悪役令息転生、でも今のところは無罪です 〜投獄エンドなんて絶対回避!〜

あんこ

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第一章

12


ダンッ――!
魔獣が地面を叩きつけ、石片が飛び散った。

「カスパル先輩、前お願いします!」
ユリウスが短く指示を飛ばす。

「おうよ!」
腕に風を纏わせたカスパル先輩が正面から突っ込む。そのまま手を前へ突き出すと、突風と共に魔獣の動きを封じた。

「リュシアン、氷で援護を!」
「わ、わかってる!」
俺は両手を前に突き出し、冷気を強くイメージする。

「《アイスミスト》!」

冷たい霧が魔獣を包み、赤い瞳がぎょろりと揺れた。

「効いてる。今のうちに!」
ユリウスが声を重ねる。

(よし……! いける!)
俺は指先を銃口みたいに構え、氷の槍を思い描いた。

「《アイスランス》!」

鋭い氷槍が魔獣の肩口に突き刺さり、巨体がのけぞる。
だが致命傷にはならず獣の唸り声が辺りに響いた。

「おお、惜しいな後輩!」
カスパル先輩が笑う。だが次の瞬間には真剣な目に変わり、風で獣の動きを押さえ込む。

「リュシアン、もう一度。今度は僕がタイミングを合わせます」
ユリウスが横に立ち、低く囁く。

「……本当にできるのか、俺……」
「できます。君の魔力は粗削りですが強い。あとは狙いを定めるだけです」

「……っ!」
胸の奥が熱くなる。

「今だ――!」
ユリウスの声に背を押され、俺は震える手を突き出した。

――氷槍が真っ直ぐに走り、魔獣の胸を貫く。

巨体が地響きを立てて崩れ落ち、静寂が訪れた。

「……やった……のか?」
不安げに声を震わせる俺に、カスパル先輩が豪快に笑う。

「おう、よくやったじゃねぇか!」

ユリウスは小さく息を吐き、ふっと微笑む。
「……なかなか様になってきましたよ」

「な、なんだよその上から目線……!」
キッと睨みつけて言い返すと、二人の笑い声が重なった。


「さてそれじゃあ――振り返りといこうか」
魔物から少し離れた開けた空間で、ユリウスは姿勢を正し淡々と話し始めた。

「まずリュシアンの《アイスミスト》で魔獣の嗅覚を封じ、行動を鈍らせた。次にカスパル先輩の風で動きを止め体勢を崩させる。そして最後に僕の合図とともに撃った、リュシアンの《アイスランス》が決め手になった」

「なるほどな。お前、授業並に分かりやすい説明すんのな」
カスパル先輩がニカッと笑う。

「授業は先生方の役目ですから僕はあくまで補足です」
淡々と返すユリウスに、俺は思わず吹き出しそうになる。

「で、肝心のリュシアン」
名前を呼ばれ、びくっと背筋が伸びる。

「一度目は外したけど、二度目で急所を狙えた。これは“魔力の質”が良い証拠です。氷魔法は攻撃力が高く、的確に扱えば一撃必殺になり得る」

「おーいリュシアン聞いたか? お前、期待値バリ高だってよ」
「うるさい!」
思わず声が裏返る。

「……ただし」
ユリウスは表情を引き締めた。

「やっぱり魔力の出力が雑すぎる。さっきの霧だって、調整できていればもっと動きを制限できたはずです」

「……ご、ごめん……」
肩をすくめる俺に、ユリウスは静かに首を振る。

「謝る必要はありません。未熟なのは当然です。ただ――成長の伸び代は誰よりも大きい。それを自覚してください」

「おー、うまいこと言うじゃねぇか。ま、要するに“下手だけど面白ぇから頑張れ”ってことだな」

カスパル先輩がケラケラ笑い、俺の頭をわしわし撫でてきた。

「撫でるな! 俺は犬じゃない!!」
「おや、可愛い反応ですね」
ユリウスが薄く笑い、さらに俺の顔が真っ赤になる。

(……くそ、なんかもう……ほんと調子狂う!)


振り返りを終えて一息ついたその時。
ふと、口をついて出てしまった。

「そういえばさ、練習のときから思ってたんだけど」

ユリウスが小さく首を傾げる。
「なんです?」

「お前の本気の魔法、見たことないなって。俺……ちょっと見てみたかったかも」

「……」
ユリウスの長いまつ毛がわずかに揺れる。

「だって、お前の魔法ってさ――ただの“水”じゃないんだよな」
言葉を探すように視線を宙に泳がせてから、俺は続ける。

「澄んだ湖面が朝日に照らされて、きらきら揺れるみたいで。冷たさもあるけど、なんか……心地いい。俺じゃ到底、ああいうのは無理だよ」

ユリウスの目が、かすかに見開かれた。

「きっとさ、三年で習う上級魔法だってもう使えるんだろ? お前のことだから。いつか見せてくれよ!俺、お前の魔法、好きだから!」

「……っ……」

ユリウスの眉がぴくりと揺れた。
ほんの刹那、仮面が揺らぐ。

しかし次の瞬間には、いつもの冷静な笑みが戻っていた。
「……評価、ありがとうございます」

しかし声音だけがほんの少し硬い。

「ひゅ~う! 言うじゃねぇか、後輩!」
すかさずカスパル先輩が割り込み、豪快に手を叩いた。

「ユリウス、お前今ちょっと目泳いでなかった? へぇ~、優等生仮面にも隙があんじゃん!」

「……からかわないでください、先輩」
ユリウスは低い声で釘を刺すが、冷ややかな仮面の下に“ほんのわずかな動揺”だけを残していた。

「は? 俺は普通に思ったこと言っただけだぞ!?」

俺は慌てて否定するが、カスパルのニヤニヤ顔とユリウスの一瞬の間に、何とも言えないざわつきが残るのだった。


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