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Ⅰ章.カンザリア要塞島 ─トゥーリ・アクス─
【3】_4
*
「――そんなわけなので、俺の副官やってください伍長」
「『そんなわけ』って……だから、どういうわけー?」
あからさまに面倒くさそう~な表情で俺を見やる伍長に、「だって俺の世話係でしょ」と、いけしゃーしゃーと俺は返す。
「やっぱ、ここに来て半年の俺では、まだまだ不案内な部分も多いんですよ。伍長なら、ここにも長そうだし、なんだかんだ俺の面倒をみるのにも慣れてるじゃないですか。要らぬ世話まで、いっぱい焼いてくださいましたもんね」
「…『要らぬ世話』は余計じゃない?」
「それに、アナタ胴元なんだから、島中あちこちでカオ利かせてるでしょ? いくら騎士とはいえ、こういきなり新入りの俺なんかが上に立ったら、やっぱ面白くない者もいるだろうし。そこらへん、伍長なら上手いこと宥めてくれるかなー、っていう思惑もあります」
「別に、僕ごときが宥めて回らなくても、もうアクス君の強さは島内に知れ渡っているところじゃない」
「そう言わず、そこを何とか。――とはいえ、たとえ『ヤダ』と言われても、総督代理権限を行使するだけですけどね」
「…って、それ最初から断る余地ないじゃん!」
「ですから、こうして下手に出てお願いしているんですよ。上から命令されるより、まだマシでしょ」
そこでとうとう観念したように、諸手を上げて伍長が「あーもう、わかったよ!」と、ようやっと肯定の返事を返してくれた。
「あーあ、前線か……しかも指揮官の側付きなんて……確実に死んだな、短かったね僕の人生……」
「いや、大丈夫でしょ。伍長って、腕っぷしはからっきしだけど、目端が利いててすばしっこいから。何だかんだ言いつつ、小狡い手段を弄してはちゃっかり最後まで生き残るっつー、典型的な小悪党タイプですよね確実に」
「アクスくん……それ確実に、間違いなく、褒めてないよね……?」
「心の底から褒めちぎってますが?」
「………僕、君のそういうとこキライだなっっ」
既に、全兵士に伝達は行き渡っている。
カンザリア要塞島全域が、俄かに慌ただしくなった。すべてのものが動き始めている。かつて難攻不落と名を馳せていた時代のざわめきを取り戻そうとしているかのように。
「しっかし、本当にユリサナが攻めてくるのかねえ……?」
自艦の視察のため、俺と共に船渠を見て回っていた伍長が、うんざりしたように、そんな呟きを洩らす。
「つーか、なんでそもそも、お飾りでしかない総督が、そんな重大な情報を掴んでくるのさ?」
「さあ……?」
その理由を知っている身ではあるものの、ここは全く何も知らないかのようにソラっとぼけることしか出来ない。
「総督には総督の、独自の情報源でもあるのでは?」
「あったとして、信用できるのかな、それは?」
「信用するしかないでしょう、部下としては。上官の言うことなんだから」
「そりゃそーだけれども……」
なんか釈然としないだの何だのとぶつぶつボヤく伍長を、とりあえず「まあ、備えはあるに越したことはないんだから」と誤魔化しておき、おもむろに話題を変える。
「ところで、艦の整備兵の責任者は誰ですか?」
「ああ、それなら……」
きょろきょろと回りを見渡した伍長が、ある一点で視線を止める。
「あ、いたいた、おーい!」
こちらへ呼び寄せたその者の前で、俺は手にしていた艦の見取り図を広げた。
「この島に配備されている軍艦は、これと全て同じもの? ここにあるだけ?」
「はい、これが二十隻ほど」
「そうか、やっぱり……」
さすがの総督の敏腕でも、やはり軍艦までは増強するに至らなかったようだ。――ま、そらそーだ。そこまでやったら確実に敵さんにも勘付かれるしな。最初からわかりきっていたことだ。
「じゃあ仕方ない、多少重くなってもいいから、出来るだけ側面の装甲を強化しておいて欲しい。あと積む砲弾は多めに、少なくとも通常の二~三倍は必要だな。それを全ての艦に備えておくようにして。補給船の用意も忘れずに」
「わかりました」
「あまり時間はないから、急いで頼む」
そして去っていくその男を見送りながら、どことなく呆然としたように、伍長が呟く。
「今の何……?」
「『何』って……何がですか?」
「今の指示は、どんな意図があってのこと?」
「ああ、それは……だって、さすが平和要塞カンザリア、ロクな軍艦置いてないから!」
「は……?」
「ここの艦は、数も少なければ、あまりにも型が古すぎるんですよ。そりゃ何十年も昔なら最新型だったんでしょうけど、今じゃこんなデカくて重いの、旗艦にしたって使えませんよ。総督の得た情報によると、ユリサナ軍は旗艦を除いて全て最新型の、もっと軽くて小ぶりな機動力重視の艦で揃えてきています。マトモに討って出たところで、結果なんて目に見えてる。ならば、こちらはあえて動かない、楯となって防御に徹するしかないじゃないですか。そのためには最低限、より頑丈な装甲と充分な砲弾がなくちゃ、まずお話になりませんね。すぐドテッ腹に穴開けられて沈められるのがオチです。――とはいっても、多少は動ける艦も無いことには何も出来ませんから、そこは近場の海軍砦からでも借りなきゃだめですね。王宮経由で援軍要請が回っててくれてれば話は早いんだろうけど、さすがにまだだろうしな……まあ、そこらへんの交渉は、顔の利きそうな大佐か中佐あたりのベテランにでも何とか頑張って貰うとして……当面の問題は、それが来てくれるまでをどう凌ぐか……」
「――つーか……ひょっとしてアクスくん、近衛騎士になる前は、どっかの海軍にでもいたの?」
「いいえ、陸軍の下っ端でしたが」
「それにしちゃ、軍艦とかに詳しすぎじゃない?」
「軍に入る前に五~六年くらい、船の上で海賊相手に戦う生活とかしてたので。それなりのことなら知ってますよ」
「そのこと、総督も知ってる……?」
「ええ、以前ちらっと話したことはあります」
「…………」
そこで押し黙った伍長が、おもむろにぽんぽん俺の背中を叩く。
「僕……いま初めてアクスくんがいて良かったと思ったよ。君が指揮官で良かった」
「『初めて』って失礼な……いや、でも、認めてくれたのには素直にありがとうと言うべきですが」
「だって正直、いくら騎士っていっても君、所詮は軍に入って二~三年の新米じゃん、そんなペーペーに一体なにが出来るよ? って思ってたから。総督にしたって、所詮お飾りだし戦争のことなんて何もわかっちゃいない、ってさ。――でも、いま考えを改めた」
「伍長……」
「君の経歴を知った上で、前線の指揮を任せたのなら……総督はちゃんと勝算を見てる、ってことだよね。それなら、少しくらい信じてみてもいいと思った」
そして再び、俺の背中をぽんぽん叩く。
「ここで君に賭けなきゃ、バクチ打ちとしての沽券に関わる! つーことで、僕も及ばずながら力になるよ! 頑張ってね、総督代理っ!」
「応援以前に、なんだかとっても儲ける気マンマンにしか見えないのは、俺の気の所為ですかね……」
そうして、あちこち走り回って、瞬く間に三日間が過ぎ去った。
ようやく当面の軍備と戦略が形になろうとしていた頃、付近を巡回していた哨戒艇が、海を隔てた島の対岸――ユリサナ大陸北端の沖に、ズラリと並んだ大軍の艦影を発見した。
やがて、ユリサナ側からの使者により宣戦布告がもたらされ、対岸の大艦隊が、ゆっくりとカンザリアに向けて侵攻を始めた。
――こうして再び、カンザリアで戦端が開かれた。
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