て替えたんだから後で返してくれよ」
肘で朝比奈の横腹を突っついた。
「お堅いことを言わずに・・・・・・・あっ、そうだ、もし事件解決の重要な手掛かりになった場合は、ビジネスホテルの宿泊料も出張費という名目で経費扱いしてもらってくださいね。よろしくな」
「よろしく、よろしくって、俺はお前の手下じゃないんだよ」
手ですくった湯を、思いっきり朝比奈の顔にかぶせた。
「あっ、それからもう1つ大切なことがある。凶器となったガラスの置物の復元か、同じタイプの置物を確認してくれないか」
顔を手ぬぐいで拭き真面目な表情で尋ねた。
「どうしてそんなに凶器に拘るんだ。まぁいい、明日もう一度上杉刑事に確認しておくよ」
大神は浴場を出ると早速所轄の上杉に連絡を取ってみたが、その間朝比奈は暫く姿を消していた。
「おい、どこ行ってたんだよ、さがしたじゃないか」
大神は受付などのスタッフに尋ねまくって、やっと朝比奈の姿を見付け文句を言った。
「ああっ、今夜は星空が綺麗だからね。名古屋と違って本当に輝いて見えたよ。あの日も、俺みたいに屋上で星空を眺めていた人がいたそうだぞ。それも望遠鏡を借りてな」
両手を広げて感動していた。
「何悠長なこと言ってるんだ。憩いの為に来てるんじゃないぞ。昔から長い付き合いだけど、本当お前が分からなくなることがある」
呆れ顔で朝比奈を見た。
「ああっ、上杉刑事には、警察官が擦れ違った女性が怪しいとちゃんと念を押しておいてくれただろうな」
大神の言葉を全く気にしてはいなかった。
「実際に今のところ1番怪しいだろう」
もう怒りさえ感じていないようだった。
「お世話になります。愛知県警の大神です」
背広姿で大柄の上杉刑事に声を掛けた。
「上杉です。わざわざ申し訳ありませんでした。身分紹介をしたところ、愛知県警の方で捜索をしている人物であった為に、夜遅くでしたが連絡させていただきました。既に遺体は解剖に廻し、殺害の最終的原因を確認してもらっていますが、一応頭部の打撲による脳挫傷との初見は出ています。現場を案内します」
上杉は規制線を手で押し上げて2人を貸別荘内へと連れて行った。
「先程の説明ですと、被害者は犯人に頭を何かで殴られたと考えられるのですね」
リビングの床には人型の白い線が描かれていた。
「はい、この場所にうつ伏せで倒れていました。凶器はこれ程の厚みのガラスの置物だと思われますが、今鑑識で指紋等により犯人の特定を行っています」
上杉は右指で厚みを表現してみせた。
「それで、犯行時刻は分かっているのでしょうか」
2人は現場であるリビングを見渡した。
「午後8時を少し過ぎた時だと思われます」
「えっ、そんなにはっきりと断定できるのですか。それに、他の別荘とは少し離れているようですし、発見が随分早かったのですね」
大神は現場を見渡してから尋ねた。
「あっ、いえ、この貸別荘以外は何処も借りられていませんでした。この現場を発見できたのは、駅前の派出所にこの貸別荘の近くを怪しい人物がウロウロしているとの通報がありまして、派出所の警察官が自転車で駆けつけた時には貸別荘の玄関は開いていて、何かガラスが割れる音がして慌てて貸別荘に入ったところ、リビングで被害者が倒れていたのを発見し、直ぐに署に連絡が入り駆け付けたと言う訳です」
一応手帳を取り出して大神の質問に答えた。
「その警察官が駆け付けたのが、午後8時過ぎだったということなんですね」
「はい、派出所に連絡があったのは午後7時45分頃で、自転車で15分程掛かりますから電話を切って直ぐに駆け付けたそうですので、到着したのは午後8時を少し過ぎた頃だということです」
「その時に争う声とか音を聞いたのですか」
「いえ、貸別荘に近づいた時には外からも聞こえる音量で、ジャズクラシックっていうのでしょうか、そんな音楽が掛かっていたそうなのですが、玄関に近づくと音楽が鳴り止み、凶器となったであろうガラス製の置物が割れる音がしたらしいです」
その言葉を聞いて朝比奈は近くにあった音響システムの確認を始めた。そして、暫くいじっていたかと思うと、スピーカーからものすごいボリュームのジャズミュージックが流れ始めて、その音量にその場にいた全員が耳を閉じることとなり、慌てて朝比奈は音響システムの電源を落とした。
「こんな大きな音が流れていたのですか」
大神も流石に驚き、音が消えてから尋ねた。
「あっ、いえ、私達が到着した時には電源が切れて無音でしたから、ただ報告として大きな音だとは聞いていただけで、まさかこんな音量だとは夢にも思っていませんでした。ちょっと悪趣味ですね。まさか、犯人がわざとボリュームを上げていったなんて事はないですよね」
余りにも酷い音量に驚いていた。
「どうして犯人が、わざわざ外にも聞こえるようなボリュームで音楽を掛けなければいけかったのでしょうね。でも、凶器のガラス製の置物が割れる音がしたということは、警察官が到着した時には音がしていなかった。玄関先に着いた時に音が止んだ。犯人が電源をわざわざ切っていったということなんでしょうか。それと、その凶器として使われた置物なのですが、この貸別荘に常設されていたものかどうか確認していただけませんか」
左の顳かみを叩きながら朝比奈が口を開いた。
「はい、それは構いませんが、それって何か意味があるのでしょうか」
当然だろうと上杉が尋ね返した。
「実際に見ていませんが、ガラスの置物が凶器となり得たのは2通り、1つは貸別荘に元々あった場合。そしてもう1つは、犯人が自分で持ち込んだ場合なんですが、その場合は犯人がどうしてガラスの置物を、わざわざ殺害の凶器として準備したのかということです。僕が犯人なら、鉄のパイプとか警察官が使用する警棒などを使いますけどね。それと、現物を見ていないから分かりませんが、本当に頭部を殴打した時に割れたのものなのでしょうか。その場合は相当現場に散らばっているはずですよね。現場の状況はどうだったのでしょうね」
実際に大神の頭部を殴る仕草をしてみせた。
「詳しくは分かっていませんが、殴打した時に破損したのではなく、床に落とした時に割れたのではないかとのことでした。ああ、それから、貸別荘の所有物かどうかは確認してみます」
上杉はスマホを取り出して手帳に記載された番号を打ち込み、この貸別荘を管理する会社に連絡を取ることにした。
(あの、すいません、警察ですが、この貸別荘にはガラス製の置物は常設されているのでしょうか・・・・・・・・ああっ、そうですか・・・・・・・わかりました)
答えを聴き終えて切ろうとする上杉のスマホを朝比奈が奪い取った。
(申し訳ありません。先程もお尋ねしたとは思いますが、もう一度確認させてください。この貸別荘を借りられた石田さんとはお会いになっているのでしょうか・・・・・・えっ、会ったことはないのですね。・・・・・・・・前金で口座に振り込むから・・・・・・・・別荘の鍵は玄関横にある鳥の巣箱に入れていて欲しい・・・・・・・・男性の声だったのですね・・・・・・・・ああっ、再度確認の連絡を入れたら本人に間違いなかったし、口座に入金があったので、その指示にしたかって鍵を置いたってことですね・・・・・・・・もう1つお聞きしたいのですが、貸別荘を借りるにあたって、何か条件はなかったでしょうか・・・・・・・・そうですか、相手からの指定があったのですね・・・・・・・それと、音楽が聞きたいので、できればスピーカーのしっかりした音響システムは付いているかどうかの確認ですね・・・・・・・・最新式の音響システムですね・・・・・・分かりました。ご協力ありがとうございました)
2人に聞こえるように話すと、朝比奈は通話を切って上杉に返した。
「えっ、ロストに螺旋階段、今の質問は事件に何か関係があるのですか」
唖然としながらスマホを手にしていた。
「さあ、どうでしょう。ところで、この貸し別荘前払いで料金が払われているそうですが、
今晩泊まることはできないですか」
真面目な顔して上杉に尋ねた。
「ちょっとそれは・・・・・・・今晩は、こちらに宿泊されるのですか。署の仮眠室なら空いていると思いますよ」
「仮眠室ですか・・・・・・」
朝比奈は大神の顔を見た。
「あっ、いえ、大丈夫です。私からもう1つ質問があるのですが、派出所に連絡があった不審者についてはどうだったのでしょう」
大神が改めて質問した。
「そうそう、話し忘れていましたが、警察官が貸別荘に行く途中に女性が運転する車とすれ違ったそうです。貸別荘で物音がする前でしたので、その女性が事件に関与している可能性は少ないとその時は判断したそうです」
「その女性の顔は覚えていましたか」
朝比奈が続けて尋ねた。
「暗闇でしたので、女性だったくらいしか分からなかったそうです」
「車のナンバーは覚えていないですよね」
「はい、そこまで注意していなかったみたいです」
「女性が運転する車ですか・・・・・・申し訳ありませんが、この貸別荘の外に防犯カメラが設置されていましたので、管理会社に話をして犯行時刻前後の映像を取り寄せてください。夜間ですのではっきりとは映っていないかもしれませんが、女性か男性かくらいは判断できるでしょう」
朝比奈が上杉に指示を出した。
「分かりました。早速連絡を取り、明日までに提出させ分析してもらいます」
しっかりと手帳に書き込み丸で囲った。
「それでは我々はこれで、駅前のビジネスホテルにも泊まりますので、何かありましたらこちらに連絡してください。明日には署の方へ伺わさせていただきますので、よろしくお願いします」
大神は名刺の裏に携帯の番号を記入して上杉に渡し、一応朝比奈の意見を尊重して名古屋に戻ることなくビジネスホテルを探すことにした。
「おいおい、ビジネスホテルかよ」
朝比奈は不満顔で大神を見た。
「当たり前だろ。もう遅いし、泊まれればどこでもいいだろ。嫌なら、車の中でもいいし、このまま帰って出直してもいいんだぜ」
朝比奈の言葉に言い返した。
「折角下呂温泉に来たんだぞ。下呂温泉といえば、草津・有馬と並ぶ日本三名泉の1つで、泉質の評価も高くて人気投票では3年連続で1位なんだ。リュウマチ・運動機能障害・神経症・神経麻痺・病後回復・疲労回復など美容や健康にも優れた効果があるんだ。ビジネスホテルでもいいから、温泉だけでも。ここまで来て温泉に浸からないで帰るなんて、人間じゃないマウンテンゴリラだ」
大神を指差して大きなリアクションを取った。
「何が、マウンテンゴリラだ。・・・・・・地獄谷野猿公苑の野生の猿じゃないんだから、温泉には浸かりません。まさか、温泉に浸かりたかったから付いてきたんじゃないよな」
深呼吸し怒りを収めて答えた。
「そんな訳ないだろう。どうしても知りたいことがあったからだよ。さっき話していた、現場に向かうまでに派出所の警察官が擦れ違った女性、防犯カメラなどの確認も必要だけど、俺が考えている女性に間違いないと思う」
「えっ、本当なのか」
流石に驚いていた。
「まぁ、ちょっと待ってくれ」
朝比奈はポケットからスマホを取り出した。
(あっ、すいません、朝比奈と申しますが、草壁編集長はいらっしゃいますでしょうか・・・・・・・・・お願いします・・・・・・・・あっ、先日はありがとうございました。申し訳ないのですが、田中絵梨さんの実家の住所が分かりましたら教えていただけないでしょうか・・・・・・・・はい、お待ちしています・・・・・・・・・はい、岐阜県下呂市熊野町12番地ですね。念の為に、お母さんが過ごされている施設の名前は分かるでしょうか・・・・・・・・すこやか荘ですね。夜分申し訳ありませんでした。失礼いたします)
朝比奈は納得顔でスマホを切った。
「おい、田中絵梨って突然出て来たんだけど、今回の事件と何の関係があるのか説明してくれないか」
隣で通話を聞いていた大神が尋ねた。
「まぁ、まあ、先ずは温泉に浸ってからゆっくりとお話しますよ」
大神は仕方なく朝比奈を車に乗せて、下呂温泉でも超有名な明水館へと向かい。入湯料を支払って温泉だけに浸かることにした。大神がフロントでその手続きをしている時に、館内のバーにでも向かうのであろう1組のカップルに目が止まった。
「何とか今からでも入湯出来るそうだ。えっ、何かあったのか」
朝比奈の真剣に見詰めるカップルの後ろ姿を見た。
「今夜は遅いから、明日の朝一番で川瀬さんに連絡して、内川先生の長男と長女の石田さんの殺害時刻のアリバイについて調べてもらってくれないか」
左の顳かみを叩いて言った。
「ああっ、勿論そのつもりでいたけど、次男のアリバイについてはいいのか」
疑問の目で朝比奈を見た。
「それは今から調べるんだよお前がな。さっき俺が見ていたカップルの男がその次男の光雄だったんだよ」
そう言うと朝比奈はさっさと浴場へと向かい、残された大神は慌ててフロントへ確認に走って戻った。
「さっきの男は確かに内川先生の次男の光雄だった。奧さんとその両親と一緒に宿泊しているそうだ」
大神が朝比奈の入っている露天風呂に身体を首まで浸からせて尋ねた。
「お前のことだから抜かりはないと思うけれど、誰が予約を取ったのか確認しているよな」
定番のように頭の上に手ぬぐいを載せて尋ねた。
「予約を入れて来たのは光雄本人で、2日前だったそうだ。アリバイについては、チェックインしたのは午後7時30分頃、光雄が先にホテルに到着して館内を見学してから、妻とその親子が電車で来られたようで駅からはタクシーで8時15分頃入館し、ロビーで揃ったところで宿泊の手続きを取っている」
朝比奈が次に聞いてくるであろうことを察して続けた。
「流石ですね。光雄さんがホテルにやってきたのが7時30分に到着して8時15分までホテルにいたとすると、ここから現場までは車で15分程掛かったから、ドラえもんのどこでもドアがあっても無理かもな。でも、現場の近くに居たということは偶然とは思えないけどな」
白く濁った湯を手ですくい顔を洗った。
「冗談を言っている場合じゃない。ただ、長男と長女のアリバイは分からないが、お前が言うように次男が現場近くに居るのは流石に気になるな。兄弟妹のアリバイは明日の朝には分かるけど、さっき電話で話していた田中絵梨という人物が、警察官と擦れ違ったその女性なのか」
3人の子供のことよりも犯人と思われる女性が気になった。
「その女性、田中絵梨さんは、元文芸社の社員で内川先生の担当者で、母親の介護を理由に実家に戻ったのだが、その母親を施設に入れることになり1度は復帰する予定になっていた。しかし、先生の死に因って白紙に戻ってしまったんだよ。なぜ、石田さんが下呂の貸別荘を借りたのか気になっていたんだけど、彼女の実家がこの下呂市ってことに何か意図を感じてね。ただ、連絡先も聞いてあったんだけど、何度連絡しても着信拒否されているようなんだ」
「もし、子供3人にアリバイがあれば、その田中という女性が最も怪しいことになるよな。
住所が分かっているのなら、上杉刑事に報告して今すぐ身柄を確保した方が良いんじゃないのか」
朝比奈にしては行動が遅いと感じていた。
「まぁ、そう慌てないでもいいと思うよ。明日、自宅を尋ねるつもりでいるのだけど、多分今晩のことがあったから、自宅には戻らず何処かホテルなどに身を隠しているだろう」
「そんな悠長なこと言っててもいいのか、逃げられたらどうするんだ」
ついに大神が怒り出した。
「彼女が犯人の可能性は0ではないけれど、彼女が石田さんを殺害する動機が全く見当たらない。例えば、石田さんが内川先生を殺害した犯人だとすれば、今まで可愛がってくれた先生の敵を打つってこともあるだろうけど、石田さんには先生を殺害する動機も機会も無かったはずだ。それにそんなことがあったとしても、彼女が警察に相談すればいい話だからな。それに今彼女が1番大切に思っている母親を残して遠くに逃げることはないよ。ただ、もし彼女が石田さんに会いに行ったとしたら、その理由がまだ分からないんだよな。それを確認する為にも、明日母親にあってみようと思う。よろしくな」
彼女を確保する必要性を否定し、大神に協力を求めた。
「母親を1人残して殺人を犯す訳はないか・・・・・・・・俺は会ったことはないが、お前の刑事の勘、あっ、いや、経験からくる勘を信じますか・・・・・・・おい、入湯料立て替えたんだから後で返してくれよ」
肘で朝比奈の横腹を突っついた。
「お堅いことを言わずに・・・・・・・あっ、そうだ、もし事件解決の重要な手掛かりになった場合は、ビジネスホテルの宿泊料も出張費という名目で経費扱いしてもらってくださいね。よろしくな」
「よろしく、よろしくって、俺はお前の手下じゃないんだよ」
手ですくった湯を、思いっきり朝比奈の顔にかぶせた。
「あっ、それからもう1つ大切なことがある。凶器となったガラスの置物の復元か、同じタイプの置物を確認してくれないか」
顔を手ぬぐいで拭き真面目な表情で尋ねた。
「どうしてそんなに凶器に拘るんだ。まぁいい、明日もう一度上杉刑事に確認しておくよ」
大神は浴場を出ると早速所轄の上杉に連絡を取ってみたが、その間朝比奈は暫く姿を消していた。
「おい、どこ行ってたんだよ、さがしたじゃないか」
大神は受付などのスタッフに尋ねまくって、やっと朝比奈の姿を見付け文句を言った。
「ああっ、今夜は星空が綺麗だからね。名古屋と違って本当に輝いて見えたよ。あの日も、俺みたいに屋上で星空を眺めていた人がいたそうだぞ。それも望遠鏡を借りてな」
両手を広げて感動していた。
「何悠長なこと言ってるんだ。憩いの為に来てるんじゃないぞ。昔から長い付き合いだけど、本当お前が分からなくなることがある」
呆れ顔で朝比奈を見た。
「ああっ、上杉刑事には、警察官が擦れ違った女性が怪しいとちゃんと念を押しておいてくれただろうな」
大神の言葉を全く気にしてはいなかった。
「実際に今のところ1番怪しいだろう」
もう怒りさえ感じていないようだった。
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