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第8章 明けない夜
36話
しおりを挟む4月
キヨはなんとか仕事を見つけていた、
しかし時給の低いアルバイトで、
もしこのまま星に帰れないかもしれないと考えるとキヨはとても不安だった、
1人暮らしができるかどうかも分からない、
急にクビにされるかもしれない、
この不安定な状況では、
キヨの気持ちが晴れる気配は無かった。
そんなある日
とても久しぶりに咲から連絡が来た。
外出許可が出たから映画でも行こうという内容だった。
咲とは丸1年会ってなかった、
お見舞いに行くべきかと何度もキヨは考えたが、
自分の就職の事で頭がいっぱいだった、
それに、キヨはお見舞いなど行ったことが無い、
きっと何かキヨには分からないマナーやルール等があるのだろう、
それを理解できず何かやらかすのが怖かった、
とかなんとか理由をつけていたが、
結局は咲に会うのが怖かったからだ、
病気だって言うんだから
痩せたりしているかもしれない、
変わり果てた姿になっているかもしれない、
キヨはそれがどうしても怖かった。
正直言うと、今回の誘いに乗るかも一瞬悩んだ、
咲に会うのが怖いのはもちろん、
自分の気持ちがまだ落ち込んでいたからだ。
しかし、特に理由も思い付かず、
キヨは咲と映画に行くことになった。
映画当日、
キヨは待ち合わせ場所で咲を待っていた、
ガリガリに痩せていたらどうしよう、
それを見て私はギョッとした顔をせずにいられるだろうか、
いつも通りの自分でいられるだろうか。
そんなことを考えていると、
後ろから肩を叩かれた。
「清子!久しぶり」
振り向くとそこには咲がいた。
ガリガリになっているかと思ったが、
以前とそれほど変わらない、
ずっと入院していて
日焼けした肌は真っ白になっていたが、
特別顔色が悪いという訳ではなかった。
本当に病気なのかと疑わしく思うほど、
いつも通りの咲がそこにいた。
その後、キヨは咲と映画に行った、
観るのは、今流行りのアニメ映画。
スクリーンの中で、主人公が楽しそうに笑っている、
恐らく笑いをとるシーンだったのだろう、
あちらこちらから笑い声が聞こえた、
しかしキヨは全く笑えなかった、
ただただずっと、
呑気だな
いいな
この主人公は悩みなんて無いんだろうな
人生勝ち組なんだろうな
羨ましいな
そんなことばかり考えている、
どんどん惨めな気持ちになってきた。
この後は、咲とご飯に行く予定だったが、
気分的に行けそうにない、
ご飯を食べながら自分の悩みを咲に相談することも考えたが、
病気と闘ってる咲の方がどう考えても辛いはず、
自分のこんなちっぽけな悩みを相談するなんてできなかった。
せっかく会いに来てくれたのに
申し訳ない、と思いながら
キヨは咲に話した。
「実は今日生理でさ…
お腹痛くて気持ち悪くて……
ご飯はまた今度にしない…?」
「…えっ……………………、
……そっか、大丈夫?ごめんね誘っちゃって、そうだね、また今度にしよ、
私も病院に戻るね」
キヨは咲に別れを告げ、自宅へ戻った。
ごめんね咲
ご飯行けなくてごめんね、
もっと私が強くなって
また心の底から笑えるようになったら、
一緒にご飯に行こうね。
咲と会った日から数日後、
キヨは夢の中で咲と話していた。
夢の内容は
気持ちが落ち込んでいることをどうして
私に相談しなかったのか、
と咲が怒っているものだった。
夢の中でキヨは何度も謝り、
最終的に咲は許してくれた。
そして咲はキヨの手を握り、こう言った。
「何があったか分からないけど
あまり思い詰めないで、
清子は無理に自分を変えなくていいんだよ
清子は清子でいいんだよ」
そう言ってもらえたのが嬉しくて
夢の中でキヨは泣いていた、
そしてそのまま目が覚めた。
リアルな夢だったな、
手を握られた感触なんてまるで現実の様だった。
時間を確認するため、
キヨはスマホを見た、
すると懐かしい名前が画面に表示されていている。
春から、大量の着信があったのだ。
何事かとかけ直そうとしていると、
キヨの部屋のドアが勢いよく開いた。
見ると
青ざめた顔をしたキヨの母がいた。
「……咲ちゃん……
昨日の夜に…亡くなったって…………」
ただの夢ではなく、
咲はキヨに最期の挨拶をしに来ていたのだ、
キヨは察した。
「ご飯はまた今度行こう」
この約束は、果たせなくなった、
咲とご飯に行くことは
もう二度とできなくなった。
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