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Ⅱ章.バーディッツ伯爵領 ─レイノルド・サイラーク─
【1】_6
*
「お帰りなさいませ」
屋敷に戻ると、そつなくジークが迎えに出てきた。
馬を馬屋番に預け、コルトと共に開けられた扉をくぐるなり、「今日はお祝いだ」と、私はジークを振り返る。
「トゥーリが昇進するらしいぞ」
「おや、それはそれは……」
「めでたいことだからな、せっかくだし私たちも祝ってやることにしよう。――なあ、コルト?」
手を引いたコルトを見下ろして笑いかけ、コルトも私を見上げて笑って頷く。
まさに、それと同時だった。
「――それは嬉しいな!」
ふいに聞こえてきた懐かしい声に、思わず一瞬、硬直した。
頭ではまさかと思いながらも、もしやの期待を抑えられずに振り返る。
「もう手紙、届いてたんだ。まさか祝って貰えるとは思わなかった。来てよかったなー」
「トゥーリ……!」
そこに笑顔で立っていたのは、紛れもないトゥーリ本人だった。
彼を見るなり嬉しそうに駆け寄っていったコルトを「久しぶりだなあ」と抱き上げて、ゆっくりこちらへと歩いてくる。
だけど私は驚きのあまり、その場に縫い付けられたように硬直して動けない。
「なんで……?」
我知らず、そんな呟きが洩れる。
「今日来るなんて、聞いてないぞ……」
「ええ、つい先ほど突然いらっしゃったんですよ。わたくしも驚きました」
相変わらず驚いた素振りも見せず、普段通りにこにこした笑顔で、私の隣りからジークも言う。
「すみません、連絡も無しに」
私の目の前まで来て、そう言うとトゥーリは困ったように笑った。
「ファランドルフ副団長のご命令で、この近くの砦へ視察に行ってきた帰りなんですよ。『ついでに昇進祝いの休暇をやろう』っていうお心遣いもいただけたので、ここまで足を延ばしてきちゃいました。事前に知らせられればよかったんですが、とはいえ、手紙出すより行っちゃった方が早いかな、とも思ったので」
「そう、か……」
私を見下ろしてくるトゥーリの笑顔が、眩しすぎて涙が出そうだ。
声が聞きたい、触れたい、そうずっと願ってきた相手が、今ここに居るなんて。どこまでも幸せな夢を見ている気分だ。
コルトのように飛び付きたくて堪らない気持ちを必死に押し隠して、「よく来てくれたな」と、私も微笑んでみせた。
「でも、あくまで出張の日程を少し多めにして貰えただけなので、だからここには一日しか居られないんですけどね……所詮まだ新米なので、そう纏まった休暇なんて取れるハズもなくて……」
「おまけに、相手は鬼の副団長だし?」
「そうなんですよねー……でも、その副団長だからこそ、こういうお気遣いもいただけた、というもので……」
「何にせよ、来てくれて嬉しいぞ。本当に」
「はい、俺も会えて嬉しいです。本当に」
その気持ちが透けて見えるかのような瞳を向けられて、私はもう、我慢ができなくなった。
おもむろにトゥーリの腕の中からコルトを奪うように抱き上げると、床に下ろす。
「じゃあ、今日のお祝いのためにコルトはジークのお手伝い、よろしくな?」
コルトが頷くや、そのままトゥーリの腕を取ると傍らのジークを振り返る。
「今夜は祝いの席だと厨房にも伝えておいてくれ。せっかくのトゥーリの昇進祝いだからな、良い酒も頼む」
「心得ております」
「食事の用意が整ったら呼んでくれ」
「かしこまりました」
そして私は、掴んだトゥーリの腕を引きずるようにして、足早に自室へと向かった。
部屋に入り扉を閉めるや否や、壁際に押し付けたトゥーリの身体に抱き付き、その唇を奪う。
まさにむしゃぶりつくというに相応しい様で、長く深く、その口付けを味わった。
それが、ふいに止められる。
「やだ、もっと……!」
もっと欲しい。もっとトゥーリを感じたい。ずっと我慢してたんだから、もっと頂戴。もっともっと味わわせて。
見上げた私の表情に、その想いが如実に表われ出ていたのだろう。
「…フシダラな伯爵さまだなあ」
言いながら、見下ろすトゥーリが苦笑する。
「そう求められちゃうと、こっちの我慢が効かなくなる」
「別に、我慢しなくてもいい……」
「それはだめでしょ? わざわざお祝いの用意までして貰ってるんだから。ここで朝まで閉じ籠もってたら、せっかくの料理も酒も無駄になっちゃうじゃない」
「でも、キスくらいなら別に……」
言いかけた言葉は、不意討ちの軽いキスで塞がれる。
「それだけ切羽詰まってるんだから、そうやって煽らないでよ。――あなたの姿を目にしてから、俺がどれだけ押し倒したい気持ちを我慢してたか、わかってる?」
耳元を舐められるかのように近くから囁かれて、鳥肌が立つくらいゾクゾクする疼きを覚えた。
――だめだ、もう我慢できない。
「私だって……!」
言いながら、その身体に回していた腕に力を籠め、より強く自分の身体を押し付ける。
「会えずにいた間、私がどんなにおまえを欲していたか、どんなにおまえと愛し合いたかったか……それを、おまえはちゃんとわかってくれているのか、トゥーリ?」
押し付けた自分の固くなったそこに、トゥーリのそれが当たる感触。ちゃんと、しっかり固く大きくなっているのが感じられる。
「わかっていて“お預け”してるのなら……ひどい男だな、おまえは」
身体を押し付けたまま、伸び上がって顔を近付ける。
こちらから再び唇を奪おうとしたつもりが、逆にトゥーリから奪われた。
そのまま身体ごと向きを変えられて、今度は私の背中が壁へと押し付けられる。
もたらされるのは、先ほどよりもずっと激しいキス。どこまでも深く、貪淫なまでに口内を嬲られる。
そうしながら彼の指が、服の隙間から滑り込んで肌の上をまさぐり始め、胸の上で止まると、そこにある突起の上で淫らに遊び始めた。
唇と、舌と、胸と……触れられている全ての部分から、熱さが身体中に広がる。身体のあちこちが火照って、ただ一カ所にだけ情欲が集まってゆく。
「――ホンット、どこまでもインランな伯爵さまなんだから」
離した唇をぺろりと舌で舐めながら、感情の滾りをありありと覗かせた瞳でもって、目の前すぐ近くから熱くトゥーリがこちらを見つめる。
「そんなエロい誘い方ばかり覚えて……タチが悪いよね、全く」
その手が私の身体を滑り落ち、いつの間にか緩まされていた布をずり下げると、固くそそり立ったそれを剥き出しにした。
「本当は今すぐ後ろも可愛がってあげたいとこなんだけど、とりあえず“お預け”ね」
そして、やはり剥き出しにした自分のそれを、私のものに押し当ててくる。それを共に、軽くぎゅっと掌に握り込んだ。
既にぬめりを帯びていた互いのものが触れ合う感触に、思わずブルッと快感の震えが走る。
「今は抜くだけで我慢して」
「う、んっ……」
気持ちよさに頭のシンが痺れてきて、上手く返事を返せない。
ゆっくりと動かされる、その手の動きがもどかしい。もっと、もっと、と求めるように腰が自然に動いてしまう。
縋り付くようにトゥーリの首に腕を回し、自分からぎゅっと抱き付いた。
すかさず唇を塞がれる。熱く深いキスで。
そうしながらもトゥーリの手が休みなく動いて、快感を徐々に徐々に昂らせてゆく。
「あっ、や、もうだめ、早くっ……!」
「ん……俺も、もう限界……!」
その手の動きが、更に速くなる。絡み合う舌の動きが、ますます熱く、それを煽る。
「一緒にイって、レイノルド―――」
その囁きを耳にしたと同時、襲い来た快感の絶頂の波に飲まれ、頭の中が真っ白に弾け飛んだ。
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