【完結】Pictures~オッドアイの青年写真家は,幼馴染の美人青年画家に溺愛されて立ち直る~

那菜カナナ

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73.半年後の今

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 頼人よりとが穏やかに微笑みかけたのに対し、照磨しょうまは無言無表情のまま去って行ってしまう。豪奢ごうしゃな仮面の仕業だ。自分の身を守ろうとするあまり欲して止まない最愛まで遠ざけてしまっているのだ。

 頼人は4月の時点で照磨の虚勢を見破り、理解も示していた。しかし、それでもやはり忍びない。

 ――寂しげに笑う親友の顔は見るのは。

 すれ違う二人のために出来ることが一つだけある。だが、一向に踏み出せずにいる。身勝手な思いを捨てきれずにいるために。

「うん。ばっちり。えらいぞ~、ルーちゃん」

 言いながら頭を撫でてくる。

「へへっ」

 ルーカスは拒否するでもなく、それどころか笑顔を浮かべて喜びを示す。こんなふうに褒められるたびに意欲をみなぎらせてきたのだ。本心だ。自信を持って言い切れるほどに熱心に指導をしてくれているから。時間も労も惜しむことなく。

 飽きたら止める。そんな底辺からのスタートではあったが、今では写真を撮るのと同じぐらいのやりがいを感じてくれているのではないか、と密かに期待している。

「それにしてもさぁ~……ほんっとキミ、大きくなったよね~」

 入学当初、160センチにも満たなかったルーカスの背も今や173センチ。照磨よりも2センチほど高く、景介けいすけとはほぼ同じ高さだ。その体型はというと日本人の母の血の影響か所謂細マッチョに。父のような筋骨隆々な体にはならなかった。愛くるしくもどこかはかなげな印象を抱かせる顔立ちも健在だ。

 とはいえ、小柄であった頃と比べればゴツくなったと言わざるを得ない。景介の抵抗感は凄まじいものになるのではないかと危惧していた。

 ――だが、それも杞憂きゆうに終わる。

『デカかろうが、小さかろうがお前はお前だ』

 予想に反し、快く受け入れてくれたのだ。

 ――景介で良かった。

 改めて感謝すると共にだらしなく頬を緩める。

「それじゃ、よろしくお願いします」

 頼人の挨拶を皮切りにシャッター音が聞こえてくる。始まったようだ。照磨は砂利の上でうつ伏せになっている。地面の情報をカットした被写体中心の写真を撮るためだ。痛かろうが冷たかろうが構うことはない。

 ――撮りたい。

 早く自分も。撮影が進むごとに照磨の情熱に感化されていく。

「いいね。頼人。ノってるじゃない」

 照磨の視線の先にはモデルの武澤たけざわ頼人がいる。数ショット撮る度に動作や表情を変化させていく。そうして表現された感情を照磨が巧みに切り取り、仕上げていく。

 ――感情の具現化。

 二人の力が合わさることで実現し、武澤頼人という人物を探求するに至る。羨ましい。自分と景介も二人のようになれたらと夢見心地に思う。

「ん~、まぁこんなところかな」

 照磨は勢いよく立ち上がると制服についた砂を叩き始めた。ルーカスも急ぎそれに続く。

「ありがと。はい、どーぞ」

 一言礼を言ってからカメラを受け取りモニターを見ていく。左隣に人が立つ気配がした。頼人だ。ルーカスの肩に手を置いて写真を見ている。照れは微塵みじんも感じない。ただひたすらに探究しているのだ。

 ――自分自身を。

 そんな彼の姿勢に胸を熱くしながら意見を口にしていく――。


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