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Ⅰ章.カンザリア要塞島 ─トゥーリ・アクス─
【2】_3
「――人のことをとやかく言う前に……」
だが、やおら総督は、白い目を向けこちらを振り向く。
「そういうおまえはどうなんだ、アクス」
「え? 俺……?」
「おまえこそ、休日にも島から出ることは少ないようだし、女の話も出ないしな。それこそ『淋しすぎる』という生活ではないのか?」
「あー俺はー……えっと……」
咄嗟に返す言葉が見当たらなくて、俺は視線を横に流した。ついでに、しゃがんでいたそのままの足も崩し、床に腰を落として座る。
「島から出られない私に遠慮していたのであれば、もう気遣いは無用だぞ。好きにどこへでも女を買いに行けばいい。我慢は身体に悪いんだろう?」
「あ、はい……そうですね……」
思わぬ反撃に、表情が少々引き攣る。おもむろに、あぐらをかくように投げ出した両足を引き寄せると、改めて俺は、口許にどことなく人の悪い笑みを浮かべる総督を見上げた。
「じゃあ、お言葉に甘えて、次の休みにでも行ってくることにします」
そしてニッコリ笑ってみせた俺の顔を、総督は何も言わず無表情に見下ろしてくる。
だが、やおら座っていた出窓から立ち上がった――と思ったら、そのままその場でしゃがみ込んだのだ。まるで俺に視線を合わせるかのように。
「総督……?」
「――おまえの笑顔は、わかり易いな」
「え……?」
言いながら、床に手を付いて身を乗り出し、より近くから俺の顔を覗き込むような仕草で見つめてくる。
「嘘を吐く時と誤魔化す時の笑顔は、すぐわかる」
「え゛っ……!!?」
「今のは誤魔化そうとした笑顔だ」
「別に、そんなことは……」
「この私の前で、いい度胸だな。適当に言って笑っておけば何でも逃れられると思ったら、大きな間違いだぞ」
「…………」
そこでうっかり黙ってしまった俺は、観念して一つ息を吐いた。
「ですが、俺は……総督と違って、女は好きですよ?」
「ふぅん……?」
俺の言葉など一切信じていないような表情の総督が、こちらを見据える視線だけで先を促す。
「本当ですって。男と違って、どこもかしこも柔らかいし、抱き心地も良いし、抱いたら抱いたで気持ちいいし。できることなら、めくるめく情欲の日々にどっぷり溺れてしまいたいと思えるくらいには、女好きですよ俺は。――ただ……」
「ただ……何だ?」
「してる最中はどんなに気持ち良くても、醒めると後味が悪いんです」
「――なんだ、それは……?」
「自分の母親を思い出してしまうので」
そこで総督が、あまりにも意外な返答を聞いたといった表情で軽く目を瞠り、押し黙った。
その沈黙にも話の先を促されているような気がして、ゆっくりと俺は、言葉を紡ぐ。
「俺を産んだ母親ってのは、男がいないと生きていけないっていう、しょーもない女でしてねえ。俺の育ったところは西の国境近くの小ぢんまりした街なんですが、戦火の絶えない場所で、近くには海があって、海軍の砦もあって、そこから街に出てくる軍人相手に身体を売って日銭を稼いでる、そういう女でした。で、しょっちゅう客の中の誰彼かを引っかけてきては『あんたの父さんになる人よ』って俺に紹介して、すぐにのぼせあがって……でも相手は軍人ですからね、戦死されたり、異動されたり、そんなこともしょっちゅうで、誰とも長くは続かなかった。なのに学習もせず、何度も何度も軍人相手に同じことを繰り返すんですよ。子供心に、何て馬鹿な女だろうって、よく思っていたもんです。――まあ、今でもそう思ってますが」
「仮にも産んでくれたお母上に対して、そんな風に言うものじゃない」
眉をしかめつつ、やや遠慮がちにそう口を挟んだ総督を見やり、ああこのひとはどこまでもお育ちがよろしいのだなあと、そこでしみじみ感じ入る。我知らず苦笑が洩れた。
「そうですね……産んでくれたことは感謝してますよ。それに、軍人ばかりを相手に選んでくれたことにも、かな。だから今の俺があるようなものだし」
「どういうことだ……?」
「俺は、実の父親を全く知らなかった所為なのかな、連れてこられた“父親候補”にことごとく良い顔してたから、結構みんなから可愛がられて、よく遊んでもらったりもしてたんです。そういう遊びの中で、剣術だの体術だのはもちろん、それこそ銃砲の扱い方に至るまで、軍人にとって必要な基本を色々教えてもらいました。今こうして騎士にまでなれたのは、幼いうちにそういう素地を作ってもらえたおかげ、っていうのもあるんじゃないかなと」
「なら、お母上は、そこまで見越していたのではないのか? 息子が軍人として不自由なく生きていけるよう、そういう相手ばかりを選んでいたのでは」
「どうなんでしょうね……そんなとこまで聞いたことないですし」
「お母上とは、もう会っていないのか?」
「会ってないですね。――つか、もう会えません。だいぶ前に死にましたから」
「そうだったか……すまなかった、辛いことを聞いたな」
「いいえ。まだ子供だったので、辛かったかどうかなんて、そんなに覚えちゃいないですし。ただ、母の死で、自分は運が良かったことだけは分かりました」
「なんだと……?」
「母は、戦火に巻き込まれて死んだんですよね」
俺の言い方に気色ばみかけた総督だったが、そこで息を飲み押し黙る。
「家に隠れていたところを、攻め入ってきた敵の兵士に見つかり、凌辱されて殺された――てことを、打ち捨てられていた母の遺体が如実に物語っていました。その場に俺も一緒にいたら、きっと当たり前のように殺されていたと思います。でも、その日はたまたま、母が“父親候補”として連れてきた最後の男が非番の日で、海まで遊びに連れ出してくれてたんです。だから生き延びることができた。それだけでも運が良かった。加えて、俺は母を失くしたことで孤児になったけど、その最後の“父親候補”に引き取ってもらえたから、飢えて野垂れ死にすることも免れた。俺の『アクス』の姓は、その引き取ってくれた父親のものなんですよ。ちゃんと養子として籍も入れてもらえたので、以来アクスを名乗るようになりました。それからの俺の人生は、何から何までその父から貰ったものだと、そう思ってます。感謝してもしきれないくらいです。こんなに運が良くていいのかと、その時ものすごく怖くなったのを覚えてます」
総督は、もう俺の話に口を挟むことをしなかった。相槌を打つことさえ止めていた。
「俺を引き取ってくれた後、父は海軍を辞めて、商船で働き始めました。海軍出身であることを買われて、対海賊用の戦闘員を兼ねた雑用係、ってとこですね。それでも、軍役よりは実入りが良かったんだと思います。俺も一緒に船に乗せてもらえたので、すぐに仕事を手伝うようになりました。子供とはいえ、もう十にはなってましたからね。もともと海っぺり育ちだから船も好きだったこともあって、船の上での生活にもすぐ慣れました。それは本当に楽しかった。父をはじめ、乗組員みんなが俺を可愛がってくれたし、操舵方法から海上戦闘の心得から何から何まで、船上で教わることの全てが面白くて仕方なかった。だから俺は、母の死なんてすっかり忘れて、すぐ新しい生活にのめりこんでしまいました。それが、だいたい五~六年、続いたかな……十六の時、父が事故で死んで、それを機に俺も船を降りました。一人で生きていくため軍役につくことにしたんです。その頃には自分の腕っぷしにも相当自信がついていたし、船でそれなりの戦闘経験も積んでいたから、まあ、そこそこラクに出世もできそうな、妥当な転職先かな、って」
そこで、海軍でなく陸軍に入ったのは、単なる思い付き…のようなものだ。
どうせ出世を目指すなら、軍人のトップである騎士になろう、と思い付いた。それならば陸軍に入るのが早道だ。
なおかつ、たまたま船を降りた場所の近くに陸軍の駐屯地があり、さらに都合のよろしいことに、ちょうど新兵募集の時期だった。
これも何かの縁だろうと、だからそのまま、そこで雇って貰うことにしたのである。
それが、俺の軍人生活の始まりとなった。
「もともとが海の荒くれ男どもに囲まれた生活でしたからね、軍での下っ端生活も、慣れてくればそれなりに楽しく過ごせてましたよ。毎日仕事に出て、鍛錬と訓練に勤しんで、暇さえあれば仲間連中と酒飲んで馬鹿話して騒いで、休みになれば近くの街へ出かけて女を抱く。そんな普通の軍人の生活をアタリマエのようにしてました。毎日がそれなりに忙しくて、昔を思い出す暇なんて全く無かった。それなのに……」
そこで言葉を切って、息を吐く。
次の言葉を続けるのに、少しばかりの勇気が要った。
「突然、俺は夢を見るようになったんです。――死んだ母の夢を」
それは、あまりにも突然だった。何かのキッカケがあったからなのかどうかもわからない。
女を抱いた後、眠りに付くと毎回、母が夢枕に立つようになったのだ。
恨み事を言うでもなく、何をするでもなく、ただ黙して立ち、じっとこちらを見つめている。笑みさえ浮かべぬ表情で。
最初は、ただの夢だと思った。だが、女を抱いた時に限って毎回同じ夢が続くので、次第に薄気味悪くなった。
――母の姿さえ思い出すこともしなくなった俺を、恨んでいるのか?
問いかけても、夢の中の母は答えをくれない。一人でどんなに悩んでみても、答えは出ない。
次第に、女を抱くこと自体が怖くなった。
それをすれば、気持ちいいことは分かっている。だが、その後に見るだろう夢によって、その快感など跡形も無く吹き飛ばされてしまう。
また、あまりにも気に病んでしまった所為か、抱いている最中の女の面差しにまで母の顔が重なるようになってしまった。
自分が実の母を犯している姿など、たとえ錯覚であろうと、ぞっとしないどころではない。おぞましすぎる。
「だんだんと夢に現実を侵食されていって、女を抱いているその“今”さえ、もはや現実なのか夢なのか、それさえも区別がつかなくなりそうで……そんなだから、だんだん女を抱く頻度も間遠になっていきました。でも、溜まるモンは溜まるんで、どうしても我慢できなくなった時は仕方なくする。そこを狙いすましたように、また母の姿が現われる。その繰り返しにも嫌気がさして……たぶん、もう女じゃ俺はダメなんだろうな、って。俺と母との隙間を埋めるには、もう幾ら女を抱いても何の解決にもならないんだろうな、って。だから諦めました。それで今じゃもう、よっぽどのことでも無い限り娼館に近寄りもしなくなっちゃってるんですよね。こうして離島に赴任させられたのも好都合だし、とりあえず他のことで発散できてるうちは、“右手が恋人”の淋しすぎる生活も、まあいいものかな、って……」
言いながら、ひらひら動かしてみせた、俺の右手――それを、ふいに総督が掴んだ。
「総督……?」
「すまない……おまえが誤魔化すくらい話したくなかったことを、私は無理やり聞いてしまったのだな……」
掴まれた右手に力が籠もる。俯き、伏せられた視線からは、その感情が読み取れない。
だから俺は、とりあえず「いいえ」と応えて、笑ってみせた。
「総督に話すのだったら、構いませんよ」
ゆっくりと総督が視線を上げて、俺を見つめる。
「本当に……おまえの笑顔は、わかり易いな」
そして呟くように、それを言った。
「もう、自分まで誤魔化すな」
――俺が誰に対しても笑顔を向けるようになったのは、いつからだったろう……?
物心ついた時から、気が付けば自然にそうしている自分がいた。
幼い俺は、そうすれば誰からも可愛がってもらえることを知っていたのだ。
それが、その時の自分にできる精一杯の自衛であり、そして同時に、母に対する主張だった。
ボクはこんなに皆に可愛がってもらえてるよ、良い子でしょ、だからもっとボクに構って、もっとボクのことを好きになって、――と。
「俺は……本当は母のことなんて、何一つとして知らないんですよ」
突然語り出した俺の言葉を、総督は遮ることもせず、ただ黙したまま聞いていてくれた。
「女を抱かなくなったら、もう眠っても母の夢など見なくなりましたが……そうなったらなったで、起きてる時に母のことを考えることが多くなりました。それで思い当たったんです。――滑稽でしょう? 生まれてから十年も一緒にいた唯一の家族なのに、それでも俺は何も知らないんですよ。俺が覚えている母の姿は、常に男と一緒にいる姿で。母の男に遊んでもらった記憶はあっても、母に遊んでもらった覚えなんて、全く無いんです。幼い俺にとって母は、ただ一番近くにいるだけの存在、でしかなかった。本当に、それだけだったんだ」
相槌の代わりに、右手にどんどん力がこもる。
「母からしても、まず優先すべきは男であって、俺の存在なんて二の次だったんだと思います。いつも俺は置き去りにして、男の後を追いかけてばっかりで……俺がいる目の前でも、平気で男に抱かれたりもして……」
話しながら、いつの間にか俺から総督の手を掴んでいた。まるで縋るような必死さで。
「そして、男との関係が終わって一人になるたび、――俺の首を絞めるんですよ」
月が雲に隠れたのだろうか、ふいに部屋に暗闇が訪れた。
互いの表情もよく見えない暗闇の中で、だが俺も総督も、その場を動こうとはせずにいた。灯りを求めることもしなかった。
ただ手から伝わる互いのぬくもりだけが、ただ一つの灯火だった。
「あなたの所為よ、あなたがいるからあの人は私を置いて行っちゃったのよ、なんて恨み事ばかり俺にぶつけながら、それこそ首に指の跡がくっきり残るほどの力で絞めてきて……苦しすぎて抵抗する力もなくなると、俺の身体がぐったりとなって……そうなってから、ようやく手を放してくれるんです。そして今度は、ごめんなさい、ごめんなさい、って、俺を抱きしめて謝りながら泣くんです。いま殺そうとしたばかりの相手に、あなたがいないと生きていけないわ、なんて言いながらね。本当に、嫌になるくらい自分勝手な女だった。とはいえ、最も身近にいる母に頼らなければ自分が生きていけないことも、子供なりにちゃんと理解していたんです。だから、母に気に入ってもらえるよう必死だった。泣く母に、ボク大丈夫だよ、って、今度のお父さんにもちゃんと気に入ってもらえるように頑張るから、もう泣かないで、って……そんなご機嫌取りをして笑ってみせるしか、できなかったんです。――俺の中の母との記憶は、たったこれだけ」
「…………」
「あまりにも母を知らなすぎるから、無意識のうちに、抱く女にそれを重ねてしまっていたのかと、そんなことを考えました。どんなに考えてみても、それ以外の答えなんて出てこなかった。そんなにまでして母を求めていたのかと、自分に愕然としたりもした。でも、ヒトコトで言ってしまえば、単に、俺は……」
目を伏せて、唇を噛みしめる。
「ただ愛されたかった、それだけのことなのかもしれない―――」
ゆっくりと、月が雲から顔を出す。
総督の冴え冴えとした白皙の美貌が、明るくなってゆく部屋の中、眼前で徐々にあらわになってゆく。
「――おまえも可哀相な男だな……」
誰と比べて『おまえ“も”』なのか、誰と俺を重ね合わせているのか……その言葉の真意を、なぜか尋ねる気にはならなかった。
すっかり影を取り払われた総督の顔が、ゆっくりと俺に近付いてくる。
やおら、総督の繋がっていない方の手が持ち上がって、俺の頬のあたりに差し伸べられた。だが、その指が触れようとした寸前、ためらうような素振りで動きが止まる。そして行き場を失くしたように、それは俺の肩の上へと着地した。
「よく女顔だと言われてきたが……私は、お母上と似ているか?」
おまえを知らないうちに苦しめてはいなかっただろうか。――そんな言葉の裏の気遣いが感じられ、俺の口許に笑みが広がる。
「全く似てませんよ。総督は男前ですからね」
「そうか……それなら、よかった」
「それに総督の方が、母よりもずっと美人です」
「…それは一応の褒め言葉として受け取っておいてやる」
いつも人を茶化しやがって、とでも言いたそうに眉を寄せた総督を目の当たりにし、つい俺は吹き出してしまう。
「ちゃんと真面目に言ってるんだけどなあ……」
「おまえの笑顔は、まだまだ誤魔化し癖が抜けてないからな、信用ならないんだ」
「うっわ、ヒドイその言い方……!」
「うるさい、もう黙れ」
そして、ふいに唇にもたらされた柔らかな感触―――。
一瞬にして頭の中が真っ白になった。
いま自分の身に何が起こっているのかを理解できなくて、まばたきすることすら忘れ、ただ呆然と唇でそれを受け止めているしか出来なかった。
その――総督の唇、を。
「…間抜けなツラだな」
至近距離から総督が俺を覗き込むように見つめて、からかうように言う。
その口許にちろっと紅い舌を見せると、そのまま俺の唇をぺろりと舐め上げた。
ようやく働き出した俺の思考が、いま自分の身に起こった現状を正確に把握する。
途端、頬にボッと火が点いた。
「あ、あのっ、総督、俺っ……!!」
わななく口が何か伝えようとするも、何を伝えたらいいのかが分からない。整理できていないままの言葉が、ただ乱雑にダダ洩れる。
顔が熱くて仕方ない。今にも血液が沸騰して破裂してしまいそうだ。
「なんで、あの、こんな、えっと、だって、ええっ……!?」
「――野暮」
「はいっ……!?」
「というか、どこまでも阿呆なのか」
「ええっ、何が……!?」
訊き返しかけた俺の唇が、まさにはむっとした音が聞こえてきそうな仕草でもって甘噛みされる。――こんなんされたら、もう黙るしか出来ないじゃないか。
「いいから黙って、目を閉じてろ」
言葉と共に、ふいに目の前を掌が下りてきて、俺の視界が覆われる。
それと同時に、再びもたらされた口付けが、深く…そしてどこまでも官能的に、俺の口内を蹂躙する。
もう何がなんだかわからない。それがあまりにも気持ち良くて、思考までもを蕩けさせる。もう何も考えられない。
心地よい暗闇の中、俺は素直に自分の身を任せた。
両目を覆っていたその手が、やがて頬をなぞるように滑り落ちる。いっそ煽情的なほどに、その動きは俺の中の何かを掻き立てた。
それが肩の上に乗り、胸元をなぞり……服越しに指が肌を這い回るのに合わせ、鳥肌が立ちそうなほどにゾクゾクッとした快感をもたらす。
やがて、その指が脚の付け根のそれに到達した時、思わず俺の身体がビクッと跳ねた。
「…やっぱり、我慢して溜め込んでると身体に悪いな」
からかうように言いながら、布越しにそれを撫でさすることを止めない。
「や、あの、だから、それヤバイです総督……!」
指が動くたび、その下でむくむくと大きくなってゆく自分のそれが、手に取るようにわかる。もはや布地に圧迫されて痛いほどだ。
「もう、カンベンしてくださいっ……!」
なのに総督は、そんな俺の懇願を黙殺する。
おもむろにベルトの留め具を緩めたかと思うと、穿いていたズボンをズリ下げて、そそり立った俺のそれを引きずり出した。
「だから、総督っっ……!!」
「うるさい」
まさに言葉どおり俺を黙らせようとするかの如く、ふいに総督が、手を添えた俺のそれをぎゅーっと力を入れて握り込む。
「痛だだだだっ……!!」
途端、呻いて大人しくなった俺に満足したものか、すぐにその手を緩めてくれた。
しかし間髪入れずに、今度はそれを、ねっとりと舌で舐め上げる。
「うあっ……!!」
痛みとはうってかわって、一瞬にして頭の先まで付き抜けてくるような極上の快感に襲われる。先ほどとはまた違う意味で、呻くしか出来ない。
続いてぺちゃぺちゃとした湿った音が自分の耳まで届いてくる都度、下半身にとめどない疼きが走る。気持ちよくて堪らない。
――だから、ヤバイから……ホントもうヤバイって……!!
人の我慢には限界値というものがある。この時点で俺の我慢も、既に臨界点到達寸前だった。
ここまま身を任せてしまいたい身体の欲望を、あらん限りの理性を総動員して、何とか必死に押さえ付ける。
おもむろに総督の肩を掴むと俺は、渾身の力を振り絞って、その身体ごと快感のモトを引き剥がした。
――しかし……それは少々遅かったみたいだ。
引き剥がした途端、ホッとしたあまり理性が我慢することを放棄してしまったのが、自分でもよくわかった。
押さえ付けられることの無くなったそれが、一気に臨界点を突破する。
「く、うっ……!!」
「うわっ……!!」
俺と総督、それぞれの呻き声が重なった。
――やっち、まっ、た……。
押し寄せてくる絶頂感の向こう側で、一緒に襲い来た罪悪感。
一呼吸ののち、鎮まりきらない荒い息を吐いた俺の視界に映ったのは、すぐ目の前で白濁した液体にまみれている総督の綺麗な顔―――。
なのに、それでも美さの損なわれないどこまでも綺麗なその顔に、俺はしばし見とれてしまった。
総督も総督で、よもや顔射されるとは思ってもいなかったのだろう、引き剥がされたその体勢のまま、どことなく呆然とした表情で硬直していて。
しかし、やおらキッとした視線を俺に向ける。
そこで俺もハッと我に返った。
「――アクス、貴様……!!」
「すっ、すすすすす、すみませんーーーーーっっ!!」
何事か言い出されるのを遮るような勢いで、その謝罪をムリヤリ捻じ込む。
そうしながら、反射的にずざっと後ろに退くと自ら総督との距離を置き、そのまま床にごちっと額をぶつける勢いで土下座した。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい、ホンッットにマジごめんなさいっっ!! だって、悪気は無かったんですホントですっっ!! 気が付いたらそうなっちゃっててっっ……!!」
「おい、アクス……!」
「てゆーか無理!! ホント無理!! マジで無理!! ゴメンナサイっっ!!」
「だから、アクス……!」
もはや何を口走っているのかさえ、当の自分が分からない。
軽くパニックを起こしている頭の中では、色々な感情が混ざり合って、混ざりすぎて、言いたかったことがどこにあるかもわからなくなっている。
「もう俺ヤバイ、ホントもうダメだし、我慢きかないし、絶対無理だしっ……」
そんな俺に少しずつイラついてきたらしい総督が、「少し落ち着け」と言いながら、俺へと伸ばしてきた手を。
思わず反射的に振り払っていた。
と同時に、脱げそうになるズボンを押さえながら立ち上がる。
「ホントにすみませんでした……!!」
「アクス……?」
「だって俺、総督とこんな風になるつもりとかなくて、だからっ……!!」
見上げてくる総督の顔を、恥ずかしくて真っ直ぐに見られない。
「とにかく、ホントーにごめんなさいっっ!!」
顔を背けたそのまま、それを叫ぶと俺は、まさに言い逃げの如くその場から全速力で駆け去った。
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