上 下
64 / 288

La petite Robe noire[ラ・プティート・ローブ・ノワール] 7

しおりを挟む

昼休みの後。

新庄ちゃんは泣き腫らした目で戻って来た。私と一緒にランチしていた事を知られていたからか、私の方を見てヒソヒソと話すスタッフの姿が目に入った。

うん、やっぱりね。私、悪者にされちゃったみたい。



「たまにもビールも美味し……やっぱ苦いか」
ベランダで夜景を肴に一人呟く。ため息と同時に隣の窓が開いた。
「梨愛ー?今日早いな」
「満紘も早いね」
「え、梨愛が塩対応じゃない」
大袈裟に目を見開くとベランダの仕切り板から満紘が身を乗り出す。
「満紘、危ないよ?」
「危ないって?」
「落っこちるよ。いくら2階でも落ちたら痛いじゃん?」
「でも俺、梨愛と飲みたい」
「じゃあ…うち、来る?」
「え?」
「目の前で落っこちられたら酔いが醒めちゃう」
ベランダの窓を閉める、大きな音が聞こえる。しばらくすると、我が家のインターホンが鳴った。覗き穴から確認すると満紘の姿があった。

「本当に来た」
くすくす笑うと満紘も笑う。
「だって梨愛が来ていいって言うから」
喜んでる犬みたいに尻尾が見えるよ。だなんて言ったら満紘は怒るだろうか?

「ビールとつまみ、持って来たよ」
満面の笑みで腕に抱えた物を見せる満紘。よく見ると結構な量。半袖から覗く腕の筋肉は私の見慣れないものだった。満紘、こんなに筋肉質だったっけ?
「私ビール、そんなに飲めない…」
「その手に持ってるのは?」
「え」
そうだった。いつもと違うものを飲みたくなってしまった私は今日はビールを飲んでいたのだった。
しおりを挟む

処理中です...