上 下
159 / 161
第五章 勇者召喚

第三話 召喚されし者

しおりを挟む
 荒木優斗が殺された次の日の夕方――
 葉山弘喜と影山海斗は映画を見終え、帰路についていた。

「面白かった。ただ、どうしても今は優斗のことで頭がいっぱいだ」

 葉山はそう言うと、ため息をついた。

「だな。いつまでもくよくよしてはいけない。あいつのために頑張らないとって思おうにも、いざ、このような事態になると、そんなことは考えられないな」

 影山も、葉山の言葉に頷く。
 二人とも、クラスメイトである優斗の死を知ったことで、気分はダダ下がりだった。

「こんなことなら別の日にすればよかったかな?」

「流石に予約をキャンセルする考えは出てこなかったよ。それに、ユートのことを知ったのが、映画館に行く為に家を出た直後だったんだから」

 二人は気分を落ち込ませながら河川敷の道を歩き続けた。

「あ、影山と葉山じゃん。どうしたの?元気ないけど」

 後ろから声を掛けられ、葉山と影山は振り返った。

「工藤か……あと古川」

「ちょ、何その取ってつけたような感じ!」

 葉山の言いように、古川玲が突っかかった。
 普段なら笑えるのだろうが、優斗のことがあってか、葉山と影山は苦笑いするので精一杯だった。

「どした?具合悪いんか?明日学校だけど休むの?」

 すると、そこに工藤朱里が割って入った。

「具合は悪くない。てか、もう自主登校期間に入ったから、学校には行かなくても問題ないし」

「じゃあ何?」

 この様子を見るに、どうやら工藤と古川は優斗のことを知らないのだろう。

「あのな。昨日ここらで殺人事件が起きて、優斗が――荒木優斗が殺されたんだよ」

「「え……」」

 葉山の言葉に、工藤と古川は時が止まったかのように呆然とした。

「冗談ではない。これを見てくれ」

 影山はポケットからスマホを取り出すと、殺人事件のニュースを見せた。そのニュースには、荒木優斗の名前が年齢と顔写真と共に載っていた。

「嘘……」

 古川はクラスメイトが殺されたショックの余り、膝から崩れ落ちた。そして、横に倒れ、河川敷の道の横にある芝生の坂を転がった。
 漫画のギャグみたいなシーンだが、実際に起きたら割とシャレにならないやつだ。

「ちょ、待て!」

「きゃあ!」

 悲鳴を上げ、転がる古川を、葉山が走って止めた。もしこれ以上転がっていたら、下で寝ている男性にぶつかっていただろう。

「危なかったな」

 葉山は坂の中腹で止まった古川にそう言った。

「大丈夫?」

「大丈夫か?」

 工藤と影山も、古川に駆け寄った。

「ごめん。その……いきなりすぎて……」

 古川は工藤の手を借りて立ち上がると、そう言った。

「すまん。いうタイミングが悪かった」

 葉山は申し訳なさそうに頭を下げ、謝罪した。

「いいの。倒れた私が悪いから」

 葉山の謝罪に、古川はそう答えた。

「まあ、取りあえず状況は分かったわ。みんなにも知らせとくよ」

 工藤は真面目な顔になると、そう言った。

「ううん……うるせぇな……誰だぁ?俺の邪魔をする奴は」

 河川敷の芝生の坂で寝ていた男性が、機嫌悪そうに起き上がると、そう言った。

「ご、ごめんなさい……て、幸太!?」

「ん?ああ。久しぶりだな……」

 葉山達四人はこの男性のことを知っていた。
 彼のン前は桜井幸太。不登校の為、あったことはほとんどないが、一応四人と同じクラスということになっている。

「で、何でここに幸太が?」

 工藤は桜井にそう問いかける。

「別に。今後どうしようか考えていただけだ」

 桜井は不機嫌そうに言うと、再び寝転がった。
 その直後、地面に白く光る魔法陣が出現した。

「ちょ、何これ!?」

 工藤がそう叫んだ直後、光は更に強くなり、五人を包み込んだ。
 そして、光が消えた時に残っていたのは五人の手荷物だけだった。

「な、なんだ!?」

「ど、どういうことだ?」

「もしかしなくても異世界召喚!?」

「え……?」

「ちょ、何!?」

 五人は真っ白な空間の中で戸惑いの声を上げていた。(一人除いて)
 すると、突然目の前に白い法衣を着た老人が現れた。

「わしは神。とある世界を管理する存在じゃ」

 神がそう言った途端、五人は急に落ち着きを取り戻した。
 神が何かしたのだろう。

「わしの世界で、魔王を討伐する為に勇者召喚の宝玉が使われたのじゃ。それで、勇者に選ばれたのが、お主ということじゃ。お主には勇者としての力を授け、わしの世界に送り届けるとしよう」

 神はそう言うと、桜井を指差した。

「お、俺!? マジで!?」

 桜井は勇者に選ばれたことに喜び、浮かれていた。

「あ、あの!神様。俺達は……」

 葉山は遠慮がちに手を上げると、そう言った。

「うむ。お主たちは勇者の召喚に巻き込まれた一般人じゃ。戻してやりたいのはやまやまじゃが、万が一の為に、お主たちも行ってくれ。勇者ほどでは無いにしろ、かなり強いステータスにしておいたから。では、行ってくるのじゃ。魔王を討伐したら、わしが出来る限りの願いを一つ叶えると共に、元の世界に戻そう」

 神がそう言った直後、五人の足元に再び魔法陣が出現し、その光が五人を飲み込んだ。




「ユート。勇者の素質を持つ者があやつしかいなかったんじゃ。全て済むまで、暴れるのはよしてくれよ」

 神は下界を見ると、祈るようにそう言った。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

魔王の仕事

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

処理中です...