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第五章 波乱巻き起こるムスタン王国
第十二話 作業厨、ゼロスの発言に引く
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昼食を食べ、片づけを終えたところでエルメスが口を開いた。
「ふぅ。それでは、昼食もとったことだし、計画の準備について話すとしよう。まず、この計画には通信機1組と拡声の魔道具か必要なんだ。あてはいくつかあるけど……トール。無難なのはどこだと思う?」
「そうですね……無難なのはやはり、シルビア殿に用意してもらうことですかね。シルビア殿にはどのみち助力を求めて会いに行きますからね」
エルメスの問いに、トールは少し考えるような仕草をしてからそう言った。
確かに、さっきシルビアって人に護衛を頼むって言ってたもんな。
シルビアに護衛を頼むついでに必要な道具を用意してもらうよう頼むのは、こっちにとって、かなりリスクの低い行動と言えるだろう。ただ、そのシルビアって人は本当に信用できるのかな?
平時ならこちらに味方する人でも、この状況だと自分の身を案じてゼロス側についてもおかしくない。
そのことについて聞いてみると、予想よりも斜め上の答えが返ってきた。
「そう思う気持ちはよく分かる。当然、僕も彼女の所へ行くときは最大限警戒して行く。ただ、彼女とゼロスの間には色々あってね。まあ、ちょっと話そうか」
エルメスはそう言うと、コップに注がれた果実水をごくりと飲んだ。そして、軽く息をついてから口を開く。
「魔法師団の団長であるシルビア殿は、魔法が使える王族に魔法を教えることになっているんだ。当然、無属性魔法が使えるゼロスも、12歳の頃からシルビア殿の教えを受け始めたんだ。ただね。ゼロスは初日にとんでもないことを言ってしまったんだよ」
エルメスはそう言うと、少し間を開けてから、再び口を開いた。
「ゼロスはシルビア殿に、『歳いってるって聞いてたけど、結構美人じゃん。将来妾にしてぇな』と言ったんだよ。ああ、言い忘れていましたが、シルビア殿はエルフです」
「うわぁ……本当にそれ王族か~?」
ゼロスのとんでもない発言に、俺は思わず引いた。そんなこと言われて、シルビアが怒らない訳がない。
めっちゃ引いている俺に、エルメスは苦笑いしながらも、口を開く。
「シルビア殿にとって、歳いってるは禁句なんだよ。しかも、その後に妾にしたいなどと言う。これは王族関係なく、人として駄目だね。今のゼロスはその行いを恥じているので、もう言うことはないのだが……シルビア殿は許していないようでね。シルビア殿が今もそのことを根に持っているのは一部の間では有名な話なんだ」
「なるほどな~……そりゃゼロスアンチになるな。ていうか、それだったらむしろこっちの話には喜んで食いついてきそうですね」
何年も恨み続けてきた奴を、王族のエルメスから合法的にシバけると言われれば、絶対食いついてくるだろう。
「そうだね。だから、シルビア殿ならゼロスのことを既に疑っているはずだし……というか、多分白騎士の様子がおかしいことから全て察しているんじゃないかな?」
「確かに……」
それなりの魔力感知能力を持っている人なら、白騎士に違和感のある魔力が付いていることぐらい直ぐに分かるだろう。
「よし。じゃあ早速シルビア殿の所に行ってみよう。行くのは護衛と転移を担当するレイン殿と、交渉を担当する僕にしよう。あまり多いと万が一の時にレイン殿の邪魔になってしまうからね」
お、早速行くのか。
何と言うか……行動力があるな。
だって、これから行くのは敵地となっている王城の中。そんな所へ行く決断をそんなあっさりと決められるのは、普通に凄いと思う。まあ、それだけ俺の強さが信頼されているってことだね。
「……分かりました。お気をつけて」
「エルメス兄上、お気をつけて。レインさん。エルメス兄上のこと、お願いします」
トールとエルメスはエルメスの身を案じつつも、そう言った。
「それで、どこに転移しますか?」
「そうだね……今シルビア殿がいそうな場所は……分からないな。多分、あちこち回っていると思う。だから、シルビア殿の部屋で待機するのが安定かな。女性の部屋に勝手に入るのはマナー違反だけど、緊急時故仕方ないね」
なるほど。取りあえずシルビアの部屋に転移すればいいのか。ただ、俺はその場所を知らない。ゼロスの記憶を深くまで見てないから、そこまでは把握できていないんだよね。
「というわけで、頼む……と言いたいところだけど、シルビア殿の部屋がどこにあるのかは知ってる?」
「いや、知らないな」
エルメスにそう問われ、俺は反射的にそう答える。エルメスの記憶を見れば一発で分かっただろうけど……言っちゃったもんは仕方ないな。知らないってことにしておこう。
「そうか……いや、これを見れば何とかならないか?」
エルメスはそう言うと、懐から紙とペンを取り出した。そして、紙に丁寧に線を引いていく。
「……よし。これは、5階の地図の一部を書いたものだ。ここが階段で、ここがシルビア殿の部屋だ」
エルメスはいくつかある四角の内、2つを指差すと、そう言った。
「そこですか……ああ、そこなら行けます。中に入ったことはありませんが、部屋のすぐ前は見たことがあるので、そこから少しズレるように転移すれば直接中に入れます」
そこは謁見前に入った客室へ連れて行かれる際に階段からチラリと見た場所なので、転移できる。見たことがない場所へは座標が分からないという理由で本来は転移できないが、ある程度の熟練者なら、少しズラすぐらい、どうということはない。
「そうか。なら、頼む」
「分かった。では、長距離転移」
俺はエルメスの肩に手を乗せると、シルビアの部屋に転移した。
「よっと……ん?」
転移した直後、俺が見たのは迫ってくる雷だった。
「ふぅ。それでは、昼食もとったことだし、計画の準備について話すとしよう。まず、この計画には通信機1組と拡声の魔道具か必要なんだ。あてはいくつかあるけど……トール。無難なのはどこだと思う?」
「そうですね……無難なのはやはり、シルビア殿に用意してもらうことですかね。シルビア殿にはどのみち助力を求めて会いに行きますからね」
エルメスの問いに、トールは少し考えるような仕草をしてからそう言った。
確かに、さっきシルビアって人に護衛を頼むって言ってたもんな。
シルビアに護衛を頼むついでに必要な道具を用意してもらうよう頼むのは、こっちにとって、かなりリスクの低い行動と言えるだろう。ただ、そのシルビアって人は本当に信用できるのかな?
平時ならこちらに味方する人でも、この状況だと自分の身を案じてゼロス側についてもおかしくない。
そのことについて聞いてみると、予想よりも斜め上の答えが返ってきた。
「そう思う気持ちはよく分かる。当然、僕も彼女の所へ行くときは最大限警戒して行く。ただ、彼女とゼロスの間には色々あってね。まあ、ちょっと話そうか」
エルメスはそう言うと、コップに注がれた果実水をごくりと飲んだ。そして、軽く息をついてから口を開く。
「魔法師団の団長であるシルビア殿は、魔法が使える王族に魔法を教えることになっているんだ。当然、無属性魔法が使えるゼロスも、12歳の頃からシルビア殿の教えを受け始めたんだ。ただね。ゼロスは初日にとんでもないことを言ってしまったんだよ」
エルメスはそう言うと、少し間を開けてから、再び口を開いた。
「ゼロスはシルビア殿に、『歳いってるって聞いてたけど、結構美人じゃん。将来妾にしてぇな』と言ったんだよ。ああ、言い忘れていましたが、シルビア殿はエルフです」
「うわぁ……本当にそれ王族か~?」
ゼロスのとんでもない発言に、俺は思わず引いた。そんなこと言われて、シルビアが怒らない訳がない。
めっちゃ引いている俺に、エルメスは苦笑いしながらも、口を開く。
「シルビア殿にとって、歳いってるは禁句なんだよ。しかも、その後に妾にしたいなどと言う。これは王族関係なく、人として駄目だね。今のゼロスはその行いを恥じているので、もう言うことはないのだが……シルビア殿は許していないようでね。シルビア殿が今もそのことを根に持っているのは一部の間では有名な話なんだ」
「なるほどな~……そりゃゼロスアンチになるな。ていうか、それだったらむしろこっちの話には喜んで食いついてきそうですね」
何年も恨み続けてきた奴を、王族のエルメスから合法的にシバけると言われれば、絶対食いついてくるだろう。
「そうだね。だから、シルビア殿ならゼロスのことを既に疑っているはずだし……というか、多分白騎士の様子がおかしいことから全て察しているんじゃないかな?」
「確かに……」
それなりの魔力感知能力を持っている人なら、白騎士に違和感のある魔力が付いていることぐらい直ぐに分かるだろう。
「よし。じゃあ早速シルビア殿の所に行ってみよう。行くのは護衛と転移を担当するレイン殿と、交渉を担当する僕にしよう。あまり多いと万が一の時にレイン殿の邪魔になってしまうからね」
お、早速行くのか。
何と言うか……行動力があるな。
だって、これから行くのは敵地となっている王城の中。そんな所へ行く決断をそんなあっさりと決められるのは、普通に凄いと思う。まあ、それだけ俺の強さが信頼されているってことだね。
「……分かりました。お気をつけて」
「エルメス兄上、お気をつけて。レインさん。エルメス兄上のこと、お願いします」
トールとエルメスはエルメスの身を案じつつも、そう言った。
「それで、どこに転移しますか?」
「そうだね……今シルビア殿がいそうな場所は……分からないな。多分、あちこち回っていると思う。だから、シルビア殿の部屋で待機するのが安定かな。女性の部屋に勝手に入るのはマナー違反だけど、緊急時故仕方ないね」
なるほど。取りあえずシルビアの部屋に転移すればいいのか。ただ、俺はその場所を知らない。ゼロスの記憶を深くまで見てないから、そこまでは把握できていないんだよね。
「というわけで、頼む……と言いたいところだけど、シルビア殿の部屋がどこにあるのかは知ってる?」
「いや、知らないな」
エルメスにそう問われ、俺は反射的にそう答える。エルメスの記憶を見れば一発で分かっただろうけど……言っちゃったもんは仕方ないな。知らないってことにしておこう。
「そうか……いや、これを見れば何とかならないか?」
エルメスはそう言うと、懐から紙とペンを取り出した。そして、紙に丁寧に線を引いていく。
「……よし。これは、5階の地図の一部を書いたものだ。ここが階段で、ここがシルビア殿の部屋だ」
エルメスはいくつかある四角の内、2つを指差すと、そう言った。
「そこですか……ああ、そこなら行けます。中に入ったことはありませんが、部屋のすぐ前は見たことがあるので、そこから少しズレるように転移すれば直接中に入れます」
そこは謁見前に入った客室へ連れて行かれる際に階段からチラリと見た場所なので、転移できる。見たことがない場所へは座標が分からないという理由で本来は転移できないが、ある程度の熟練者なら、少しズラすぐらい、どうということはない。
「そうか。なら、頼む」
「分かった。では、長距離転移」
俺はエルメスの肩に手を乗せると、シルビアの部屋に転移した。
「よっと……ん?」
転移した直後、俺が見たのは迫ってくる雷だった。
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