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第一章
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未だ呆然とする俺の肩に、ぽん、と軽く手が置かれた。
「――生き延びるためだ。背負い込む必要はない」
低い声。いつもの軽薄な調子じゃない。
ただ淡々とした、真剣な声。
「でも……」
言葉が喉に詰まる。
「でもじゃない。俺たちは戦う力を持ってる。その力を振るった結果、今こうしてお前は生きてる。それ以上でも以下でもない」
静かな声が、不思議と心に染み込んでくる。
……けど、次の一言でぶち壊された。
「ま、初めてにしちゃ上出来だな。なかなか“血の気の多い新入り”に育ちそうだ」
「だ、誰が血の気の多い新入りですか!!」
思わず立ち上がって叫ぶと、カスパル先輩は悪戯っぽく笑った。
「お、反論する元気はあるみたいだな。よしよし」
「っ……!」
(くっそ……! 心配してんのか茶化してんのかどっちなんだよ!!)
少しだけ、胸の重さが和らいだ気がした。
魔物を倒したあと、俺とカスパル先輩は通路の壁に腰を下ろして一息ついていた。
喉がカラカラで、水筒の水をあおる。氷魔法で冷やした水がやけにうまい。
「やっぱり実戦で魔法を使うのは、練習で使うのと全然違いますね」
「だろ? でもさっきは悪くなかったぜ。スライム戦に比べたら上出来だ」
「それはもう忘れてください!」
顔が熱くなるのを誤魔化すように、俺はわざとぶっきらぼうに答えた。
と、その時だった。
「――楽しそうだね」
背後から聞き慣れた声がした。
振り返れば、ここ最近よく見る演習場でのあの姿。ダークブラウンの髪を揺らして、ユリウスが立っていた。
「ユ、ユリウス……!」
思わず変な声が出る。
「偶然ですね。まさか、こんなところで“コソ練仲間”と出会うとは思わなかったよ」
「っ……!?」
心臓が跳ね上がる。
(はぁ?! なんで今ここでバラすんだよ!)
「へぇ。コソ練仲間、ねぇ?」
カスパル先輩が面白そうに目を細める。
「いやいやいや、違います! 今のは……!」
慌てて否定するが、時すでに遅し。
ユリウスは口元に手を当てて、にこやかに言った。
「……魔力の扱いが下手すぎて俺が手を貸してる。それは間違いないでしょ?」
「お、お前~~!!」
(なんでここでニコニコ暴露するんだよ! 殺す気か!?)
カスパル先輩は肩を揺らして笑った。
「ははっ、なるほど。道理で筋はいいと思ったんだ。お前さん、いい先生持ってんな」
カスパル先輩がニヤリと笑い、ユリウスは涼しい顔のまま目を細める。
……空気が、ピリッと張り詰めた。
「“いい先生”、か。ふふ、そう言ってくれるのは嬉しいのですが」
ユリウスが微笑を浮かべる。その裏に、棘のような冷たいものがちらついた。
「彼の先生をしているつもりはないです。“友人”として、つい興味が湧いて手を貸したくなるんですよ」
「へぇ? その“興味”ってやつ、俺と同じ理由かもしれないな」
カスパル先輩は挑発めいた笑みを浮かべる。
「…………」
ユリウスの笑みが一瞬だけ深くなる。
(うわ、絶対火花散ってる!マズい!)
「ま、待った待った待ったぁぁ!!」
俺は両手を振って二人の間に割って入った。
「な、なにを睨み合ってるんですか!? 俺のことで揉めるのはやめてください!!」
(いや違う! 言い方!! なんで俺、こんな台詞吐いてんの!?!?)
カスパル先輩はふっと笑って肩をすくめ、ユリウスは目を細めて小さくため息をついた。
「……そうだな。今は演習中だ。場違いな話をしました」
「おっと、悪かった悪かった。後輩を困らせちゃダメだね」
とりあえず二人の緊張は解けた。
「……っ」
俺は心臓を押さえて、その場にへたり込みそうになる。
(あっぶねぇ~~~!!これ、どっちかに取り合われてとかそういうフラグにしか見えない! いやだぁぁぁ!!!)
「そういやユリウス、お前なんで1人なんだ?」
カスパル先輩が軽く顎をしゃくる。
ユリウスは変わらぬ笑みを浮かべて答えた。
「さっきモンスターが二体現れた時にペアの先輩と手分けをして戦ったんです。その後はぐれてしまいまして。ルール通りなら帰還石で戻るべきなんでしょうけど……」
「ま、こんな序盤で戻るのもダサい話だしな」
カスパル先輩はにやりと笑うとこちらを見てウィンクをかました。嫌な予感。
「――しゃあない。ユリウスもリュシアンも、まとめて俺が見てやるよ」
「なっ……!」
思わず俺は口を開く。
(何かっこよくキメてんだよこの人……でも妙に頼もしさがあるのが腹立つ!!)
ユリウスは少しだけ目を細めて、「……それは心強いですね」と小さく返した。
その瞬間だった。
ズズズ……ッ!
足元が震え、奥の通路から唸り声が響く。
現れたのはさっきのより一回り大きい魔獣。硬質な鱗がびっしりと身体を覆い、赤い瞳が不気味に光る。
「おいおい、次はボスのお出ましか?」
カスパル先輩が口笛を吹く。
「三人でかかるしかなさそうですね」
ユリウスは表情ひとつ変えずに魔力を練り上げた。
(うわああ……なんでこういう時だけ物語的に盛り上がるんだよ!!)
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