上 下
195 / 288

露見 2

しおりを挟む

一度、深く息を吸った。
「──時緒。はっきり言うけど。誰かに脅されてるんじゃない?」
目を見開いた彼はすぐにいつもの表情を作る。

「え……何、なんで?」
即答しない。脅されてる説は確実だな。
「私の前で出来ない電話が頻繁にかかってきてるよね。夜うなされてるのはしょっちゅうだし。食欲も減ってる。理由が仕事じゃないのは一緒に仕事してるからわかる」

時緒は何も言わない。沈黙が流れる。目覚まし時計の秒針の音だけが部屋中に響く。

時緒が口を開くまで、絶対に私から話してはいけない。そんな気がした。沈黙に負けてちゃだめだ。

どれぐらいの時間が流れたのか。1分なのか、数分なのか、わからない。それでも私は待たなければ。今待たなかったら、時緒は今後について絶対に口を割らないと直感で思った。

ふと、梨愛ちゃんのお兄さん、朔さんが時緒に近づいていることを碧から聞いていたことを思い出した。その話、したらまずいかな?いやでも、時緒のペースで、時緒の選んだ言葉で、時緒の口から聞くべきだ。そうじゃなきゃ、いけない気がする。

「──英を、巻き込みたくないんだ。出来れば、聞かないで欲しい」
斜め下を見つめたまま、彼はぼそりと呟いた。

「聞かないで欲しいんだろうな、とは思ってた。でもね、時緒がやつれていくのをただ指咥えて見てるだけっていうのは、それは私にはできないの」
表情を変えないまま、時緒はまだ床を見つめている。

「吐き出すだけ、でもいいの。時緒がずっと辛そうなのに、何も出来ないのは、私も辛いの」
しおりを挟む

処理中です...