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第二章。
快適な旅も、路銀次第。
しおりを挟むいざ用意されている砂漠の民的な衣装に着替えてみると、これはなかなか…。
詰襟のアオザイめいたワンピースの下には裾のゆったりとしたアラビアンパンツ。
フードの付いた長い外套に、首元には口まで覆うほどの大判のストールをぐるぐると巻き付けている。
ぺたんこのブーツは脛あたりまでの長さで、足首からたゆんだ布で切り返しになっていて、紐がぐるぐるっと巻いてある。
僕は真白なものを、ロイは真黒なものだ。
なかなかにアラビアンだ!
ファンタジーだ!
「アキラ、楽しそうだな」
「砂漠ははじめてだしな!」
「そうか、はしゃぎすぎるなよ」
「わかってるって」
昨夜の件から、ロイの雰囲気が少しばかり…と言うよりもかなり軟化した気がする。
フードは相変わらず目深に被られているけれど、そこから覗く口元から険は抜けているし嫌味ったらしい孤も描かれていない。
やはり対話は大事なのだ。
出立の時間になり、馬車には荷物が積みこまれた。
「セスぅ…さん!世話かけた、ありがとう。行ってくるよ」
「神子様、どうぞ道中お気をつけて」
「俺が着いてる、問題はない」
「ロイ…男前だな…」
セスに見送られてツェペシュ城を後にした。
「それにしても…ずいぶんと荷物が多い気が…」
数頭の連なるラクダに荷物を着けて、手綱を引いて歩くのをイメージしていたけど、どうやら違うらしい。
「サールジオ国境で乗り換える」
「馬車みたいなもんか?」
「砂漠用のな」
と、ツェペシュ領を抜けてからなだらかな草原が続き、徐々に荒廃した雰囲気に包まれはじめ、夜を迎える頃には国境付近まで到着した。
進む先を見渡せば広大な砂漠だ。
建物ひとつも見当たらない。
馬車から乗り換えたのは、サンタクロースのソリの上にドーム型の船が付いたような不思議な乗り物だった。
それを引くのはトナカイではなく…僕の知るものより3倍ほどの大きさがある…がっしりとしたラクダが4頭繋がれている。
「おぉ…デカいラクダだ」
「普通のラクダだだな」
ちなみに名称もラクダなのだと言う。
これはもう超ラクダだ、ファンタジーだ。
ドーム型の船の先には船首らしきものもあって果てしないほどの砂漠を一望できる。
室内はキャンピングカーに似ていて、生活をするのに不便はなさそうだ。
そもそも移動は徒歩だと思い込んでいた僕には、棚からボタモーチだ。
悠々自適な砂漠の旅へようこそ、とキャッチコピーを付けておこう。
荷物を積み終えると、すぐに出立となった。
「砂漠の旅って…思ってたのと違うな」
「ただ…な、時間がかかんだよ…」
「確かに、でかい割にはスローだな」
「ちなみに砂漠の中の神殿は、神官達でもギブアップするような場所にあるぞ」
砂漠のイメージのひとつに夜は極寒というのがある。
「それは…昼は灼熱、夜は極寒か…?」
「そうだな…、それもある。1番ネックなのはやはり移動だな。下級の神官や一般人だとまずはこの乗り物に手が出せない。連なったラクダに荷物を着けて自分も跨るか、手綱を引いて徒歩で移動するのが一般的だ」
「イメージ通りだ…」
「ちなみに乗るとな…、ちんことタマが痛い。下手すりゃ擦れて切れて腫れて出血もんだ。だから大抵は徒歩を選ぶ」
「想像するとたまたまがキュってなるな…」
全ては、セスの財力にモノを言わせた結果が、この悠々自適な旅に繋がったのだ。
ケチじゃなくて良かったと心から感謝しよう、ありがとう。
そしてセスの償いを受け入れて、罪は水に流してやろう。
軽く荷解きをしていると、ロイがはめ込み式のベッドらしきものに筒状の布を重ね始めた、
「何をしてるんだ?」
「寝床だよ、こうやって重ねないと暖がとれない」
「へぇ…」
見様見真似で手伝い、外側は厚手のもので覆い、内側は綿でふかふかだったりやわらかい素材のものを重ねた。
まるで巨大なネッグウォーマーのような寝床が出来上がった。
その中に包まって寝るのだという。
「腹は減ったか?」
「いや、大丈夫だ」
「寝るぞ」
「やることないしな…」
巨大ネッグウォーマーの中に入ると、敷布団の部分はぐっと沈んだ。
この感触には覚えがある。
人を駄目にするというあのクッションだ。
すさまじい包容力で僕の腰と背中を包んだ。
それに重ねた布がぬくぬくと温かくて、重みも心地良い、
これなら夜中も余裕だろうと思っていた僕は、砂漠の夜を完全に侮っていた。
「寒い…寒すぎる…、なんだこれ…」
頭が冷え冷えとしてガタガタと震える僕に、ロイは口の端をあげて冗談めかす。
「まだまだ気温は下がるぞ」
「本気か…」
「さあな」と告げるロイにたまらず身体をすり寄せた。
「はぁ…、あったかぁ」
巨大なネッグウォーマーに頭まで埋まり、ロイにぴたりと張り付いて、ぬくもりを拝借しながら眠りについた。
それにしても、ファンタジー世界のラクダはこの気温でも平然と歩き続けるとは…さすが超ラクダだ。
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