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【断章】―フラッシュバック―
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――怖くて怖くて動くことも出来なかった。
『どうせ、コイツ喋れないんだからバレやしねーよ』
そんなことを言いながら男たちは、逃げようとする自分を押さえ付け、引き倒し、拘束した。さも楽しげな笑みを浮かべながら、殴る蹴るの暴力を見舞った。
痛みにぐったりと動かなくなり、抵抗が弱まると……待ってましたとばかりに、この身体を蹂躙した。
尻の穴を暴き、そこが裂け血が流れるのも構わず、その凶悪な大きさのイチモツを突き入れてきた。同時に別のものを口の中にも突っ込まれて、舐めろと強要してきた。男たちのソレから吐き出される白濁液が、流れる血と交じりそこに潤いを与えては、中を突き上げられるたび泡立つようなぐじょぐじょとした音を立てるようになるまで……もう幾度となく、それは繰り返された。口の中に吐き出されたそれは、嚥下することを強要され、だが飲み込めずに嘔吐いてしまうと、なんで言われた通りにしないんだと怒鳴られ、そして何度も何度も殴られた。ああコッチの方がいいのか、なんていう馬鹿にしたような響きの言葉と共に、小便を無理やり飲まされたりもした。
その場に居る誰もが楽しそうな笑顔で自分を見ている。というのに、誰も恐怖に涙する自分を助けてなんてくれなかった。
ただただ、代わる代わる、この身体を甚振ることを楽しんでいた。
『――そうか……可哀相に……』
暴力を受けた自分の有様は、優しい大人たちにとって相当な衝撃だったようだ。もうこういう事態が起こらないように、と、仕事の担当を乱暴な男たちと遭遇することが少ないだろう場所に変えられた。
自分が部屋付きとして仕えることとなったのは、ぱりっとした上等な衣服に身を包んだ男。見るからに、島にいる誰よりも身分の高い人間だろう、ということがうかがえた。
初めて引き合わされた時、その男は幾度となく『可哀相』を繰り返し、もう安心していいんだよと、こちらの頭を撫でた。――その瞬間、ぞわりと鳥肌が立つ。
自分を見つめてくるその男の表情には、微笑があった。
だが、その笑みはどことなく、自分を犯して楽しんでいた、あの男たちと同じもののように見えて仕方なくて……確たる理由は見当たらなかったものの、それでも心の底から安心なんて、とてもじゃないが出来そうもなかった。
『もう大丈夫。君が痛い目を見るようなことなんて何も無いからね……』
以来、その男に夜ごと部屋へと呼び付けられるようになった。
確かに、言った言葉のとおり、暴力をもって痛めつけられ、無理やり捻じ伏せられるようなことは無かった。
でも、その男がやることも、前の男たちと同じだった。
口でイチモツへの奉仕をさせられ、痛みを感じ無いよう香油で慣らした尻の穴にソレを突き入れられ、抜き差しされ、突き上げられ、やがて中に白濁液を吐き出される。
男の機嫌が良ければ、それに加えて、せいぜい全身あちこちを舐られ弄られるくらいのことで済むが。そうでない時は、口を使われ嘔吐くほど喉の奥にそれを突き入れられ乱暴に揺さぶられたり、目の粗い縄で全身を雁字搦めに縛られたうえでの行為を強要されたり、…ほかにも色々と、こちらに恐怖や痛みを与えるような行為をしてきた。
少しでも嫌がる素振りを見せれば、容赦なく鞭を振るわれる。
夜ごとこの部屋に通って、服を脱いで尻を出し、そこに男を迎え入れる、その一連の行為が君のやるべき仕事なのだ、と。その仕事を放棄する者に罰が与えられるのは当然なのだ、と。そう、鞭を振るわれると共に何度も何度も言い聞かせられた。
これは仕事、だから、嫌がる素振りさえ見せなければ、男は痛いことをしない。
どこか心に蟠っている、男への恐ろしさと行為への気持ち悪さには蓋をして。
あくまでも仕事、なのだと思えば、やがて慣れた。
『君は何て淫乱なんだろうね、私を、こんなに美味しそうに飲み込んで……もうコレ無しでは君は―――』
―――やめろ……!! 違う、そんなはずない……!!!!!
全身がビクッと跳ね上がる衝撃で目が覚めた。
どくっどくっと、心臓が激しく暴れている。その音が、まるで酷い耳鳴りのように頭の中にまで伝い響いている。
知らず知らず胸を押さえながら、横たわっていた寝台から起き上がった。
荒い息を何とか静めようと、何度となく深い呼吸を繰り返した。
『前の総督がおまえにしたことは、本当はしてはいけないことなんだ。相手に対して大好きだと想う気持ちがないと、してはいけない』
かつて言われたご主人様の言葉が思い出され、それがぐるぐると頭の中を巡る。
今のご主人様は、以前の生活から自分を救ってくれた、いわば恩人。
そんな人のくれた言葉だからこそ、あのような“仕事”は間違ったことであったのだと、自分はようやく、それを理解した。
『コルトにも、好きなものがあるだろう? 今のその“好き”の気持ちよりも、もっとずっと大きな“好き”だと思える人が出来たら……それと同じくらいの大きな“好き”を自分も貰いたいと思える人が出来たら……その相手となら、してもいいことなんだ。本来なら、な。――おまえにああいうことを強要する者どもは、それがわかっていない愚か者だ』
言われた言葉の意味は難しくて、その時の自分に、全てを理解できたわけではない。だが、知らなかったとはいえ、それまで間違ったことをし続けてきた自分は、とてつもなく“悪い子”――本来ならば誰の目からも隠しておかなければならないほどに恥ずべき存在、なのだと……ご主人様が優しく接してくれればくれるほど、そう思ってしまう気持ちは、どこまでも拭い去れなかった。
だからこそ、あの男の言葉が忘れられず、耳の奥にこびりついて、いつまでも刺さり続ける。
『もうコレ無しでは君は、生きてなんていけないだろう? 男に可愛がられたくて仕方ないんだね、この雌穴は。こんなにも気持ちイイって、涎を垂らして誘っているんだものね―――』
『なんて恥ずかしい子なんだろうね、君は。こんな淫らな雌穴は、隠しておかないといけないよ。だから塞いであげないとね……ああ、なのに、それすらも君は悦んでしまうのか、なんて浅ましい―――』
『本当の君は、こんなにもふしだらではしたない、恥ずかしくて誰にも見せられない本性を持っているのだよ……尻で善がり狂う、なんていう子は、とてもとても悪い子なんだから―――』
―――違う…違う違う違う、そんなんじゃない……!! あんなこと全然好きじゃない、喜んでなんかない、僕は“悪い子”なんかじゃない……!!!!!
「――どうした? 眠れないのか?」
ふいに傍らから聞こえてきたその声に、思わずビクッとして肩が揺れる。
ハッとしてそちらを見やると、間をあけて並べられた隣の寝台から、寝ぼけ眼がこちらを見つめていた。
「なんだあ? オバケでも見たような顔して。さては怖い夢でも見たんだな?」
その寝ぼけ眼が、ふいに細められる。
「わかったわかった、こっち来い」
「え……?」
「俺が一緒に寝てやるから、もう怖くないぞ」
そして、その手が掛布をめくり上げて、自分の隣をぽんぽん叩く。――ほら来いよ、って……その仕草は、自分に言ってくれているようで。
ふらりと、その仕草に誘われるようにして我知らず身体が動き、気付いた時にはその隙間に潜り込んでいた。
そんな自分の身体を、掛布をめくり上げていた手がふんわりと包み込んできて。
「…ほら、怖くないだろ」
視線を上げたら、すぐ目の前に、にっかりとした悪戯っぽい笑顔があった。
「こうやって朝までくっついてたら、悪い夢なんて、もう、見ない、んだから、な……」
言葉尻が小さくなっていく――と思ったら、次にはすうすうとした寝息が聞こえてきた。本当に、ずっと寝ぼけていたのかもしれない。
それでも……健やかで規則正しい寝息と、そのあたたかなぬくもりは、遠い記憶の向こう側にいる母の手を思い出させた。
思わず泣きたくなって、傍らで眠るあたたかな身体に縋り付く。
――きっと、もう悪い夢は見ない。このぬくもりに包まれている限り。
それは、もはや忘れかけていた安らぎだった。
これは決して手放してはならないもの、絶対に失ってはならないもの、だと……その時、誰に教えられなくとも、はっきりと解った。
何よりも自分の心が、それを強く求めていたのだから―――。
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