悪役令息転生、でも今のところは無罪です 〜投獄エンドなんて絶対回避!〜

あんこ

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第一章

11


未だ呆然とする俺の肩に、ぽん、と軽く手が置かれた。

「――生き延びるためだ。背負い込む必要はない」

低い声。いつもの軽薄な調子じゃない。
ただ淡々とした、真剣な声。

「でも……」
言葉が喉に詰まる。

「でもじゃない。俺たちは戦う力を持ってる。その力を振るった結果、今こうしてお前は生きてる。それ以上でも以下でもない」

静かな声が、不思議と心に染み込んでくる。

……けど、次の一言でぶち壊された。

「ま、初めてにしちゃ上出来だな。なかなか“血の気の多い新入り”に育ちそうだ」

「だ、誰が血の気の多い新入りですか!!」
思わず立ち上がって叫ぶと、カスパル先輩は悪戯っぽく笑った。

「お、反論する元気はあるみたいだな。よしよし」

「っ……!」
(くっそ……! 心配してんのか茶化してんのかどっちなんだよ!!)

少しだけ、胸の重さが和らいだ気がした。


魔物を倒したあと、俺とカスパル先輩は通路の壁に腰を下ろして一息ついていた。
喉がカラカラで、水筒の水をあおる。氷魔法で冷やした水がやけにうまい。

「やっぱり実戦で魔法を使うのは、練習で使うのと全然違いますね」
「だろ? でもさっきは悪くなかったぜ。スライム戦に比べたら上出来だ」

「それはもう忘れてください!」
顔が熱くなるのを誤魔化すように、俺はわざとぶっきらぼうに答えた。

と、その時だった。

「――楽しそうだね」

背後から聞き慣れた声がした。
振り返れば、ここ最近よく見る演習場でのあの姿。ダークブラウンの髪を揺らして、ユリウスが立っていた。

「ユ、ユリウス……!」
思わず変な声が出る。

「偶然ですね。まさか、こんなところで“コソ練仲間”と出会うとは思わなかったよ」
「っ……!?」
心臓が跳ね上がる。

(はぁ?! なんで今ここでバラすんだよ!)

「へぇ。コソ練仲間、ねぇ?」
カスパル先輩が面白そうに目を細める。

「いやいやいや、違います! 今のは……!」
慌てて否定するが、時すでに遅し。

ユリウスは口元に手を当てて、にこやかに言った。

「……魔力の扱いが下手すぎて俺が手を貸してる。それは間違いないでしょ?」

「お、お前~~!!」
(なんでここでニコニコ暴露するんだよ! 殺す気か!?)

カスパル先輩は肩を揺らして笑った。

「ははっ、なるほど。道理で筋はいいと思ったんだ。お前さん、いい先生持ってんな」

カスパル先輩がニヤリと笑い、ユリウスは涼しい顔のまま目を細める。
……空気が、ピリッと張り詰めた。

「“いい先生”、か。ふふ、そう言ってくれるのは嬉しいのですが」
ユリウスが微笑を浮かべる。その裏に、棘のような冷たいものがちらついた。

「彼の先生をしているつもりはないです。“友人”として、つい興味が湧いて手を貸したくなるんですよ」

「へぇ? その“興味”ってやつ、俺と同じ理由かもしれないな」
カスパル先輩は挑発めいた笑みを浮かべる。

「…………」
ユリウスの笑みが一瞬だけ深くなる。
(うわ、絶対火花散ってる!マズい!)

「ま、待った待った待ったぁぁ!!」
俺は両手を振って二人の間に割って入った。

「な、なにを睨み合ってるんですか!? 俺のことで揉めるのはやめてください!!」

(いや違う! 言い方!! なんで俺、こんな台詞吐いてんの!?!?)

カスパル先輩はふっと笑って肩をすくめ、ユリウスは目を細めて小さくため息をついた。

「……そうだな。今は演習中だ。場違いな話をしました」
「おっと、悪かった悪かった。後輩を困らせちゃダメだね」

とりあえず二人の緊張は解けた。

「……っ」
俺は心臓を押さえて、その場にへたり込みそうになる。

(あっぶねぇ~~~!!これ、どっちかに取り合われてとかそういうフラグにしか見えない! いやだぁぁぁ!!!)


「そういやユリウス、お前なんで1人なんだ?」
カスパル先輩が軽く顎をしゃくる。

ユリウスは変わらぬ笑みを浮かべて答えた。
「さっきモンスターが二体現れた時にペアの先輩と手分けをして戦ったんです。その後はぐれてしまいまして。ルール通りなら帰還石で戻るべきなんでしょうけど……」

「ま、こんな序盤で戻るのもダサい話だしな」
カスパル先輩はにやりと笑うとこちらを見てウィンクをかました。嫌な予感。

「――しゃあない。ユリウスもリュシアンも、まとめて俺が見てやるよ」

「なっ……!」
思わず俺は口を開く。

(何かっこよくキメてんだよこの人……でも妙に頼もしさがあるのが腹立つ!!)

ユリウスは少しだけ目を細めて、「……それは心強いですね」と小さく返した。

その瞬間だった。

ズズズ……ッ!

足元が震え、奥の通路から唸り声が響く。
現れたのはさっきのより一回り大きい魔獣。硬質な鱗がびっしりと身体を覆い、赤い瞳が不気味に光る。

「おいおい、次はボスのお出ましか?」
カスパル先輩が口笛を吹く。

「三人でかかるしかなさそうですね」
ユリウスは表情ひとつ変えずに魔力を練り上げた。

(うわああ……なんでこういう時だけ物語的に盛り上がるんだよ!!)




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