悪役令息転生、でも今のところは無罪です 〜投獄エンドなんて絶対回避!〜

あんこ

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第一章

1


医師が去った後も、両親とカミーユは俺の周りにべったり張りついたままだった。
母はハンカチを握りしめながら涙目で俺を見つめ、父はやけに真剣な顔で腕を組み、弟はまだ青い顔で固まっている。

……なんだこのアウェー感。

「リュシアン、喉は乾いていない? お腹は? 食べたいものがあればすぐに用意させるわ!」
「いや、母上、そこまで……」
「遠慮することはないのよ! いつもみたいに“アレを持ってこい”とか“コレじゃなきゃ嫌だ”とか!」

(あ、ヤベ。俺そんな注文つけまくってたんだ……!)

「……お水で大丈夫です」
「まぁ……!!」

母がまた泣いた。おい泣くな。俺、今そんな殊勝なこと言ったか!?

父まで感慨深そうに頷く。
「リュシアン……成長したのだな」

(やっば! この家の“元リュシアン”って、どんだけ傲慢坊ちゃんだったんだよ!?)

極めつけはカミーユだ。
未だに俺を凝視したまま小声でつぶやく。

「……兄上が、普通に水でいいなんて……悪い夢を見ているのかもしれない」

(なぁ! 俺どんだけ日常的に弟に迷惑かけてたの!?)

必死で冷静を装いながら、俺は悟った。
──今の俺の最重要任務は“無害アピール”だ。
少なくとも「こいつ変わったな」と思わせなきゃ、投獄ルートからは逃げられない!

「……少し、立場を見直していかないとヤバいかも」

思わず口から出た本音に、また母が「まぁぁぁ!」と声を上げ、父が「ついに悟りを……」と感動の眼差しを向け、弟が「兄上どうしたんですか!? 誰かに取り憑かれました!?」と大慌てするのだった。

(……いや、取り憑かれたのは正解だけど!中身的に!!)


なんとか両親が部屋を出ていき(追い出し)、部屋にはカミーユと俺だけが残った。
静寂が降りる。
カミーユはベッド脇の椅子に座り、腕を組んで俺をじっと睨んでいる。

「兄上。どうして急にそんな殊勝な態度なんですか?」

声が冷たい。いや、いつもこんな感じなんだろうな。
弟からの好感度が地の底にあるのは間違いない。

俺はちょっと悩んでから、口を開いた。

「……なんだか階段から落ちて、頭がクリアになったんだ」
「は?」
「このままじゃダメだって思った。心を入れ替えようと思う」

カミーユの目が、ありえないものを見たみたいに見開かれる。

「……兄上が、心を入れ替える?」
「そうだ。これからは、もっと周囲に感謝して、真面目に──」

「……」

弟はしばらく固まった後、テーブルを軽く叩いた。

「っ……やっぱり階段から落ちた衝撃で、おかしくなったんですね」

(おい!?)

「頭がクリアになったんじゃなくて、逆に壊れたんじゃ……」
「壊れてない! 真面目に言ってる!」

必死で訴える俺を、カミーユは疑わしげに睨む。
その視線にちょっと心臓が縮んだ。

けれど──。
「でも……本当にそうなら、少しは……兄上も変われるかもしれませんね」
小さく呟かれたその言葉に、俺は心の中でガッツポーズを決めた。

(よし、弟ルートは“信頼回復”からスタートだ! 投獄フラグ回避のためにもな!!)


「でも本当に心を入れ替えたなんて、簡単には信じられません」
カミーユは腕を組んだまま、鋭い視線を俺に向けてくる。

(だよなぁ……そりゃそうだよなぁ……。昨日までのリュシアンがどんな奴だったか断片的にしか知らないけど、とんでもなくワガママだったのは確かっぽいし)

「だから」

カミーユが椅子からすっと立ち上がった。
その目は、冷静を装ってるけどどこか決意が混じっている。

「これからは、僕が兄上を監視します」
「か、監視!?」
「兄上が本当に変わったかどうか、この目で確かめます。……でなければ、両親も安心できないでしょうから」

(えー!? 監視役って、弟に見張られる日々!? なんか屈辱的!!)

必死で抵抗したい気持ちを押し殺して、俺は引きつった笑顔を返すしかなかった。

「……よ、よろしくね」
「……っ」

一瞬、カミーユの目が大きく見開かれる。
どうやら「兄上からまともに礼を言われる」という事態は、彼の想定の外らしい。

「……本当に、変わったんですね」

その声は小さくて、少しだけ震えていて。
素直じゃない弟の中に隠れてる、心配してた気持ちがちらっと見えて──。

(……よし! 監視役がつこうが関係ない! これで“無害アピール”はますます強化できる! リュシアン改造計画、弟公認で本格始動だ!!)

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