【完結】Sweater ~オッドアイの青年写真家は,幼馴染の美人青年画家に絆される~ ※Pictures短編

那菜カナナ

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 ――吹き抜ける風がひんやりとし始めた、10月下旬。

 チャイムの音が鳴り響く。昼休み開始の合図だ。ルーカスは椅子と紺色の水筒を手にするなり歩き出した。向かう先は窓側・最後方の頼人よりとの席だ。

「腹減ったなぁ~」

 席につくなりにこやかに話しかけてくれる。彼の机の上には黒い弁当袋があった。物欲しげに見ていると目の前にパステルイエローの弁当袋が置かれる。

「ありがとう」

 景介けいすけは目元を和らげ、頼人の前の席に座った。ルーカスはプレゼントの包装をがすように嬉々とした表情で紐を解き、曲げわっぱ・二段造りの弁当箱のふたを開ける。

「毎日毎日よくもまぁ……」

 焼きしゃけ、唐揚げ、インゲンの胡麻ごま和え、だし巻き卵、マカロニサラダ、もやしのナムル。いずれも手作りであるようだ。唐揚げには皮が付いており、形やサイズにもバラつきが見られる。ルーカスは再度礼を言いはしを進めていく。

「別に、フツーだろ」

「これぐらいやって当然ってか?」

 おちょくるような物言いに気を悪くする――かと思えばドヤ顔だ。それだけのことをしてくれている。当然だと思いつつも落胆してしまう。照れて赤く染まった顔を見れるものと期待していたから。

「今度、俺にも作ってくれよ」

「気が向いたらな」

「うわっ、こら望み薄だな」

「さあな」

「さあなって……」

 悲嘆する頼人を他所に自身の弁当箱を開ける。外見も中身もルーカスのものと全く同じだ。打って変わって脇腹をくすぐられたような心地になる。未だ慣れることのない感覚だ。

「味はどう……ったく」

 景介はルーカスの手元を見るなり溜息をついた。無理もない。受け取って3分足らずで完食してしまったのだから。

「ちゃっ、ちゃんと味わってるから! この唐揚げとかホント最高で――」

 これは習慣だ。食事は楽しみつつも短時間で済ませる。父から学び、実践していることの1つだった。

 習慣といえばこの弁当もそうだ。始まったのは5か月ほど前。コンビニ弁当ばかり口にするルーカスを見兼ねてのことだった。最初のうちは無邪気に喜んでいたのだが、

・平日は毎日
・中身はすべて手作り

 ――と、景介の負担が凄まじく大きくなってしまっていることに気付き、やんわりと断りを入れた。今後は極力自炊をするようにすると。だが、景介は首を縦に振らなかった。

・これはこれで良い気分転換になっている。
・父、一喜かずきの分も合わせて用意しており感涙するほど喜んでくれている。
・二人分にするには量が多すぎる。

 などの理由から今後も弁当を作らせてほしいと逆に頼み込まれてしまったのだ。結果、断り切れず今に至る。弁当代も先述の理由から固辞され、受け取ってもらえていない。何かしらな形で返そうとは思っているものの未だ実現出来ずにいる。

 率直に言って不安だ。景介とは出来ることなら生涯共に在りたいと思っている。今のこの状況が続けばそんな夢も潰えてしまうだろう。やはり少しずつでも返していかなければ。与えられることに慣れるなどあってはならない。

「マジ!? 何それ~!!」

 女性の笑い声が聞こえてきた。やたらと大きい。頼人の兄弟達に対するぼやきすら掻き消してしまう程だった。

 それも一つ、二つではない。周囲の至るところから聞こえてくる。首を亀のように縮め、遠慮がちに教室内を見回していく――。


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