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覚悟 3

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「お疲れ」
疲れを滲ませた声で時緒は動物園の職員用駐車場で私を迎えた。
「お疲れ様」
その手に指を絡ませる。一瞬、彼の表情が緩んだ気がした。「行こうか」手に感じていた熱が離れた。追いかけるように、私も助手席に向かった。

車が発進して、少し経った。こちらから言葉を催促するのは違う気がした。赤信号で停車すると、時緒は口を開いた。
「どこから……話そうか」
「家に着いてからでも、いいんだよ?」
「いや、運転しながらの方が……話せる気がする。今日、安藤先生に呼ばれたとき、応接には警察が来てた。スーツだったから見た目ただの業者に見えたんだけどな」
警察、スーツ……。刑事さんってことか。きっと、梨愛ちゃんによく似た、私が目撃した人と一致するんだろう。信号が青に変わり、車は発進した。

「結論を言うとな。捜査の協力をして欲しい、ってことだった。俺を捕まえに来たわけではなかったらしい」
緊張の糸が切れた。つまり、時緒は捜査対象ではあったけど、重要参考人ってぐらいのものだったってことなのかな?
「じゃあ、もう警察を怖がらなくてもいいの?もう警察を敵視しなくても」
「俺怖がってなんか」
「すっごい怖がってたよ?」
「そんなこと……あるか」
時緒は少し口角を上げた。ふ、と口から漏れたその笑いに、なんだか救われた気がした。
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